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返せ!私の体を!

作者:
掲載日:2026/04/29

誰も気がついていないのだろうか。

私が、私でないということに。


二日前くらいからだろうか。

私は、誰か知らない人間に身体を乗っ取られてしまった。

私は私でなくなってしまった。


それからというものの、私は身体も自分の意思では動かせず、

たとえるなら、全身を縛られて映画を見せられているようなものだろうか。


私に乗っ取った誰かは、私として過ごしていた。

よく見たらすぐに気がつく、私でないことに。

でも周囲の人間は、まったく気がつかない。


なぜ気がつかないのかと憤慨する気持ちは置いておいて、

私は、私を乗っ取った人に大声で言った。


「私の身体を返せ、早く返せ!」


聞こえていないのか、そいつは何も変わらなかった。

私は何度も何度も叫んだ。

それは私の身体だ、何もせずに早く返せと。


それでも身体を返してもらうことはできずに、

日にちは過ぎていった。


その間にも何度も叫んでいたが、

いよいよまずいと考えていた。


もしかしたら、このままずっと私はこの席に縛られたままなのか?

これから一生を、何もできずに終わるのか?

しかも、私の身体はのうのうと過ごしているのに?


目の前が真っ暗になった気がした。


私はここにいるのに、何もできない。

どうすればいいのだろうか。


そうしていると、初めて声が聞こえた。


「おまえは勘違いしている」


「は? 何が?」


そう聞くと、こう言った。


「おまえだ。おまえなんだ。

おまえが、もともとの私の身体を乗っ取ったんだ。

思い出せないのか? 昔の記憶を」


まったく、何を言っているのかわからなかった。

私が? そう? 意味がわからない。


私は昔から私だ。

小さい頃から……


あれ?


私は昔、どんな人間だった?


たしか、一番古い記憶は、母親に高い高いをされている記憶だ。

でもそれは六歳くらいの記憶で、それより前の記憶はない。


それに、たしかに小さい頃、

いわゆるイマジナリーフレンドのようなものが見えていた気がする。


すぐにいなくなったけど。


そう、そのはずだった。


しかし、今なら、いや今だったらわかる。

それは、いなくなったのではなく、見えなくなったのだ。


どんどん記憶があふれてくる。


母の顔。

いや、それは違う。

まったく違う。あれは母ではなかった。


息がうまくできない。

意識がぼんやりとしてくる。


「そう、それはおまえの記憶ではない」


違う。絶対に違う。

私は私だ。この記憶も、私のものだ。


「違うのは、おまえだ」


「おまえは昔の、あの日に入ってきた」


そうだ。はっきりと思い出した。

あの日、あの時、あの場所で。


私は、私を見ていた。

その身体を、見ていた。


そして――


「そう、おまえは人生を奪ったんだ」


そして私は、いや“もとの私”は、鏡の前に立った。


「早く、消えてくれ」


記憶が、まるで崩れゆく崖のように落ちていく。

消えていく。


友達も、母の顔も、景色の色も、匂いの輪郭も、

すべてがほどけていく。


「そうか、そうだったのか」


もう私は、消える異物である。


私は、もう全部なくなっていっている。


そして、そこに残ったのは、

本来の人生を取り戻したその人だった。


その人は、笑いもせず、泣きもせず、

ただそこに立っていた。

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