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第五話  絶望の少女

   第五話  絶望の少女

    

 春香は新しい世界に馴染もうとした。幸い生活に必要な道具は最初からあり、海や山には食べられる生物がいる。田畑も作れた。

 しかし、春香は何日も何も食べず動かなかった。すべてが嫌になったのだ。この世界も自分の存在も。

 心配になって食事を持ってきてくれる人も居た。部屋の隅でただ一点を見つめる日々。すべてが夢であり、あの学校の教室で先生に起こされないかと思った。

「あの日に、戻りたい。」

 飲まず食わずで数日たった。流石に危ないと一緒に来た人たちが春香を部屋から引っ張り出して無理矢理食事をさせた。

 春香は死ねなかった。死ぬことが出来ず、生きる理由も無かった。本当にどうでも良かったのだ。

 春香は何もせずずっとベッドで眠り続けた。

『あんた本当にこれで良いの。何もせずに死んだら負けだよ。』

 真っ白な世界で、誰かの声が聞こえる。誰だろうか。周りを見回しても誰も居ない。でも、はっきりと聞こえた。この声をどこかで聞いたことがある。どこだろう。

『あんたは生き残ったんだ。簡単にこっちに来ようと思うな。』

 また別の声。どこから聞こえてくるんだろうか。探そうにも声の主は見えず、ただ変化を待つのみ。

『あんたに俺達の希望を託す。あんたの絶望はここに置いていけ。預かってやる。』

 背後から声が聞こえる。先ほどよりも春香に近い。

『ちょっと待って。あなた達だれなの。どこに居るのよ。』

 虚しく響き渡る春香の声。世界の色は反転し、見慣れた天井が現れた。夢を見ていたらしい。夢なのに数秒前の事がはっきりと思い出せる。希望とはなんなのだろう。いや、夢なのだから気にしてはいけない。

 春香はベッドから起き上がった。眠る前より体が軽くなったような気がする。

「お腹、すいた。」

 春香はぼさぼさの髪の毛をかきあげながら、つぶやいた。彼女はもう死のうなどとは思わなかった。もう、生きるしか無いのだ。生きるならする事がある。神に復讐するのだ。春香はあの男に、神に道具として弄ばれた。この世界も自分たちもすべて偽物なのだ。偽物なら、やろうと思えばなんだってできる。偽物が本物に成りれるのならなりたい。

「なんでそんなことするの。いいじゃないの。今が幸せなんだから。」

 世界に馴染み始めた頃、春香は一緒に来た絵理って子にこんなことを言われた。

「今が幸せだって。頭おかしいんじゃないの。」

 春香は考えるよりも先に口から言葉が出てしまった。一度出たら止まらない。

「私たちの扱いは最初から何も変わって無いわ。勝手に連れてこられて、勝手に遊ばれて、勝手に元とは違う世界に入れられただけ。本当に神は勝手だわ。家族とも会えないのよ。それが幸せだっていうの。おかしいわ。」

 絵理はうつむき、何かを払いのけるように首を横に振った。

「家族と会えないのは寂しいけど。それは諦めるしかないわ。本当の私たちは他にいるもの。」

 諦めたい気持ちは分かる。これまで沢山のものを諦めてきた。けど、そこが問題じゃない。

「他に居るって何処にいるのよ。それが必ず本物であるとは限らないわ。すべてが偽物かもしれない。私たちは今ここに居る。それだけが信じられることよ。」

 風が二人の間を通り抜ける。春香は乱れる髪をかきあげた。

「だからするの。私は神に宣戦布告するわ。私たちの価値を考え直させるためにね。」

 絵理は驚き、春香の肩を掴む。

「それをしたらただじゃ済まされないわよ。死んじゃうかもしれないわ。」

「大丈夫よ。私たちは偽物だもん。代わりは居るわ。だからやるのよ。」

 春香はあくまで冷静だ。もう、迷いは無い。

「そんな事行っても。具体的にどうするのよ。」

 具体的な行動に移すにはまずは計画が必要だ。春香は今考えていることを口に出した。

「まずはこの世界を出られるようにする。どのくらい掛かるかわからないわ。私の代じゃ終わらないかも。子供を巻き込むかもね。」

「そんな。そこまでして……。」

 絵理は何も言わずじっと春香を見つめている。

「ここを出れば私が居た世界は見られなくても違う世界が見られるわ。あの男からも離れられる。それよりも、方法を考えないと。どうやったらできるのかしら。」

「無茶よそんなこと。無茶に決まってるわ。」

 絵理の口から出たのは、計画を止めようとする言葉。

「やって見なきゃわからないじゃない。私はやるわ。やるしかないの。」

 春香は弱音を一蹴する。もう決めたんだ。突き進むしか無い。

 春香は色々試した。山を登ったり、世界の果てを目指して見たが外に行ける方法は見つからなかった。宇宙ならと思うがそもそも方法が無い上に、それは同じ世界であり別の世界では無い。

 春香は何時もどこかに行っているためか、周りには冒険家のように思われた。

「そろそろそんな事やめて家庭を持ったら。たった一人でずっと居るつもりなの。この時代に無理なら次の世代に繋げるしか無いわよ。」

 ある日、絵理は春香に告げた。二人ともあれから歳を重ねていた。絵理は既に結婚していた。春香が独身なのを心配してだろう。

 春香は諦めその世界で家族を持った。そして、しばらくして妊娠する。生まれたのは男の子。名はレイ(零)。始まりと終わりを意味する。私の知らない事を一からやって欲しいから。

 男の子が生まれた日。彼の泣き声は世界にひびを入れた。春香はこの子なら出来る。そう確信した。けど、彼には彼なりの未来がある。それを邪魔する気はない。

私は息子の成長が楽しみになった。彼女は何時かレイに希望を託そうと思った。

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