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メイズ・マーテル  作者: 沢渡 夜深
第一章
4/21

運命の出会い:3


 朝起きて、キーホルダーを机の上に置き、お母さんが作ってくれたご飯を食べた後、制服に着替える。

 長い黒髪は軽く櫛で解いて流して、全身の身だしなみチェックを全身鏡で行う。

 着替えが終わったらキーホルダーを鞄につけて、部屋を出る。

 お兄ちゃんの部屋をチェックして今日も先に出ているのを確認したら、リビングにいるであろうお母さんとお父さんに「行ってきます」と挨拶をして家を出た。今日はお母さんに止められなかった。

 住宅街を抜けて大通りに出る。今日の車の混みは混雑とは言えないくらい空いていた。

 大通りの道を使って学校に向かう。昨日と同じように小走りに過ぎ去っていくサラリーマン。仔犬の散歩をする女の人とすれ違う。開店準備をしているいつものお店の人も取り合えず一瞥して、特になにもすることもなくそのまま歩いていけば、問題なく学校に着いた。

 学校に着いた後は友達と駄弁ってHRまで時間を潰す。友達からはダンジョンに関しての話題は出てこなかったので、恐らくダンジョンに関する大きな事件は起こっていないんだろうと思うことにした。

 暫く経つと先生がやって来たので自分の席に戻る。自分の席に戻った時、隣の女の子と目が合ったので挨拶を交わしておく。

 先生は全員が着席したのを確認すると、えー、と名簿を見ながら話し始めた。


 「全員いることが確認できたから今日の出席確認は飛ばす。あと、今日は事前に連絡していた通り今日は半日授業で終わりだ。部活も今日はないから、皆早めに帰るように。今日はそれくらいだな。じゃあ、HRは終わりとする」


 ……………………………………え、午前授業のみ?


 「担任言ってたじゃん。今日は点検があるから午前で終わりだって」


 HRが終わった後に友達に話しかけに行けば、友達はさも当然のように言ってきた。

 え、そんなこと言ってたっけ……言ってたかも?これ完全に私が忘れてるだけだ。


 「えーまじか……体操服持って来ちゃった……」


 「ロッカーに置いてったら?使ってないし」


 「そうするー……」


 それにしても半日か。帰ってもやることないし、そもそもお母さん達に何も言ってないから、お母さん達も仕事で家にいないんだよなあ。

 ……家、鍵閉まってるよね。どうしよう。


 一点問題が浮上したけど、時間は無情にも過ぎていく。

 そしてあっという間に午前の授業が終わり、下校の時間になってしまった。


 


 「……やっぱり閉まってるよねぇ」


 学校を終えて家に帰って来た。

 一縷の望みにかけて扉の取っ手に手をかけたけど、開かなかった。予想通り、鍵は閉まってるらしい。

 そりゃ午前で終わるの伝えてないから、お母さん達は普通に仕事に行くわけでー、当然鍵もかけるわけでー……。忘れてた私が悪いんだけど。


 「どうしようなぁ」


 スマホがないからお母さん達に連絡出来ないし、公衆電話からかけようにもお金は学校に持っていかないようにしてるからかけれないし。

 お母さん達が帰ってくるまでどこかで時間を潰す必要性が出てきてしまった。

 取り合えず家から離れて住宅街を宛てもなくぶらつく。でもただ歩くだけでは飽きが出てきてしまう。


 「何しようなぁ。もう教科書読むとかそれしか思いつかないんだけど」


 それか、ちょっと遠いけど公園に行って幼い自分に戻って遊具で遊ぶ?たまにはいいかも。

 うん、それにしよう。それでいつもの帰りの時間まで潰そうと決めて、公園の方につま先を向けた。


 ――その時だった。


 「……?」


 ふと、私は振り返る。

 今、()()()()()()()()()()()()()()

 だから後ろを振り向いたけど、でもそこには誰もいない。

 気のせいなのかな、と思ったけど……また、()()()()()()()()

 やっぱり、誰かが私を呼んでる?

 一体誰が?

 そんな疑問が私の頭の中に落ちていくけれど、


 ――私の足は、その呼ぶ声がする方に向かって歩いていた。


 

 おいでおいでと呼ばれている。

 私の名前を呼んで、こっちにおいでって、呼んでいる。

 景色は住宅街を抜けて大通りに出て、そして人混みが集中している通りから外れて、路地裏に入る。

 細くて薄暗い路地裏を進む。時には曲がって、真っ直ぐ行って、曲がってを繰り返す。

 普段の私だったらこんな暗くて危険なところ、入らないのに、足は全く止まらない。

 野良猫が前を通り、烏が上で不気味に鳴き、ゴミの臭いにも慣れてしまった時……私は、それを見つけた。見つけてしまった。


 「……これ、」


 何回も曲がった先に待っていたのは、ぐるぐると渦巻く〝亜空間〟だった。

 路地裏の数ある内の一つの突き当りの壁の半分を覆うように、真っ黒な空間を渦巻く不思議な現象が目の前に起こっている。

 私はこれを見た事がある。

 これは――ダンジョンの入り口だ。

 しかもゲートも何もない。つまりこれは管理下に入っていない、野良ダンジョンだ。


 確かに野良ダンジョンは小さい奴ほど見逃しやすいとは聞いた事あるけど、けどこれに関しては小さすぎる……!?私の身体の半分以下しかないよ!?

 こんな小さな入り口もあるんだな、とじっくりと見て、我に返った。

 そうだ、野良ダンジョンを見つけたのなら警察に連絡をしなければならない。

 私はスマホを持ってないから大通りに戻る必要があるんだけど……呼ばれる声に導かれるように歩いたせいで、どのルートで行けば大通りに出るか全く覚えていない。

 でも放置するのもダメだし、戻るは戻るかと来た道を戻ろうとダンジョンの入り口から背中を向けた時だった。


 「……!」


 また、()()()()

 それも気のせいでもなんでもない。確実に、私を呼んだ人がいる。

 その声がどこから飛んでいるのかも、私はわかってしまった。

 振り返れば、さっきと同じ光景、ダンジョンの入り口がある。

 ……声は確実にこの入り口から聞こえてきた。

 つまり、私を呼んでいる人は、ダンジョンの中にいる……?


 「……いやいやいやいやちょっと待ってよ。え?さすがにダメでしょ」


 ふっと頭に出てきた選択がある。

 それは、この声の主を探す為にダンジョンの中に入るという選択だ。

 しかしそれは即座に却下した。

 いや、さすがにダメでしょ。私はプレイヤーでもなんでもないただの中学生だし。プレイヤーでもない人が野良ダンジョンに入るのは、プレイヤーが野良ダンジョンに入るのと訳が違う。下手したら説教どころでは済まない。

 だから入るべきではない。入っちゃ駄目。ここは大人しく大通りに戻って、警察にこのダンジョンのことを知らせる。これが一番最善な方法。

 なのに――なんで私は、ダンジョンと向き合っているの?

 来た道を戻るのをやめて、私の足は意志に反してダンジョンに向かっていく。


 「……いや、ダメだって。入っちゃ」


 でも、でもでもでもでも。

 未だに、私を呼ぶ声は聞こえてくる。

 私を()()()声が、聞こえてくる。

 それを拒否することが、私には出来なかった。

 やがて私の身体は、ダンジョンに入る為にしゃがむ。

 そして指先をダンジョンの入り口に沈めさせて。

 そして。

 そして。

 そして。


 ――とぷん、と。


 私の身体は、完全にダンジョンの中に入っていった。


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