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メイズ・マーテル  作者: 沢渡 夜深
第一章
23/25

静けさ:6


 お父さんに学校まで送られ、普通に学校生活を送って、お父さんが迎えに来るまで図書室で暇を潰す。お休みの日はお父さんの車で市内の図書館に送ってもらって、調べものや勉強をしてからまたお父さんに迎えに来てもらって帰る。

 ここ一か月くらい、ずっとその繰り返しだ。

 最近の変化と言えば、たまにお兄ちゃんも車に乗せて一緒に学校に行くことくらい。


 「ねぇ~お母さん。私いつまでお父さんの送り迎えなの?」


 お風呂から上がった後に夕食を食べていた時に、私はお母さんにそう聞く。

 お母さんは「そうねえ...」と考える素振りをした後、答えた。


 「もう暫くかしら」


 「ええ~!そろそろ自分の足で行きたい~!私、あの朝の雰囲気結構好きなんだけど!」


 「ダメよ。用心に越したことはないでしょ」


 「あの変な事件のこと?ならもう大丈夫なんじゃないの?ここ一か月くらいなんもないんでしょ」


 からあげを口に放り込みながら返すと、お母さんは「よく知ってるわね、ニュースも観ないのに」と驚いた。

 ――女の人が何人も不審な死を遂げている連続殺人事件が、一か月前までは話題になっていた。

 概要は私も詳しいことは知らないけれど、被害に遭った人は全員突然死体の状態で見つかる、らしい。例えば大通り、人が行きかう場所に突然死体が落ちてきたりとか、さっき通った路地裏に急に息を引き取った死体が座らされていたりとか、色々不可解なことが起きていたのだ。

 被害者全員が女性であり、かつ被害にあった人全員に共通点がないことから、女性に限定された無差別殺人事件として警察は足取りを追っているけれど、結果として今も犯人は捕まっていない、そう。

 女の人なら誰でも襲われる危険性があるということで、お母さん達はこの一か月ずっと私を送迎していたのだと私は最近知った。テレビも観ず、携帯もないせいで、私はその事件があったことすら知ったのは最近だ。

 じゃあなんでこの事件のことを知れたのかと言えば……清水さんから教えてもらったのだ。

 あの日から、私はよく清水さんと話すようになった。帰りのHRが終わって、全員が帰宅又は部活に行った後、二人っきりになった時にポツポツと会話をするようになった。

 最初は私から話しかけてたんだけど、段々清水さんの方からも話しかけてくれるようになって嬉しかった。

 事件のことを教えてもらったのは、その話している最中だった。


 「そういえば、最近遅くまで学校に残りますよね。何かあったんですか?」


 清水さんにそう言われて、そう言えばお父さんの送迎のこと話してなかったかと気づき、私は事情を清水さんに話すことにした。

 すると清水さんはさらりと「ああ、あの事件を危惧して送り迎えしてるんですね」と答えたのだ。

 あの事件について何も知らなかった私は、「あの事件?」とオウム返しすると、清水さんは「知らないんですか?」と少し驚いた様子で、事件のことを話してくれたのだ。 そこで私は事件について知ったと同時に、今までの送迎はこの事件のことを気にしてやってくれていたのだと気づいた。



 「……友達に教えてもらったの。そういう事情だったら、最初から私に言えばよかったのに」


 少々不貞腐れたような反応で私はお母さんに返してしまう。

 最初からこの事件のせいで送迎することになったと言えば、私も最初の頃は反抗しなかったのに。そこまで私は馬鹿じゃない、多分。

 

 「アンタ、こういう話題苦手でしょ。わざわざ苦手なものをアンタに話すことでもないし、お父さんと相談して話さないようにしたの。ごめんなさいね」


 「……確かに苦手だけどさぁ……」


 それでも、理由くらいは話してほしかった。

 ぷくりと頬を膨らませた私は、申し訳なさそうな親の視線に耐え切れず、「ご馳走様」と箸を置いて席を立った。

 部屋に戻って宿題でもやろうと考えていた時、ポツリとお父さんが零した。


 「……でも、確かに事件について何も聞かなくなったから、そろそろ送り迎えはやめようか?」


 「!ホント!?」


 突然光が差して、お父さんの方を振り返る。


 「段々、チカコの表情が窮屈そうだったからな。明日送迎無しで特に問題が無ければ、そのまま前に戻そう」


 「あなた、でも……」


 「やったー!」


 お母さんはまだ納得してないようだったけど、私は思わず舞い上がってその場で飛び上がってしまう。

 何か言いたそうなお母さんを遮るように、私は「約束だからね!じゃあ明日からね!」と矢継ぎ早に言って、早々に部屋に戻った。



 部屋に戻った私は、明日の準備をする為に机に置かれている鞄を手に取る。

 鞄の傍に置いてあった明日の時間割を確認し、必要な教材を詰め込もうとした時、鞄の奥底にある例のキーホルダーを見つけた。


 そういえば、あれからずっと入れっぱなしだった。


 何かあると怖いからずっと鞄の奥底に仕舞っていた例の、モンスターになったキーホルダー。

 一か月ぶりに取り出して、翳してみる。

 キーホルダーは汚れも傷も一つもなく、綺麗な状態を保っている。細かな傷も一つもない。普通だったら、教材に圧し潰されている時点で傷くらいはついてもいい筈なのに、それが一つもないことにこのキーホルダーの異質さが際立つ。


 「……調べることが無くなったな」


 キーホルダーを眺めながら、ポツリと呟いた。

 あれから毎週土日はずっと図書館に通ってダンジョン関連について調べているけれど、もう調べることが殆ど無くなってしまった。

 今では調べても殆ど調べたことと同じ内容か、よくわからない陰謀論とかが出てくる。ネットで出来る限りの調べものはこれで限界だろうと感じた瞬間だった。今では土日の図書館通いは、静かに宿題をする為の場にほぼなっている。

 当初の目的は殆ど達成したのも同然なんだけど、どこか腑に落ちないところがある。……なんでだろ?

 そもそも私は、なんでダンジョンについて調べてたんだっけ。あ、そうだ。ダンジョンについて殆ど知らないから、ダンジョンの知識を得る為に調べてたんだった。

 知識を得てどうするんだっけ。……あの時の、あの時のダンジョンの時にならないようにするんだった。

 ()()()()()()()()()()()


 「…………………………なんか変なこと考え始めちゃったな、やめよ」


 頭に浮かぶ疑問を振り払い、明日の準備に専念する。

 時間割を見てひょいひょいと必要なものを鞄の中に放り込み、必要な教材を全て詰め込んでチャックをしようとしたところで、机の上に置かれているキーホルダーが目に入った。

 やっば、入れ忘れてた。

 キーホルダーを手に取って鞄の中に入れようとした、けど。


 「………………」

 

 …………なんとなく、()()()()()()気がした。

 もう中に入れないでくれって、言っているような気がした。

 実際に聞こえたわけでもない。幻聴が聞こえたわけでもない。

 ただ本当に、漠然とそう聞こえたように思えた。

 だから私はキーホルダーを鞄の底まで入れるのに抵抗が出来始め……久しぶりに、鞄の外側に付けることにした。

 パチリ、と取っ手部分に付けたキーホルダーが軽く揺れる。心なしか嬉しそうに見えた。


 「……?嬉しそうに見えるって何??本当におかしくなっちゃったかな……」


 慣れないことを続けたせいで頭がバグったのか知らないけど、今はただのキーホルダーがなんだか感情的に見えるのは本格的におかしい。

 早く寝よ。明日は久々に一人で登校出来るし、早起きするのもありかな。

 そう明日の計画を軽く考えながら、私は電気を消していそいそとベッドの中に潜り込む。夕食を食べた直後に寝っ転がったせいで胃が変な感じになるけど、まあ今日くらいはいいかと無視した。

 


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