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ジジイ、異世界に行く

眼前に広がるのは眩しいほどに綺麗な青空、誰かの叫び声、火を吹き翼を持つ大きなトカゲ。なぜここにいる?老人はガタが来ている脳みその記憶を遡る。

――――――――――――――

佐藤清(さとうきよし)、趣味はお風呂と散歩。妻には先立たれたが、孫がよく家に来てくれていたのでそれほど寂しくはなかった。


「じいちゃん知らんの?今は異世界が流行ってるんだよ。」

「いせかい?伊勢の海かい?」

「違うよ。異なる世界!ここではないどこかの世界ではドラゴンや魔法が当たり前にいるんだよ。」

「ほー、なんだか難しくて分からんわい」


こんな他愛ない話をするのがとても楽しかった。

別れは突然だった。肺に癌が認められた。回復の見込みはないようだ。今際の際、家族に囲まれて死んでいくのは悪くない、と思った。

――――――――――――――

ヨシ、思い出せたぞ。ワシもまだまだ耄碌していないな。それでいったいここはどこなのか。死後の世界というにはやけに騒がしすぎる。それに、、、


「そこのご老人、逃げてくれ!あなたを守りながらドラゴンと戦うことはできない!」


ドラゴン!電撃が走るようだった。その言葉には聞き馴染みがあった。そう、孫が言うていた異世界!

いや、そんなわけないか。痴呆が入っているワシでもそれくらい分かる。きっと徘徊していたら遠いところに来てしまったんじゃろう。アレはトカゲか何かじゃ。うん。きっとそうじゃな。


「ご老人!聞こえているだろうか!逃げてくれ!」

「あぁ、すまないのう」


ひとまずここは迷惑をかけぬためにも逃げるべきじゃな。そう思い老体に鞭打ち走り出したその時、思わず唖然とした。我が身が我が身でないような気がした。

いや、違うな、この感覚には覚えがある。


ワシがまだ若かった時、敵兵から逃げる時、よく上官には「逃げ足ばかりが達者」だと殴られたものだ。その記憶が蘇った。


「どこまで逃げれば良いんじゃ!?」

「すぐそこに村がある!そこなら安全だ!」


村が見えてきた。薄ぼけた木の看板にはかろうじてスタト村と読み取れる。

鞭打ちすぎた。腰が悲鳴をあげている。そんな表現も生ぬるいほど辛い。


「もし、変わった服装をしておられる。旅の人ですか。」

話しかけてきたのは立派な髭を蓄えた青年。

「え、えぇそうです」

「わざわざこんな村まで来られるということはやはり“

アレ”目当てですか」


なんなんだこの青年、まだこちらはどこにいるのかもわからず、何をすれば良いのかもわからないというのに。質問すべきはこちらだろう。


「申し訳ないが、お兄さん。まずあなたのことをなんと呼べば良いですかな」

「これはこれは失礼しました、私この村の村長、ソンチョーと申します」

「ソンチョーさん、ワシは清と申します。突然ここに飛ばされて、ドラゴンから逃げるためにここまでやってきたんです。“アレ”とはなんですかなぁ」

「なるほど、冒険者さんなんですね。アレというのはこの村の商品のことで…まぁ見てもらった方が良いでしょう。ついてきてください」


見たところかなり損傷している荒屋の中に入ると、薄明かりの中何かが見える。鬼胡桃の木と鉄で作られている、横に長い何かがズラッと壁に飾られている。これもまた覚えがある。


「これは…!」

「当村名物、三八式歩兵銃です」

「1905年(明治38年)に日本陸軍で採用されたボルトアクション方式小銃である三八式歩兵銃…!?」

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