静けさ:2
「……………………!?!?!?!?」
声にならない驚きが私の頭の中を支配する。
出た。本当に出た。たった私の呼びかけだけで、イレギュラーなモンスターは姿を現した。
「……だい、じょう、ぶ、マスター……?」
モンスターは机の上に立ちながら、転げ落ちた私を見下ろしている。
あの時と、昨日と同じ、心配そうな眼差しを私に向けながら。
「……………………も、ほんとに、なんなの…………」
その心配の眼差しを受けた私は、頭を抱えた。
もう昨日から散々。よく分からないことが何度も何度も起きるし、考えるのも面倒になってきた。
私、頭そんなに良くないし。こういう時の解決策なんてなんも思い浮かばない。ダンジョンのことを調べても、結局私はどうすればいいのかわからないのだ。
「……チカコー?なんか凄い音したけど大丈夫?」
頭を抱えていると、下からお母さんの大声が聞こえた。それに私ははっとする。
モンスターが目の前に現れたことに驚きすぎて、つい大きな音を立てながら椅子から転げ落ちてしまったのだ。
あんな大きな音が起てば、お母さんも心配するに決まっている。
――隠さなきゃ。
咄嗟にそう思った私は、慌てて大きな声でお母さんに返した。
「だ、大丈夫ー!ちょっと、あの、虫がいて驚いただけー!!」
「そうー??……ならいいけど」
お母さんは納得してくれたようで、遠ざかる足音が聞こえてきた。
それに私はホッと胸を撫で下ろして……今の自分の行動に、疑問を覚える。
なんで私、このモンスターを隠さなきゃって思ったのだろう。
今が、モンスターがここにいると証明できるチャンスだったのではと考えたが、私はその考えを一瞬で無くした。
今は全く敵意がなく、逆に私を心配するこのモンスターであれど、モンスターはモンスターなのだ。そのモンスターとお母さんが鉢合わせれば、間違いなくお母さんはパニック状態になる。
そんなパニック状態のお母さんに、モンスターが敵意を向けないという確証は全くない。下手したらお母さんに危害を加えていたかも、しれない。
そう、無意識に考えてしまったのだろう。だから私はモンスターを隠したがったのだろう。お母さんに危害を加えられたくないから。
それが一番納得がいく。この理由にしよう、と私は結論付けた。
さて、と私はモンスターの方を振り返る。
モンスターはいつの間にか机の上から降りていて、私をジッと見ていた。
まるで、私の言葉を待っているかのように。
その姿を見て、またあの時のように話しかけてみようとしたが、やめた。確かこのモンスターは、理解していない単語と理解している単語の差が激しかったはず。あの時も結局話にならなかった記憶があるので、今話してもまたあの時と二の舞になりそうな気がしてならない。結局対話出来ずに突然モンスターの機嫌を損ねて殺される……なんていう展開は御免被りたい。
……ちょっと試したいことがあるので、それを試してみることにする。
「……戻っていいよ」
「……?」
「キーホルダーに、戻っていいよ」
そう言うと、モンスターは暫く立ち尽くした後、ポンッと、軽快な音を立てて消えた。
代わりに見慣れたキーホルダーが宙を舞い、それが床に落ちていく。
……これは理解出来るんだぁ……。
キーホルダーを拾いながら、私は新たな発見に複雑な気持ちを抱いた。
さすがにあのまま放置はダメだと思ったのでキーホルダーに戻ってもらおうと思ったが、そもそも私が言ったとして戻ってくれるのか疑問だったのだ。結果は懸念だったのだが。
しかしこれは理解しているんだ。逆にどんな単語がわからないのだろう、と新たな疑問が産まれてくる。
……取り合えず、一旦このモンスターについては保留にしよう。今はダンジョンについて理解を深め、調べ尽くすのが一番いい、と思う。
モンスター本人に聞いても何もわからないから、一番情報を入手しやすいネットで情報を得ろうと、私は改めて心に決めた。
取り合えず、明日も図書館に行こ。




