第一話 『葵』
ーもうすぐ地上では秋だろう。
ーまだ、日本国民全員が地下シェルターに避難し切れていなかった時代の頃、私たちはギリギリ避難が間に合わず、私の両親は殺されてしまった。
後少しだった。
ほんのわずかだった。
小学生の私を抱き抱えて走る母、少し後ろについて必死に抵抗する父。
シェルターの入り口が見えてもう少しのところで、母の背中から赤い液体が飛び散った。
その後には父も赤い液体まみれになっていた。
母は、「葵だけでも」と言って、シェルターの入り口へ私を投げた。
その先にいた兵士に助けられながら、私はシェルターに入ったのだったー
少し間が空いて、パチパチとまばらな拍手が聞こえてくる。
今は自分の経験を作文形式にまとめて発表をする国語の授業中。
国語科の樋田先生が質問をしてくる。
「じゃあ、それを踏まえて、将来は何になりたんですか。」
そんなの決まっている。
私は、
「『Ait」に入団したいです。」
途端に教室内がざわめく。
「おいおい、嘘だろ…」
「自ら死にに行くなんて…」
「誰かから脅されてるんじゃ…」
周りはなにか言っているが、気にしない。
『Ait』。通称「アイト」。
人間に反抗する、殺しかかってくる、意識を宿したモノ、『シジェクト』を鎮静化させるために結成された組織だ。
今、人類とシジェクトは地上で全面戦争をしており、その最前線にいるのが『Ait』だ。
そして、地下シェルターに逃げ遅れた私の両親は、シジェクトに殺された。
このような経験をしている人は多くいる。だから、私は、「世界を変えたい」。
また、人類が地上で生活できるようにするために。