静けさ:4
その後は、いつものように授業を熟す時間が始まる。
つまらない授業に眠たくなったり、体育で汗を流したり、休み時間に友達と話して時間を潰したりと、いつもと変わらない時間を過ごしていく。
そうこうして過ごしている間に、あっという間に帰りのHRにまでなってしまった。
「そんじゃさよなら~明日も元気に登校するんだぞ~」
必要な連絡事項を伝えた担任の先生は、そう皆に言いながら教室を出る。
先生が出た後の教室はわっと一気に騒がしくなり、皆部活に行くためにいそいそと騒ぎながら教室を次々に出ていく。
どこの部活にも所属していない私は、その波に紛れてそのまま流れて家に帰るんだけど、お父さんが迎えに来るまでは私は学校を出れないので、私は皆が部活に行った後も椅子に座ったままだった。
お父さんが来るまで、何で時間を潰そうかな。朝からそれを度々考えていたんだけど、結局何も決まっていない。
国語の教科書はお話はもう全部読んだし、他に時間を潰すことと言えば他の教科書を読むくらいなんだけど、それだと歴史の教科書しか読む気が起きない。かといって歴史も、あんまよくわかんないからできれば読みたくないんだよね。
と悩んでいたら、いつの間にか教室の中は私と……隣の席の子だけになっていた。
……あれ、この子部活行かないのかな。
ぽつんと二人っきりになったけど、隣の席の子は一向に動こうとしない。本をずっと読んでいて、そのまま。
……この子、ずっと本読んでるなあ。
前から気になっていたことを思い出す。
隣の席の子は、寡黙な子だ。休み時間中もずっと本を読んでいて、殆どの人が声を聞いたことがないくらい静かな子。話しかけたら最低限の会話はしてくれるけど、それが終わると直ぐに本を読み始める。
私も朝の挨拶以外は会話しない、ちょっと話しかけ辛い人だ。
そんな人と二人っきりになって、急に空気がきまづくなったような気がする。本を捲る音しか教室には聞こえなくて、静か過ぎる。
なんかそれが落ち着かなくて、私はつい隣の席の子に話しかけていた。
「……ねえ、部活、行かないの?」
「……え?」
話しかけると、隣の席の子は驚いたように私を見た。
……話しかけたのがそんなにおかしいのかな、と不思議に思う。
隣の席の子はあー、うー、と唸った後、ぼそりと答えた。
「……ぶ、部活入ってないので」
「……ふぅん。ねぇ、いつも何読んでるの?」
このまま話を切り上げることも簡単だけど、教室には私とこの子の二人だけ。丁度お父さんが来るまで暇していた私は、勢いでその子との会話を続けようと決めた。
隣の席の子は少し悩んだ後、「……ら、ライトノベル……」と答えてくれた。
「らいとのべる?って何?」
「え?えーと……ファンタジーみたいな小説、ですかね。わかりやすいのっていうと……異世界転生ものって、わかります?」
「あ、わかる!あれでしょ、トラックで死んだら異世界に転生してて、めちゃくちゃ強くなってハーレム作るやつ!」
「すっごい偏ってますね……でも、そんな感じです」
「そんな感じか~。面白い?」
「……私は、好きです」
「そっか~。私あんまりそういう小説読まないからな~」
異世界転生ものだって、お父さんが録画しているのをたまに観る程度だ。そこまで詳しく知っているわけじゃない。
でも一回読んでみたいなあとは思っている。
「……」
「……」
……やばい、会話終わっちゃった。またきまづさがやってくる。
でも他に何話せばいいのかわかんないし……。隣の席の子も、私と会話を続けようってことはしないっぽい。
隣の席の子はあんまり話すのが得意じゃないっぽいから、なんだったらここで話を切り上げよう。引き際は大事だよね。
「……じゃあ私、行くね。また明日、えーと……」
さすがに無言で席を立つのは失礼かと思って、挨拶だけは残そうと再度声をかけた。
だけど、肝心の彼女の名前が思い出せず、口籠ってしまう。
すると、彼女はぱちくりと瞬きをした後、少し微笑んでから私に言った。
「……清水です。清水ユイ。また明日、です。九十九さん」




