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 3日後。

 始まりの白いもやの中。

 みんな、ちいさいのと一緒に立っている。

 私は相変わらず一人。

 私の番…。

 そう言わなければいけないのに、何の番で、どうしたらいいのか、判らない。

 みんなも判ってる。

 私が、ちいさいのを連れていないのも。

 訳も判らずに参戦しているのも。

「じゃあ、行くね」

 ルージュの剣がもやを切った。

 真っ暗。

 どこにも敵はいない。

 何の攻撃もない。

 しばらく待っていても、何も起こらない。

「…これで5回、終わり、ね」

 ジョーヌが言った。

「みなさん、ありがとう」

 そして、消えた。ドゥエも一緒に。

「何もないんじゃね…。何もできないわよね。それじゃあ」

 そう言って、ルージュも消えた。トレが少し振り返って、私をじっと見つめて消えた。

「お大事にね」

 ヴェールも消えた。クァトロは最後までヴェールの肩にいて、目を閉じていた。

「…諦めないでね」

 ブルーも消えた。ウノも私を見て、ゆっくりと手を振って去って行った。

 私はどこにも行かない。

 目も覚めない。

 この暗闇の中、一人取り残される。

 手には何もない。

 でも、出し方は知っている。

「シャイニング!」

 決め言葉で出てきたステッキを握る。

 腹が立つ。

 ちょっと憧れていた魔法少女になれるなんて、嬉しかった。

 コスチュームもかわいい。自分専用のオリジナル。

 ステッキも素敵。

 コスプレでもここまで完璧にはできない。

 でも、どうして私が魔法少女になった?

 みんな判っているのに、私だけ判らないなんて。

 最後まで、私の目的がこんな真っ暗なままなんて。

 腹の立つまま、振ったステッキの泡は、いつもより大きな粒だった。

 真っ暗な世界を走る。

「出てこい、キツネもどき! 何逃げ回ってるんだ!」

 オレンジ色の泡が、光りながら、真っ暗な世界ではじけて、消えていく。

「私に何をさせたかったんだよ! 言わなきゃわかんないよ!」

 走っても、走っても、続く闇。

 振っても、振っても、変えられない闇。

 足が絡んで、こけた。

 膝が痛い。顔が痛い。もう立ち上がれない。

「わあああああああん」

 うつ伏せたまま、声が枯れそうなくらい大きな声で泣いた。

 こんな泣き方、いつからしてないか、判らない。

 真っ暗な世界で、自分の声だけが響いて、耳よりも、心が痛い。

「もう目覚めてよ。もう5回終わったじゃないよ!

 みんなだっていなくなったじゃない!

 ステッキだって、こんな真っ暗な世界で、何の役にも立たないじゃない!

 私は、魔法少女なんかじゃない。

 ただの、普通の、高校生なんだから!」

「…泣くなよ」

 いつの間にか、頭元にキツネもどきが立っていた。

「巻き込んで悪かったよ」

 うつ伏せて泣いたままの格好でそおっと手を伸ばし、素早く尻尾を掴んで、起き上がった。

 宙ぶらりんになったキツネもどきは、慌てはしていたけれど、暴れることもなく、だらりと逆さにぶら下がったままこっちを見ていた。

「何よ。何で私を呼んだのよ」

「1人足りないから…」

 キツネもどきはこっちの隙を突いて尻尾を大きく振ると、私の手から離れ、妙にかっこよく着地した。

 そこを逃してなるか、と両手で脇を掴んだ。少々ジタバタしようが、離しはしない。

「1人足りないって、どういうことよ」

「1人につき1人、5人の戦士が揃ったら、チャンスをやるって死神が言ったんだよ」

 死神…?

「あのちっちゃいのはみんなそう言われた奴らだ。別に死ぬとは限らなくったって、チャンスをやるなんて言われたら、みんな助かりたいって思うさ。」

 ちっさいのは、助かりたがっている…

 魔法少女は、助かりたがっているちいさいのを助けるために戦う戦士。

 死神が言ったってことは…

「…病気?」

 キツネもどきから力が抜けた。

「あんたは、何の病気なの」

「…」

「他のみんなは、知ってたんだよね、自分のパートナーの病気。何で私だけ知らないの? 何で知らない私が戦うの?」

「…」

 この暗闇は、もしかして、私が敵を知らないせいで、戦う相手が出てこないのかも。

「人を巻き込んでおいて、何も教えないで終われると思ってないよね」

 ぷい、っと顔を背けたキツネもどきの態度が腹立つ。

 片手で床に押さえつけ、脇の下を思いっきりくすぐってやった。

「吐け。何の病気だ! こら、言え! これでもか! 言わないならもっとやってやる」

「や…やめろ… が、な、…何… やめっ…」

 くそ、脇こちょで効かないなら、足の裏も攻めてやる。

「吐け。とっとと吐け!」

「ははははは、やめ、 や…、わ」

「なにい?」

「や… わ、…わかった。わかったから! やめろ!」

 キツネもどきを解放すると、笑いすぎでゼエゼエと上がった息を整えながら、あぐらを掻いた。

 あの短い足で、どうやってるんだろう。

「…手術すんだよ」

 目を合わせずに、吐き捨てるように言われた。

「変な腫瘍がまた出てきて、肺に転移する前にとれば大丈夫だって…。大丈夫だって言われたって、痛いんだよ。もう痛いの嫌なんだよ!!」

 手術…、また?

「とったってまた出るかもしれないのに、嫌だって言うこともできない。やるしかないって、やって当然だって。みんなそう言うんだよ。何だよ…」

 そうか。

 他の4人は、助かりたい、と思ってる。

 なのに、このキツネもどきは、助かる手術を嫌がっている。

「痛い思いしたって、またできるかもしれないのに、何回こんなの繰り返せばいいんだよ!」

 拗ねるままに、こっちには何も話さず、戦いの場にも来ず、自分の番になっても出てこなかった。

 でも、呼んだ。

 魔法少女を、呼んだ。

 5人目になった。

 助かりたくないわけじゃない…。

 腹立つ。ほんっと、腹立つ。

 ちいさいのの首根っこをひっつかんで持ち上げ、目の前に持ってきた。

「相沢君」

 キツネもどきがびびった顔をした。

 当たり、だ。

 病気と聞いたらすぐに判った。

 私の周りに病人はあんただけだ。

「私は怒っている」

 ステッキを出した。

「名前も、武器の出し方も教えてもらえず、戦いの意義もわからず、これでどうやって魔法少女やれって言うんだよ」

 ステッキを軽く振ると、シュワシュワな泡が出てくる。

 シュワシュワを頭からシャワーのようにぶつけまくってやった。自分の手にもかかったけど、別に痛くもなんともない。ただの嫌がらせ。

「数合わせでも5番目に選ばれておいて、運が悪いわけないよ」

 拗ねた顔をする。でも何も言わない。

『奇跡が起こるのを待つだけの人間など、我が敵ではない』

 アレク様。あなたの言葉が身にしみる。

 私は、本当は魔法少女じゃない。

 悪の王、アレクシオン様の手下だ。

 見てろ。


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