憑依転生先がレベルマックスの勇者と対峙する魔王だったんだけど、今から入れる保険あるー?
「ふはははは! よくぞ来たな、勇者よ!」
さっきまで仕事していたはずの俺の目の前に、ドット絵世界が広がっていた。
二頭身でちょこちょこ手足だけ動くキャラグラ。8bitのBGM。
このドット絵背景、やたら見覚えあるぞ!?
玉座の間の装飾、ステンドグラスの光の差し方、中央にある邪悪なオーラの氷柱……
これ、ガキのときめっちゃやり込んだレトロRPG 『三代目ファンタジークエスト』 じゃねーか!!!
最強装備に身を包んだ勇者。
その後ろには賢者、賢者、賢者。
ステータス開示で見える敵(勇者)たちは四人ともレベルカンスト。つけると外せなくなる代わりに防御力天元突破する最凶防具各種。1ターンに二連続攻撃可能になるスターダストの腕輪もつけている。
殺る気スイッチ入ってます。
……これは確実にラスボス戦。
そして、立っているポジションを考えると、俺、魔王に憑依転生したのか!?
やだやだやだ転生したばっかで死にたくない。
転生死亡RTAとかマジ勘弁だから!!
「魔王ハーデス! ついに貴様を討つ時が来た!」
勇者が剣を構える。
ヤバい! 死ぬ! 俺が!! こうなったら――!!
ど・げ・ざ!!!!!
ドット絵の俺(魔王)が、豪快に地面に額をぶつける。
「……は?」
「……え?」
勇者パーティーが固まった。
俺は必死に勇者に向かって叫ぶ。
「俺はただの一般市民です!!! こいつに憑依しちゃっただけの小鹿ちゃんです! 痛いの嫌だし、戦いたくないんです!!! 助けて!」
勇者が困惑した表情で賢者の方を向いた。
「……賢者A。こいつはなにをいっている」
「わからん。儂らが混乱しているすきを狙って攻撃してくるつもりやもしれん」
しない、しないから!
「世界の半分、いや九割あげるから! 魔物も全部撤退させるから殺さんといて!」
「……なんだと!?」
「さらに今なら、魔王軍の財宝から500万ゴールドキャッシュバック!!」
「500万!?」
賢者Bの目が光った。
「それがあれば……教会の建て直しができる……」
「おい、待て賢者B!! なんで悩んでいるんだ」
勇者がツッコむが、賢者Cも腕を組んで唸る。
「いや、待て。俺たち、世界を救った後の生活費どうするんだ? ハジメノ国の王様なんて旅立った日に50ゴールドくれただけだぞ。きっと魔王を倒して帰っても何もくれないぞ。ケチだから。それを考えれば見逃して500万ゴールド山分けしたほうが良くない?」
「なっ……!? 俺たちは魔王を討ちに来たはず……!」
「いや、魔王が手を引いてくれた上に金もたんまり。世界救済後の生活を考えたら取引に応じるべきだ。勇者も、病気の母さんの治療費かかるって言っていたじゃないか」
勇者が膝をついた。
「そうだな。俺には、母さんの治療費が必要だ。魔王、約束だ。金をくれ!」
「っしゃらぁあ!!!」
やはり金! 金は全てを解決する!!!
勇者一行を金で丸め込み、俺は魔物たちと魔の森を出ないようにひっそり平和に暮らした。
ところで、いつになったら現世に帰れるのか誰か教えてくれ。
END