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メイズ・マーテル  作者: 沢渡 夜深
第一章
10/21

運命の出会い:9


 「――安心、して、ほしかった」


 モンスターは一旦喋るのをやめると、目を伏せて、私の質問に返してくれた。


 「……え?」


 「マスター、ずっと、怖い、だった、から……し、喋る、やる、安心、する……思った?」


 「……えぇと、どういうこと……」


 答えてくれたけど、モンスターが喋れる単語が少なすぎるし片言だから、肝心なことが全くわからなかった。

 全くわからないでいると、モンスターはさらに言葉を言おうとした、その時だった。


 「チカコー?」


 「!!」


 部屋の外から、お母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。

 それと一緒に、ダンダンと階段を登る音も聞こえてくる。

 まずい――お母さんが、こっちに来る!


 「チカコ、聞こえてるー?」


 「ッな、なに!?」


 返事をしたら止まってくれるかなって思ったけど、お母さんは部屋に近づいてくるのを止めない。

 このままじゃ、お母さんとモンスターが鉢合わせてしまう。


 「もう何度も呼んでるんだけど。今日のご飯ねー」


 「ッま、待って!来ないでお母さん!」


 「?何言ってんの?」


 今は何もしていないけれど、もしモンスターがお母さんを見て襲ったら、取り返しがつかないことになってしまう。

 なんとか追い返さないと。なんて言えばいいの??


 「ドア開けるよー?」


 「ちょ、」


 もうなんでお母さん言うこと聞かないの!!

 止めようとしたけど、それより早くお母さんがきい、とドアを開け始める。

 やばい、やばいやばいやばい!

 焦り始める私の脳裏に、悲鳴を上げるお母さんに襲い掛かるモンスターの光景が描かれてしまう。

 これが現実になってしまったら、どうにかなってしまう。

 もうドアが半分くらい開き始めて、お母さんの身体が僅かに入ってくる。

 お母さんの姿が見えた私は――咄嗟に、立ち尽くしているモンスターに向かって、叫んだ。


 「――隠れて!!」


 次の瞬間だった。

 瞬きをしたその瞬間に、()()()()()()()()()()()()()


 「……え?」


 そのキーホルダーは、私がずっと大切にしていたキーホルダーで。

 いついかなる時でも肌身離さず持っていた、命と同じくらい大切なキーホルダーで。

 ……え?


 「……アンタ、変な態勢でなにやってんのよ」


 キーホルダーがカタンと床に落ちたと同時に、お母さんの呆れた声が右から左に流れた。

 視線を僅かに横に向ければ、エプロン姿のお母さんが、変なものでも見たかのような眼差しで私を見下ろしていた。


 「しかもまだ着替えてないじゃない。早く着替えなさいよ、制服皺になるわよ」


 「…………………………………………あ、うん、ごめん」


 「?アンタ、本当に今日どうしたのよ?何かあった?」


 茫然と返事をする私に、お母さんは困ったような顔をする。熱でもある?って言いながら私の額に手を当てて、熱はないとわかると手を離していった。


 「ご飯食べれる?今日カツだったんだけど……」

 

 「…………………………………………………………………………たべる」


 「そ、そう。アンタ味噌だったわよね?味噌カツ丼にする?それともご飯と別で食べる?それ聞きたかったんだけど」


 「みそかつどん」


 「わかった……あんま無理しないでよ?またご飯出来たら呼ぶから」


 お母さんは部屋を出た。

 お母さんが部屋を出た後、私は暫くキーホルダーを凝視したまま動けなかった。

 なにも頭が働かなくて、理解が追いつかなくて。

 制服から着替えろって言われても着替える気力も湧かなくて。


 「……もう、意味わかんない……」


 辛うじて、その言葉を吐き出すことしか出来なかった。


 ――肩身離さず持ってた大事なキーホルダーが、実は擬態したモンスターだったって、そんなこと有り得るの??



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