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理想のプロローグ

「悪い、正直もう限界なんだ。この際、はっきり言うよ……カフクをこれ以上旅に同行させられない」


 開口一番、パーティーリーダーの勇者ナギサは神妙な面持ちだった。

 本日の冒険が一段落つき、ギルドへクエスト完了を知らせた直後である。宿屋の一室に戻るや、なぜか仲間たちに出迎えられてしまう。


「おいおい、冗談はやめてくれ。俺はもうツッコミに回す元気なんてねーぞ?」


 げんなりとため息交じりな俺。

 今回のダンジョン探索は大変だった。あぁ、仕事上がりの一杯が恋しいぜ。


「キャハハ、辞めるのはアンタの方でしょ! あいっかわらず、おバカさんね」


 耳をつんざくような甲高い声を発したのは、仲間の魔法使いハレルヤ。大人をなめくさったクソガキ感マシマシな魔女っ子など、本気で相手にしていられない。


「ナギサ様の言葉は真実です。カフクさん、ようやく決別の日が訪れました」


 聖女と評判な神官ニニカが慈悲なしと、薄い笑みを浮かべている。


「……何、だと?」


 三者から拒絶の視線を受け取って、俺の疲労感は一気に引っ込んだ。代わりとばかりに冷や汗が背中を湿らせていく。


「いや! いやいや! どういうこ」

「今回のクエスト、カフクの実力をテストしていたんだ。はたして、君が勇者パーティーの一員として劣っている事実を覆せるのか? 前々から薄々感じていたけど……結果は残念だった」


 ナギサは静かに首を横に振った。


「ぷぷ~、ちゃんと言ってあげなさいなナギ! こいつ、いい加減足手まといじゃん! 同郷のよしみで仲間にしてあげたのに、まるで役立たずとか雑魚乙」

「……っ、た、確かに戦闘力に欠けている! けど、俺はパーティーを支える後方支援に特化したスキル持ちだろッ」


 ハレルヤのニヤケ面に反論すれば、


「サポートの重要性は否定していません。ただ単純に、カフクさんの能力が私たちの要求に達していないのです」


 淡々と事実を告げるかのようなニニカ。

 勇者パーティーの平均レベルを下げていたのは事実。しかし、サポート型の俺はモンスターと戦う前衛と比べてしまえば、タレントレベルに差が生まれるのは必然である。


 さりとて、優秀な仲間に後れを取るまいと惰眠を貪っていたわけにあらず。皆が休息する間、幾度となく経験値稼ぎだって行ってきた! 何度、日の出を拝んだことか。


「アンタはお払い箱なの、お払い箱。ほら、シッシ。ねぇ、今どんな気持ち? 勇者に寄生プレイして散々甘い蜜を吸った感想を聞かせなさいよ」

「俺だってパーティーに貢献してきただろ! ダンジョンのマッピング、モンスターのデータ収集、アイテム管理にクエストやギルド施設の手続き……っ!」

「こ・う・け・んw アハハハハ! それ、ぜぇ~んぶ誰にでもできる雑用じゃないっ」


 心底愉快らしく、ハレルヤが腹を抱えて噴き出した。

 ロリの評価など別に気にしない。俺の好みはナイスバデーな美人ゆえ。


「残念ですが、私とハレルヤちゃんが分担できる内容かと。勇者を支えるメンバーとして、替えの利かない役割ではありません。ナギサ様の恩情に甘えるのは潮時でしょう」

「俺には特別なタレントがない。だから、足手まといってか?」

「自分の胸に手を当てて考えてみてください。カフクさんに良識があれば、思い当たる節が見つかるはずです」


 ニニカは優しく諭すようだったが、実際は自ずと身を引けの命令形。

 そうか、お前らの俺に対する評価がよく分かった。俺の努力など、溢れる才能の前では無力に等しいわけだ。やれやれ、実力主義の勇者パにふさわしい判断である。

 深いため息と共に、俺の中からやる気と活力、あらゆるエネルギーが抜け出ていく。


「カフク……すまない、僕たちの目的は魔王討伐。至上命題を果たすためには、さらなる戦力が必要なんだ。四人目にきわめて眩しいタレントの逸材を加入させたい」

「ナギサは勇者で、リーダーだろ。ちゃんと言えよ! 同情はいらない! 俺はお前の真の仲間じゃなかったってよ!」


 ナギサの柔和な笑みはなるほど、女性にはたいそう魅力的に映る。

 しかし、この場においてはヘラヘラとした事なかれ主義の権化だ。

 幼馴染の俺は最後まで、こいつの本音を引き出せなかったと悟ってしまう。


「……リーダーの決定だ。バックパッカー・カフクは、著しい能力不足とパーティーメンバーの信頼性を大いに損ねた。改善の余地がなく、よって本日付で追放処分とする!」

「反論の余地もないな」


 ナギサの諦観の念を感じ取り、俺に抗議する熱量など残っていなかった。

 これ以上、冷ややかな視線で部屋の空気を凍らせるのは忍びない。

 勇者パと部外者ゆえ、可及的速やかに退散しよう。

 俺がくるりと踵を返したタイミング。


「アンタ、ちょっと待ちなさいよ」

「何か用ですか? 元同僚のハレルヤさん」

「えぇ、追放されたカフクさん。持ち逃げなんて許さないから」


 意味が分からず首を傾げた俺に、先方はベッドで足をブラブラさせながら。


「あたしたちが! ダンジョンで手に入れた武具にアイテム! 稼いだゴールド! 懐に入れたままでしょ? ちゃっかりコソ泥するなら、うっかり燃やすけど?」


 手のひらで大きな火の玉を転がした魔法使いが真顔でうそぶいた。


「さっさとこの場から出ていくことばかり考えてた。全部返すよ」


 俺は背負っていたバックパックを逆さに揺らしていく。剣や杖、ポーションに書類、袋にぎっしり詰まった金銀銅貨が床に散らばった。


「すごい、随分と保管していたんですね」

「あなたたちの活躍に応じて、容量増加スキルを取ったんだ」

「まあ、高級なマジック鞄を購入すれば代用できますね」

「違いない」


 追放された以上、何を言われてどう侮られようが至極どうでもいい話だ。


「アハハ、荷物持ちがお荷物でした! ほんと、アイテム係に相応しいオチじゃない? アンタ、田舎に帰って芸人目指せばいいんじゃない? 道化としては優秀よ!」

「俺の人生最大の一発芸だ。飲み会のお笑い種に使ってくれ」

「フン、面白くない返しね。超ウケる」


 ハレルヤは俺に興味を失ったらしく、ベッドへ大の字に寝転んだ。

 俺も喧しい奴との今生の別れが寂しいぜ。永久離脱最高っ!

 足早に階段を下りていけば。


「僕たちが必ず、平和な世界を勝ち取るから。故郷の皆を、頼んだよ」


 そう言って、勇者は一文無しの無職へ申し訳程度の餞別を握らせた。

 流石に可哀そうと思ったらしい。一応、今まで一緒に冒険した仲間だったし。

 田舎に帰ろうにも、先立つものは必要。ありがとう、この屈辱もとい温情を忘れない。


「あぁ、恩に着」


 バタンッ!

 顔を上げた瞬間、すでに彼の姿はなく、部屋のドアが固く閉まっていた。


「ざけんな……っ!」


 俺は頭に血が上り、咄嗟に金貨を床に投げ捨て――られなかった。

 震える腕を押さえつけ、再びしっかりと握りしめた。

 金は必要なのだ。無力な俺には、なおさら。


 俺はけっして振り返らず、宿を、村を、後にした。

 勇者パーティーを追放された俺の行方など、本人さえ知る由などなかった。

 …………

 ……


 唯一断言できるのは、これが俺の妄想であること。

 目下、勇者パーティーの後方支援カフクって奴はさあ。

 こんな追放劇を思い浮かべていますとも!


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転生者は追放された(いらしい)ww 追放されるんだろうか?(・_・?)
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