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第1話。目覚めたら知らない天井だった。

幸運は勇者を好む。

古代ローマの格言。

 目覚めると知らない天井だった。


 ラノベとかにありがちなアレだ……。


 記憶が判然としない……。


 というか記憶が失われている……たぶん。

 自分が何者で、何でこの場所で目覚めたのかが全く思い出せない。


 記憶喪失か?

 困ったな……。


 とりあえず身体を起こしてみようと思ったけれど……失敗した。

 身体が鉛のように重い。

 いや、どうやら筋力が酷く衰えていて自由に身動きが出来なくなっているらしい。

 というか自分の身体を制御出来なくなっている?

 脳の指令を神経が上手く身体に伝達していないようだ。


 半身不随?

 事故って脊椎とかを、ポッキリやっちまったか?

 事故に遭って大怪我をしたとかなら、記憶がなくなっている事との整合性もある。


 それから、さっきから辺りが良く見えないのだ。

 明るさや色彩は感じるが、あらゆる物の輪郭が酷くぼやけていて焦点を結ばない。


 事故の怪我や後遺症で視力も逝っちまったのか?


 ちっ……ついてない。


 自分の身に何が起きているのか理解出来ず混乱していると、何だか無性に腹が減った。

 それも抗い難いくらいに強烈な空腹感がして半端ない。


 すぐに何かを食べなければ、このまま死んでしまうのではないか……とさえ思うような切迫感がある。

 とりあえず何でも良いから胃に入れなければ……。

 いや、俺の今の状況から考えると、栄養剤の点滴とかか?


 とにかく俺が事故かなんかに巻き込まれて、現在こうしてベッドらしきモノに寝かされているのだとするなら、救助されて病院で治療されている可能性が高い。

 人工呼吸器の(たぐい)が付けられていないという事は、生命に関わるような重篤な容態ではないか、あるいは重篤な容態からは既に回復したと推測出来る。


 まあ、このまま死ぬような事にはならないだろう。

 とにかく食事だ。

 食い物が欲しい。


 ふと、近くに誰かの気配を感じた。

 誰?

 看護師さん?

 俺の家族の付き添いかもしれない。

 家族の記憶も全く思い出せないが……。


 この際、誰でも良い。

 今現在こうして柔らかいベッドに寝かされているという事は、誰かが記憶がない俺を適切に保護してくれているという事だ。

 事故に遭った俺は病院に搬送され、救命措置が取られ、何とか一命を取り止めて、たった今意識を取り戻したという事なんだろう。


 だ……誰か。

 誰かいるなら食べ物をくれ……と、言おうとしたが言葉にならなかった。


 その代わりに口を吐いて出たのは声。

 そう、泣き声だった。


「オギャーー、オギャーー、オギャーー……」


 えっ?

 これが俺の声か?


 すると、足音がした。

 足音は、こちらに近付いて来る。


 事故の後遺症か顔を向けるのも大変だったが、薄ぼんやりとした視界の中に人影が見えた。


「はいはい。今ミルクをあげますよ」


 差し出された物は……哺乳瓶?

 泣いている俺の口元に哺乳瓶の吸口が接触する。


 ほとんど脊髄反射的に、俺はそれを咥えて嚥下を繰り返した。


 ああ……美味い。


「あらあら、まあまあ。そんなに勢い良く飲んで、食いしん坊さんだこと……」


 ……どうして、こうなった?


 ・・・


 どうやら俺は、前世の記憶を持ちながら赤ん坊に転生した……ようだ。


 いや、厳密には前世の記憶というモノは、あまり思い出せない。

 だが、間違いなく以前の自分が人間で大人だったという自己認識がある。


 何故だかわからないが俺が赤ん坊になった経緯で、記憶野が破壊又は再構築された所為(せい)で系統立った記憶が失われたのかもしれない。


 俺は女性に抱かれていた。

 ミルクを飲まされている。


 この女性……俺の……というか、この俺が転生したと思われる今の肉体の母親か?

 それはともかく、俺が大人だというのは、この母親らしき女性が話す言語を完璧に理解出来ているのが、その証拠だろう。


 母親らしき女性が話している言語は日本語だった。

 ラノベにありがちな自動翻訳的なチート能力の(たぐい)ではない。

 何故ならボンヤリとしている視界の中で俺に話し掛けている母親らしき女性の口の動きが、間違いなく発声と同期している。


 間違いない。

 この母親らしき女性は確実に日本語を話していた。


 俺は日本人だ……たぶん。

 記憶が判然としないが、俺が日本語を理解しているのだから、そうとしか思えない。


 英語とかは……まあ、挨拶程度なら……。


 グッドモーニング・エブリバデェ……。


 うん、俺が英語圏出身でない事は確定だ。


 母親らしき女性は、俺に対して優しい口調で話し掛けている。


 くっ、だが俺の方は喋れない。


 哺乳瓶を口に突っ込まれている事もあるが、そもそもの問題として今の赤ん坊の身体では発声器官が未発達なのだ。

 意思表示は精々が泣くので限界か……。


 スコッ、スコッ……。


 お、ミルクが空になった。

 うい〜……満腹、満腹。


 突然俺は、転生した今の身体の母親らしき女性に抱き上げられた。


 な、何をする!?


 俺は女性の肩に担ぐ様に抱かれて、背中を叩かれた。


 トントン、トントン……。


 おいっ、それを、やめ……。


「げ〜ふっ……」


 ゲップをしたら、また寝かされる。


「はい。オムツも替えましょうね〜……」

 母親らしき女性が言った。


 えっ?

 いや、俺には大人の男としての羞恥心というモノがあってだな……。


 あ、ちょっ、待て……あーーっ……。


 ……もう、お婿(むこ)に行けない……。


 ・・・


 俺は成長して、毎日貪欲に知識と経験を蓄積している。


 この世界は、どうやら俺が知る前世に比べて文明水準が低いようだ。

 おそらく中世頃の文明水準だろう?

 そして、どうやら、ここは日本ではない。


 俺の薄らとした記憶に照らし合わせると、ヨーロッパ的な文化らしい。


 文明水準が低いのならばラノベでありがちな……前世の知識チートで俺TUEEE……が出来るんじゃなかろうか?


 その為にも、この世界の知識や技術や常識を学ばなければならない。

 こちらの世界の常識を知らずに何も考えず前世の知識チートをブン回すと悪目立ちして権力者かなんかに目を付けられてトラブルに巻き込まれる……というのがラノベのテンプレだ。


 この世界の常識の範囲内に少しだけ前世の知識チートを混ぜ込めば、世の中は俺を天才かなんかだと勘違いするだろう。


 この世界……。

 そう、ここは異世界らしい。


 当初俺はタイム・リープしたのだと考えていた。


 タイム・リープとは、意識が時空を移動し、過去や未来の自分の身体に乗り移るという意味らしい。

 一方でタイム・トラベルは、自分自身の意識と身体を、そのまま保ちながら時空を移動する事を意味するのだとか。


 つまり俺は、赤ん坊時代の俺自身の身体に乗り移ったのだ、と考えた。

 しかし結論から言えば、これはタイム・リープでもタイム・トラベルでもない。


 タイム・リープによって過去の自分に乗り移ったとするなら、幾らなんでも中世ヨーロッパでは古過ぎる。


 現在俺がいる世界は、俺がおぼろげに記憶している、かつて暮らしていた世界ではなかった。


 俺が薄らと記憶している元の世界は、石油資源と電力によって構築された文明世界……だった気がする。

 自動車、航空機、インターネット、コンビニ、そしてアニメやゲーム……。

 対する、こちらの世界は、文明の程度から類推して中世頃の西欧辺りの何処(どこ)かに()()()()


 つまり当然ここは日本ではなかった。

 周りの人間達が全員日本語を喋っているのが解せないところなのだが、事実だから仕方がない。


 日本語を公用語とする外国はない筈だから、ここは異世界だと結論付けるしかないだろう。

 俺の顔立ちもバタ臭い……所謂(いわゆる)コーカソイド系のビジュアルだ。


 まだ子供だが、それなりに整った顔立ちをしている。

 もしかしたら異世界転生もののお約束、ハーレム系無双も夢ではないかもしれない。


 怪しまれないように家族から色々と情報を収集すると、ここは【リーシア大公国】という国らしい。


 何となく聞いた事があるような……。

 ダメだ、思い出せない。


 そして俺が、この世界を異世界と判断するに足る決定的な根拠は……。

 こちらの世界には魔法があった。


 つまり、俺はファンタジー系の異世界に転生しちまったらしい。


 ・・・


 12年が経った。

 早いモノだな。


 おぼろげな前世の記憶を基に、今いる異世界の知識を学んだ俺は、それなりの知識チートを手に入れている。

 もはや独りで生活し始めても収入を得る為の仕事というかノウハウの目星も付けてあった。

 まだ、しばらくは現世の実家の世話になっていたいと思うが……。


 運が良かったのは俺が転生したのは、異世界のとある貴族家だった事だ。


 ウチの父親カルディナーレ・カンパネルラは【リーシア大公国】のお貴族様で、そこそこの地位にあるらしい。

 男爵だとか何とか……。


【リーシア大公国】の君主は大公陛下という人で、それ以下の爵位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵。

 男爵は下から2番目だった。


 いや、問題ない。

 何故なら父親の父親……つまり、ジイジ、もとい祖父であるヴァレンティーノ・カンパネルラ伯爵が存命在位だからだ。


 ジイジというのは、祖父が俺に呼ばせている呼称。

 うん、初孫の俺は異様に可愛がられている。


 話を戻そう。

 祖父の爵位は伯爵。

 大公陛下から数えて4番目の爵位だ。

 下から数えても4番目。


 中間で大した事はない?


 とんでもない。

 貴族社会というヤツは、君主を頂点にピラミッド型の階層構造になっている。

 つまり上位爵位になる程、人数は少ない。


 伯爵家は上から数えて10家に数えられる上流階級だ。

 そして今は男爵の父親は長男である。

 祖父が亡くなるか、長男の父に家督を譲れば、俺の父親が伯爵位を継承する訳だ。

 父親の男爵位は、祖父の伯爵家が持つ爵位の1つを家督を継ぐ前の父親が便宜的に称しているに過ぎない。


 ふふふ……つまり俺は勝ち組だ。


 おかげで、俺の現世での実家は、ある程度裕福で、ある程度の権力を持ち、ある程度の自由がある。


 生活の為に汲々としなくても良い社会階層で、俺が必要な知識を学ぶには有利な家庭環境だった。


 異世界転生直後は、ついてないと思ったが、それは間違いだったと訂正しなければならない。


 俺はついている。

 それも相当に幸運だ。


 俺が転生した実家はカンパネルラ家。


 何でも大昔の御先祖様が戦争の時に火の見(やぐら)に昇って鐘を打ち鳴らし続けたらしい。

 その鐘の音が味方を鼓舞して街を守る事に一役買ったからという理由で、当時の王様に褒められて……(カンパネルラ)……という家名を(たまわ)ったそうだ。


 カンパネルラ家の当主……つまり祖父は、大公都【モンティチェーロ】で代々財務に携わる法衣伯爵なので、管理領地は狭い。

 領地からの税収ではなく、主に国からの給料で生計を立てる貴族を、俗に法衣貴族と云う。

 代々のカンパネルラ伯爵は領民に優しい善政を敷いていて税率が低い。

 ほぼ全ての税収は、そっくりそのまま領地の治安維持や保健衛生や教育など領民の為に支出されていて、伯爵家には1銅貨も入って来ないのだ。


 伯爵家の収入は、財務官として国から支払われる給与と、資産運用によって得た金融所得だけ。

 まあ、それでも如才(じょさい)なく稼いで、借財もなく、それなりに良い生活水準を維持しているのだから、代々のカンパネルラ家の当主は存外に馬鹿ではないらしい。


 ・・・


 色々な事があったが俺は成人した。

 こっちの世界では、15歳が成人年齢である。


 来年の頭から俺は隣国【ドラゴニーア】の【竜都】にある国立学校高等部に入学する事になった。

 代々のカンパネルラ家の子供達は、【竜都】に遊学するのが通例らしい。


 もう何年も前から薄々わかっていた事だが、俺は両親の実子ではなかった。

 何故なら、俺は成人したというのに異様に背が低いのである。


 平均身長云々という話ではない。

 明らかに種族が違っている。


 たぶん【小人】族とか、そういう種族だと思う。

 随分昔から近所の子達と喧嘩をすると……や〜い、チビ、チビ……と言われて来た。


 ウチの近所のガキ達は、つまり祖父のカンパネルラ伯爵領の領民の筈なのに、将来カンパネルラ家の跡取りになるかもしれない俺に対して酷い言いようである。


 まあ、祖父も父親も領民を大切にする良い殿様と若様だから、俺を領民の子供達と遊ばせるし、喧嘩をしたって領民の子供や、その親を怒ったりしない。

 それがわかっているから、近所のガキ達も調子に乗ってやりたい放題だ。


 精神年齢が大人の俺は喧嘩など馬鹿馬鹿しいと、なるべく稚拙なガキの喧嘩を避けようとするのだが、ウチの両親が他の子と比べて大人しくて走り回ったり転げ回ったりしない俺を心配して……男の子なら喧嘩の1つでもして来い……とばかりに焚き付ける。

 俺ではなく、近所のガキ達の方をだ。


 だから俺は酷い目に遭う。

 幾ら何でも自分の子供を、近所のガキに殴らせる親は酷いと思うのだが?


 まあ、それも両親なりの愛情だという事が何となくわかっているから俺も怒れない。


 そうだ。

 俺が両親の実の子供ではないという話をしよう。


 俺の両親は【(ヒューマン)】だ。

 そして俺の種族は【ハーフリング】という種族なのだとか。


 うん、遺伝的親子関係はない。

 俺は誰が見てもわかる養子だ。


 その事を母親に恐る恐る訊ねたら、あっさり認めたのである。


「ジョヴァンニ。私は子供を産めない身体なの。それが、わかった時、私は旦那様……つまり、あなたのお父様に離縁を申し出たのだけれど。優しい旦那様は、それをお認めにならなかったの。だから、あなたを神殿の孤児院から養子として引き取ったのよ。でも心配しなくて大丈夫だからね。カンパネルラ伯爵様(ジイジこと祖父)も、あなたのお父様も……跡取りは、あなたにする……と決めていらっしゃるから。【リーシア大公国】では養子でも爵位を継げるから問題はないわ」

 母親は泣きながら教えてくれた。


 なるほど。

 俺は孤児だった訳である。


 そして俺の現世での名前はジョヴァンニだ。

 前世で日本人だった頃の名前は思い出せない。


 しかし、ジョヴァンニ・カンパネルラか?


 それって……銀河鉄道の何ちゃら……とかって云う日本の古い児童文学に出て来る登場人物2人の名前じゃ……。


 いや、まあ、両親は、そんな日本の物語の事なんか知らないのだろうから致し方ない。


 えっ?

 銀河鉄道の夜という物語を知っている?

 むしろ両親が2人共大好きだった物語……銀河鉄道の夜……から(あやか)って俺に命名した、と?


 どういう事?

 ここは異世界の筈なのに……。

お読み頂き、ありがとうございます。

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本作は「ゲームマスター・なかのひと」のスピンオフ作品です。

本編「ゲームマスター・なかのひと」も、ご一読下さると幸いでございます。


・・・


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