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第4話。登城したら面倒な奴に会った。

明けましておめでとうございます。

【リーシア大公国】大公都【モンティチェーロ】。


【リーシア大公国】の大公都【モンティチェーロ】は、国内政治経済の中心である事は言わずもがな、【ガレリア海】東岸にある国内最大の港湾都市で、世界中から観光客を集める一大リゾート地でもある。

 セントラル大陸にあるマリン・リゾートと言えば、大陸南端の【ナープレ】と、東端の【ウェネティ】、そして西端の当地【モンティチェーロ】が特に有名だ。


【モンティチェーロ】のメイン・ストリートには、高級ホテルや高級レストラン、オペラ・ハウスや劇場、カジノやナイト・クラブ、服飾・宝飾品・バッグ・靴・高級腕時計などを扱う有名ブランド直営店が軒を連ね、埠頭には世界中の大金持ちがヨットを繋留するヨット・ハーバーがある。

 年に1度市街の公道で開催されるチャリオット・レースや、大公家がスポンサーである強豪チャージ・チームのホームとしても有名だ。


 しかし、今の俺は【モンティチェーロ】の市街地へと観光に繰り出すような気分ではない。


 今日、カンパネルラ家は陸路3泊4日の行程で、ようやく大公都【モンティチェーロ】に到着した。

 公城の近くにあるカンパネルラ伯爵邸に入った際にはドッと疲れが出て、そのままベッドに倒れ込む。


 カンパネルラ伯爵家の領地【ベッラ・フォンターナ】と、大公都【モンティチェーロ】を含む大公直轄領は地理的には隣だ。

 飛空船で移動すれば、あっという間。

 船内食を食べる前に到着してしまう。


 しかし、カンパネルラ家(うち)が【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を移動する際には、緊急時以外【乗り物(ビークル)】を使って陸路を移動していた。

 これが大変。

 何しろ、カンパネルラ家の領地【ベッラ・フォンターナ】は山奥にあるのだから。


 カンパネルラ家は車列を連ねて、大公直轄領内を移動しながら道々お金を落として現地の経済に貢献するのだ。


【ベッラ・フォンターナ】は地理的には一応首都の隣領だが、ビックリするくらい辺鄙(へんぴ)な場所にある。

 日本の感覚なら、東京都に隣接した山梨県の山奥みたいな場所に相当すると想像して貰えば良い。


 セントラル大陸の中央国家【ドラゴニーア】の【竜都】に通じる街道や、海岸線の街道沿いにある都市や街は交通の要衝として栄えているが、主要街道を外れた【ベッラ・フォンターナ】は交通の便が悪いのだ。

 従って、下手をすると【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ道は廃れてしまうかもしれない。

 そうなると【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ唯一の道に治安などの問題が生じる可能性もある。


 なので、【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ道の途中にある町や村や集落から住民が居なくなると困るのだ。

 主に【ベッラ・フォンターナ】側が……。


【妖精】が住み付くくらい辺鄙(へんぴ)なド田舎の【ベッラ・フォンターナ】に観光資源なんかない。

 当然ながら大公都【モンティチェーロ】から旅行者なんか来やしないのだ。


 カンパネルラ伯爵家(うち)が【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ道の途中に暮らす町・村・集落に定期的にお金を落とさなければ、それらの小さなコミュニティは過疎化が進み住民が大公都【モンティチェーロ】に流出して町・村・集落が捨てられ【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ唯一の道の治安が悪くなる。

 なので、面倒ながらカンパネルラ家(うち)が【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を移動する際には陸路時間を掛けての移動になるのだ。


「お祖父様は【リーシア大公国】の財務大臣で、お父様は大公直轄の諮問機関である枢密院の財務尚書を務めているのだから、国家予算をちょっと()()()()()して【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ道沿いの町・村・集落に補助金を公布すれば良いんじゃないの?そうすれば、いちいちカンパネルラ家(うち)が道沿いの住民達の世話を焼く必要もなくなるんだから。そもそも【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】間の道沿いのコミュニティは、大公直轄領の住民で、【ベッラ・フォンターナ】領民じゃないよね?何で大公直轄領の経済を、カンパネルラ(うち)家が回してやらなきゃならないの?」

 俺は訊ねた。


 そう言ったら、祖父に叱られた。


「馬鹿もん。【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ道は、【ベッラ・フォンターナ】にとっては生命線だが、大公都【モンティチェーロ】にとっては別になくても困らない。交通の要衝でもないし、物流の導線でもないのだからな。つまり、【ベッラ・フォンターナ】と大公都【モンティチェーロ】を結ぶ道の恩恵を受けているのは、カンパネルラ家と【ベッラ・フォンターナ】の領民だけ。そんな道の治安維持に補助金など出せないし、財務大臣や財務尚書の職権を私利私欲の為に使うなどと、そんな事はあってはならん」

 祖父は言う。


「政治家が地元に利益誘導をするのは、当たり前の事じゃないの?」


「そういう政治家がいないと言えば嘘になるが、少なくとも我がカンパネルラ家は清廉潔白・公明正大を旨とする一族だ。そのような公私混同はせぬ」


「そういうの……正直者が馬鹿を見る……って言うんじゃないの?」


「ジョヴァンニ。お前は本当に賢い。【ドラゴニーア大学】出身の家庭教師が……もはや教える事がない……と、舌を巻く程に才気走っている。だが、お前の才気は冴え過ぎて危うい。お前はカンパネルラ家を陞爵させるかもしれないが、一歩間違うとカンパネルラ家を廃爵させかねない。儂は、カンパネルラ家が百代災禍なく続くように、お前がもう少し凡庸であって欲しいと願う。孫の冴え過ぎる才気が心配の種とは、贅沢な悩みかもしれぬがな」


 昨日、そう言われた。


乗り物(ビークル)】で長時間山道を揺られて走るのは、心身共にくたびれる。

 人間は揺れに対して無意識にバランスを取ろうとするのでシートに座っているだけでも体幹筋を使って疲労するし、【乗り物(ビークル)】酔いもするのだ。


 従って、大公都【モンティチェーロ】に到着した当日は、そのままベッドに入って休養を取る事にする。

 もう何度も大公都【モンティチェーロ】には来ているが、毎回到着日は寝て過ごすのが俺のルーティンだ。

 祖父と両親は、そのまま公城に向かわなければならないらしいが、子供の俺には関係ない。


「ジョヴァンニ。ちょっと、何寝ているのよ?」

 母が言った。


「まずは寝て移動の疲労回復をしないと……」


「もう、何言っているの。あなたは今年成人よ。成年貴族は大公都に着いたら、まず登城して大公陛下に謁見するのが決まりだと言ったじゃない。早く正装に着替えなさい」


 あ……俺は、2週間前に成人していたんだった。


 ・・・


 正装に着替えて公城に登る。

 しっかし、貴族ってのは如何(どう)して、こんな馬鹿みたいな格好をするのだろうか?

 この飾り帽子に白タイツ……。

 まるで、ハロウィン・パーティのコスプレみたいだな。


 大公との謁見自体は簡単に終わった。

 俺は、祖父と父の後ろで跪いて自己紹介をして、高台(スローン)の上の大公から……【リーシア大公国】の民の為に励むように……と言われただけ。

 形式的なモノに過ぎない。


 問題は、その後。

 祖父と父が予定外に仕事の話で大公に呼ばれて別室に行ってしまったので、俺は急遽1人(一応供回りはいる)でカンパネルラ伯爵邸に帰らなければならなくなり、公城の中を歩いていたら、知った顔に出会ったのである。


「あら、ジョヴァンニ。お久しぶりですわね」

 若い女性に声を掛けられた。


 俺は一応伯爵家の跡取り候補である。

 その俺に軽い調子で気安く声を掛けて来るのだから、相手の身分は高い。

 俺や父はもちろん、カンパネルラ伯爵家当主である祖父よりも偉い誰かだという事だ。


「これは、ウィレミーナ公女殿下。お久しぶりでございます」

 俺は、公的な畏った口調で挨拶する。


 ウィレミーナ・リーシア公女殿下。

 種族は【(ヒューマン)】。

 第1公女。

 御歳(おんとし)18歳。


 ウィレミーナ・リーシア第1公女は、俺が今さっき謁見した【リーシア大公国】の君主ウルブリヒト・リーシア大公の長女だ。

 国民からは……【リーシア大公国】の白百合……などと云われる、()ん事なき、お姫様である。


 ウィレミーナ第1公女とは、祖父や父に連れられて大公都【モンティチェーロ】に来た際に、何度も会って面識を持っていた。

 所謂(いわゆる)子供世代の社交という奴である。

 なので、俺とウィレミーナ公女とは、一応幼馴染みという事になるのかもしれない。


「ジョヴァンニは、今お忙しいのかしら?」

 ウィレミーナ第1公女は訊ねた。


 いや、()()()の呼称は、ウィレミーナで良い。

 少なくとも俺の頭の中では。


 ウィレミーナは、何が気に障ったのか知らないが、昔から俺にウザ絡みして来るのだ。

 まともに対応するのは面倒で仕方がないが、一応相手は公女だから(へりくだ)っている。


 そして、ウィレミーナは、外面(そとづら)では白百合などと云われているが、内実はドクダミか、トリカブトか、食虫植物だ。

 プライベートのウィレミーナは、昔から兎に角口が悪くて毒を吐きまくる。


 ま、ウィレミーナの性格や人間性は、口程には悪くはないが……。


「忙しくはありませんね。謁見が終わりましたので伯爵邸に帰るところですので」


「なら、ちょっと来て下さいますか?妹が喜びますので」


「え……帰りたいのですが。先程大公都に着いたばかりで、領地からの長時間移動で疲れていますので」


「忙しくないなら、別に構わないのではありませんか?お茶の一杯でも飲んで行って下さいませ」


「いいえ……」


「だ〜まれ。私が来いと言ったら(つったら)来れば(くりゃ〜)良いんだよ。あっ?」

 ウィレミーナは豹変して言う。


 これだ……。


 昔からウィレミーナは、俺を家来か何かだと思っていやがる。

 相手は主君の娘で、俺は家臣の家の子だから主従関係で言えば、間違いなく家来には違いないのだが……。


 俺は、ほぼ強制的にウィレミーナに連行されてロイヤル・ファミリーの私的な住居区画に向かった。


 ・・・


 大公家の私的領域。


 俺はウィレミーナに連れられて、公城の上層階にある1室に入った。

 俺に付いて来たカンパネルラ家の供回りは、大公都の住居区画の手前にある控室で待たされる事になる。


 大きなリビングには、【(ヒューマン)】の女の子と、【ドラゴニュート】の女性、それから側仕えの女官達が居た。


 ジョヴァンナ・リーシア公女殿下。

 種族は【(ヒューマン)】。

 第2公女。

 御歳(おんとし)12歳。


 彼女は大公の末娘で、ウィレミーナの妹である。

 ウルブリヒト大公・大公妃夫妻や、ウィレミーナや、ヴァレンティーノ皇太子や、第2公子などロイヤル・ファミリーから溺愛されるお姫様だ。

 ちょいポッチャリなのは、家族から甘やかされてお菓子などを好きなだけ食べさせてもらっているからかもしれない。


 フローラ・ロマリア。

 種族は【ドラゴニュート】。

 ウルブリヒト大公の側妃(第2婦人)。


 御歳(おんとし)……いや、一定以上の女性の年齢には言及しないのが無難だ。

 俺にも、そのくらいの分別はある。


 彼女は、隣国【ドラゴニーア】から嫁いで来た側妃だ。

【ドラゴニーア】は貴族制を廃止した身分制度がない国なので、つまりフローラ妃は平民の出自なのだが、彼女は当代【神竜神殿】大神官の一族であるロマリア家の出身なので、大公の側妃としての家格は十分なのだろう。


 ジョヴァンナは正大公妃の娘なのだが、護衛という意味もあって、大概は側妃のフローラ妃がジョヴァンナと一緒にいる事が多い。


 フローラ妃は、多分個体戦闘力では【リーシア大公国】最強だ。

 彼女は、大公の側妃に娶られる前は、隣国【ドラゴニーア】の航空騎兵隊の司令官として武名を馳せた豪傑で、泣く子も黙る【(ドラゴン)・スレイヤー】なのである。


 この人は怒らせない方が良い……と、俺の危機感知センサーが警鐘を鳴らしていた。


 俺は、ジョヴァンナ公女とフローラ妃に丁寧な挨拶をする。


「わ〜、ジョヴァンニ〜……」

 ジョヴァンナ公女は全速力で走って、抱き付いて来た。


 おっふっ……。


 ハグというよりタックルである。


 ジョヴァンナ公女は12歳の女の子だが、俺は【小人】族の【ハーフリング】で体格がジョヴァンナ公女よりも小さい。

 勢い良く飛び込んで来られると、吹き飛ばされそうになる。


「ジョヴァンナ公女殿下。ご機嫌麗しいご様子ですね」


「うん。久しぶりにジョヴァンニに会えたから嬉しいわ」

 ジョヴァンナ公女は言った。


「ジョヴァンナ。良かったわね。偶然ジョヴァンニを見付けられてラッキーだったわ」

 ウィレミーナが言う。


 何故だかわからないが、俺は昔からジョヴァンナ公女に懐かれていた。

 オムツを付けてヨチヨチ歩いていた頃から、何故かジョヴァンナ公女は俺に会うと喜ぶのである。


 俺が【ハーフリング】で体格が小さかった事と、ジョヴァンニとジョヴァンナというお互いの名前が似ていて親近感を持たせたのかもしれない。


 ウィレミーナは、妹のジョヴァンナ公女を溺愛している。

 だから、妹を喜ばせる為に俺を連行して来た訳だ。


 本当は疲れているから、一刻も早く伯爵邸に帰りたいのだが……。

お読み頂き、ありがとうございます。

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本作は「ゲームマスター・なかのひと」のスピンオフ作品です。

本編「ゲームマスター・なかのひと」も、ご一読下さると幸いでございます。


・・・


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