帰り道2
「彼女……いないけど」
今まで貴樹は恋人と言う存在を強く欲した事はなかった。何故なら、異性と話したい、付き合いたい等の欲求よりかは趣味に対する興味が今まで強くあったからだった。
「へぇ。中学のとき、あんたの事好きって言ってた女子多かったのにねー。なんで付き合わなかったの?もったいない」
「そんな奴いたの?誰?」
凛はもったいぶる様な、嫌味ったらしく言った。最後のセリフが気になった貴樹は気になって聞いた。
「え?そんなの誰だって良いじゃん。もう三年前の話だし」
「そうだな。もう違うか。お前、彼氏いるの?」
しばらく歩いていると、昔からある、今でも通学の時は必ずそこの横を通る小さな公園の前に着いた。凛はまだ時間あるなら少しここで話していこう、と言った。今日は連日続いた蒸し暑い夜ではなく、涼しい風が頬を撫でるような風が吹く夜だったから貴樹も公園の砂利を踏んだ。
小さい木製のベンチに腰掛ける。
「私、彼氏いるよ」
その言葉を聞いて貴樹は胸がささくれるようなツーンとした痛みを感じた。しかしよく考えてみればいてもおかしくない。貴樹も凛の良さは昔からよくわかっていた。
「そうなのか。ま、頑張れ。じゃあ彼氏いるのに今俺と二人でいていいの?」
こうしているのは浮気なんじゃないかと思った。
「あはは、良いって良いって。彼氏こういうの気にしないからさ」
凛の顔は携帯の画面に照らされていた。
「でも彼氏が悲しむだろ。お前がもし彼氏が違う女と遊んでるの見たら嫌だろ?」
貴樹は凛の彼氏に対する不誠実な姿勢に怒った。同時に貴樹の知っている凛が崩れていった。
「そ、そんなに怒ることないじゃない……?」
「別に怒ってない。お前、もっと大切な人とかを大事にする奴だったと思ってたからさ……」
凛は携帯を閉じた。すっと静かに立ち上がる。
「どうした?」
凛を怒らした。
それしか考えられない。
でも俺は正しい事を言った。
待て。
正しい事って……何?
「ごめんね、そうだね。これ彼氏に悪いよね。私、馬鹿だった。ありがと」
凛は急いで自転車に乗った。しかし指で少し押すと倒れてしまいそうな、脆そうで、不安定だった。
車輪の音は暗闇の中へ消えていった。貴樹はどこか寂しく、またあのツーンとした痛みが胸に流れた。