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コメディ系短編小説

“爪”切っちゃってくださいっ!

作者: 有嶋俊成

  ーーとある美容番組の撮影の話…なのだが…



「それでは本番よーい、アクション!」

 スタッフがそう言うと女性タレントのハルナが最初のセリフを発した。

「みなさん! 今回は、こちらの方を美しくチェンジしたいと思います。」

 ハルナがセリフを言うとカメラの向きが移動する。

「○○県のカナコです。よろしくお願いします。」地味な感じの若い女性が簡単に挨拶した。

「それでは、今回はカナコさんにきれいにイメチェンしてもらおうと思います!」


 ここではとある美容番組の撮影が行われている。その様子をプロデューサーとディレクターがスタジオの傍らで眺めていた。

「本当にこれで良いのか?」プロデューサーが心配そうな顔で撮影風景を眺める。

「安心してください。悪くならないようにはしてありますから。」ディレクターは熱心に撮影風景を眺める。


「さぁ! それでは参ります!」ハルナが進行を進める。

 ハルナの隣では椅子に座ったカナコが、手の甲が上になるように手の平を広げて待っている。その側に、小さな道具を持ったオシャレな女性・渕上(ふちがみ)がカナコに向かってしゃがんでいた。

「それではカナコさんの“爪”切っちゃってくださいっ!」

 渕上が持っていたのは“爪切り”だった。


「本当に“爪”を切るんだ!?」プロデューサーはわかっていても驚きが隠せない。

「はい“爪”を切ります。」ディレクターは撮影風景を眺めながら答える。

「いやいやいや…こういう番組ってさ、普通は“髪”を切るよね。」

 美容番組やバラエティ番組の美容コーナーでは地味な人を美しくイメチェンしてビフォーの状態とアフターの状態を見比べたり、家族や友人に見せて感想を聞いたりする。その時には髪型を変えるのに髪を切ることもある。が、この番組では爪を切ると言う。

「美容番組で爪を切ってイメチェンってどういうことよ?」

「いやぁ~髪を切るのはコストがかかるんですよ~」

「どういう予算の使い方したんだよ!」

「まあ見ててください、ちゃんと美容っぽいこともしますから。」

 プロデューサーはディレクターの言葉を信じ、収録風景を見続ける。


「さぁ、まずは親指を切り始めました~」様子を実況するハルナ。


(あの実況の何が面白いんだよ…)呆れるプロデューサー。


「わぁ~すごくきれいに切られてますね!」

「はい。きれいに切るうえでの一番のポイントは、つま先を平らにすることです。」渕上が切りながら解説する。


「おい、」プロデューサーが口を開く。「“美容っぽいこと”ってまさか『きれいな切り方』じゃないだろうな?」

「『きれいな切り方』のことです。」

「何が面白いんだよ!」プロデューサーがハルナたちに聞こえないように叫ぶ。「“美容っぽい”って、てっきりネイルか何かだと思ったけど!?」

「ネイルはコストがかかるんですよ~」

「この番組の制作費どんな使われ方してんだよ!」

 予算の使い方を任せた俺がバカだった…プロデューサーは後悔してもしきれない。


「あれ?それは何ですか?」渕上に聞くハルナ。

「子供用の爪切りです。」渕上はキャラクターのイラストが入った、やや小ぶりの爪切りを取り出した。「小指を切るのに良いんですよ~」

「へぇ~爪切りにも種類があるんですね~」

「足用の大きな爪切りや、赤ちゃん用の爪切りもあります。」


「さっきから渕上さんは何の解説をしているんだ?」プロデューサーが首を傾げる。

「爪切りの種類の話を…」

「それはわかってるよ。」ディレクターを遮り発言する。「足用とか赤子用があるとか俺でもわかるわ。見ろよハルナさんの顔。目、死んでるぞ。」

 わかりきったことを教えられているハルナは無関心むき出しの無表情だ。

「因みにあの爪切りは渕上さんの…」

「番組で用意しました。」

「何やってんだよ! その予算を散髪に使えるだろ!」

「いや~本当は包丁作ってるところに発注したので~」

「お前、絵にかいたバカだな。」ディレクターの想像以上のバカっぷりに呆れるプロデューサー。「なんとか良い展開に出来ない?」

 このままではまずい。プロデューサーはこの際、爪切りでも良いからなんとか盛り上げる展開が欲しい。

「ああ、それじゃ今、指示しますね。」ディレクターはどこかへ行った。

 しばらくするとディレクターは再びプロデューサーのもとへ戻ってきた。

「いくつか、仕込んできましたよ!」バッチリだ、という感じのディレクター。

「頼むぞ。」プロデューサーはディレクターの表情に一縷の望みをかける。


「あれ? 渕上さん、中指がなんだかデコボコしてますが…」ハルナがカナコの爪を凝視する。

「今日はちょっとオシャレにしてみました~」笑顔で答える渕上。

「へぇ~。あ、よく見たら人差し指もとんがってますね!」


「ディレクター、まさかとは思うが、爪の形のくだりは…」

「僕の指示です。」

「そういうことじゃないだろ!」

「大丈夫。次を見てください。」


「あれ? 渕上さん、それは…」再び聞くハルナ。

「色ペンです。」笑顔で答える渕上。

「え? 何に使うんですか?」

「爪の表面に絵を描きます!」


「小学生かっ!」ディレクターのあまりに幼稚なアイデアに呆然とするプロデューサー。

「子供の頃、よく鉛筆で黒く塗りつぶしたりしたじゃないですか~」

「何が面白いんだよあれ。見てみろよ、カナコさんの無表情! もはや霊だよ!」

 カナコは最初の地味な雰囲気と全く変わっていない。

 そう言っているうちに次の展開に進む。


「あ…それは…」困惑するハルナ。

「毛糸です。」

「何に使うんですか?」

「爪に顔を書くので髪の毛にします。」

「ほぇ~」


「ディレクター、これは何の番組だ?」

「美容番組です。」

「だよな? それで、あれは今何やってる?」

「爪に絵を描いて、飾りつけをしています。」

「工作番組じゃねぇか! そんで渕上さん、一体何者だよ。」


「完成~」ハルナが拍手しながら盛り上げる。美容番組で爪を切って飾るという謎展開のせいか、目は死んでいる。「それではどうぞ!」

 カメラの前に出された爪はペンで塗りつぶされていた利、顔が描かれていたり、下手な絵を描かれていたりする。その上、指先は毛糸がゴミのように絡まっている。


「終わった…」崩れ落ちるプロデューサー。「というか、カナコさんと渕上さん何であんなこと受け入れてんだよ。」

「ああ、あの二人、サクラなんで。」

「は? どうやって呼んだんだよ?」

「予算の金使って釣りました。」

「お前、クビな!」



  ーー終わり

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