運命の出会い:9
「――安心、して、ほしかった」
モンスターは一旦喋るのをやめると、目を伏せて、私の質問に返してくれた。
「……え?」
「マスター、ずっと、怖い、だった、から……し、喋る、やる、安心、する……思った?」
「……えぇと、どういうこと……」
答えてくれたけど、モンスターが喋れる単語が少なすぎるし片言だから、肝心なことが全くわからなかった。
全くわからないでいると、モンスターはさらに言葉を言おうとした、その時だった。
「チカコー?」
「!!」
部屋の外から、お母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。
それと一緒に、ダンダンと階段を登る音も聞こえてくる。
まずい――お母さんが、こっちに来る!
「チカコ、聞こえてるー?」
「ッな、なに!?」
返事をしたら止まってくれるかなって思ったけど、お母さんは部屋に近づいてくるのを止めない。
このままじゃ、お母さんとモンスターが鉢合わせてしまう。
「もう何度も呼んでるんだけど。今日のご飯ねー」
「ッま、待って!来ないでお母さん!」
「?何言ってんの?」
今は何もしていないけれど、もしモンスターがお母さんを見て襲ったら、取り返しがつかないことになってしまう。
なんとか追い返さないと。なんて言えばいいの??
「ドア開けるよー?」
「ちょ、」
もうなんでお母さん言うこと聞かないの!!
止めようとしたけど、それより早くお母さんがきい、とドアを開け始める。
やばい、やばいやばいやばい!
焦り始める私の脳裏に、悲鳴を上げるお母さんに襲い掛かるモンスターの光景が描かれてしまう。
これが現実になってしまったら、どうにかなってしまう。
もうドアが半分くらい開き始めて、お母さんの身体が僅かに入ってくる。
お母さんの姿が見えた私は――咄嗟に、立ち尽くしているモンスターに向かって、叫んだ。
「――隠れて!!」
次の瞬間だった。
瞬きをしたその瞬間に、宙を舞うキーホルダーを見た。
「……え?」
そのキーホルダーは、私がずっと大切にしていたキーホルダーで。
いついかなる時でも肌身離さず持っていた、命と同じくらい大切なキーホルダーで。
……え?
「……アンタ、変な態勢でなにやってんのよ」
キーホルダーがカタンと床に落ちたと同時に、お母さんの呆れた声が右から左に流れた。
視線を僅かに横に向ければ、エプロン姿のお母さんが、変なものでも見たかのような眼差しで私を見下ろしていた。
「しかもまだ着替えてないじゃない。早く着替えなさいよ、制服皺になるわよ」
「…………………………………………あ、うん、ごめん」
「?アンタ、本当に今日どうしたのよ?何かあった?」
茫然と返事をする私に、お母さんは困ったような顔をする。熱でもある?って言いながら私の額に手を当てて、熱はないとわかると手を離していった。
「ご飯食べれる?今日カツだったんだけど……」
「…………………………………………………………………………たべる」
「そ、そう。アンタ味噌だったわよね?味噌カツ丼にする?それともご飯と別で食べる?それ聞きたかったんだけど」
「みそかつどん」
「わかった……あんま無理しないでよ?またご飯出来たら呼ぶから」
お母さんは部屋を出た。
お母さんが部屋を出た後、私は暫くキーホルダーを凝視したまま動けなかった。
なにも頭が働かなくて、理解が追いつかなくて。
制服から着替えろって言われても着替える気力も湧かなくて。
「……もう、意味わかんない……」
辛うじて、その言葉を吐き出すことしか出来なかった。
――肩身離さず持ってた大事なキーホルダーが、実は擬態したモンスターだったって、そんなこと有り得るの??




