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夢から出てきた石を持っているからと言って、その日は特に何も起こらなかった。
ちょっと期待しながら、学校にも持って行ったけど、光りもしない。
落としてもまずいので、早々にチェーンを外してバッグのポケットに入れ、チャックを厳重に閉めた。
今日は「ダンジョン周回4周め」を見た後、先週の「シャイニング・フローレ」からアレク様が出ているところだけをもう1回…4,5回見て、早々にテレビを切り上げた。
宿題が出ていた。
自分の部屋に行くと、机の上のアレク様のポストカード(額入り)をじっと見つめる。
あなたが見守ってくださるなら、私は頑張れる。
突如、辺りに白いもやが立ちこめる。うっすらと浮かぶ4つの影。
「来たね」
声をかけたのは、長髪のポニーテールの似合う、りりしいお姉さんだった。
私より10センチは背が高い。青いオーバーブラウスに、裾がふわりと広がったミニスカート姿。もちろん、ショートスパッツもはいてる、健康お色気枠。
肩の近くには白い2等身のふわふわな「ちいさいもの」が浮いていて、愛想良く笑ってる。
「私はブルー。これはウノだ」
ちいさいのの名前だ。
後ろから出てきたふわふわショートヘアの女の子は
「こんにちは。よろしくね、私はジョーヌよ。」
黄色のポジション。おそろいのミニスカートの戦闘服。
ジョーヌの近くにも、ちいさいのがいた。ピンクのかわいい子犬型2等身。
「こっちがドゥエ」
くるりとバック転をしてかわいく手を振る。
「私はルージュ。相棒のトレ」
赤色には黒い猫型のちいさいの。
「うっす」
と男の子っぽくしゃべるのがまたかわいい。
「ヴェールです。こっちがクァトロ」
緑ポジションはツインテールで、ちょっと恥ずかしがり屋さんのよう。小さいのは肩に乗っていてじっとしていて、ずいぶんおとなしい。
…で
皆さん、私の自己紹介を待っている。
私、…誰?
まさか、このシチュエーションで、本名名乗るってのは、ないよね。
私、聞いていないんだけど。
私は誰?
相棒は??
相棒はどこよ!
キョロキョロと探し回っていると、いきなり頭の上に、昨日の目つきの悪い小さいのが落ちてきた。
「こいつ、オランジュ。俺、ティンクゥエ」
しかもなんでうちらのコンビだけ、ちいさいのが仕切ってんだ?
ちいさいのをふんづかまえて、抜け出そうとジタバタするのをにらみつけた。
「なにしやがる」
「あんたが先に説明してないから、私がしゃべれないんだろうが」
怒鳴りながら前後に振り回すと、するりと手から抜け出し、
「痛っ!」
顔面に蹴りを入れられた。
何だ、なんだ一体こいつは!
ふん捕まえて頭に拳をぐりぐりと埋め込んでやった。
「これで5人揃ったわね」
暴れている私と珍獣を無視して、ブルーが言った。
「じゃ、まずは1日目」
「私のところです。よろしくお願いします」
ジョーヌが頭を下げた。そして、天に向けて弓を射る。
すると急に周りのもやがなくなり、洞窟の中になった。
コウモリが飛んでいる。
その奥に、丸く赤く光る、まがまがしいもの。
「あれを倒します!」
ブルーが飛び上がって、手から光のボムを放った。
ほとんどが命中し、赤い物が黒ずんでいく。
ジョーヌは弓を構えた。
1矢射ると、進みながら別れて10以上の光の矢に変わり、赤い物とその周りに突き刺さっていく。
コウモリも何匹か落ちていった。
ヴェールは鞭。しなやかにたわむ緑色の鞭が、鋭い先を赤い物に突き刺すと、緑がかった光がヴェールの手元から赤い物へと流れていき、明らかに赤い物は小さくなった。
そこへ、ルージュの剣。
飛び上がって大きく振り下ろすと、周辺の赤い物は一斉にはじけて、黒い煙を上げた。
私の手には、ステッキがあった。
これは、魔法少女の世界なら、みんなに一つづつ与えられて、何らかの武器になるアイテムなんだろうけど。
他のみんなが武器っぽい物を持っている中、自分だけがステッキって、浮きまくり。
とりあえず、振ってみた。
オレンジ色の小さな泡がしょぼく出てきた。
炭酸のオレンジジュースみたい。
シュワシュワの量の少なさは、動きでカバーするしかないか。
とりあえず、走り回って、振り回って、ステッキから出る泡で世界を満たすべく、フリフリ振りながらと忙しくその場を回っていると、一応しょぼいながらも何らかの攻撃にはなるらしく、泡があたると赤い物は少しづつ黒く、小さくなり、やがてみんなの攻撃の果てに消えてしまった。
「よ、良かった…」
こうして、私を含め、5人全員の協力の下、赤い丸いのから洞窟は守られたのであった。
…て、あの赤いのは何?
これをすることに、何の意味があるの?
正義はどこに?
敵は名乗りもしないの???
にっこりと笑うジョーヌとドゥエ。ジョーヌがドゥエを優しくなでると、ドゥエも甘えていた。どう見ても、既知の知り合い、それもかなり親しい間柄とみた。
「皆さん、ありがとう!」
「じゃあ、次は3日後に」
そう言うと、みんなその場を去って行った。
目が覚めると、午前3時。
宿題は2問目以降手つかずだった。