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うちの勇者がいい奴で困る

《一章》

「悪い、正直もう限界なんだ。この際、はっきり言うよ……カフクにこれ以上負担を押し付けるのは申し訳ない」


 開口一番、パーティーリーダーの勇者ナギサは神妙な面持ちだった。

 本日の冒険が一段落つき、ギルドへクエスト完了を知らせた直後である。宿屋の一室に戻るや、なぜかナギサに出迎えられてしまう。


「お前の部屋、隣だけど?」

「確かに、事務手続きを全てこなしてくれるのは助かるさ。けれど、僕たちはカフクに面倒事を押し付けていたかもしれない」

「お前の部屋、隣」

「パーティーメンバーは対等であるべきだ。ポジション関係なく。だから、ごめん」


 ナギサは俺の肩を軽く叩き、ペコリと頭を下げた。


「話を聞け。別に後処理なんて気付いた奴がやればいいだろ」

「いつも気づいた時、カフクが済ませているんだ。ひょっとして、未だに例の件を引きずっているのか?」

「そんなんじゃねーよ」

「陰口なら、僕が対応しよう。カフクは堂々と、勇者パーティーを名乗ってくれ」


 勇者の才能――ギフテッドを与えられたナギサがほほ笑んだ。

 俺は、金髪碧眼の中性的なイケメンに熱心な視線を注がれてしまう。乙女心がトゥクンしちゃうね。その証拠に鳥肌が逆立ってるぞ。


 俺たち、否、ナギサたち一行は冒険者である。

 人間の住処を脅かす魔王軍と戦ったり、人類未踏のダンジョンを攻略したり、依頼者の困りごとを解決するギルド登録した何でも屋だ。


 ここは、石畳の街並みに田園風景広がり、エルフやドワーフなど他種族が暮らすRPG風異世界・通称ナーロッパ。

 そんな表現をする時点でお気づきだろうが、一応表明しよう。


 カフクと呼ばれた俺は、つまるところ転生者だ。うっかり電車にはねられ、謎空間へ転送。女神と面接がてら、何やかんやで異世界転生。まさか本当に体験するとは驚いたね。


 記憶の持ち越しに不具合が発生したのか、はたまた仕様か、後になって自分が転生者だったと思い出す。つい先日のこと。そのきっかけは後で語るが、とにかくこの世界では社畜サラリーマンではなく冒険者家業に勤しむフリーランスッ! チートもないし、現代知識で無双できるほど甘くないけど、早朝の通勤ラッシュがないって最高ぅ!


 まあ、良くも悪くも転生を自覚したことで懸案事項を抱えているのだが。

 閑話休題。


「カフク? 急に黙って具合でも悪いのかい? 今日は早めに休んでいいけど」


 ナギサがヒールの回復魔法を唱えた。しかし、体力は満タンだった!


「この勇者、人格者……っ!」


 リーダーの奴、仲間想いなのだが?

 勇者って、裏では性格悪いんじゃないの? 俺が読んだ追放系では、役立たずに冷たい仕打ちの役割だったぞ。ざまあする気はないものの、いろいろと困るのだ。

 記憶を取り戻す前から、ナギサはすこぶるいい奴だった。ゆえに、俺は……


「いや、何でもない。超元気! 風呂入って、着替えたら食堂に集合、だろ?」

「うん。ハレルヤとニニカは買い物があって遅れるってさ」

「りょーかい、りょーかい。ナギサこそゆっくり休め。モンスターと戦って一番消費したのはお前なんだから」

「僕はアタッカーに専念するだけで、あまり気苦労を感じないよ。後方支援がちゃんとしてるからさ」


 後で合流しようと言い残すや、勇者は隣の部屋へ引っ込むのであった。


「身に余る光栄。フ、過大評価だな」


 やれやれと肩をすくめた、俺。

 あまり期待しないでくれ。残念ながら、結果で応えられるような奴じゃないんだ。

 個室に備え付けの簡素なベッドで寝そべって、俺は小休止に入った。

 瞼を閉じて、ゆっくり深呼吸。何も考えまいとするほど、思考が巡っていく。


 真っ先に飛び込んできたシーンはやはり、カフクの中の人が日本人という事実なり。


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