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魔宵子たちの北極星  作者: 水越みづき
外譚1
34/93

【魔法とは?】ヘルマート先生の講習【設定説明回】

 これは四章3話での、ヘルマート夫妻とクラリッサたちとの間で交わされていたかもしれない、そんなやりとり――


 ※


「ところでヘルマート。魔法って結局、いったいなんなのアレ?」

「ジラルドから聞いたことは無いのか? ってか、クラリッサ嬢は相当な勉強家だろう。俺が教えなくてもそこらへんの大人より、ずっと知っているんだろ? どうせ」

「わたしは自分の好奇心に素直なだけよ。だから、魔法使いの本場たる魔法帝国出身の貴方にちゃんと教えてほしいわけ」

「まぁ……嬢にはいくらギィジャルガが付いているとはいえ、というかギィジャルガに魔法のことを教えておいて、いざとなった時に護身できるように知識はつけておいた方がいいか。

 それじゃ、長い話になるが講習を始めようか」

「魔法とは何か?


 これは一言で済ませると()()()()()()()()事象を人為的に()()()()()()()技術だ。

 水は勝手に沸騰しない。

 電気は生体電流や静電気で日常的にあらゆる所にあるが、発電には専用の設備が必要だ。

 あらゆる生物は抗体という能力をほぼ必ず持っており、他の生物からの侵食や攻撃から身体を健全にするよう守ってくれている。


 だが、水は熱を加えて沸点を越えると沸騰し、相転移を起こして水蒸気になる。

 雷はものすごい高圧電流が地上に落ちる現象だが、ありゃ特別な状態になった雲ン中で電気が発生して、地上にある導体に落下するものだな。

 抗体能力が弱くなって他生物からの攻撃に負けると病気になったり感染症を起こす。逆に、抗体が過剰反応して自分自身の肉体を攻撃することだってある。


 おかげで俺たちは、お湯沸かして茶を淹れて飲んだり、蒸気機関のエネルギーで列車や船を動かして便利な乗り物としたり、抗体を補助する薬を飲んで病気を治したり消毒という手段で他生物からの攻撃から身を守ったりする。

 先人たちの研究と、それを実際的に役立つよう道具や文化を作ってくれ、維持なさっている方々に感謝だな」


「……科学文明の話しかしてないけど、前置きとして必要なことなのね?」


「その通り。()()()()()()()()()()()()()()

 なぜ魔法というのか? それは()()()物理法則を、()()()()操作するからだ。この所業を魔と定義し、先人たちは魔の法則と名づけた。略して魔法だ。

 魔法とは、物理法則への干渉と操作だ。厳密には物理法則だけに限らないが、それは後で話すとしようか」


「じゃあ魔法使いって、どうやってその物理法則への干渉と操作をしているわけ?」


「うん。物理法則は目には見えない。当然だな。できたら学者サマたちはあんなに苦労しねー。

 だが、肉眼で見えないだけだ。この肉体という器に縛られている間は、物理法則が支配する世界に身を置いている間は、俺たちは物理法則を理論体系としてしか認識できない。

 そこで、魔法使いは霊脈という、脊髄の中に太く走っている器官のコントロールをすることで物理法則を認識し、抵触する権限と能力を獲得できる。


 まぁどうも、ある程度その物理法則自体に対して理解がなければ、コントロールしたい物理法則が霊脈をいくら制御できるようになったとしても、認識しにくいみたいなんだがな。

『空を飛ぶ生物』を全部鳥と認識している者と、コウモリは哺乳類で、ハゲタカやトンビは鳥で、ハエやハチは昆虫で、タンポポやアザミの綿毛は植物の種子と認識している者とで見えている世界が違うと例えるべきかな。


 さてここからがいよいよ魔法を起動するための原理の説明になる。


 魔法使いってのは、脳内で【魔法式】という物理法則に介入して起こしたい現象を起こす指示式(コマンド)を構築する。

 これ、一応、数式や化学式と同じように魔法式専用の『字』を作って認識しやすくしているから俺は魔法式を文面に書き起こせるけど、魔法式を学んでいない連中にはそれこそ何かの呪文にしか見えない。

 既存の文字にも対応しにくい概念だったから、専用の『字』を先人たちは作って共通認識として技術体系にするしかなかった。


 それでこの構築した【魔法式】は脳から脊髄――つまり霊脈を通して物理世界に出力、投射、放射、展開などする。

 これは魔法が発動する手前の最終段階だ。瓦斯(ガス)灯ってあるだろ? あれの栓を解放状態にして瓦斯(ガス)つまり魔法式だけ放射した状態がかなり近い。

 魔法を起動するには、この物理世界に展開した【魔法式】に魔力を点火して魔法発動に必要なエネルギーを与えてやる必要がある。

 瓦斯(ガス)灯の例えで言うなら着火だな。火を灯すことで可燃性の高い瓦斯(ガス)は燃焼現象を起こす。

 同じように、魔法式も魔力点火を行うことで()()った()法現象を物理世界に起こす」


「なるほどね。魔法が帝国以外であまり普及されていない技術である理由に納得がいったわ。

 本当の魔法を使うには科学理論をある程度学んで理解できる知識階級(インテリ)でなければいけない。

 さらに魔法式という独自の学問も学ぶ必要がある。

 これは使いこなすまでに必要な勉強量があまりにも多すぎるわ。それでいて学問じゃなくて技術なんだから、個人的才能にまで左右される。

 ……本格的に魔法を市井に広めるためには、魔法専門大学を設立するくらいじゃないと駄目ね」


「列強国の軍は帝国からの亡命魔法使いを魔法教導官として雇って、ある程度科学理論を学んだ兵たちに魔法を教えているが、アレと魔法学校? 的なモンはもう別モンだぞ、クラリッサ嬢。

 まず講師の数が足りない。亡命魔法使いと言っても魔法の錬度も属性も年齢も性別もバラバラだ。何より、亡命したからといって完全に帝国を裏切ることができるほど吹っ切れる奴ばかりじゃない。ようするに、信用ならない連中ばっかだ。

 それに俺も一応ガキの時分に学校ってー所に潜入して諜報活動したことあるが、ああいう所で魔法は教えたくねーな。

 なんていうか、ガキどもが集まって成績だとか身分だとか見た目だとかもっとわけわからん概念で上下関係とか協力敵対関係がある場所で、使い方次第では素手で動かずとも人間を殺傷できる技術を教えるんだ。怖すぎる」


「人間不信ねぇ」

「悲観的ですよね」

「慎重なのダロウ」


「全部その通り。ともあれ、今の時代じゃ無理だ。そんなもん実現できるとしてもクラリッサ嬢ですらもう四十五十くらいの年齢になってからだろう。……かえって校長になれる現実的な年齢なのが怖いな」

「その時はあなたたち夫婦を講師に誘ってみるわ」

「そんなに長生きできるかなぁ。明日にはうっかり死んでいるかもしれないぜ?」

「あなた。せっかくのクラリッサちゃんの約束なんですから、素直に受け取っておきましょうよ」

「まぁドロテアさんがそう言うなら検討くらいは……」

「だから惚気るのやめてくれる?」




 ※




「じゃあ、次の質問。ジラルドや貴方たち夫婦がたまに言う『属性』ってなんなの?」


「属性か。どっちから先に話したもんかな。


 そうだな。ま、改変する物理法則を属性系等として区分けした概念だ。

 一つずつ解説していくとするか。


 その一。熱量操作属性。極論この属性は『暖める』『冷やす』の二つしかできない。熱量を観測するのもこの魔法の一種ではあるけどな。

 でも単純だからこそ便利で応用が利きやすい。水を一瞬で沸騰させることができるし、逆に氷も簡単に作れる。暑さ寒さからも身を守ることができるし、凍らせて食品の鮮度を保ったり嬢に以前振る舞ったシャーベットなんかも作れたりする。

 ただ、広範囲や極端に熱量を高低どちらに操作しようとすると、魔力を莫大に喰う。

 物質はそれぞれ熱量を加えることで固体から液体、液体から気体、またその逆へと相転移する。だがそれに必要な魔力量や熱量はそれぞれ違うわけで、高魔力の熱量操作属性魔法使いはやろうと思えば鉄を気化させたり酸素や窒素を液体化できる。実はさらに高熱化すると物質を構成する極小単位に解離する現象が起こるんだが、あんなもん起こせるの現状魔人くらいだな。

 知っていると思うが、俺とドロテアさんはこの属性を適正としている。

 俺はとくに空気を暖めるのと冷やすのを同時に微調整して気流操作するのが得意だ。無学な連中ばかりだった冒険者の島では『風使い』って勘違いされることも多かったな。

 魔力量が足りないから俺はやれないが、魔人侯爵ともなると天候操作まで可能になってくる。もちろん距離的に魔法式展開できる限界はあるがな。 


 そのニ。電気操作属性。電気ということにしているが、実質電磁気学もこの分野だ。

 最近電気を使った発明品が多いから、電気操作属性の凄さはわかりやすいか。路面電車や電話を動かしているのも電気だ。すげーよな。単純なエネルギーだけじゃなくて遠隔音声通信会話までできるんだぜ。俺は今後この属性は最高の当たり属性だって思っている。

 雷だってようは電気だ。あんなもん直撃されて生きている奴は……まぁたまにいるけどな。運が良かったらの話だ。

 また、生体電流を操ることで自分自身の身体の反応速度や、動きを最適化することも可能で、空を飛ぶのも電磁力の反撥という特性を使えば無理なくできるから魔法使い本人の機動力がかなり高い。オマケに観測能力も高く、放電は精密制御しにくいのだけが難点で超音速の高熱攻撃魔法となるから、練度が高い戦闘慣れした電気操作属性魔法使いは手のつけようがない万能型だ。交戦はできるだけ避けたいね。

 見た目も派手だし、神話でも稲妻を武器とする主神は多い。こういう点でも無学な民衆には威圧感を与えやすいから、政治的、情報的、工業的、単独戦闘能力的に見てあらゆる点で隙が無いのが電気操作だ。


 その三。寄生干渉属性。こいつぁ結論から先に()っちゃけちまうが、医療魔法と思っていい。厳密にはもっと応用が利くんだが、できるだけそれに始終してもらいたいってのが俺の本心だな。

 さっきから言っていた『生き物は抗体を持っている』って話だが、その抗体を支配下において好き勝手に生き物の身体をいじくり回せるようになるのがこの寄生干渉属性だ。

 だから結果的に医療魔法として使える。もちろん、生物の身体の構造をよく知っている医者としての知識と魔法式の知識を両立させなきゃいけねーわけだから、そのへんは個々人の才能次第にもよるな。

 医療魔法以外の側面としては、有機物なら正直ほとんどなんにでも干渉できるから農耕地の土壌成分をある程度制御したり、作物の病気にも対処できたりする。帝国が飢えて困ることがないのは、この寄生干渉と熱量操作で環境を整えているからだな。

 反面、悪用するともう筆舌に尽くし難いくらいに凄惨(エグ)い。他人の脳みその中身を覗いて弄くり回せるし、それの応用で他生物を支配下に置くことだってできる。他人への変装や変身もお得意分野だ。およそ人間の悪意をあらゆる方面で実現できると言っていい。

 俺がとくに危惧しているのは、病原体として機能する細胞群を撒き散らかしたり、女子どもの身体を乗っ取ったりあるいはそれを象った人形を作って暗殺を実行させたりする、人間の恐怖心や猜疑心を煽る行為ができることだ。

 やろうと思えば麻薬だって作れるぜ? こういった人間の精神を蝕んで国を国として機能させず生かさず殺さずの地獄を作れる魔法が寄生干渉にはいくらでもあるから、俺は帝国の侵略戦争を止めたいって気持ちがある。


 その四。鉱物干渉属性。こりゃさっき言った寄生干渉属性の無機物版に近い。

 鉱物干渉ってことにしているが、実質的には岩や土なんかを支配下において、好き勝手に形状や質量に体積を弄くり回せる。体積と質量増やすのは相当魔力喰うらしくて、魔法を解いた途端に元に戻るけどな。

 どうにもパッとせず地味な扱いされることが帝国本土でも多いんだが、便利だぞこの属性。攻撃力や索敵はどうにも欠けるきらいはあるが、応用力と防御力に関してはピカ一だ。戦闘向きというよりこれは工業向きの属性かもな。土木、製鉄、建築、あらゆる分野で活躍する。電気操作と組んだら一夜にして田舎村が近代都市に変貌だ。寄生干渉と組んで農業にも関わっているし、地味扱いされるくせにここの属性家系は帝国では多忙で他人事ながらちと同情するよ。

 ちなみに帝国では溶かした氷床を、海底を隆起させることで領土拡張している。……あれやるとあちこちに反動で津波が起こるから帝国でも一大事業だけどな。

 これの応用で、侯爵級ともなると地震と沿岸都市に対する津波の二重攻撃を発動可能だ。わかりやすく畏怖(ヤバ)いから移民船団の提督に選出されることも多いが……さっき言った通り、俺は戦略的には寄生干渉の方が、戦術的には電気操作の方が怖い。

 やっぱりね、大地はね。お優しいもんですよ。地味で結構。平和が一番。適正属性じゃない俺が言っても説得力無いか。


 その五。光学操作属性。光学ってクラリッサ嬢わかるか? まぁ光を操作するんだよ。ホラ、鏡で光を反射できるじゃねーか。アレを魔法で精密操作するって感じだ。

 これもどっちかというと戦闘向きじゃなくて、情報通信や観測向きの属性かもな。だからやっぱり帝国では軽視されがちなんだが……情報戦考えると割とやべーんじゃねーかなコレって俺は思っている。

 幻を見せることでそこにあるものを無いように、あるいは逆に無いものを見せかけることもできる。これも人間の悪意を煽るように使えば、魔法式を見抜けない人間をたやすく騙して社会に混乱を撒き散らすことができる。幸い、帝国本土でこの運用方法はあまり重視されていないが……。

 情報収集能力と速度もピカ一だしな。単一属性としては光速熱線による狙撃と観測だけで遠距離狙撃手として既に完成されているうえで、他属性と組めば戦術戦略級の市民に対する直接的ではない攻撃の補助が可能になる。いやホントこれ帝国で理解されていないのが幸いだよ……。ここだけは高位貴族が末端の案や情報を耳に入れないっていう点が救われるとこだな。


 その六。肉体強化。これは厳密には属性じゃない。人間なら誰しも――いやあらゆる生物がおそらく行使可能な魔法だ。魔法というより、もしかしたら生物が本来潜在的に持っている能力の制御方法を魔法として認識しているだけかもしれない。

 これは行使する者の肉体を強化する。まんますぎるが、五感、筋力、反射神経、治癒能力と肉体が持っているあらゆる能力を強化するわけだから、極めると超人の誕生だ。

 オマケに自分の肉体を強化するっていう単純明快な仕組みだからか、無意識にコレ使っている奴はかなり多い。東方の拳法家はどうもこいつを別の解釈で認識して使えるように技術体系として伝授しているっぽいな。『自分自身の肉体を自分が支配する一つの宇宙として認識する』だっけか?

 ちなみに魔人は肉体強化魔法を軽視している、というよりどうも魔法式で使うことと相性が悪いみたいだな。魔人の祖先が研究した体系より東方の先人が研究した体系の方がおそらく本質に近いんだろう。

 この肉体強化の一番恐ろしいところは、発動しても魔法式が術者の肉体内のみで循環するため、外から見ても魔法を使っているということに気づけないってところだ。せいぜい霊脈励起反応が活性化している程度にしか発動を察知できない。

 だから肉体強化魔法の達人は、武術の達人でもあり、常人だと油断している魔人を暗殺するのにもっとも適した連中だと言える。これはこれで難儀なもんで、魔人があんまり国外に出ない理由の一つだな。


 他にも色々と属性はありそうなんだが、現状俺が知っている限り、この六つ――厳密には五つか――が属性体系として成立しているもんだ。重力操作属性の魔法使いは、未確認なんだよなぁ」


「……想像していたよりずっと危険なのね、魔法って」

「ヘルマートさんの場合は先ほども言いましたが、少し悲観的に見ているところが大きいと思いますけどね。秘匿されているから負の可能性ばかり自分の中で膨らませて、わたしたちこの場にいる全員のようにより良い可能性と運用をしたい人間も多数いるということに目を背けがちなんです」

「で、だからこそ危険性を今この場でわたしに訴えておいて、牽制しておいたと。ああ、あと肉体強化魔法の使い手というなら、ギィもそうだわ。ウチで雇っている水夫の鱗人(リト)は多いけど、意識して肉体強化魔法を使い分けできるのはギィくらいしかいない。ギィはすぐ『自分は戦士じゃない』って言うけど、素人目のわたしでもギィは鱗人(リト)の中でもかなり強い方だと思っている」

「小細工ダ。伝説の戦士ヲ持ち出さずトモ、熟練の戦士は、コノ程度ではナイ」




 ※




「それで、大体もう察しているんだけど、一応確認のために質問しておくわ。

 属性分けする意味って?」


「うん。どうもな。人間個人個人ごとに、さっき述べた五つの属性で得意不得意があるみたいなんだ。

 例えば俺は熱量操作属性に適正があるんだが、もうこれ一本しか使えないと言っていい。もし仮に電気操作属性の軽ーい静電気でパチッとする程度の発電魔法使っただけで、魔力切れを起こす。十倍百倍、下手すると千倍万倍くらいまで適正属性と比較すると魔法発現に必要な魔力量が跳ね上がるんだよ。もう実質的に使えないと言っていい。


 ほとんどの人間は五つの属性のうちのどれか一つを適正属性として持っているし、どうやら適正属性は家系ごとに遺伝しやすいみたいだ。

 まぁたまに適正属性が分散している分割属性とでも言うべき固体も生まれるが、稀だし一本純粋に絞られている属性よりどの属性の魔法を使ってもちょいと燃費が悪い。良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏で…………」


「どうしたの? 急に黙って。何か変な顔してるけど」


「いや……なんでもない。ちょっと昔のこと思い出していただけだ。

 ともあれ、普通の人間は頑張ったら肉体強化魔法をある程度使えるようになるが、これも専門的な鍛錬や個人ごとの才能もあるだろうな。

 五つの適正属性は自分がどれに適正があるのかどうか、調べるのにまず五つの属性系等についての科学知識がある程度必要だ。優れた魔法使いが霊脈をじっくり見ればわかるんだが、帝国では当たり前にいても世界ではそうじゃないからな」


「じゃあ好奇心だけで聞かせてもらうけど、わたしの適正属性って何?」

「…………。たぶん、電気操作、ですかね? ドロテアさん」

「そうだと思います。おそらく」

「歯切れが悪いわね」

「いえ、夫は遠慮しているのです。霊脈……つまり脊髄をじっくり観察するのなら、できれば裸の背中を見るべきです。クラリッサちゃんも、男性にさほど意味なく肌を晒すなんて、嫌でしょう?」

「うーん、魔法学校案の課題はたしかに山積ね……同性ならいいとかそういう問題でも無いし」


「まぁ嬢の言うとおり。魔法は広めるのも難しい専門技術だが、いざ広まるとそれはそれで問題も多い難儀な技術だ。

 俺個人としては、魔人みたく桁外れの魔力を持つ人間がいるから危険なんじゃなくて、やっぱり魔法技術そのものが危険だと認識している。

 というか、先人たちもそれを自認していたから()()()った()だと自称しているわけだ。

 帝国から逃げたクズの俺が言うのもなんだが、魔法帝国出生の視点で見れば――これは人間の手に余る技術だ。本当は手を出しちゃいけない領域なんだと思う。だから魔人は人間以上の存在だと自認して、他人種を下等人種と見下している。


 大体、魔力ってそもそも魔法を使うためにあるわけじゃないみたいなんだよ。それこそ抗体の一つで、魔力が空っケツになると体調を崩すのは、魔力生物からの汚染を受けるからみたいだ。

 平人(ヒト)樹人(ジュト)鱗人(リト)は生まれつき魔力が高めだが吠人(バイト)寝人(ネト)は魔力が少なめだ。自分の魔力量も把握できないような人間は、下手に魔法を使わない方がいい。かえって自滅する。()()()()()()()捻じ曲げるのに、なんの代償も無いわけがない。


 だが現実として技術体系として成立してしまった以上、もう俺たち人類は魔法と上手く付き合っていく(すべ)を模索しなきゃいけない。

 魔法帝国と世界をどうにかして穏便平和に持っていこうという意志で同盟を組んでいる俺たちは、その先駈けでもある。後世の人間に『先人たちは愚かだったから、今の自分たちは苦しんでいる』と言われることが少なくなるようにしたいもんだな」


「言っていることは立派なんだけどさ。それならもうアンタたち夫婦は後方支援に専念してよ。危ないんだから現場に出て戦うの前提の交渉とか止めなさいよ。

 ヘルマート、貴方自分がどれだけ良識的でものすごい魔法使いなのかって、自覚している? 初対面の時にも言ったけど、貴方は世界に大きな影響を与えられる人間だわ。これからの世界にとって必要な人間よ」


「そう言われてもなぁ。やっぱ俺は出来損ないのクズだよ。たかだか十四、五歳のクラリッサ嬢にこんだけ重荷を背負わせる駄目な大人だし、五年も現実から逃げ続けて死体漁りしていたわけだし。殺しだって別にしたことが無いわけじゃない。一般論で言えば普通に犯罪者で裁かれるべき人間だ。そんな人間があんまりデカい面していいわけねー」


「でもやろうとしていることは大きいじゃない。矛盾だらけなのよヘルマートは」

「だからクズなんだよ」

「……ドロテア、苦労お察しするわ」

「大丈夫ですよ。そういう同意の下に結婚したわけですから」

「だから! アンタたちは惚気ないでよ!」

 いい加減、魔法の設定がややこしくなってきたのでまとめて説明する回を用意しました。

 ただ、設定を羅列するだけではちょっと面白くないので、会話形式に落とし込んでみました。

 なので別に読まなくても全然大丈夫です。後書きで書いてももう遅いような気がしますが。


 なお本文では「物理法則」と定義していますが、我々の住む「現実世界の物理法則」とはニュアンスが違い、あくまで魔法使いの視点から見た「ファンタジーな物理法則」です。

 熱量操作魔法は熱力学やエントロピー制御をモチーフとしていますが、それらを操作する技術体系ではない、ということです。


 また「〇〇魔術」という名称が作中で出てきますが、これらは属性系統に捉われない()法技()体系という意味合いで使用しています。

 劇中では現在「流血魔術(出血によって魔力の疑似ブーストを行う)」「治癒魔術(その属性系統で可能な回復魔法)/医療魔術(医療専門的知識が必要な高度な治癒魔術)」が出てきていますが、後々他の魔法技術も登場します。

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