◆第二十三章:銀月の遺産
王宮に、季節外れの雪が舞い始めていた。玉座の間では、暖炉の火が燃えているにも関わらず、凍えるような空気に満ちていた。そこへ、アイアンハースからの早馬が、王の元へ一通の書状を届けた。側近が、震える手でその封を切り、内容を読み上げる。
「――アルベール王へ。
貴殿の臣下・ヴァルガスが、我が国アイアンハースの鉱山を一方的に爆破したる暴挙、断じて許しがたし。
この行為は、ドヴェルグへの敵対行為と見なす。
王国として誠意ある返答があるならば、二日の猶予を与える。
返答なき場合、我が国は貴殿の王国に進軍するものと心得よ。
――アイアンハース王、ボルグリムより」
彼は書状を握り潰すと、すぐにヴァルガスを呼び出した。
膝をつくヴァルガスを、怒りの炎が包む。
「卿に鉱山の管理は一任したはずだ! ドヴェルグとの関係を破壊し、我らに戦火を招くとは何事か!」
王の怒声を受けながら、ヴァルガスの心は、冷え切っていた。
(…グラドゥスめ、謀ったな。ドヴェルグとの同盟を無効にし、私とアルベールを切り離そうという算段か…!)
彼は、アルベールを一瞥した。
(…だが、それも良い。邪神が復活した今、もはやこの男は不要だ。いっそ、ここで…)
ヴァルガスの思考は、謁見の間に飛び込んできた、一人の兵士の絶叫によって中断された。
「ご報告いたします! 西の地より、魔物の軍勢が出現! 王都へ向かっております!」
「なんだと!?」
アルベールは即座に偵察と迎撃部隊を編成し、ヴァルガスに命じた。
「ヴァルガス卿、今すぐアイアンハースへ向かい、ボルグリム王と和平交渉をせよ」
「…御意」
ヴァルガスはそう答えると、静かに王宮を後にした。
だが彼はアイアンハースへは向かわず、自らの城にて一人、悪魔と対峙していた。
「おそらく、我を孤立させる算段であろう。だが、結果的に邪神復活の契約は守られたはずだ! 約束を果たせ!」
「ええ、良いでしょう」
悪魔が囁くと、王宮に飾られていた神々の像が次々と崩れ落ちていく。
ソルスティス、パン、アースの像が砕け散り、唯一、残されたエクリップスの像の表面が、パラパラと剥がれ落ちていく。
「お前の不死の願いは、契約通り成就されよう! …我が主の、依代となってな!」
「なんだと!貴様!」
ヴァルガスは、残された最後の理性で悪魔に斬りかかった。その剣は、確かに悪魔を捉えた。だが、悪魔は笑う。
「主よ、この者の身体をお使いください」
エクリップスの禍々しい力が、ヴァルガスの体を内側から蝕んでいく。彼の絶叫が、城に響き渡った。
王宮・玉座の間。
そこは、かつての荘厳さを失い、今や闇と瘴気に包まれた地獄と化していた。
天井からは黒い結晶が垂れ下がり、床の大理石は禍々しい紋様に侵食されている。
玉座には、かつての姿を留めぬヴァルガス――いや、邪神の依代と化した彼が、忌まわしき笑みを浮かべて座していた。
その足元には、アルベール王の骸が転がっていた。
そこへ、一人の影が踏み込む。
血に濡れた兵の服を纏い、手には長剣と赤き石の宝珠を携えた男――グリム。
「…五年間、お前を倒すことだけを、ずっと考えてきた。仲間の言う通り、封印をし続けることも考えたさ。だが、お前が生み出す魔族の存在を、この先の人間も抱えなくちゃならねぇ」
「我が分身の力を使うか。良いだろう。仇なす者よ、汝の力量を知れ」
その言葉に、ヴァルガスはゆっくりと立ち上がる。
その手にある黒き剣には、青白く輝くレムリアンシードが埋め込まれていた。
グリムは懐から取り出したサンストーンを掲げる。
聖なる光が瘴気を切り裂き、邪神の気配をも貫いた。
「これはソルスティスの遺産……お前の障壁を無効にするものだ…」
「ククッ……いいだろう。ならば、力と力で決着をつけようか!」
ヴァルガスの剣が蒼白く輝いた。精霊が剣に宿り、空気が凍りつく。
一方、グリムはレムリアンシードを手の甲に埋め込み、赤き炎を呼び覚ます。炎の精霊が彼の背に浮かび、肩を撫でるように揺れた。
「こい、炎よ……この命、燃やし尽くしてでも奴を仕留める!」
――刹那、両者は激突した。
剣戟が火花を散らし、力の奔流が玉座の間を何度も崩壊させる。
玉座の間は、灼熱と極寒がぶつかり合い、破壊されていった。
グリムの剣技は人間を超越し、ヴァルガスのそれはもはや神の領域に達していた。
ヴァルガスが剣を振り抜くと、氷の波が部屋全体を覆い尽くした。
瞬間、グリムはそれを回避するも、背後から形成された氷の槍が肩を貫いた。
「ぐっ……!」
「まだだ!」
グリムが血を吐きながらも氷の槍を引き抜くと再び前へ踏み込む。
ヴァルガスは空中へ跳び、剣から無数の氷刃を放つ。
グリムは剣を横に振るい、炎の壁でそれを打ち払う。
両者、限界を超えて打ち合いを続ける。
「おのれ……まだこの身体は完成していないというのか……!」
その隙を、グリムは逃さなかった。
「今しかない!」
彼は渾身の力で剣を振り下ろす。
剣が、ヴァルガスの胸を貫く――
赤熱した刀身が、邪神の鎧を穿ち、その胸奥深くまで到達した。
グリムの身体から、炎の精霊がうねるように飛び出し、剣を包み込む。
「これで……終わりだッ!」
灼熱の刃が、邪神の心臓を焼き尽くす。
ヴァルガスは目を見開き、呻くような声を漏らす。
「……フッ……フハハ……ああ……これは……素晴らしい……」
ヴァルガスの唇が、ゆっくりと吊り上がった。
彼は、胸を貫いたままの剣を片手で掴むと、無理やり引き抜いた。
その傷口は、既に黒き瘴気によって修復され始めていた。
グリムが後退しようとした瞬間、ヴァルガスの剣が一閃した。
氷の精霊を纏った黒剣が、音もなく軌道を描く。
「ッ……!」
ドシュッ
剣が、グリムの腹部を深々と貫いた。
「――がっ……!」
返り血が吹き上がり、サンストーンが手から落ちる。
膝をついたグリムの身体から、ゆっくりと炎の精霊が離れていく。
「……まだ……だ……まだ……」
彼はよろめきながらサンストーンに手を伸ばす。
だが、ヴァルガスの手がそれを踏み潰すように踏みつける。
「終わりだ、復讐者よ。だが貴様は見せてくれた。絶望の深さを。
……だからこそ、その顔に浮かぶ希望の光を――この手で塗り潰してくれよう」
ヴァルガスは、グリムの顔に手を翳す。
「まだ希望は残っている…。俺は、お前を倒せる者を見つけた…」
「面白い。ならば、お前の希望をここで潰してやろう。そこで見物しているが良い」
ヴァルガスは、グリムの半身を、ゆっくりと石化させていった。
「グラドゥス…すまない…」
グリムの意識は、そこで途絶えた。
その声は、風のように微かで――それでも確かに、仲間へと届こうとしていた。
黒鉄の峰に囲まれた、堅牢なる山岳都市。その心臓部である王城の戦略室にて、王ボルグリムは書状を握りしめていた。
「二日の猶予を与えたにも関わらず、返答は……沈黙、か」
ボルグリムの太い指が、羊皮紙をぐしゃりと潰す。
その瞳に宿るのは、怒りよりも――決意だった。
「……よいか、諸君。 王国は我らとの盟約を破った。これは、戦で償わせねばならぬ」
集った将軍たちが、無言で頷く。
鋼の王は、ゆっくりと立ち上がり、戦槌を手に取った。
「鉄の子らよ、出撃の刻だ。人間どもに思い知らせてやれ。我らを侮ったことを、後悔させてやる!」
――翌朝。アイアンハースの凍土が、重厚な足音で震えていた。
巨大な石扉が開き、黒鉄で組まれた橋を渡り、ゴーレム軍団が一体、また一体と行進を開始する。
鋼鉄の騎馬に乗った騎士団、弓兵を乗せた鉄角獣たちも、それに続いた。
ボルグリムは スウィフトクローに跨り、ゴーレム軍団の先頭に立っていた。
「これより我らは、名誉を賭して出陣する。
この槌が砕くのは、ただの敵兵ではない。
――裏切りと、偽りだ!」
その言葉に、数千のドヴェルグたちが一斉に雄叫びを上げた。
「王に忠誠を! 我らに勝利を!」
号令と共に、戦旗が翻る。
吹雪を割って進む彼らの行軍は、まるで山そのものが動いているかのような迫力をもって、王国の平野へと進んでいった――。
だが、王国へ侵攻したドヴェルグ軍が目にしたのは、すでに魔物の軍勢によって蹂躙されている、王国の姿だった。
さらに、第二波の魔物の軍勢が、今度はドヴェルグ軍へと襲いかかる。
「いいか、諸君。人間どもにも、魔族にも、我らの力を見せてやるのだ。
戦場に轟くのは――ドヴェルグの名であれ!」
王国、ドヴェルグ、魔族の三つ巴の戦いが始まった。
ドヴェルグたちは咄嗟に魔族へ攻撃を切り替えたが、数の差は明らかだった。
王国の騎士が叫ぶ。
「魔族に再生の機会を与えるな! 倒した者には不滅の火を!」
王国の騎士の号令で、兵士たちが、斬り倒した魔族に次々と不滅の火を投げ入れる。
王国とドヴェルグがそれぞれ軍を率いて進軍し、激突寸前となっていたその時――
空を裂くような咆哮が、両軍の頭上を覆った。
「な、なんだ……あれは!?」
邪神の降臨により力を取り戻したカーマインは、以前とは比べ物にならないほど巨大化していた。
「我の道を開けよ!」
カーマインが地を踏みしめると、その一歩ごとに地面が陥没し、王国軍の騎馬が吹き飛ぶ。
魔族の後続部隊が、王国とドヴェルグ両軍の側面を襲い始めた。
カーマインは人間を紙屑のように振り払い、ゴーレムを次々と破壊していく。
「皆の者、あやつを仕留めるのだ! 撃て!」
ボルグリムの命令で、大砲が火を噴く。だが、白煙の中から現れたカーマインは、無傷だった。
「これしきの力で、我を止められると思うな! アールヴの娘と闘わせろ!」
大砲が、カーマインの一撃で破壊される。
「なんという化け物だ! こやつを止められるものはおるのか!」
ボルグリムが絶望の声を上げた、その時だった。
東の方角から、無数の矢が放たれ、カーマインに突き刺さる。シルヴァリアの軍勢だった。
「魔族共に思い知らせてやれ!」
白銀の甲冑をまとい、風を切るように宣言する。
エルデランの号令で、エリアスを先頭にしたアールヴの兵士たちが、魔族に突撃する。
続いて、エリアスが、先鋒部隊を率いて前線を突破。
彼の剣が振るわれるたび、魔族が霧散していった。
「ボルグリムよ、劣勢ではないか。魔族共に臆したか!」エルデランは、鼻で笑った。
アールヴの騎兵が、風と共に突撃し、ドヴェルグと王国と魔族が混ざる混戦へ飛び込んでいく。
地上では血と鉄がぶつかり合い、空では魔族の翼が黒雲を裂く。
「耳長よ、加勢を感謝する! しかし、我らの力はこれからだ! 魔導兵器を発動せよ!」
ドヴェルグの陣営後方、巨大な鉄馬車が轟音と共に開き、中から一体の鋼鉄の巨人――アトラスが現れる。
「アトラスよ! 敵を絶滅するのだ!」
アトラスが大地を踏みしめ、カーマインへと向かう。
カーマインも咆哮で応えた。
「よかろう。我が力が真に解放された今、そなたらがどれほどのものか――見せてみよ!」
鉄と魔が衝突し、世界が揺れる。
ドヴェルグの投石機が火を吹き、王国の騎士団が魔族の群れを押し戻す。アールヴの魔術師が空を封じ、地を凍てつかせた。
一方、北の集落ではルシアの報告を聞いたグラドゥスが、危機を悟っていた。
「やはり、邪神は復活してしまったのだ…」
北の集落では、ルシアの報告を聞いた長老が、グラドゥスに全てを語っていた。
「このままでは、無関係な人々が巻き込まれてしまう」
サンギーヌが一つの提案を出す。
「王国へ侵入できる隠し通路を知っております。王都が手薄な今、邪神とヴァルガスを討つのです」
「よし、その方法でいこう」
一行は、王都の城壁の外、森の中の狩猟小屋へ向かった。サンギーヌは、暖炉の奥の壁にある特定の石を押し込む。すると、灰受けの部分が、音を立てて床下へと沈み込み、地下へと続く階段が現れた。
長く続く通路は、玉座の間の裏にある、王族専用の礼拝堂へと繋がっていた。
礼拝堂を抜けた先、待ち受けていたのはヴァルガスの兵。
「ここは僕たちに任せて! 姉さんは、ヴァルガスを倒すんだ!」
リアムとグラドゥスが、敵兵を斬り倒していく。
クレオラは、一人、玉座の間へと向かった。
破壊された扉を抜け、彼女が目にしたのは、地獄そのものだった。玉座には、もはや人の形を留めていないヴァルガスが座し、その足元には、無残に息絶えたアルベール王の亡骸が転がっている。そして、壁際には、半身を石化させられたグリムが、悔しさに顔を歪ませたまま、動かなくなっていた。
「来たか、アールヴの娘よ」
邪神エクリップスと融合したヴァルガスの声は、幾重にも重なって響き、空間そのものを震わせた。
その姿は変貌していたが、纏う威圧感と構えは、かつて“王国最強の騎士”と呼ばれた男そのものであった。
クレオラは何も答えない。ただ、ダーギンから贈られた『影断の剣』を、静かに抜いた
最初に動いたのは、ヴァルガスだった。彼が手をかざすと、アルベールの亡骸が置かれていた大理石の床の一部が、巨大な槍となって、クレオラへと殺到する。クレオラは、それを最小限の動きで回避するが、槍は彼女がいた場所を抉り、凄まじい破壊の跡を残した。
「逃げるだけか?」
ヴァルガスが嘲笑うと、今度は玉座の間全体が、急速に凍り付いていく。床は滑らかな氷の鏡と化し、壁からは無数の氷の刃が、クレオラを串刺しにせんと伸びてきた。
だがクレオラは、氷の床を滑るように移動し、影断の剣で迫り来る氷の刃を的確に弾き、砕いていく。
剣に宿るレムリアンシードの力が、氷の魔力をわずかに相殺していた。
「小賢しい!」
ヴァルガスは、今度はその身に炎の精霊を纏った。極寒の空間に、灼熱の炎が吹き荒れる。炎と氷がぶつかり合い、玉座の間は、破壊と再生を繰り返す、混沌の坩堝と化した。
その混沌の中を、クレオラは舞う。炎を避け、氷を砕き、ただひたすらに、ヴァルガスとの距離を詰めていく。
ついに、クレオラの剣が、ヴァルガスの胸を浅く切り裂いた。
だが、ヴァルガスは笑った。
「無駄だ。我は神ぞ!」
その傷は、黒煙とともにすぐさま癒えてゆく。
だが、クレオラは臆することなく、再び同じ箇所に剣を突き立てた。
リン!―― 鈴のような音が聴こえた…
パンから授かった力が、剣を伝い、ヴァルガスの身体へと流れ込む。
「ぐ…!?」
ヴァルガスの表情が、初めて驚愕に歪んだ。傷が、再生しない。聖なる光が、邪神の治癒能力を、完全に打ち消していたのだ。
「おのれ…!」
自らの再生能力が封じられたことを悟り、ヴァルガスは怒りに震えながら、最後の魔力を呼び集めた。
両手に闇を凝縮し、玉座の間に巨大な闇の球体を生み出す。
それは、逃れることも防ぐこともできぬ、“絶対的破壊”。
だが、クレオラは、その闇に向かって、静かに踏み込んだ。
彼女の手に握られた、アースのタリスマンが、まばゆい光を放つ。
邪神の魔力から放たれた闇の球体は、タリスマンの神聖な光に触れた瞬間、霧のようにかき消えてしまった。
ヴァルガスが、魔力を使い果たし、一瞬だけ無防備になる。
その隙を、クレオラは見逃さなかった。
彼女は、その禍々しく脈打つ心臓に、渾身の力を込めた剣を、深々と突き刺した。
刃は鎧を貫き、邪神の核たる心臓を直撃する。
「……っが……ああああ……!」
ヴァルガスが絶叫し、全身から黒い煙を噴き出す。
触手のような影がのたうち、空間が震える。
「貴様……に……討たれるとは……」
最期の言葉を残し、ヴァルガスの身体は崩れ落ちる。
あの不遜な微笑すら、消えていた。
クレオラは、ついにヴァルガスを打ち破った。
クレオラは、剣を引き抜いたまましばらく動かなかった。
玉座の間には、ただ風の音と、瓦礫の崩れる音だけが響いていた。
やがて、剣を収め、グリムの元へと歩く。
彼女は、動かない彼のそばに静かにしゃがみ込み、少しの間、ただ見つめていた。
「…クレオラ…」
その場に崩れ落ちたグリムが、最後の力で"サンストーン"を差し出す。
「…装置を、元に…戻せ…」
クレオラは、神々の遺産を、エクリップスの像に捧げた。その瞬間、彼女の脳裏に、古代の生贄になった男の意識が流れ込む。
祭壇に、抵抗もできず連れて行かれる男。それを見て泣き叫ぶ女。
……やめて! 彼を連れて行かないで!
男は、その叫び声に振り向き、女の名を叫ぶが、
司祭に連れて行かれ、装置に触れさせられると、その身体は吸い込まれていった。
クレオラは、その幻影から、彼の「人の時の名前」を見つけ出し、静かに呟いた。
「アルフ・ルナーク」
人の自我が戻ったエクリップスは、神の呪縛から解放され、分解されていく。そして、クレオラは、融合した装置を、影断の剣で破壊した。
魔族は消え、戦いは終わった。
「クレオラ様! ご無事で!」
エルデランが駆け寄る。ダーギンも続いた。
「ようやったのぉ! わしの見込んだ通りじゃ!」
「ほう、此の方が…」
ボルグリムは、邪神を倒した竜の一族に、王国の統治を認めた。
「アルベール王の治世は終わった。…されど、争いは続くじゃろう。
そなたらに、王国の統治を任せよう」
だが、グラドゥスは、静かに首を横に振った。
「…我らには、過ぎたものだ」
グラドゥスは王になることを夢見ていた、今は亡き友アルベールを思い出し、そっと涙を拭った。
「本当に良いのか?」
「アルベールには夢があった。彼の大きな夢に、皆が惹かれて、我ら一族はここへ来たのだ。後悔などない」
数年後。
北の街フロストゲートは、静かな夜に包まれていた。空には、銀色の月と、満点の星々が輝いている。家々の窓からは、暖炉の暖かい光が漏れ、時折、竜の一族の者たちの、陽気な笑い声が風に乗って聞こえてくる。
かつての戦いの傷跡は、穏やかな時間に癒され、ここには、確かな平和があった。
その集落の一室で、クレオラは、二人の子供を寝かしつけていた。リアムとルシアの間にできた男の子と、フィーナの娘だ。
クレオラは、夜更かしをする子供たちのリクエストに応じ、精霊にお願いをする。
「ねぇ、クレオラは何でも出来るの?」
「クレオラは、世界で一番強いんだって! お父さんが言ってたよ!」
「違うよ! お母さんが言ってたの! クレオラは、世界で一番優しいんだって!」
二人の言葉に、クレオラは、ただ静かに微笑んだ。
銀色の月が、まるで全てを祝福するかのように、世界を優しく照らしていた…。
fin
銀月のレガシー 完結となります。
今後は今までの話を書き直して、本にする予定です。もし見かけましたら応援よろしくお願い致します。
私をファンタジーの世界へ導いてくれた冴木忍氏、ゲイリー・ガイギャックスへ感謝を込めて 七日、千夜 詠




