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メイズ・マーテル  作者: 沢渡 夜深
第一章
11/21

迷宮について:1




 寒くて、痛くて、寂しかった。

 自分の声しか聞こえなくて、聞こえたとしても自分と同じじゃない、不気味な声が返ってくるだけ。

 音も、空気も、全てが別世界のように思えて、全てが恐怖の対象になっていた彼女の精神は限界を迎えていた。

 なんでこうなったのだろう、と考えても、最早きっかけがなんなのか思い出せない。思い出す暇がない。

 それ以上に恐怖が上塗りしてしまう為、原因を特定することが彼女には出来なかった。

 何度も家族の名前を呼んだ。何度も家族の名前を叫んだ。

 しかし大好きな家族は、彼女の声に反応してくれなかった。

 そして、全てに限界を迎えた時。


 彼女は、血に濡れたような真紅の瞳と目が合って、気を失った。



 ***



 ――朝。

 目が醒めた私は、机に置かれたいつものキーホルダーをジッと見つめる。

 私が幼い頃から大切にしている、銀髪に褐色肌の男のキャラクターが印刷されたキーホルダー。何度見てもいつものなんの変哲もない、普通のキーホルダーだ。

 でも私は昨日見てしまった。

 ――このキーホルダーに変わる、モンスターの姿を。

 

 あの後から、このキーホルダーがモンスターに変わる瞬間を見ていない。

 もしかしてあれも夢だったのかなと思ったけど、今朝目が醒めて廊下に出た時にお母さんと顔を合わせると「アンタ大丈夫?昨日様子がおかしかったけど」と言われたことで、昨日のことが夢ではないと改めて突きつけられてしまった。

 そんで顔を洗って、取り合えずパジャマから着替えて、ご飯に呼ばれるまではキーホルダーを観察することにしたんだけど……。


 「ん~~~~~。やっぱふっつうのキーホルダーだよなぁ~~~……」


 持ち上げてみて光に翳したり、こんこんと机に向かって軽く叩いたりしてみたけど、やっぱり普通のキーホルダーにしか見えない。

 「実はこのキーホルダー、モンスターで!姿を変えられるんですよ~!」って言われても鼻で笑われるくらいどこからどうみても普通の、いつも付けているキーホルダーだ。


 「……というか、よく見たらこのキャラ、昨日のモンスターとどこか似てる……?」


 普段はそこまで気にしていなかったけど、改めて見ると昨日のモンスターとこのキーホルダーで共通点があった。

 銀髪もそうだし、褐色肌も、男も、真っ赤な瞳も。悪魔みたいな翼がないだけで、その他の部分は殆どそっくりだった。

 ……なんでこんなに似てるんだろ?


 「…………あれ、そういえば、このキーホルダー……」

 

 ふと、疑問に思ったことを口に出そうとした時、部屋の外から「チカコ~!」とお母さんの声がした。

 私は慌てて返事をして、キーホルダーを持ったまま部屋を出ようとした。けど、直前で思いとどまって、悩みに悩んだ末、キーホルダーは机の上に置いておくことにした。

 また昨日みたいに突然モンスターが現れたりしたら大変だから。

 

 

 「お父さんとお母さん出かけるけど、アンタ達今日の予定はどうなってるの?」


 お母さんが作ってくれた卵焼きをぱくぱく食べていると、席についたお母さんがそんなことを聞いてきた。

 そのお母さんの質問に、私が答えるより早くお兄ちゃんが答えた。


 「今日はゲームでもしようかな。最近勉強ばっかで疲れたし」


 「それはいいわね。たまには休憩も必要だもの。チカコは?」


 私の方に話が振られたので、私は卵焼きをもぐもぐしながら返事を考える。

 元々今日は出かける予定だったけど、どこにでかけるか明確には決めていなかった。近くのゲームセンターか公園にでも行こうかなあなんて考えてたけど……脳裏に昨日のモンスターと、ダンジョンのことが頭に過った。

 ……うん、折角だし、あそこに行こう。

 卵焼きを呑み込んだ私は、お母さんに返事する。


 「今日は出かける。お昼ご飯もいらない!」


 「ご飯はいらない?どこにでかけるのよ」


 首を傾げるお母さんと、新聞から顔を上げたお父さんと目が合う。

 その視線を受けながら、私はにっぱりと答えた。


 「――図書館!」




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