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18「こいつが好きなのか?」


 なぜか対峙しているアルマとヴィートの姿を、ブランカはアルマの後ろで見守った。というか、アルマが背に隠して出してくれないのだ。

 まるで壁の前に立っているように、びくともしない。



「結婚? したいの? 僕の女神さまと?」

「女神って言ったか」

「女神って言いましたね」

「……アルマ、あの、恥ずかしい、です……」



 堂々と言い放ったアルマに、レオとヴィートは目を点にした。

 ブランカはいたたまれなくなって、そろそろと見ていた顔をアルマの背に引っ込めて抗議する。が、全く無駄だった。


「彼女は()()()()女神さまなんだよ? 寝言は死んでから言って欲しいなあ」

 

 死んだら寝言も言えないよ、とブランカが言うと、寝言も言わせないんだよ、とアルマに甘ったるく微笑まれた。


「なるほど」

「そこ、納得しないでください」

「アリスは俺のだ」


 レオが言う。

 ヴィートが隣で「今は刺激しないでくれますか」と言っているが、レオには聞こえていないらしい。


「アリスは俺の妻になるんだよ」

「ならないよ」


 ブランカは「何言ってんだ」とすぐに拒否した。

 アルマがちらりと振り返って、よしよしと撫でてくれる。


「アリス、こっちに来い」

「いや、行かないし」

「……なんでだ?」


 と、ヴィートに聞く。

 ヴィートは微妙な表情で「今までのレオの行いのせいですね」とはっきりと言った。同じような微妙な顔で黙るのだから、思い当たることは山のようにあるらしい。


「でも、お前は俺のことを好きだったろ」

「全く好きじゃないよ」

「……」

「家のためならまだしも、女の子のためにあれだけ花を咲かせてたのに、どうやって私がレオを好きになるの?」

「……お前を、助けていただろう」

「ごめん、どの話?」


 本気でわからない、と書いた顔でブランカが聞けば、レオは衝撃を受けたように固まった。


「心当たりはないの」


 アルマにさらっと聞かれたので、首を横に振る。


「ないよ。六歳から屋敷で花を咲かせていたけど、別に助けられたことないし。ヴィートには小さい頃はお世話になったけど、私が花を一人で咲かせられるようになった十二の頃には、二人ともお金を稼ぐのに忙しかったもの。あ、レオは女の子といつも一緒だったし」

「この二人は本当にロクでもないね」


 アルマは嬉しそうに笑う。

 レオがその言葉でようやくハッとした。


「違う」


 低く唸るように言う。


「俺たちはお前を助けたんだよ」

「いつ?」

「……あなたがいた孤児院のことです。レオ、話すんですね?」

「ああ」


 レオが小さく息を吐くと、顔を歪めた。


「あの孤児院は、魔女を――お前を、あろう事か他国に売ろうとしてたんだよ。大金でな」


 売る。

 他国に。

 ブランカはその意味が分からないほど幼くはない。

 思わずヴィートを見れば、大きく頷かれた。


「ええ、そうです。他国に魔女を出すなんて極刑になることをする国民がいるわけない、と御当主が噂話で笑って話ていたところをレオが偶然聞いたんです。もし本当だったら彼女がどういう扱いを受けるか気にして、国中の孤児院の視察に向かったんですよ」

「……リストから三番目の孤児院にお前がいた」


 レオが言う。ヴィートはすぐに「念のためにリストの全てに赴きましたけどね」とレオを援護した。他に魔法を使う者がいれば保護するつもりだった、と。


「大体、一つの家で魔法使いと魔女、二人も世話している貴族なんて居ませんからね? あなたが屋敷に受け入れられたことも大変だったんですよ」


 ヴィートが言えば、レオは黙った。

 それについて言う気はないらしい。

 ブランカの知らないところで、本当にレオに助けられていたのだ。


「ふうん」


 アルマが、ひょっこり出ようとしたブランカの手を強く掴む。


「僕の女神さまを助けてくれてありがとう。でも、それと彼女を酷使して全力で金儲けするのとは関係ないよね」

「確かに」


 ブランカが頷く。後少しで二人に「一生感謝して生きていくね」と言うところだった。


「彼女を追いつめて大切にしなかったあなたが、僕の女神さまを奪うなんて許さない。そんなの絶対に許されない」

「待ってください、天使」

「なに」

「あなたの意思はわかりましたし、その通りです。ええ、こちらが全て悪いです」


 ヴィートが手を挙げる。


「しかし、アリスの言葉でなければ我々は納得できません」

「え? 納得する必要あるの?」


 ブランカが言う。

 アルマはブランカを掴んでいた手をゆるめた。

 反撃を許された気がして、しっかりとレオに向き合う。


「別々に生きていこう。色々と大変だし」

「お前」

「レオ、そうするのが一番いいよ。納得してどうしたいの?」

「俺の妻に」

「ならないよ。レオが助けてくれたのだって知らなかったし、どこを好きになればよかったのか教えて欲しいくらいなんだけど?」

「……生活の保障を」

「うーん。確かに、ご飯は食べさせてもらってたね」

「――生活水準の維持が契約の一つじゃなかったっけ」


 アルマがぼそっと呟く。


「お前の名前を呼んで理不尽に縛ったこともない」

「それって契約の一つだよね」

「お前が連れさらわれないように万全の警備も」

「それも契約」

「そこの子供。黙っててくれないか」


 アルマの至極まっとうなツッコミを、不機嫌にレオが遮る。


「アルマは子供じゃなくて天使ですけど?」

「こいつが好きなのか?」


 指をさすのをやめて欲しい。

 ブランカはむっとした顔でレオを睨む。


「好きだけど何?」

「……何言ってんだお前」

「アルマが大っ好きですけど、何か?」

「しっかりしてください、レオ」


 なぜかヴィートが背を支えている。

 こちらはなぜかアルマが横からしがみついてきた。


「レオ。死んだ魔女と結婚なんて無理でしょ、よく考えて見てよ」

「……それでも、俺は」

「私はこの森から出ないよ。レオも跡取りなんだから、そのうち誰かと結婚しなきゃ。契約とかもう気にしないでいいからさ」

「俺はお前が好きなんだよ!」



 レオが声を荒げる。


 きちんと斜めに整えられた艶々な前髪のしたの顔は、見たこともないほど真っ赤だった。


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