外譚 月無き夜の女王
1
神聖皇国の港湾都市ゼナにも、冬が訪れた。
ただ、わたしの故郷である連邦王国に比べるとこの国の気候は温暖な方で、雪が降ることは少ないようだ。当然不凍港であり、年中船が交易のために訪れては出発していく。
ただ、海面が凍結しないからと言って寒くないわけがない。わたしはコートの裏、腰あたりに貼り付けた気温調整の法式札を起動させ続け、遮るものが無いため容赦なく吹きつける冬の潮風というものを耐えながら、港の荷揚げと荷降ろし作業の風景を見下ろしていた。
別に高みの見物と決め込んでいるつもりはないけれど、非力な平人の女が行ったところで邪魔なだけだ。わたしがこうして港に立っているのは、仕事の一環であり義理の一つでもある。
「ドロテアさんが造ってくれたこのお札、とっても暖かくて助かるわぁ」
「それはどうも。でも、まだ枚数が全然追いつかなくて申し訳ありません」
隣にいる女性の使用人吠人が白い呼気を顎から吐き出して、わたしに話しかけてきたが、正直なところ、わたし自身としてはこの法式札の出来には全く満足していない。
吹きつけてくる潮風を正面から受け止めると、海水が混じっているのでとても体温に堪える。だからこそのコートや手袋にマフラーなのだけれど、それでも顔など素肌が出る部分はどうしても出てしまうし、指先は湿気でどんどん冷えていく。
吠人は全身が被毛で覆われているので、かなり寒さに強い人種だ。わたしが打った法式札一つだけでも十分なのかもしれない。
それでも、荷揚げと荷降ろし作業で一番がんばって働いている牙人の子どもたちに比べたら、まだ寒い方なのだろう。あの子たちと来たら、潮風を凌ぐためのコートですら「邪魔」の一言で着用せず、全身から湯気を立たせてせっせと荷物を運び続けている。
「すごいわねぇ、牙人って。あれでまだ十歳そこらなんだろ?」
「大きくて力持ちで寒さに強いですよね。地上最強の人種と言われていた種族なだけはあります」
「あれ? それって鱗人の方じゃないのかい?」
「鱗人は寒さに弱いから、こうして牙人の子どもたちが働いてくれているんじゃありませんか?」
「ああ、なんでもかんでも万能って人種は、まぁそりゃいないねぇ」
冬の港で荷役をするのは屈強に鍛えた吠人の男性が主で、牙人は三人の子どもたちくらいしかいない。
寒く冷える冬の間、セッテフィウミ海運が雇っている水夫の鱗人たちはより温暖な気候の南方の大河王国に在る故郷に帰っているらしい。そうして今まで世界中を船で旅して見聞きしてきたことを故郷の仲間たちに伝えることも、雇用条件に入っているのだそうだ。
「ドロテアちゃーん! 監督役はそこそこでいいから、お札をもっと作ってほしいってー!」
頭上から声が聞こえたので、顔を上げようとしたらもう相手は目の前にコートをはためかせて着地していた。
茶褐色の被毛で全身を覆った三角耳の寝人の女性は、俊敏な動きですぐさまわたしと使用人さん二人の後ろに回り、縮こまってしまう。
「うぅっ、寒いのは苦手にゃー。こんにゃ吹きっ晒しの港に寝人のウチをおつかいに出すにゃんて、寝人遣いが荒いにゃー」
「なんだい寝人の毛皮は相変わらずただの飾りみたいだねぇ」
「吠人と違ってウチら寝人は繊細にゃんだにゃー」
「ああん? あんまり我儘言うと、奥様に言って放り出してもらうよ?」
「別にウチはそれでもいいけど。おーい、みんにゃー! 寒い中ご苦労様だにゃー!」
ぼそりと呟いた後、目にも止まらぬ速さを体現する身のこなしで荷運びしている牙人の子どもたちに、寝人の女性は肉球のついた手をぶんぶんと振った。
「おおーっ! ビシニアねーちゃん! こんなんへっちゃらだぜ!」
「吠人さんたちに吠え面かかせてますよ!」
「そっちこそ、寒いの駄目なんだから無茶すんなよ!」
子どもたちはそれぞれ元気良く笑顔で寝人のビシニアさんに挨拶と労いの言葉を返した。
顔つきは夏の終わり頃に連れてきた時に比べるとずいぶん明るくなったけれど、相変わらず信頼してくれているのはビシニアさんだけのようで、一応あの子たちを助けた人間の一人としては――なぜか寂しいとか空しいとかいう気が全く起こらない。
ただただ、当たり前だよね、当然だよね、と感情ですらない平坦な感想しか思い浮かばない。
あの子たちの中でドロテアという人間は結局、自分たちを虐げてきた平人の一人でしかないという印象はどこまでも正しく、恨まれて憎まれてもやっぱり感情がさざ波一つ起こらない。
その憎悪や怒りは暴力を使わず言葉で訴え続けて欲しいという願いがあるだけで、これすらやっぱり感情がどうも伴って来ない。
「ビシニアさんは、あの子たちの面倒をよく見てくれていますよね。助かります」
「んー。まぁ? あの子らを助けた大人の牙人には世話んにゃったのに、見捨ててウチは逃げたからにゃー。落とし前ってやつ?」
「義理堅いんですね」
「んにゃ嘘。冬の間はセッテフィウミのお屋敷が居心地いいから居座っているだけにゃんだけど」
「正直なんですね」
「それより早い所ドロテアちゃんが帰ってくれにゃいと、ウチがなんにも仕事してないって思われちゃうから、さっさとこんにゃ寒い所から避難しよ? にゃ?」
監督役を一人任されることになった吠人の使用人さんは、やれやれと呆れている。
牙人の子どもたちが不当な扱いを受けていないか――同時に子どもたちが反乱行動を起こさないか、監督役を常につけ続けなければいけないのが現実なのだ。
「わかりました。わたしにはわたしにしか出来ない仕事があるようなので、お先に失礼させていただきます」
「あいよ。その寝人にはドロテアさんからもちょいと注意しておくれ」
「寝人は個人主義者ばかりですから、それを尊重する方がいいですよ」
吠人の使用人さんに頭を下げながらわたしは心のこもっていない忠言を残しておいた。
こんな言葉一つで人種間の軋轢や誤解が無くなっているのなら、苦労はしないとわたしも、わたしの夫も同意見である。
2
「ドロテアちゃんはさー」
当たり前のようにわたしにあてがわれた部屋の暖炉の前で丸くなっているビシニアさんは、のんびりとした声で話しかけてきた。
わたしは法式札を打つために使う筆を置いた。集中力を使う札の製造作業は、会話しながらできるようなものではない。
そして、何を言っても言うことを聞かないというのがビシニアさんである。
「なんでしょう?」
「ヘルマート君のどこに惚れたの?」
意外と普通の話題だった。
机の前よりは暖炉の前の方が暖かいので、わたしもそちらに椅子を移動してビシニアさんの傍らに座る。
わたしの旦那様、ヘルマートさん。今はセッテフィウミ海運と懇意にしているお菓子屋さんで、働いている時間のはずだ。
「惚れた腫れたと言いますか。わたしがいないと駄目だなこの男性って」
「平人の結婚する理由ってそんなもんにゃの?」
「どうでしょうね。わたしたち二人は、かなり特殊で自由に結婚できた例だと思います。普通、もっと色々なしがらみに縛られますよ。家やお金の事情とか。わたしくらいの年齢だと結婚して子どもの一人もいないのはちょっと変ですし」
「ウチら寝人はあんまり結婚とか、そういうのにゃいからにゃー。交尾したくなった相手とやることやって、子育てもあるから同族同士で協力もするけど、にゃんか平人や吠人の恋愛って重いんだか軽いんだかウチわかんにゃい」
「重いですよ。人生が潰れるくらいには」
「よく平気だにゃー」
ごろごろと喉を鳴らして転がるビシニアさんは、言葉の内容の割に動作が自由極まりない。
「平気じゃない人間ばかりですよ」
「にゃんでそこまでしにゃきゃいけにゃいの?」
「寝人って国とか持たないじゃないですか? 財産に執着する方も少ないようですし。だから身軽で、わたしたちはそういったもののしがらみで重苦しくて動けなくなっちゃうんですよねぇ」
「……ドロテアちゃんが言っても説得力無いにゃ」
「だからビシニアさんとこうして会話が成立するのではないでしょうか。……ビシニアさんも、結構寝人としては変な方ですよね?」
「言ってくれるにゃー。そうにゃんだろーけど」
脛に傷があると明言し、武装組織残党の牙人の集団に紛れ込んでいた人間は、人種がどうであれ真っ当な人間であるはずがない。
わたしもヘルマートさんも、出会った時点で気づいていた。ただ、脛に傷を持つ者同士お互いあえて触れない方がいいだろうと、夫との間では暗黙の了解ができていた。
しかし、今日はどうもビシニアさん側から言いたいことがあるようにわたしは感じている。
起き上がったビシニアさんは、爪を出してぺろりとざらついた舌を出して口を歪ませた。
「実はウチ、殺し屋にゃんだ――って言ったら信じる?」
「信じます」
「え? わざとそれっぽく格好つけて『またまたご冗談を』って言わせる名演技を、そんにゃ」
「たぶん仕事をしくじってほとぼりが冷めるまで身を潜んでいるか、所属していた組織から逃げているかどっちかだとわたしは考えています。それで、まっとうに日銭を稼ぐ手段がわからないので困って居候を続けている」
「前者で当たり。組織っていうほど、繋がりも濃くにゃいし規模も大きく無い」
毛づくろいしているビシニアさんに、わたしは顔を向けた。
「それで、何を頼みたいんですか?」
「話が通じやすすぎて逆に戸惑うにゃ」
「極東の言い回しにこういうのがあるそうです。『猫の手も借りたい』と」
「ウチ、恩義とか義理とかそんにゃのあんまり感じにゃいから、手伝ってくれてもにゃんのお返しもしにゃいけど?」
「嘘ですね。見返りが無いのに動くような人間は、寝人にだって少ないはずです。ましてや殺し屋だと明かしてから交渉に入る時点でおかしいです。脅しもしない。わたしが絶対に動く案件をビシニアさんは既に掴んでいて、わたしがどういう人間か探るために様子を見ている。違いますか?」
「そうにゃんだけどー。そうにゃんだけどー。ウチ、もっとこう悪者! って感じで見られたかったんだけどにゃー」
耳を畳んでうなだれているビシニアさんの声色は、割と本気で落ち込んでいる様子だった。
わたしは笑顔を作って返しておく。
「うちの夫がそうなので」
「まー仕方ないにゃ。ドロテアちゃん、この法式札、ちょっと見てくれるかにゃ?」
デニムパンツのポケットの中から、ビシニアさんは小さなブリキ缶を取り出してわたしに投げ渡した。
蓋を開けながら机に向かい、中身を机上に放り出す。
木製の法式札で、描かれた式は見るに堪えないほど稚拙で乱雑、そして式に影響を与えかねない危険な位置に先端が鋭利に尖った針が仕込まれていた。
式を見て、返答したわたしの声は自分でも少し驚くくらいに低く、怒りが混ざってしまっていた。
「肉体強化系で、脳内に干渉を与える系等。――麻薬札ですね」
「解説無しでよくわかったにゃー」
「発想はわたしにもありました。本当にやる方がいないことを願っていただけです」
「にゃんだ。じゃあ一儲けに噛んでくれにゃいにゃら――死んでもらうしか」
「格好つけはいいので本題に入りましょう。わたしたちにこの麻薬札を売り捌いている連中をなんとかしてほしいんですね?」
「だーかーらー。ドロテアちゃんはもっと空気を読んでほしいにゃー!」
わたしは椅子に再び腰掛けて、引き出しから取り出した虫眼鏡を使って渡された麻薬法式札の材質や筆跡の詳細を見ながら会話を続けた。
「古来よりこう言います。『拙速は巧遅に勝る』。会話も商談も手短に。魔法式も目的も単純に。わたしはそう物事を動かすための潤滑油みたいな人間です」
「ドロテアちゃんと二人っきりだと油でつるつるウチだけが滑ってお寒いだけにゃ……」
「……それにしてもコレ、本当にひどいですね。麻薬札と先ほどは言いましたけど、これ一回使ったら死にますよ。正確には脳が正常に機能しなくなって、廃人になるのがほぼ確定です」
「そうにゃんだよ。だからウチに、コレ作っている奴殺してくれって、ここらへんの互助会の皆さんに依頼されたにゃ」
ビシニアさんが言う『互助会』とはようするに任侠の彼女的感覚での表現なのだろう。
毛を逆立たせ、腕を無意味にぶんぶん振りながら、ビシニアさんは声を荒げて説明を続けた。
「一回キメたら死んじゃうようなおクスリは、自殺用としてしかお売りできないにゃ! 暗殺用としても札をうなじにしっかり刺して、キメる人間が意識を集中しないと起動できないから使えにゃい欠陥品だにゃ!
こんにゃんお安くお手軽に出回るとお得意様ににゃってくれる人間がバタバタ死んじゃって、細々真面目に働いている互助会の皆さんにゃ大迷惑にゃんだ!」
「ビシニアさんや互助会の皆さんの倫理観はどうかと思いますが言いたいことは理解できます」
表裏関わらず、常連客を掴むのは大事だ。
……わたしの夫はまともに常連客を掴めない汚れ仕事を三年も続けていたそうなので、結婚という形で無理矢理辞めさせた。ともあれ、お金をちゃんと稼ごうというのならお得意様は大事に丁寧に扱わなければいけない。
裏社会の『大事』『丁寧』がどういう意味と行為を持つのかは知りたくはないけれど、この自殺用の麻薬札を流通させてはいけないという目的だけは、一致している。
けれど、それはそれとして、夫ほど荒事や裏社会に精通していないわたしはビシニアさんに質問をしなければ理解できない部分もあった。
「なぜビシニアさんはわたしにお話を? お一人で仕事できないほどの凄腕なんですか?」
「ウチは法式札ってーもんが、よくわかんにゃい。そっちの精通の知識が無いと危にゃい。一度のしくじりだけでも信用商売でアレにゃのに、連続で失敗したらもう食べていけにゃいにゃ」
「……もうこれをいい機会に観念してまっとうなお仕事に就きませんか?」
選択肢があるうえで、望んで死地に向かう生き方をしているわたしが言っても説得力は無いのだけれど、それでも一応ビシニアさんに提案してみた。
ビシニアさんは顔を手でこしこししながら気軽な口調で返してきた。
「ドロテアちゃんにゃわかんにゃいかもしんにゃいけどねー。足を洗うってー中々できるもんじゃにゃいの。ウチ、このお屋敷でずっとゴロゴロして、牙人の監視役としてお小遣いもらって満足していたのに、普通にここの地元の互助会の皆さんからお仕事お願いされたってーとこから、お察ししてほしいにゃ」
「そうですね。不知んが理解ります。協力することは、お約束します。けれど、夫と相談させてください。わたしは基本的に机の上で紙とペンを動かすことしか能の無い人間ですので」
「早いとこ返事が欲しいにゃー。『拙速は巧遅に勝る』にゃんでしょ?」
「ええ」
相談とは言いつつも、わたしはヘルマートさんがどう言葉にしてどう思うか、大体もう察していた。
口では『面倒だけどビシニアさんに恩を売るため話には乗る』と言うはずだ。
けれど、内心では法式札を悪用――まして自殺用に製造販売するという人間がいるのが許せなくて、わたしのような法式札職人の社会的印象を悪くしないために悪い芽は取り除くという気持ちで動くはずだ。
わたしは婚姻前に「自分の気持ちに正直に生きなさい」とあの夫には言っておいたのだけれど、一度付いた悪癖は中々除けないものなのだろう。
3
「社長さ~ん、いいじゃにゃいの~。ここらでズバッと男気見せちゃってよ~。にゃ~?」
「やめてください。本当にやめてください」
月の無い夜、街灯も設置されていない住宅街は本当に暗い。
そんな中、カンテラを片手にしたヘルマートさんはもう片方の腕をビシニアさんに抱きつかれ、先ほどからにゃーにゃー言われていた。
けれど事前に合言葉にしていた『男気』という単語を聞いた瞬間、目の色が変わり周囲を見渡して一番近くにある一軒家に視線を一瞬合わせて、何事もなかったかのように会話を続けている。
わたしは二人の隣を歩きながら、目的地に到着したことを悟った。
セッテフィウミ邸に帰ってきた夫に事情を説明すると、元々は帝国の諜報員として仕事をしていたというヘルマートさんはわたしよりはるかに事態の呑み込みと先読みが早く、作戦立案はあっという間に済み、その日の晩にはもう麻薬札の製造者のアジトを襲撃することになっていた。
元々ビシニアさんはアジトを既に依頼人に教えられていた。ヘルマートさんいわく『みかじめ料も支払わず、売り子に堅気を使っていたらすぐに本職には住処がタレコミされてケジメつけさせられる』とのことだった。そのケジメの刺客とやらがビシニアさんらしい。
ただ、相手は法式札を打つことのできる魔法使いであることは確定している。適正属性も実力もわからない相手を襲撃するため、ギリギリまで一般人を装う必要があったので、こうしてビシニアさんはヘルマートさんに絡んでいる。
……演技をするうえで絡む必要があるのかどうかはわからないけれど、たぶん寒いのだろう。熱量操作法式札も使っていないので、冬の真夜中は身体の芯から冷えて辛い。
「とにかく、妻の意見も聞いてください」
「え~?」
「ほら、見てないでちょっとこの寝人どうにかしてくださいよ」
ヘルマートさんは演技というより本当に困ったようにわたしに助けを求めてきた。
ただ、ポケットに手を入れてから出したメモの紙切れをカンテラのすぐ傍に自然に持ってきてわたしとビシニアさんに見えるようにしてくれている。
『観測魔法式感知。寄生干渉系。潜伏成功中』
指で不必要な部分を隠して、見える文字を追えばそのような内容だった。
元々用意していた文章を羅列しておいたメモ書きを、こうして使うのは対魔法使い奇襲作戦でわたしたち夫婦が多様している手段である。
肉体強化系の魔法以外は、物理世界に魔法式を出力するので同じ魔法使いに式を見られてしまう危険性がある。魔法式の詳細を読み取れたのなら、起動されている魔法のみならず使用者の魔法属性から練度まで推し量ることができてしまうので、奇襲する時はギリギリまで魔法を使わないのが一番なのだ。
逆に、こちらも相手の魔法式を確認できれば行動へ移す前に、相手の情報がかなり絞れる。
寄生干渉系の観測魔法はある意味単純極まりない。強化した眼球や鼻などを魔法で増やして、触手によって術者本人の身体と常に接続しておく。これだけだ。
光学操作や電気操作に比べると死角が出来やすいけれど、対魔法使い戦においては霊脈を端末眼球に絡ませることで、魔法式を観測することができる点が強い。
アジトの家に潜入するうえにおいて、まだ魔法は使えない。
「あなたのバカ!」
わたしはできるだけ面倒に聞こえるよう、甲高い声で叫んでみた。
あ、ヘルマートさん本気で驚いているし傷ついている。カンテラの灯りでわずかにしか見えないけど、身体が完全に硬直して唇が歪んでいるのでわかった。
打ち合わせどおりの演技をしているだけなのに、よくこれで昔は諜報のお仕事とかできたものだ。かわいい。
「そんなに雌猫とじゃれつきたいなら、もう知りません!」
「ああ!?」
わたしは左手の薬指に嵌めていた指輪を引っこ抜いて、アジトである家の方にぶん投げた。
ちなみにわたしたちは婚約指輪を一応嵌めているけれど、魔法具の一種であり早々乱暴な扱いはできないので今回のはそれに似せた偽物である。
ヘルマートさんは慌てた声を出す。
「なんてことするんですか!」
「あなたが悪いんでしょう!」
「まぁ痴話喧嘩もそこらへんにゃ。指輪はウチが取って来るから、待っていてほしいにゃ」
「……寝人は夜目が利きますけど、勝手に他人の家に不法侵入するのはどうかと」
「にゃーに、ぱぱっと行ってささっと取ってくるだけにゃ」
ビシニアさんは手を振ってあっさりと門を跳び越えて、家の小さな庭先に侵入した。
突入作戦第一段階開始だ。
もし相手がなんらかの手段で、奇襲前にこちらの魔法発動を確認できる場合は夜目が効き敏捷な寝人のビシニアさんが単独で突入する。元々彼女の仕事をわたしたちが手伝うという形なので、危険な役目は彼女が自分から率先して請け負うことを、止める理由は無かった。
ただ、相手は法式札を打つことができる魔法使いなのは間違いない。罠として非常に優秀な魔法具の法式札に関して知識が無い彼女には、すぐ覚えられる対策手段を教えておいたので――まぁ死ぬ時は死ぬだけだろう。
「あの寝人指輪を盗んで逃げたりしませんかね?」
「それならそれまでです。わたしというものがありながら、あんなに他の女性をべたべたくっつかせるなんて」
「あいつが勝手にやってきただけですよ! 全く猫は九回殺しても生き返ると言いますが、中々彼女もしつこい」
この夫ほとんど演技じゃなくて本音で喋っている。わたしも嫉妬する妻なんて役目をするのはあまり無い機会なので、結構楽しい。
さて、それはそうとしてここから先はビシニアさんとの連携はほとんどぶっつけ本番だ。一応『撤退セヨ』と『救援来ラレタシ』を合図する二枚の法式札を持たせてはいるけど、発動したら最後魔法式が観測されるので、本当に緊急手段である。
「ぎにゃああああ!!」
ヘルマートさんと痴話喧嘩をし続けていると、潜入したビシニアさんの絶叫が夜闇に響き渡った。
わたしたちは本気で何が起こったのかと家の庭先を見れば、中途半端な庭木を指差してビシニアさんが腰を抜かしている。
「め、目玉のお化けにゃあああ!」
そう言って、わたしが投げた指輪を庭木に投げつけるやいなや、四足歩行で走り出して家の裏手に回った。
なるほど、彼女は嘘をついていない。
「くそっ、やっぱあの寝人持ち逃げするつもりだ!」
「新月の夜の寝人を追いかけてもどうしようもありません。まずは迷惑をかけたこの家の家主さんに謝罪しましょう」
「あれだけの大声ですからね……確かに寝ていても飛び起きたかもしれません。ちょっと待っていてください。事情を説明しに行ってくるので」
素人くさい挙動を装って、ヘルマートさんは門をよじ登ってから玄関のドアに向かっていった。
ビシニアさんは、おそらく本当に寄生干渉系の観測魔法である眼球端末が接地された庭木を見た。魔法について市井で知識がほとんど無いこのご時勢、そんなモノは魔法の一種ではなく目玉のお化けだと思った方がむしろ自然だ。
そして、指輪を投げつけることで眼球端末の一つを潰してくれた。さらに裏手へと回ることで、相手の注意を自分に向けたままわたしたちが突入しやすい状況を整えてくれた。
正門からは堂々と死角の出来た客人が侵入し、裏手にはしっかりと様子を確認できる寝人がいる。
相手はこの双方に意識を分断させざるを得ず、心理的な余裕が無くなる。即興の割に判断が上手く、魔法というものをよく理解している。
――今から襲撃する相手より、敵に回したくない。
「あの、すみません。さきほどの大声の件について、謝罪したいのですがー!」
ヘルマートさんは焦った表情で不必要に大きく玄関のドアをノックしている。もちろん、これはさすがに演技なのだろう。妻に見捨てられかけて結婚指輪も失った哀れな旦那様は混乱して正常な判断ができなくなっているのだ。
何度もノックしていると、ドアの向こうから霊脈反応が見えた。法式札職人の多くがそうであるように、魔力量は平人並み。ただし、非活性化状態にして実力を隠している可能性もある。
「こんな夜更けに、なおさら迷惑なんだよ! 帰ってくれ!」
「いやしかし――」
「うるさい! いい加減にしろ!」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、少年の声だった。苛立った甲高い叫びで、これが演技だったのだとしたらわたしといい勝負ができる。
わたしはポケットの中に用意していた法式札を、舌に乗せて口を閉じた。
「いいから――帰れよ!」
魔法式展開確認。庭木と茂みに一つずつ。
わたしは既に起動していた肉体強化法式札の力を借り、今までの道すがら拾っていた小石を魔法式の出所めがけて投げつけた。
茂みの一つの魔法式は霧散し、庭木の一つが完成してしまった。わたしもまだまだ荒事に慣れていない。
法式札の対処は、ある意味とても簡単だ。描かれた式が正常に機能しないよう、起動する前に紋様に傷をつけて破壊してしまえばいい。
「まぁそう言うなよ」
庭木から伸びてきた枝がヘルマートさんを絡めようとしたが、遅い。枝に目もくれずヘルマートさんの熱量操作魔法によって大気の一部分が超高温化し、枝を一瞬にして炎もほとんど上げずに炭化させてしまった。
そして、身体の方は玄関のドアに一蹴り入れる。蝶番近くのドア木材がいつの間にか炭化しており、ドアが吹き飛び、向こうに立っていた少年――らしき人物ごと押し倒してしまう。
わたしはその間に門を跳び越え、左腕を盾に構えて突撃。霊脈反応から頭部と思しき場所めがけて、左腕の服の下に隠していた篭手を叩きつけた。
「がっ!」
「はーい大人しくするにゃー。麻薬札――いやいや自殺札の製造者くん?」
さすがの俊敏さと言うべきか、ビシニアさんはいつの間にか家中に入り込んでおり、元ドアだった木材の下でもがいて魔法式展開しかけた少年の首根っこを掴んで引きずりだし、爪を頚動脈に突きつけていた。
ヘルマートさんも拳銃――型の水鉄砲をコートの裏から出して、額と首から血を流す少年に語りかけた。
「なぁ、お兄ちゃんとお姉ちゃんたちとちょっとお話しようぜ」
4
「■■■■■」
「■■■■■!」
「■■■■■、■■■■■」
とり急いで玄関のドアを元通りに立てかけておき、家の中で『お話』を始めたヘルマートさんと少年は、わたしには聞き覚えの無い言語で会話を始めてしまった。
ただ、聞いている限りではどことなく、ところどころ色々な国の単語が混ざったような印象を覚える。しかし相手が感情的になっているため、ヘルマートさんの方の言っている内容がほんのわずかにわかるだけだ。
ビシニアさんも情報は引き出したいらしく、交渉役はヘルマートさんに任せて少年の首筋に爪を当てたままわたしに話しかけてきた。
「何言ってんだにゃ? ってかどこの国の言葉にゃ?」
「夫は、何か説教しているように思えます。言語はたぶん、魔法帝国語ですね」
「……本場の魔法使い同士がかち合っちゃった?」
「そういうことですね。ただ、相手はまだ子どもなので色々と経験不足で拙く、楽勝だったのはいいんですけど……」
「うっせーな! こっちは神聖皇国語はわかるし喋れるんだよ!」
少年――ランタンの灯りの下で照らすと、年齢は十代半ばくらいで目の下に隈を浮かばせ、くすんだ金髪がぼさぼさで手入れもされていない、荒んだ姿だ。おそらく、早晩襲撃されることはもうわかっていて怯えていたのだろう。
「明日には逃げる予定だったんだ! たまたま運が悪かっただけだ!」
「んにゃ。それならそれで追跡して捕まえたにゃ」
「そうですね。貴方はアジトがバレているなら顔も名前も割れているんですよ。詰んでいます」
「ちょっと魔法齧った程度の下等人種が偉そうに言うなよ! 寄生干渉魔法は顔形を変えるのくらい造作も無いんだ、お前ら撒くくらい――」
「■■■■■!」
ヘルマートさんが、少年の胸倉を掴んで帝国語で一喝した。
その途端、少年は悔しそうにうつむいて、やはり帝国語で何かぶつぶつ言い出してしまう。
「何言ったんにゃ?」
「お前は平人だろ、と」
「それでにゃんで落ち込むのかわかんにゃいけど、まぁいいや。この子がこんなことしていた理由を教えてほしいにゃ」
「…………そうですね。話しましょう」
――わたしの旦那様は、また何か勝手に背負い込んでしまったらしい。
苦々しい声色でヘルマートさんは事情説明を始める。
「こいつは帝国の工作員です」
「ずいぶんお粗末にゃ」
「もっともです。でもそれは後で話します。こいつに任された任務は、法式札の運用実験と社会基盤破壊でした。明日に希望の無い貧困層なんかに、楽に幸せに死ねるってー触れ込みの自殺札を格安でばら撒いて、労働者の絶対数を減らし労働意欲よりも自殺意欲が湧くよう情報工作する――まぁそんな感じです」
「それは大体お察しにゃ。というかだから困るにゃ」
「法式札製造ノウハウを学ぶのも兼ねていたそうですが……まぁこの年齢で、多国籍言語覚えて一人で外国に放り出されて工作しろってだけで無茶なのに、魔法関連の技術まで精通しろって無理ですよ。何もかも中途半端なのは仕方ないのに、帝国はそれを承知のうえで使い捨ての駒にした。結果なんてどうだっていいし、こいつの生死も考慮されていない」
なるほど、それは夫が苦しむわけだ。
ヘルマートさんも、亡命する前は帝国の諜報員だったそうだ。そのうえ魔力量も低い本人いわく『出来損ない』。たびたび口にする叔父上様が、ずいぶんと良くしてくれたのでヘルマートさんは今、こうして魔力量が低いなりに達人の熱量操作魔法使いとして生きているけれど、一歩間違えれば目の前の少年のようになっていたとしても、不思議では無い――と考えているのだろう。
わたしから言わせれば、魔法使いの本場である帝国出身という虚飾の誇りを振りかざす目の前の少年と、故郷の帝国を正そうとする夫は、正反対だ。年齢など関係ない。
「ただ、生死すらどうでもいいってことは、まだやり直せる機会があります。これを機に、帝国に対してトンズラこけばいい。魔法使いってだけでもなんとか――」
「無理にゃ。この子は死んでもらう」
少年にとっては、真後ろで耳元にビシニアさんの冷たい声が囁かれた形だった。身体を少し跳ねさせ、夫に助けを請うような卑屈な目で見上げる。
ヘルマートさんはビシニアさんに懇願するような真剣な目つきで訴えた。
「確かにこいつのやったことは許し難い所業です。でもまだ分別を自分でつけられないガキが国に、家に命じられたことをやっただけなんです」
「だから?」
「認められたかっただけなんですよ! 国と家に! どれほど身を削ったって絶対に振り向いてくれないってのが、まだわかってないだけなんです」
「あのねヘルマート君」
ビシニアさんの瞳孔が暗闇の中で細くなっていく。
「論点が違うんだにゃ。ウチら弱い弱い互助会は、舐められたりしたら終わりにゃんだ」
「――けど!」
「そこまで言うにゃらウチと、ウチの依頼人たちと、みんな敵に回してこの子を庇うのかにゃ? ウチはそんにゃんやりたくにゃいけど、ウチが面倒見ている牙人の子どもたちより、人殺しの同郷のこの子が大事だって言うにゃら――助けると良いにゃ」
わたしは、歯軋りして拳を握り震える夫の肩に手を置いた。
「ビシニアさんのおっしゃる通りです。なんでもかんでも背負えるものでもありませんし、経歴が同じだからと言ってみんなあなたのように強く生きることなんかできませんよ」
「俺は……逃げてばかりで、全然強くないですよ」
「本当に弱い人間は魔法帝国に夫婦二人だけで戦おうとしませんよ。それこそ逃げます」
夫は肩を落としたまま沈黙した。
その様子に、いよいよ少年は焦ったように上擦った声を上げる。
「て、帝国潰すってのか? じゃ、じゃあ手ぇ貸すよ。一人でも味方は――」
「命乞いの売国奴を誰が信用するにゃ?」
「そんなの――やってみないとわからねーだろ!」
「君はもうやっちゃいけないことをやっちゃって、しくじった。人間として、能力も性格も底辺にゃ」
「ビシニアさん」
「はいはいにゃー」
もう何も言えずに膝を落とす夫の替わりに、わたしはビシニアさんの口を閉ざすために名前だけを呼んだ。
彼女は酷薄な、瀕死のネズミをいたぶるような笑みを浮かべて少年の耳元に囁き、素早い動きでうなじに何かを刺した。
「君が造った自殺用札、今刺した。このままスパーッと喉裂かれて死ぬか、君が君自身の人生に落とし前つけるか――選ばせてあげるにゃ」
「……ちくしょう」
とても拙い、幼稚な魔法式の反応が見えた。
少年は、全身を痙攣させながら口の端から涎を垂らし、何かを見つめるように手を伸ばし
「はは……うぇ」
天へと向けた腕と頭は、すぐに落ちた。
いつまでも動かない夫の肩に、わたしは手を置き続けた。
5
少年の遺体はビシニアさんが『依頼達成証拠として必要にゃんだ』と言って、持って行った。
わたしたちはセッテフィウミ邸に帰り、厨房を借りて調理台をテーブルがわりに向かい合って暖かいお茶を入れたカップを手にしている。
少しずつ口をつけるわたしに対して、ランプの灯りに照らされたヘルマートさんは何も言わず、ただ湯気を眺め続けている。
少年の死が決定し、手を引いて帰り道につき、それからずっとこの状態だ。
お茶を出した時に『ありがとうございます』と言ったことから、周囲の状況が把握できないほど自失しているわけではないみたいだけれど。
こういう形で、これほど落ち込む夫を見るのも出会ってから初めてだ。
「終わってからわかったことですけど、ビシニアさん一人でもあの程度の相手ならなんとかなりましたね。なんだかわたしたち夫婦の実力や情報を探る方が本命だったんじゃないかって、勘繰りたくなります」
「……そうですね。彼女は油断ならない。クラリッサ嬢との――このセッテフィウミ家の協力を維持するために必要な牙人の子どもたちを人質に取られているも同然の形です。実際、今日見たビシニアさんの実力なら不意討ちすれば牙人のあの子たちを瞬殺できます」
寝人の爪の長さと強度では牙人の皮革を引き裂いて致命傷を与えられないけれど、そんな問題は頑丈なナイフを三本ほど用意すれば事足りる。
わたしは悩んでいた。
先ほどのビシニアさんの話題も、わざと嫌な言葉選びをしたつもりなのにヘルマートさんはたぶん本気で牙人の子どもたちを心配している。
本来、ビシニアさん個人で請け負うだけの仕事をわたしたちが――ヘルマートさんが手伝う必要は無かったのに。わたしがヘルマートさんに話さなければ、夫はこれほど苦しまずに済んだというのに。
この男性は、絶対にわたしのせいにはしない。
わたしを責めてもいいのだと、今夫に言ってもいいのだろうか。
「ドロテアさん、気にしないでください。俺の我儘に貴女には付き合ってもらっているんですから、この程度のありふれた事で、へこたれている俺が悪いだけです。貴女は何も悪くありません」
「またそうやって――」
「あいつの名前と家は聞き出しました。帝国に帰った時、色々と使わせていただきます。収穫が無かったわけじゃありませんよ。何より、ビシニアさんとドロテアさんの選択の方が絶対に正しい。断言できます」
ヘルマートさんは、行動指針を感情で選ぶ。それを小賢しく理屈で塗り重ねて自分自身に嘘をつく。いつだって真正面から、本心に向き合おうとしない臆病者だ。
そんな不器用な男性だからわたしのような人間失格女を助けてくれた。選んでくれた。尊重してくれている。
本当にどこまでも馬鹿な夫。
「整理しましょう」
「はい?」
「牙人の子たちは、クラリッサちゃんの我儘です。わたしたちには関係ありません。セッテフィウミ海運全体で責任を取る案件です。
さっき死んだ帝国の子どもは、ビシニアさんと彼女の依頼人が排除しただけです。わたしたちはそれに噛まされただけです。まんまと。
わたしたちの目的は帝国と世界を止めることです。そのために、力の範囲内でやれることをやるだけです。それを忘れないようにしましょう」
「そうですね。おっしゃる通りです」
もう冷めたお茶を、ヘルマートさんは飲み始める。
わたしは、夫の目を見てたずねてみることにした。
「さしあたって、ビシニアさんをどう殺しましょうか」
「なんでそう物騒な話になるんですか」
「わたしたちと彼女はどうも相容れません。今夜の一件でよくわかりました。
わたしたちは自分たちの目的のためなら殺傷は厭いませんが、彼女は仕事のみで私情抜きで動ける人間です。人間としてはビシニアさんの方が立派ですが、職業が殺し屋ならわたしたちがいつ標的になるかわからないので看過できません。対策くらいは考えておくべきかと」
「……まぁ、少なくとも対策は考えておかなければいけないのは実際問題ですね。殺すかどうかはともかくとして」
甘いなぁ。
でも、わたしたちはこうして役割分担してこその夫婦だ。ヘルマートさんの甘さや感情論が無ければ、絶対にわたしは何もできない。
わたしはビシニアさんのように仕事は仕事と割り切りながらも、自由気ままに生きることを両立するなどできない。彼女のように独りでは生きていけない。その強さは恨やましい。
誰かに愛して欲しい、必要とされたい、隣にいる男性の理想の女として振る舞うことだけがわたしの乏しい自我で、ビシニアさんと対照的な女なのだ。
でも、今の夫がわたしの愛する最後の男性だ。今後の人生において、この男性以上にどうしようもない人間を見つけるのは無理だろう。わたしはヘルマートさんのためなら全部使う。
我ながら最低で最悪の女だ。




