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今日は本当にいい日だったと思う
就活アドバイザーから貰った求人の最終面接受けて、風邪に侵されてちょっとくらくらする中メシを食い、父も帰って来たし、飯食って寝なくては…
そんな時に、母が切り出したのはレトロゲーの話についてだった
母は最近、スイッチのレトロゲー集にハマっている
ニンテンドーオンラインに加入してるとスイッチで利用できるレトロゲー集は、年代やメーカーを問わずに色んなゲームを取りそろえている
だからその中には琴線に触れるものもあったようで…具体的にはぷよぷよ通を取り憑かれたように遊んでいる
だから切り出したんだ 最近レトロゲーにハマっちゃって、って話題と共に、スーファミのラインナップを見せたんだ
それまで特に興味の無かった父の様相は、しかし一度そのラインナップを見ては、きらりと目を輝かせ始めた
声色を明るくさせて、目を輝かせて、ずらずらと並ぶラインナップが母にスクロールされるのをよく眺めていた
「忍者龍剣伝あるじゃん」「うわツインビーだ」と俺の知らないゲームにも輝いた反応を見せた父は、その勢いでコントローラーを握り、グラディウスと魔界村をプレイしだした
普段全くゲームをしないのを考えると、あまりに流暢なそのプレイスタイル
魔界村の、見てても分かるくらいの操作性の悪さに文句を言いながら、楽しそうなその態度
「グラディウスの一面の火山はオプションをかぶせると守れる」だなんて言い出す、未だ腐っていない攻略情報
そのどれもが父らしくなかったけど、もっと父らしくなかった要素はそれじゃなかった
だって何より、父は夢中だった
おもちゃを与えられた子供みたいに、ひとつのめり込んで、私たちがいいぞやれやれとガヤを入れるのも気にせず一心にプレイしていた
父らしくなくて当然だ 彼は少年だった 親切だけどなんかいつも不愛想で、背はでかいけどなんか寂しくて、どこか何にも熱のない父が見せた、少年たる父の姿だった
父はなんだかいつも不気味だった 直接言葉には出ないし、ふと思う事すらないけれど…
父には大人になる中でどうしても捨てられないはずの子供がどこにもなかった 例えば誰かに甘えたがるような、些細なおもちゃでも欲しがるような…そういうのが父には無かった
でも彼はその片鱗を見せてくれた 無邪気で、幼くて、小さくて、可愛い一面を見せてくれた
あの一瞬、リビングはゲームセンターみたいだったと思う
まるでそれは、おこづかいを貯めた小学生たちがアーケードに立ち寄って、一つの筐体の小さな画面を、一人はプレイにのめり込み、その他は液晶へ顔をうずめるから、液晶の前のせまーい空間が、みっつの顔でぎゅうぎゅう詰めになるような…
今日は本当にいい日だったと思う