迷宮について:2
昨日の出来事が夢であれ現実であれ、私はダンジョンに関しての知識が全く無さすぎることがわかった。
今までダンジョンに関して興味も湧かず、人生に置いて不要、そこまで知る必要もないと決めつけたせいで全く調べていないし、ニュースは普段から見ない、ネットもスマホとパソコンがないのでSNSからの情報も来ることがないから、恐らく私は人並かそれ以下の知識しか持ち合わせていないと思う。
それはさすがにまずいなと、昨日のことを思い出した私は危機感を覚えた。
ダンジョンはもう日常に溶け込んでいる。写真の中にダンジョンが映っても普通の風景だと捉えられるくらい〝普通〟になったダンジョンは、元を辿れば「未知の建造物」なのだ。
どのような危険が潜んでいるのかもわからない。昨日の喋るモンスターだってイレギュラーかもしれないし、なんだったらダンジョンの外に出ているモンスターもイレギュラー扱いなのか、ダンジョンについて全く知らない私は何の判断も出来ないのだ。これで「いや普通にモンスターも喋るしモンスターは外に出るよ」となんてことない声色で言われたら恥ずかしくて穴に隠れたい衝動に駆られる。
もしダンジョンについて知っていたら、昨日の出来事ももっと円滑に対応できたのかもしれない。怖くて震え、何をすればいいのかもわからない状態に陥ることなく、冷静に状況を判断して最善策を講じることも、ダンジョンを知っていれば出来たかもしれない。
何も知らないで震えるのはさすがにダメ。だから私は、ダンジョンについて知らなければならない。
なにがダンジョンの常識で何がダンジョンのイレギュラーなのか。そもそもダンジョンとはなにか、その全てを知らなければならないと、私は決意を固めた。
その第一歩が、市内の図書館である。
とまぁご立派な理由を語ってはいるけれど、第一の理由としては「ダンジョンに対して興味が湧いた」に尽きる。
人間の言葉が理解できる、喋るモンスター。雪のように真っ白な世界が広がる、銀世界のダンジョン。そんなモンスターやダンジョンが他にいるのかと知りたくなったのだ。
確かに理由の中には「ダンジョンのこと全く知らないのはまっずいよなぁ」も入っているけれど、図書館に行く理由は最初の理由が大きい。
じゃあなんで図書館に行くことにしたのかって?――そんなの一つしかない。
「図書館の場所くらいわかるから一人で行くって~」
「ダメ。最近変な事件ばっかあるから」
「チカコ、今日はお母さんのわがままを聞いてあげてくれ。僕もチカコを一人で行かせるには心配なんだよ」
お気に入りのワンピースの上にジャケットを羽織り、足を黒タイツで覆い隠して、キーホルダーを取り付けたリュックを背負った私は、意気揚々と家を出ようとしたところをお母さん達に捕まった。
車で送っていくって言うお母さんの一度は拒否したけど、今日はお母さんも粘りが強く、お父さんのアシストもあって、私は渋々お父さんが運転する車に乗り込むことにした。
歩いて図書館に行くの楽しみにしてたのに~。
「それじゃあ行こうか」
お父さんの合図で、車が発進する。
お父さんとお母さんが何か話しているのを右から左に聞き流しながら、私は移り変わる窓の外の景色をずっと眺めていた。
殺風景な住宅街を抜け、いつもの大通り、最近ダンジョンが近くに生えた駅を過ぎて、色々な家や施設が立ち並ぶ道を過ぎてと、コロコロ変わる景色を流し見る。
「……えばここだっけか、ニュースでやってた事件があったの」
「そうなのよぉ。結構近くだから怖いわよね」
ふと、耳に入ったお父さん達の会話に、私は耳を傾けた。
お父さんとお母さんは深刻そうな顔で話し合っている。
「不審死、だっけか。しかも被害者は全員女性なんだろう?」
「そう、犯人の手がかりも何も見つかってないんですって。怖いわ、やっぱ送り迎えした方がいいわよね」
「そうだなぁ……」
……事件?不審死?なんか物騒な話……。
嫌な気持ちになるのも嫌だったので、私はすぐにシャットダウンして窓の外を眺めることに集中した。




