やはり日本人は最強でした ~サブカル指数でお気楽異世界~
俺が転移した異世界は、どれだけサブカルチャーに親しんでいるかのかが正義だ。この世界の神様ってやつは、魂の強さを想像力に置き換えることにしたらしい。想像力は、サブカルチャーの理解度にほかならない。
サブカルチャーインデックス――つまり、SCIが魂の強さを決めてしまう。魂の強さはすべての源だ。SCIこそが正義っていうわけ。
当然、日本で生まれて数多のサブカルチャーに親しんで来た俺は、言わずもがな最強だった。
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以上のことを理解したのが、ざっと2時間前。
最初こそとまどったものだが、慣れてしまえば最高の世界だ。
小腹が空いたので、パン屋で飯を買う。主人の頭には、名前と11の数値が浮かんでいた。これこそがSCIであり、主人の本質的なパラメーターを表す数値でもある。
当然、それは俺の頭の上にも浮かんでいるわけで……。
「はいはい、ちょっとお待ちを……えっ!?」
俺の頭の上に浮かぶ数値に目をやった主人が、カウンターの奥で腰を抜かしていた。
「どうかしましたか?」
「SCI99999!?」
「まあ、このくらい普通のことですよ」
俺はさらっと前髪を払って見せた。電子音が鳴るとともに、俺の視界に「+2」の表示が現れる。SCIが上昇したのだ。日本でおんなじことをしようものなら、すぐさま周りの冷笑を買うところだが、ここは異世界。日本人というだけで、だれもが神様扱いをされるような世界だ。こんな俺の行動さえ、サブカルを理解した言動として評価されるという仕組みだ。
「……」
すっかりと足腰から力の抜けてしまった主人に代わって、俺が話を先に進めてやる。
「お代はいくらです?」
「……はっ! いえ、そんなとんでもない。あなた様のようなお方から、お金をいただくなんて滅相もない!」
主人は腰を低くしてぺこぺこと俺に頭を下げる。
「そうですか、悪いですね」
踵を返した俺の視界に映る「-3」の表示と、電子音。世界最強のふるまいとしては、少々カッコが悪いということなのだろう。マイナス3くらいはどってことないのだが、カンストしていないというのは少々気分が悪い。
しょうがない。
ここはこの世界のキングとして、下々の世話をしてやろうじゃないか。
「ですが、何もしないというのも周りに示しがつきません。何か困っていることはないですか? 俺でよければ聞きましょう」
「そんな……とんでもない!」
と話していたパン屋の主人だったが、俺がキラーンとウインクを投げれば、2秒後にはもう胸のうちを話し始めていた。
やべっ。今のだけでカンストした。
……まあ、いい。ものはついでだ。
過程はどうであれ、結果的に俺はこの世界の神となったのだ。俺を崇め、俺に傅き、俺だけを慕うというのであれば、俺としても尽力することはやぶさかでない。
「実は2か月ほど前から、裏の路地に怪しげな連中がたむろするようになりまして……」
「つまり、この俺に邪魔な不良どもを追っ払ってほしいと?」
「ユウト様がしてくださるのであれば……」
「いいでしょう。そのくらいは朝飯前です」
言うやいなや、俺はパンをかじりながら外へと出る。
路地に繋がる道は、パン屋からはそれなりの距離がある。素直に裏手に回るのは面倒だ。
俺はその場で跳躍していた。
SCIは本質的な力の値であるため、今の俺の運動性能はプロのアスリート選手でさえ赤子同然に思えるほどだ。
「ふむ……これは中々、加減が難しいな」
遥か上空。
勢いあまって飛びすぎてしまった。
上から、くだんの路地を見下ろしてみれば、確かに主人の言うとおりガラの悪い連中の姿を発見できる。
落下。
自由落下ごときでは俺の体に傷をつけることなどかなわないが、このままでは道路や店まで破壊してしまう。……中々、旨いな。このパン。
予定変更だ。
着地の瞬間にすべてのエネルギーを逃がす。
完璧な受け身。
道路はおろか、俺が着地したパン屋の屋根にも、ヒビひとつ入っていない。
3時間前までただのオタクだったとは思えない成長ぶりに、少々俺もとまどっている。
そのまま軽くジャンプして、俺は不良どもの前に舞い降りた。
「なんだ、てめえは!」
相手は4人。
SCIの数値はどれもカスだが、1人だけ23のやつがいる。
……なるほど。パン屋の主人では、注意することさえも憚られるような相手だろう。
あいさつの代わりに、俺は自分の頭を示してやる。
釣られて、不良どもが視線を上にあげた。
「SCI……99999!? そんな、馬鹿なっ!」
腰を抜かした不良が、持っていた得物を落とした。俺の圧倒的な力を前に、恐れをなしたようだった。小便を漏らさなかったことを誉めてやろう。あとで掃除する人が大変だからね。
「関係ねえ! ぶっ殺すぜ」
勇ましくリーダーらしき男が吠える。
「これだから馬鹿は困る」
俺はやれやれと頭を横に振った。
「火炎球!」
ほう。
さすがにSCIが23だけあって、魔法の心得があるのか。それに火炎球という選択もかなりGoodだ。いかにも俺の初戦としてふさわしい。
これには俺もやる気を出さざるをえないだろう。
俺は指を軽く上に向けて、魔法を放つ。
「煉獄魔炎弾」
隕石と見まがう巨大な火球が頭上に出現し、自由落下を始める。
「マジ……かよ」
「おっとまずい。力を入れすぎたな。これじゃあお前たちの灰どころか、この町さえ消しかねん」
急いで魔法をキャンセルする。
だが、これだけの実力差を見せれば、さすがにリーダーの男も身の程を知ったようだ。立ったまま気絶した男が、まもなく地面に倒れる。
「実にくだらんな」
飛来を続ける相手の火炎球を、素手で抑えこむ。手で払うだけでもよかったのだが、周りの建物に被害が出るのもかわいそうだ。これは俺なりの心憎い気配りである。
逃げだす前に、俺は戦意を喪失している不良どもを一瞬で捉えた。
まもなく、どこで見ていたというのか、俺の行動に注目していたらしい町の連中がぞろぞろと集まって来る。
「英雄だ!」
「ユウト様、万歳」
「この世界の救世主だ!」
「抱いて!」
口々に俺を褒めたたえる感想を述べていく。……何やら違う発言もあった気がするが、まあいいだろう。そんなに一斉に言われても聞き取れるわけがない。
このままでは胴上げでもされそうな勢いだったので、俺はその場から歩き始める。
その瞬間、舌足らずで妙に挑発的な声が響いた。
「あっれえ~? あたしの可愛いモルモットちゃんを捕まえてくれっちゃって、いったいどういうつもりなのかしら?」
声のした上空へと、すぐさま俺は視線を向ける。
とんがった黒い帽子に、使い古された箒。
蠱惑的に光る真っ赤な唇と、背中に生えるコウモリの羽。
頭の上の表示は、人名を示すリリムと621の数値。
見るからに魔女といったところか。
「リリムだ……! ここいらを根城にしている悪魔だ」
「最悪の魔女が現れたぞ!」
途端に住人たちは悲鳴を上げてうろたえ始める。それはリリムの期待どおりの反応だったようで、短い舌がぺろりと唇を舐めていた。
……なるほど、中々やるようだ。
しかし、これはいただけない。
断固として俺は意思を表示した。
「馬鹿者が! 羽の色は赤だと相場が決まっている! 何が緑だ! やり直せ!」
俺のあまりの剣幕に虚を突かれたらしい。
リリムは空中で制止すると、俺の要求に素直に従っていた。
Take2というやつだ。
そして今度は赤色の羽で登場。これで文句はないだろと言いたげな瞳が、しっかりと俺を捉えた。当然、そこには俺の名前であるユウトと、この世界のキングたる証拠が表示されている。
「あっれえ~? あたしの可愛い――って、え? SCI99999????」
「いかにも」
俺は鷹揚にうなずく。
対照的に、リリムは冷や汗を流すばかりだ。
「……いや、あの~。……」
「どうした、かかって来い」
「……。今日は調子が悪いっていうか、そういう気分じゃないっていうか」
「ふむ。俺も腹の調子が悪い。これでおあいこだな」
「でも~」
「黙らっしゃい!」
「ひっ!」
そんなに威圧したつもりではないのだが、リリムは器用にも空中で後退すると、ぶるぶると身を震わせた。
「優柔不断は女の特権だが、魔女のふるまいではないな。貴様から来ないというのであれば、俺から行こう」
「ごめんなさい、参りました。ギブです! 命だけは!」
即座に白旗を上げるリリム。
俺の必殺ミネストローネキックをおみまいしてやろうと思っていたのだが、素直に降伏するというのであれば許してやろう。殊勝な心がけを評価するのもまた、キングの大事な務めだ。
「リリムが……あのリリムがついに!」
「うおおおお! 救世主ユウト様、万歳!」
「万歳!」
方々から感謝を表す声が聞こえて来る。うむ、悪くない気分だ。
「リリム」
「はっ!」
「貴様は俺にくだった。ゆえに、今後は俺の配下とする」
「ははぁ、喜んで」
特段、仲間なんぞ望んでいないが、これも王者たる者の務めだろう。それに、なんでもかんでも俺1人だけで解決してしまうというのも、少々味気ないと思っていたところだ。
今の俺には大層な目標が欠けている。
できることが多すぎるせいで、うまくゴールを定めることが難しいのだ。
それならば、当分の間は仲間を助けてやるのが俺の楽しみになるだろう。
「リリムよ、何か困っていることはないか?」
「困っていること……ですか?」
俺の唐突な質問にリリムが挙動不審に応じる。少し話が急すぎたかもしれない。
「なんでもいい。試しに言ってみろ」
考えだすリリムが、やがて何かを閃いたようにぽんと手を叩く。
「それならばユウトの兄さん。あたしは元々、自分の住処を追われたんですよ。あたしの領地を取り戻してください」
「なるほどな……。イージーすぎず、ちょうどいい課題だな。いいだろう! 教えろ。お前に牙を向いた馬鹿たれは、どこのどいつだ」
「南の魔女エッライスケベです」
「……」
ん? なんだ、聞き間違いか?
何も反応しない俺を見て、リリムがもう一度大きな声を出す。
「ですから、南の魔女エッライスケベです!」
「あっ、うん。俺の思い過ごしじゃなかったんだ。エッライスケベってなんか、きわどい名前だね」
「はい、ユウトの兄さん。名前にたがわず、エロエロな格好をしてぼいんぼいんを揺らしている、ふしだらな女です」
「ほう……。全然全くこれっぽちも興味はないが、大きいのかな? どこがとは言わないけど」
「なに鼻の下を伸ばしているんですか、ユウトの兄さん」
い、いかん。これでは周りに示しがつかん。
俺の視界に映る「-600」の数字。響く電子音と、そして見慣れぬ表示。
『この世界は全年齢対象です』
……おっと?
そう来ましたか。
だが、このくらいの縛りプレイがないと、俺自身が強すぎるせいでやりがいを感じられないだろう。ちょうどいいハンデだ。
「行くぞ、リリム。まずは、南の魔女にごあいさつだ」
「はいです!」
俺はリリムの手を取って歩きだしていた。
自分の人生が急速に面白くなっていくのを、俺は実感していた。
コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




