あれから~四年後~
「私じゃ、貴樹を幸せにできないのかな……」
彼女と一緒に古いアパートの一室の窓際に立っている。後ろを見ると、狭い数枚の畳が敷き詰められた部屋小さな卓袱台が一つ。そして一式の布団が寂しげに存在している。貴樹は視線を戻し、田園風景の向こうにある自分の母校を見つめた。
「どうして?」
貴樹は首をかしげてみせる。隣に居る彼女は怒っているのか悲しんでいるのか分からない。蛙の鳴き声だけが二人を包む。
「そんな事ないさ。それより早く晩飯作ろう。もうだいぶ涼めただろ?」
必要以上に大きな声を出した。貴樹は彼女の方を見なかった。見たら、自己嫌悪で自分が潰れそうだったからだ。彼女が一歩、貴樹に近づく。右肩に柔らかい髪の毛の感触がした。
「ずっと、苦しんでる……。いつもそう。私、解かるよ。貴樹の考えている事。もう、いいのに……」
彼女の声色で初めて泣いているのだとわかった。初めて泣いている彼女の姿を見た。
貴樹は忘れる事が出来なかった。自分はもう幸せじゃなくていいと思った。あれから彼女の前ではなるべく明るく振舞い、喜んでくれそうな事は精一杯やってきたつもりだった。それでも、彼女は今悲しんでいる。
「辛いよ、私。そんな貴樹見るの辛い。お願い……、もう貴樹は大丈夫だから。私……どうしたらいいの……」
胸が締め付けられた。彼女の悲しみが貴樹に繋がる。涙が自然と溢れる。
「ごめん……」
同時に四年前のあの夏の事が再び頭の中を支配した。