静けさ:5
隣の席の子――清水さんと教室で別れた私は、行く宛てもなく学校内を歩き回っていた。
さて、お父さんが来るまでの間、何をして時間を潰そうかなあ……。
結局、最終的に話が戻ってしまう。
このまま校門でお父さんを待つ?でも何もしないでずっとたちっぱで待ってるは嫌だし、どこか座れて、時間が潰せそうなところ……。
「……あ、図書室」
そういえば、学校内にも図書室があることを私はすっかり忘れていた。
普段は行かない場所だったから全く頭に思い浮かばなかった。そこで時間潰せばいいじゃん。
早速私は図書室に行こうとしたけど……肝心の図書室の場所が分からない。
歩き回ってたら着くかなと、私は図書室を探して学校内を歩き回ることにした。
私の学校は二つの校舎で分かれていて、片方の校舎に生徒達の教室、もう片方の校舎にそれぞれの専用室(家庭科室とか理科室とか)がある。
生徒達の教室の校舎は、一階が三年生、二階が二年生、三階が一年生になっている。移動教室の時は、それぞれの階層に設置されている渡り廊下を渡ってもう一つの校舎に行くのだ。
図書室は、一年生の教室が集まっている三階の渡り廊下を渡ったもう一つの校舎の奥の方にあった。
もう一つの校舎に入ると、この校舎で練習している吹奏楽部の音がさらに大きくなる。周りには誰もいないのに一層騒がしく聞こえるのは、間違いなく吹奏楽部のせいだろう。
喧しいのに静かという矛盾を抱えながら、私は誰もいない廊下を歩き、突き当りにある図書館の前に立った。
スライド式のドアに手をかけて、恐る恐る開けてみる。鍵はかかっていない。
「失礼しま~す……」
一応声をかけて、私は図書室の中に入った。
学校の図書室は全然人がいない。横一列に並べられた長机。その奥には色んな本が納まった本が沢山あるけれど、市内の図書館程ではない。
図書室に入って直ぐの左側にはカウンターがあって、そこには二人の女生徒が座っていた。恐らく、図書委員の人達。
「こんにちは~」
「こ、こんにちは」
挨拶されたので、こちらも挨拶を返す。
……ちらっと見えたけど、あの人達のスリッパは青色だった。ということはあの人達は三年生の先輩か……。
先輩達は私に挨拶した後、それぞれの作業に戻っていった。私も、自分の時間潰しの為に本を探すことにする。
「うわ、いっぱいある……」
適当に目に付いた本棚に入っている本の題名を流し見る。
この本棚は詩集やら、歴史の人物をベースにした漫画、後は童話とかが入っていた。
歴史の人物をベースにした漫画は興味ないし、なんか気軽に読めるやつがいいな……と思い、結局私が選んだのは童話だった。
時間になるまで出来るだけ童話を読むか。童話なら直ぐに読めるし、難しくないし。
適当に一冊、二冊手に取って机まで持っていき、席について読み始めた。
……あ、これ知ってるやつじゃん。
「お~い、一年生~」
声をかけられて顔を上げれば、図書委員の先輩が鍵を持って私を見下ろしていた。
「そろそろ閉めちゃうから、本片づけようか!」
「え?……わ、もうこんな時間……」
言われて時計を見れば、私が童話を読み始めてから既に二時間が経過していた。
時刻は既に17時を周っている。もうそろそろ、お父さんが迎えに来る時間だ。
早く片付けないと、と私は今読んでいる童話と、読み終わった後についでに持ってきていた童話の二冊を持って本棚に向かった。
元あった場所に返したのを確認した私は、鞄を持って図書室の出入口に向かう。扉にはあの先輩二人がいて、どうやら私が出てくるまで待っててくれたらしい。
「すみません!待たせちゃいまして!」
「いいよ~。忘れ物ない?」
「大丈夫です!」
「おっけー!じゃあ閉めちゃうね。気を付けて帰るんだよ~!」
先輩達に手を振り返しながら、私はパタパタと駆け足で図書室から離れた。
「早く、早く……」
パタパタと階段を駆け下りて、玄関に向かう。
この時間になると廊下にいる人はあまりおらず、私は幸運にも誰にもぶつかることなく無事に玄関まで辿り着くことが出来た。
外靴に履き替えた私は、駆け足で正門前まで走る。
確かお父さんの仕事が終わるのが17時で、ここから会社までは十分前後って言ってたから、もうそろそろ学校に着いていてもおかしくない。
道端に停めるって言ってたから、着く前に校門前にいなきゃ。
まだ外で部活をしている人達の声を背に、私は肩で息をしながら校門前に着く。
近くを見渡したけど、まだお父さんの車はない。どうやら間に合ったらしい。
後はここで待つだけだ。少し息を整えよう、と私は深呼吸をした。
「…………ん?」
校門に寄りかかってお父さんを待つこと、体感一分。
ふと、視線が向けられていることに気づいた。
視線が注がれている方に顔を向けると……学校前の交差点に目が行く。
車が何台も通る中、向かい側の信号で待つスーツを着た男の人が目に入った。
……なんか見た事があるなぁとジッとその人を見ていると、その男の人も私を見ているかのようにジッと見つめ返してくる。
え、なんか気味が悪い。私は慌てて視線を逸らした。
それでも、視線はまだ私を見ている、ような気がする。
「お父さん早く来て〜……!」
なんかゾッと寒気がして、鞄をぎゅっと握り締めながら、お父さんが早く来る事を祈った。
するとその祈りが届いたのか、ぶぅうと私の前に一台の車が停まる。
「――いやぁすまんすまん。待たせたね」
窓を開けてそう謝ってきたお父さんに、私は思わずホッと安堵の息を漏らした。
「もう待った〜!」と言いながら、私はお父さんの車の助手席に乗り込む。シートベルトを付けると、お父さんは後ろの車に気をつけながら発進させた。




