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魔宵子たちの北極星  作者: 水越みづき
第十二章 夜歩くプラネタリウム人間
87/93

第十二章 6:魔王

 6


 帝国の帝都に名前は無い。ただただ帝都であり、陛下がおわす城は帝城であり、外国の帝都などまるで意に介していないのだ。

 この世界で唯一絶対無二の、全ての魔人が平伏す、極北の座におわす魔人の中の魔人であり魔人の王。

 故に矛盾を理解して、帝国の民たちは陛下を魔王皇帝陛下と尊称する。

 そんな陛下がおわす帝都に、恐れ多くも子爵家如きの出来損ない、平人(ヒト)並みの魔力しか持たない出戻りの俺が、行かねばならぬとは。

 全く、これだから侯爵以上の貴族は困る。基本的に侯爵以上の魔人たちは帝国全体の統治統括を担うため領地を一応保有していても配下の爵位家に管理は全て任せており、この帝都からあまり出ない。現場を理解していないのだ。


「うわぁ、すんげぇ魔力量ですねぇ。帝都っつーより魔境とか魔都とか呼びたい気分ですよ」


 帝都行きの電路列車に乗り、駅から降りて見えた通りの()()()()風景があまりに壮絶だったので、付き添いとしてやってきてくれたユニカ家の召使に向かって俺はボヤいた。

 なんでもユニカ家従事長殿の息子さんらしく、俺より十くらい年上で、兄と同世代だ。本来なら格下の俺を守り、内政相談顧問のヘルマート本人だと証明するために付き添ってくれたのだから、この方もご苦労様である。


「ヘルマート様、失礼ですがこの場より寄生干渉支配を行わせていただきます」

「ありがとうございます。これじゃあ平人(ヒト)並みの俺じゃうっかり魔力汚染喰らいますからね」


 俺のうなじに指を伸ばし、霊脈を魔力で支配した召使殿に俺は頭を下げた。

 

 帝都の通り自体は、さほどでもない。マリー様に頼まれた買い物リストを満たすような、色々な商店が並んでいるだけであり、侯爵や公爵家御用達の高級店なのだろう。

 問題は、通りを抜けた先にある魔人たちの住まう邸宅地である。

 かなり離れた現在地からでも既に、煙のように雲のように純粋魔力が揺蕩う様が見える。

 さらに奥に見える帝城は……もう見なかったことにしたい。陛下の魔力量の凄まじさはただただ聞くばかりだったが、実際目にすると個人のモノとは到底信じ難い。観測魔法を使えば南極圏まで見ることができ、やろうと思えばこの星の(マントル)に魔法を撃ち込み全てを滅ぼせるらしいが、()()()()()()()()()()。アレは間違いなく本当にやれる。


「それでは、ルックンマルク侯爵邸までの案内をお願いします」

「ええ。……本当に、この帝国が存亡の危機に直面している時に、何故このようなことを……」

「俺が侯爵サマに聞いておきますよ。それより、リスト通りの店名と場所きちんと覚えておかないとマリーお嬢様に叱られるハメになりかねない」

「ヘルマート様は……その、恐ろしくないのですか?」


 俺を先導する召使殿の声は震えており、簡易的な地図を書きながら歩く俺を呆れか恐れかわからない目で振り返って見ていた。

 肩をすくめる。


「俺は弱いですから。周りにはいつも強い魔人がいましたし、子どもの頃から放り出された国外では覚えきれてない拙い言語でやりとするしかなく、育ての親の叔父さんも助けられず見捨てて逃げ、そのくせ命の危険しかない遺跡に潜る生活を五年も続けて、マリー様にお慕いされていたことなど気づけなかった、いえ気づくのを恐れていたからわざと忘れていた、もうどうしようもない弱い人間です。だから本当に危険(やべー)ってわかっていても『まぁいつものことだよな』で終わってしまう」

「本当に弱い者であれば……今、混乱している民草たちのように怯えると思うのですが」

「妻の受け売りですが、俺は自分が怖いモノを怖いと認めることができないほどの臆病者らしいです。いつも怖がりすぎて感覚麻痺しちゃっているってことでしょうね」


 これをして狂っているとマリー様にもソーニャ様にも評されたが、どうせこの世に正気も狂気も無い。

 俺は俺のやるべきことを済ませるだけである。つまるところ、侯爵サマとの謁見をさっさと終わらせてマリー様へのみやげとドロテアさんへの贈り物の一つくらいは見繕わなければいけない。帝国自体が終わりそうだっていうのに、本当に何やっているんだろう俺。

 ルックンマルク侯爵邸に到着すると、出迎えてくださった向こうの使用人は俺たちを客室に案内すらしなかった。

 とっとと付いて来いと言わんばかりに勝手にスタスタ先を行く使用人ですら、子爵級相当の魔力を保有している魔人である。そりゃ格下も格下、底辺近い俺を舐め腐るのは当然だろう。

 俺も向こうの使用人と話す気は無い。侯爵サマがお呼びなのは俺で、俺も侯爵サマとお話すれば仕事は終わる。何事も手短にとは魔法式でも無用なやり取りでも同じことである。


「こちらに旦那様がいらっしゃる。顧問殿のみ、面会が許されている。従者はここで待っていろ」


 ルックンマルク家の使用人が足を止めたのは、立派な装飾が施された両開きのドアが入り口となる書斎室だった。向こうも色々仕事を抱えているというのに、俺みたいな出来損ないのために時間を割くとは、互いにとって無為な時間としか言いようがない。

 外套の留め具を少し調整し、俺のうなじに手を当て続けてくれていたユニカ家の召使殿に俺は声をかける。


「というわけで、行って参ります」

「……お嬢様たちが帰りを待っていることを、どうか忘れないでください」


 悲愴な面持ちで俺を送り出してくださった召使殿に手を振り、ドアを開いた。


「ユニカ家内政相談顧問のヘルマート、ただ今ルックンマルク侯爵様の出頭命令に従い参じました」


 入室するとドアが閉じた。

 侯爵家の書斎ともなるとさすがに広い。あまり観察しても平民丸出しなので格好がつかないが、酒瓶すら置いている。……酒飲んで書類仕事とかされたくないんだけど、寄生干渉属性の魔人にとって酔いとは在って無きが如しものなので、良いのだろうか。

 俺を呼びつけたルックンマルク侯爵サマは、俺に一瞥もくれず目の前の書類を片づけていた。

 波打つような金髪に、ユニカ家のモノより長大な額の一本角を生やした、四十代ほどの男である。霊脈観測すれば、非活性状態であろうに書斎机を覆い尽くすほど体外に霊脈が溢れている。

 相手を威圧し慣れた者の声が俺に投げつけられた。


「お前が、ユニカ伯の名を盾にこの帝国を乱しているという男か」

「ヘルマートです。それで、出頭には応じましたが、どのような件でお呼び立てされたのでございましょうか」

「お前の略歴は知っている。昨日、魔法具によって民草どもに魔力継承の現場を見せたトルテファーミなる魔法具技師――お前は以前から懇意の仲にあったようだな?」

「妙な言い方はやめてください。俺は所帯持ちで、あっちは男より解剖と人体実験が大好きなイカレた女です。去年までツェズリ島にいた時分には仕事を依頼されることも多く商品の売買をしていましたが、ただの仕事の付き合いでありそれ以上ではありません」

「そういうことではない。なぜ始末しておかなかった。帝国の現状は、お前の不手際によるものではないか? それとも、最初から帝国を崩すために帰ってきたのか?」


 侯爵サマの口ぶりからするに『俺とトンビ女史がグルである』は決定事項なのだろう。


「そう疑われるのも仕方ありませんね。俺は帰国するなり帝国の世界侵略支配について危惧の声をあちこちにばら撒いて厭戦派を煽り、ユニカ家の長子たるマリー・リー・ユニカ様の師でもあり、お嬢様は独断暴走し続けておられる。そこに来て、俺が五年も潜伏していた島の魔法具技師が魔力継承の実態を暴露と来れば、勘繰りたくなるのも当然かとお察しします」

「無様な弁明はしないと」

「違いますよ。俺もマリーお嬢様もトンビ――トルテファーミ女史も好き勝手に、自分の思う最善と理想の下に行動した結果がコレというだけです。侯爵サマが、俺を処分して溜飲を下げたいのとあんまり理由は変わりません」

「そうか」


 ルックンマルク侯爵の霊脈が活性化され、部屋全体を覆い尽くすほど拡大された。

 俺の数千万倍はあろうかという莫大な魔力による魔力汚染が始まり、平衡感覚が崩れる。

 少し息を吐き、吸い、俺は自分の霊脈に意識をやって周囲に展開された魔法式を見た。

 侯爵の身体から細い触手が伸び、そこから純粋二酸化炭素が放出されようとしている。呼吸する酸素を奪い、俺を窒息死させる気らしい。

 だが魔法式構築が遅く、まだ完成していない。当然魔力点火も行われていない。

 なので俺は少し指を振って、脳内構築していた複数の魔法式の一つを物理世界に展開した。


「不躾ながら忠言させていただきましょうか。侯爵サマでは俺を殺せませんよ」

「…………何をした?」

「魔人とは、魔の法に則る人間。ならばその法を知らねば法を振るうこともできない」


 俺は一歩足を踏み出した。

 侯爵の背中から魔法式展開の片鱗が見えたので、そのまま俺は自分の視線に魔法式を乗せて投射。目の前のものは囮であり、四方八方上下左右に鋭利な触手を展開する侯爵の魔法式に割り込むよう、全て魔力点火前に俺自身の魔法式を全身から展開する。

 二歩目を踏み出す。


「……何をしている? なぜ魔法が発動しない? なぜ動ける?」

「そうですね、俺もかつては教師の端くれをしていた者ですし、俺が思いついた以上は誰かが同じ発想に行き着くことはありえるでしょう。お教え致しましょうか」


 次から次へと俺を殺そうとするために放たれる魔法を魔法式段階の時点で次々潰して行き、三歩、四歩と歩みを進めてゆく。


「魔法とは物理世界に展開、出力、投射した魔法式が十全に構築された状態で魔力点火して、はじめて自然に不自然を押しつけることができる(わざ)です。なので、未熟な魔法使いは不完全な魔法式を構築して、魔力点火しても何も起きないという経験を踏みます。いや偉そうに言う俺も幼少期はよく失敗(やった)ものです」


 五歩、六歩。


「そして、物理世界に展開された魔法式は()()()()()()()()()()()()()()()。どうやら魔法を使う術者が誰であろうと関係なく、物理世界は区別無く受け入れてしまうようなのです。魔の法の下では、出来損ないの俺であろうと侯爵サマであろうと、皆同じく平等なのです」


 七歩……足取りが重くなってきたが、八歩目も踏み出し、口も、魔法式構築も、展開も、何もかも止めない。


「よって、魔法式が完全に物理世界へと展開、投射されきる前に、発動する魔法がなんであるかを看破、予測したうえで、その魔法式を機能させず、矛盾した式を割り込ませるとどうなるか? 魔法式は物理世界で構造崩壊を起こします。つまり()()()()()()()()()()()()()()()

「お前は、熱量操作属性のラガーフォイア家の人間のはずだ! 寄生干渉の――」

「適正属性とは魔力燃費の良し悪しのことだけを差すのです。自分が扱えない属性の魔法式構築も展開も、保有魔力量とは一切関係なく行える」


 九歩。魔力汚染のせいで、身体が重い。どんなにハッタリをかまそうと、相手は俺の数千万倍の魔力を誇る侯爵なのだ。魔法攻撃されずとも、ただただ純粋な魔力で霊脈を汚染されるだけで俺はまともに動けなくなる。

 十歩。それでも、歩幅が小さくなろうとも、足が重くなろうとも、歩みは止めない。適正属性以外の魔法式を構築展開できることを教えてくれたのは、分割適正属性を持つマリー様なのだから。マリー様に適切な魔法を教授するため、俺も自分では扱えない属性の魔法式をさらに学んだ。大きな可能性を持って生まれながら、それを枷だと出来損ないだと嘆くマリー様に自信を持ってもらいたくて、笑顔でいてもらいたくて、俺は寄生干渉も電気操作も叔父さんに教えてもらった独自の魔法式で改良を加えて、マリー様に教えた。そんなマリー様に頼まれたおつかいを終えなければ、俺はお嬢様の下には帰ることができない。


「なぜ動ける! なぜ死なない? お前は一体……なんだ?」

平人(ヒト)並みの魔力しか持たないただの出来損ないで貴族の面汚し、臆病者の逃げ足だけが自慢のクズですよ」


 十一歩。本当は虚言(ハッタリ)もそれなりに自慢にしているが、それこそハッタリなので言わない。俺の虚飾も糊塗も痩せ我慢も何もかも見抜いて一緒に、傍にいてくれると誓ってくれたドロテアさんの想いにかけて、俺は足を止めない。ツェズリ島にいるあの女性(ひと)がマリー様に預けて届けてくれた魔力外殻発生魔法具を外套の下に俺は仕込んであるので一時的にだが、魔力汚染の影響を軽減できる。

 十二歩。腕も手も重いが、最愛の(ひと)が俺のために打ってくれた法式札をちぎり、拳に握り締めて、魔力点火した。


 肉体強化魔法起動。


 左腕に嵌めていた篭手で侯爵の右腕が身体構造変化した槍の一撃を弾き、一気に距離を詰め、書斎机に乗り出し、右の拳を振るう。


「最後にもう一つ。脳震盪を起こしたり、気絶すれば、脳内で魔法式を構築する以上、魔法使いは魔法を使えません」


 俺が侯爵をぶん殴って失神させたことにより、霊脈が非活性化状態に戻る。魔力汚染が終わり、俺は深呼吸した。

 そして、俺は帝城があるはずの方角――ただの壁を睨みつけた。


「ご覧になっていたはずでしょう、陛下。かくも、魔人とは無敵でも最強でも完璧でもない種族です。ただの平人(ヒト)に、出し抜かれたならば侯爵と言えどこうして敗北する。そして弱者ほど、強者を倒すためにありとあらゆる手を尽くすモノなのです」


 俺の言葉に応えるように、窓ガラスから魔法式が進入してきた。光学系投影魔法【鏡影(ミ・レイ)】だ。害意は無く、安全が担保されているので当然これは妨害しない。

 光学魔法によって書斎に映し出されたのは、身体の大きさに不釣合いな巨大な玉座に座る、白髪の少年だった。

 瞳は紅く、そして身に纏うマントは漆黒。

 何よりの特徴は、己の身長よりはるかに長大な、樹木と見紛うかのような、無数に枝分かれした山羊の角。


 俺は映像とはいえ、魔王皇帝陛下に対し膝をついて頭を降ろした。


『ヘルマート。余が知り得るところ、魔法式を破壊する魔法式――破壊魔術、いや破魔術とでも名づけようか――是を一つの(わざ)として鍛え使いこなしているのは、お前しかいない。いや、お前しか使えない』


 電気操作系魔法式が見え、陛下の声が俺の耳に届く。見た目に違わず、少年らしい声変わりしていないものだった。


『お前の師であるマイナードの開発した独自の魔法式が無ければ、まず成立し得ない。速さがもっとも求められるからだ。そしてお前がこの一年間、伴侶と共に旅をし亡命した者どもとの魔法戦の中でこそ考案され磨き抜いた技術(モノ)だということも、余は見てきた』

「光栄ですね」


 そう、この技巧(わざ)は亡命した魔法使いを、無力な俺が、己とドロテアさんの身を守りながらできるだけ相手を傷つけずに制圧する必要性に迫られて開発したものだ。まともに実戦投入できるようになったのは最近で、研究途上だったりもする。

 言うは易しの典型で、まず的確に特定の魔法式の構造破壊するための専用魔法式を――それも高速投射するために限界まで構文を短くしたものが必要だった。それを全属性の魔法に対して個別に用意しなければいけない。

 そんな開発過程を陛下ともあろうお方が観察していたということは、やっぱり()()は危険なのだろう。


『ヘルマート。弱く生まれながら、今や誰よりも帝国を脅かす者よ。問おう。魔人は、余らは、何処の道を選べばいいのであろう?』


 質問の意味を、俺は謀りかねた。そもそも、陛下がこの戦いを観測しているであろうことは予想していたが、まさか本当に呼びかけに応えるばかりか、逆に俺に質問までしてくるとは思っていなかった。

 陛下は続ける。


『お前たちの成果で、帝国の()()使()()()結束は固まった。今ならば、列強国が混乱している今ならば、余自ら立ち上がり帝国が団結すれば世界を支配できる。いや滅ぼすのも良いだろう。愚かな外の人間どもを尽く屍とし、それからゆっくりと魔の法に則った世を作り上げられよう』

「まぁ、元々それが最初の計画でしたしね」

『そして、お前はそれを認めない。止めるであろう』

「もちろんです」

『余も数え切れぬ同胞を犠牲にするであろうこの絶滅への道を選ぶことに躊躇いはある。そこで、クラリッサという平人(ヒト)の娘が提示した道――滅ぼすのではなく、与えることで共存する道を歩むのも良いだろう。だがこれを叶うためには、必ずや魔人は――魔力継承することを止めて、ただの平人(ヒト)へとゆるやかに戻らねばならない」


 クラリッサの計画は聞かされていたので、知ってはいた。

 魔力継承を止めなければいけない理由は簡単だ。()()使()()()()()()()()()()()()()()()

 魔力継承は対象相手を殺してしまう。そうして血脈で増やし続けた魔力を守るために、事故死や悪意ある殺意に怯え魔人は身動きが取れない種族になってしまった。

 そこでクラリッサは、あの自由を尊ぶ商人令嬢は、魔人を身軽にするために力を捨てて魔法という技術自体を広めるための種族へと移り変わることを提案してきたのである。


『混沌とした世界だ。余は今の世でも把握しきれぬ。多くの者が魔の法に則る世界。もはや取り返しのつかぬことになるであろう』

「つまり、陛下は、そのための抑止力として、ありがたくも拝名していただいた俺の破魔術を広めろと?」

『然り』


 確かに、俺の使った魔法式を破壊する魔法式は、攻撃魔法から身を守るためには有効かもしれない。

 だが仮に――叔父さんが夢見た魔法文明なるものが未来に実現した時、俺の破魔術は魔法で稼動する公共設備や機関を破壊するモノともなる。

 俺の編み出した技術は、安易に広めていいものではない。だがしかし、同時に必要ともされている。


 ため息をついて、俺は笑った。


「ドロテアさんと――妻と、相談してから決めさせてください」

『……いいだろう。臆病者のヘルマートよ。ルックンマルク家には、余直々に注意をしてやろう。お前の答えを、待っている』


 そこで、光学魔法は途切れた。

 俺は立ち上がり、身体を伸ばす。


「陛下も、苦労が多いな」


 見た目は少年だったが、俺の聞く所によると現魔王皇帝陛下は()()()らしい。

 魔法帝国が興ってから三百年でたった三代目なのだ。寄生干渉魔法や肉体強化魔法を莫大な魔力で駆使し、不老不死に近い肉体を維持した結果なのだろう。

 だが、いやそのためか、迷いも多いのだろう。陛下はその気になればいつだって世界と心中できるが、魔人のための最善の未来はわからない。なんとも魔法とはどこまでも不自然なだけで万能ではない力なのだ。


「さて、おつかいして帰るか」


 俺がドロテアさんと相談してから決めると保留したのを、陛下は臆病者の恐妻家だからと判断したらしい。

 いや間違ってはいないのだが、俺は俺でドロテアさんの夢を叶えたいわけで、そのためには普通にちゃんと夫婦間で相談と話し合いをしなければいけない。

 帝国は存亡と変革の時を迎えている。だが俺はその真っ只中で、厄介な相談事をしなければいけないドロテアさんに渡す贈り物は何がいいのかという、とてつもなくありきたりな難題も抱えているわけなのだ。

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