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中間テスト…。
今日で終わる、中間テスト。
テレビを封印するのが一番つらかった…。
しかし、去年の受験勉強でわかった。
勉強しなければ、ばかになる、と。
勉強しても賢くなるとは限らない。でも、しなければ、ばかになるのは確実。
『知恵を持て。正義を名乗る者と戦うのなら』
ああ、アレクシオン様。
あなたの言葉がテストに出たなら、私は100点を取る自信があります。
でも、今は、すいへいりーべー、を優先。
数時間後…。
4日間に及ぶテストが終わり、その日の午後は2週間封印したビデオ三昧、自分へのご褒美を堪能した。
翌日から帰ってきたテストは、まあ、赤点はなかった。
…それだけ。
平和な日常が戻ってきた。
テストが終わってから相沢君は休みが続いていた。
奴がフローリアンかどうか、まだ確認は取れていない。一緒にシャイニング・フローレの話ができる貴重な存在になるかもしれない人材の不在は、ちょっとだけ気になった。
1週間ほどして、久々にやってきた相沢君は、不思議な憂いを秘めていた。
憂いというとかっこいいけど、病み上がりだからやつれている、と言った方が正しい。
同じ帰宅部部員は、帰る時間も大差なかった。
校門前で、携帯で電話してる。
…ほら、携帯についているのは、ガーベラさんのストラップ。間違いない。
電話を切った相沢君と目が合った。
ストラップをじっと見たのがばれた。
「が、…ガーベラさん、かわいいですね」
褒めてみた。
反応、薄っ!
にこりともしねえ。
「じゃ、じゃあ、また! あはははは」
いそいそと自転車に乗り、ダッシュで立ち去った。
人の趣味の世界に踏み込んでしまった。
踏み込んだくせに、何にも得られなかった。
仲間かどうかもわからんときた。
やめときゃよかった。
センシティブな問題だし。
明日からは、知らんぷりしておこう。
その日の夜、枕元に妖怪が出た。
夜更かし三昧で、布団に入った夜中1時。
気配がして目を開けると、のぞき込んでる小動物。
2等身の茶色いぬいぐるみのような、お決まりのお供風…、小動物?
目が、かわいくない。やさぐれた小悪なキツネって感じ。
「やる」
ぶっきらぼうにそう言うと、光る宝石のような物が突然空中に現れ…
ガンッ
おでこにぶつかった。
「いったあ・・・」
小さな、2センチくらいのオレンジ色の石。
「何…何なの? あんた、誰?」
「それ持ってたら、変身できる」
「変身?」
ちっちゃいものに、変身・・・こ、これは、この展開は、
魔法少女?
「まあ、5回限定だし、適当に頑張ってよ」
て、てきとうに?
どう見ても、めんどくさいけど説明終わりました、という雰囲気を醸し出している。
「いや、これって、魔法使って何か倒すって、あれだよね、あれ」
足で耳をかいてる。
「コスチュームチェンジのやり方は? 何と戦うの? 悪い奴、かっこいい? あんたはどういうポジションなわけ? 私に助けてほしいことって」
露骨に、うっせえなあ、と言わんがばかりの顔をした。
横になって肘ついて尻掻いてるし。
かわいくない。
私の知ってるちっちゃいものは、悪い奴らに国を乗っ取られたり、大事な物を奪われたりして、助けてーってやってくるんだよ。
その姿が超キュートでないと、助けに行ってあげなきゃ、って思えないでしょ?
アイテムの使い方も、変身の仕方も、懇切丁寧に教えてくれて、うるうるな目でこっちを見つめて、仕方がないなあ、って戦いへの道へ進んでいく…って展開じゃないんですか?
「まあ、そのうちお呼びがかかるから。勝っても負けても5回ポッキリ。てなわけで、じゃ」
じゃ、と言うと、そいつはボン、と煙になって消えた。
名前も名乗らず、使命も聞かせず。
手の中には、オレンジ色のきれいなアイテム。
つまらない夢を見た。
そう思ったのに、次の日になってもオレンジ色の石は消えてなかった。
チェーンまでついて…。
どう見てもガチャの景品にしか見えない。