僕の好きになった君は……
僕の好きになった君は夜の街が好きだった。
僕の好きになった君はソーダのキャンディが好きだった。
僕の好きになった君は世界史の授業が好きだった。
僕の好きになった君は球技全般が好きだった。
僕の好きになった君は君自身が好きだった。
僕の好きになった君は僕のことが好きだった?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「コウジくん!ボール取ってボール、ボール!」
バスケットボールがこちら側へ転がってきた。
僕はそれをひろって君の方へ投げる。
「ナイスボール!ありがと」
君のことを見ると思わず笑顔になってしまう。
ニヤニヤしてるのが誰にもバレないよう気をつけながら僕は対戦相手であるタツヤの方を向いた。
気を取り直して…
「いくぜ!タツヤ!!スマシュッ!」
ブンッ
見事に空振りをした。
シャトルはラケットとぶつかり情けない音をたてる。
「だっせぇのお前、白田さん見てるぜ」
思わず彼女の方を見る。
彼女はバスケに夢中だった。
「嘘だよコウジ〜」
タツヤは嬉しそうに笑った。
そして
「じゃっ、俺が見本見せてやるよ……コウジのために……スマァッシュッッ!!」
ブンッ
ラケットが空を切る音。
シャトルに当たりもしなかった。
「お前のほうが下手くそじゃねぇか、俺はまだシャトルにラケットが当たってたぜぇ」
「うるせぇうるせぇ」
ニヤッとタツヤが笑う。
僕もそれにつられて笑った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
バドミントン部の練習が終わり僕とタツヤは家路についていた。
「ばいばーい」
途中のY字路でタツヤは右に俺は左に別れた。
そのY字路から二分ほど歩くと我がアパートが見えてくる。
築五十年以上は確実に経っているボロアパート、その二階、203号室が我が家である。
ガチャリ
「只今〜」
ドアを開け玄関に入った。
「お兄ちゃん!!」
タッタッタッと奥の方から妹のサクラが走ってきた。
まだ小学一年生だ。
「サクラお腹減ってる?」
「うん!!」
「じゃあご飯にするか、今日は久々にラーメンにでもする?」
「うん!!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
十時過ぎ。
サクラはもう眠っている。
ピンポーン
と玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう。
母はいつも一時帰りだから違うはず。
白田さんだった。
「えっ?」
「えっ?、じゃないでしょコウジくん」
私服だ。
始めてみた…
学校と雰囲気が違う。
なんていうか
色っぽい。
「今、コウジくん私のことエロいと思ったでしょ」
ブンブンブンと首を横に降って僕は否定する。
「嘘が下手だねぇ、コウジくんは…」
話し方もいつもと違う、いつもは元気なイメージだけど今はなんか……
エロい。
「また、エロい目で見る…」
「エロい目ってどんな目だよ……」
「こんな目!」
白田さんは僕の顔真似をする。
彼女の表情に思わず笑ってしまった。
「あっ、ひどーい、笑った」
「だって白田さんがそんな顔するからぁ」
「あのさ、白田さんって呼び方やめて、ムズムズする」
「じゃあなんて呼べば…」
「ミドリちゃん」
「それはっ……………ちょっと………ねぇ……………………あっ、ミドリさんでどうでしょう?」
「う〜ん…まぁいいか………じゃあそれで」
「あのぉ、ところで今日はどういったご要件で?」
「あぁ、そうだった……。」
白田さん…ではなく、ミドリさんはしばらく間をおいて、
「私と……散歩をしませんか!」
と言った。
何か告白みたいなノリだ
「さんぽ??」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
夜なのに都会は眩しい。
結局僕はミドリさんと散歩(?)に来てしまった。
夜の街をぶらぶらするだけらしいが。
なんで僕が一緒なんだ?
「私ねぇ、夜の街好きなの、なんかさ活気づいてるっていうか……楽しい気分になれる」
僕は夜が苦手だ、おばけが出そうで怖い。
だけどこんなに明るかったらきっとおばけなんて出ないだろうな。
「コンビニ行こコンビニッ」
僕はミドリさんにつれられてコンビニに入った。
僕ら以外お客さんが一人もいない。
「この飴にしよ」
ミドリさんがチュッパチャップスを二本、手に持ってきた。
「うん」
僕は頷く。
チュッパチャップスを買って店を出た。
「コウジくんどっちがいい?」
「コーラ味で」
「やったぁ、私ソーダ味が好きなんだよねぇ」
ミドリさんがジェスチャーをつけて喜ぶ。
なんだか、子供みたいだ。
「あれっ、硬い」
ミドリさんがキャンディの包み紙を外せないで苦戦していた。
「ちょっとかして」
彼女の手からキャンディを受け取り力技で包み紙を外した。
「はい」
「力技じゃん」
彼女が笑う。
「そういえばさぁ、今日満月なんだよ知ってた?」
「あっ、ほんとだ丸い」
空を見上げると満月が浮かんでいた。
「ちょっとさ、そこのビルの屋上から月見てみない?」
「いいけど……」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ビルの屋上から見ると、さっきよりも鮮明に月が見えるようになった。
「きれいだねぇ」
「そうだね……」
彼女を見る。
彼女は泣いていた。
彼女と目が合う。
「なんで……」
「私、帰らないと行けない……」
「何処に…?」
「月に」
「えっ?」
「変なこと言ってるよね、私」
彼女の顔がみるみる崩れていく。
「私、月から来たんだ……ずっと昔に……」
「そんな…かぐや姫じゃあるまいし……」
「私が…私がかぐや姫なの……」
「………」
彼女の様子を見る限り冗談じゃ無さそうだ。
「今日、十五夜でしょう、だから私、月に帰らなくちゃいけないの……今夜、月から迎えがくるから………迎えが来たら私、月に……連れて行かれちゃう」
ついに彼女は泣き崩れてしまった。
どうすれば、
どうすれば…………
……………………………………………
「逃げよう」
「え?」
「逃げよう、一緒に」
「どこへ?」
「わからない、わからないけど……何処か遠くへ」
気づいたら僕は彼女の手を握って走っていた。
「私の言ったこと嘘だって思わないの?」
「確かに、君がかぐや姫だなんて嘘みたいだ、でも、そんなことよりも君のことを信じたい」
走れ、何処か遠くへ
走れ、君を離さず
走れ、ひたすらに
あたりから街灯がなくなってきて大分暗くなってきた。
「ありがとう、ありがとうコウジくん」
「走ろう、ミドリさん、何処までも、一緒に」
急にあたりが明るくなった。
体が動かなくない。
空を見上げると暗い空に月の使者たちの姿があった。
「もうだめみたい……」
ミドリさんが言う。
「ありがとう、コウジくん…」
ミドリさんの柔らかい唇が僕の唇に触れた。
僕は目を見開く。
「バイバイ」
途端、ミドリさんの顔が無表情になった。
まるで魂が抜けたみたいに。
なんで、なんで、助けれない。
なんで体が動かない。
なんで。
「ミドリさん、僕は君のことが好きだった、僕は君のことが大好きだった、だから、だから、どうか忘れないで、僕のことを、忘れないで」
ミドリさんの返事はない。
頬を涙が流れるのが分かった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
こうして僕の好きになった君はいなくなってしまった。
僕は君のことが大好きだった。
君は僕のことが好きだったのかな。
もう、そんなこと誰にもわからなくなってしまったが。
でも、きっと僕はずっと君のことを忘れない。
絶対に。