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過去の出来事

初投稿です。

小説を書くのも初めてなので、

至らない点が多々あるかと思いますが

宜しくお願い致します。

1話


奇抜なタイトルの書籍というのはどうしてこうも目を引くのか。

書店や図書館に足を運んだ事のある人なら目当ての書籍を手に入れるついでに

別の棚を覗いた時、興味のないジャンルで見た事のない作者のはずなのに、

何故かタイトルに惹かれて買いもしないのに

思わず手に取ってしまった経験はないだろうか。

本が好きな僕としてはあの瞬間は何度でも味わいたいほど好きだ。


そんな僕は今、とても頭を抱えている。

祖父が作った図書館の従業員として手元にあるこの書籍を

これから来るお客さんに貸し出さなくてはならないからだ。


『チーズたくあんの調理法』


・・・奇抜にも程がある。

食卓に並べるな選手権が存在するのなら堂々の1位を飾れそうだ。

そんな事より何故このタイトルでジャンルが

”推理小説”なのか全然検討がつかない。

考えれば考える程に謎が深まっていく気がする。


「はぁ・・。問題が多すぎてこれからどうしようかな・・。」

焦りと不安から出た独り言が虚しく消えていく。

どうしてこんな図書館で働くことになったのか、

それを説明するには少し前に遡る必要がある——






「働き場所が無いなら、

 おじいちゃんがやってる図書館に行ってみたらいいじゃない」


母にそう提案されたのは季節が冬に差し掛かった頃の夕食時だった。

会話の流れとはいえ何故態々そんなことを言われなくてはいけないのか、

疑問に思うかもしれないがそれに関してはとても簡単な話である。


僕は大学を卒業して以来、アルバイトも含め働いた経験が人生で一度もない。

所謂「無職」になってしまっている。誇らしい事なんて何一つない。


「・・・少し考えさせて欲しい。それとご馳走様。」

返答を濁し、食器を流しに置いてから早足で

そそくさと2階の自室に戻ってきてしまった。

暖房を点けていなかった事もあり、若干の肌寒さを感じながらベッドに腰をかけ、

先ほど母から提案された事について考えた。


現状無職ではあるが、働く意欲が失せてしまった訳ではない。

自分に出来る仕事ならやりたいと思っているし、

そのチャンスが来ている事も理解している。

だが、あの場で僕は答えを有耶無耶にしてしまった。

仕事の内容等を整理する為に時間を作った訳じゃなく、

問題を先延ばしにして目を逸らす為の無駄な時間を作ったのだ。


こんな生活どこかで必ず見切りをつけなければいけない。

早く周りと同じ社会人にならねばと日を重ねる毎に強い焦燥感に駆られていた。


将来の事について考える度に思い出す事がある。

それは何も出来ない今の自分を形作ってしまった幼少期のとある事件。

他の人が聞けば”たったそれだけの事”でと感じる人がほとんどかもしれないが、

僕にとっては大きな過ちで払拭できないトラウマになっている。



小学生の頃、人知れず好意を寄せていた女の子がいた。

綺麗な長い黒髪がトレードマークだった彼女は皆んなの中心的存在で人気も高く、

それでいてクラスの輪に微妙に馴染めていなかった僕にも話しかけてくれる程、

分け隔てなく明るい女の子だった。

少しの気遣いが嬉しくて、毎日学校に通っていた事を覚えている。




夏休み明け初日、その子の髪型がボブヘアーに変わっていた。




既にこの時点で冷静さを失っていたのかもしれない。

クラス中に感想を聞いて回るその子が

実は別人ではないかと何度も確認してしまったが、

何度確認しても僕が好意を寄せていた子で間違いなかった。

そんなあっけにとられて固まっている僕を見つけた彼女が

嬉しそうな顔をしながら話しかけて来た。


「ねぇ、髪型変えてみたんだけどどうかな?」

イメージチェンジとはいえ、自分の髪の毛を切ったのだ。

其れ相応の覚悟があった事など今であれば容易に理解出来る。

でも、当時の僕は何を思ったのか———



「ロ、ロングの方が君に合ってた・・・と思う。」



静寂とは間違いなくあの場を指す言葉なのだろう。

僕はあの時人生で一番大きな選択を誤った。

冷静になればすぐ分かる事だが求められていた答えは、

どうでも良い個人の意見などではなく

「似合っているという強い同意」だったのだ。


そこからは地獄絵図。

彼女はその場で泣き出してしまい、色んな子がフォローしようと駆け寄って来た。

合わせて絶え間ない罵声の嵐が四方から飛んでくる。

やれデリカシーが無いだのなんだのと。

・・・僕もそう思う。

流石にデリカシーが無さ過ぎると悔やんでも悔やみきれない。

出来る事ならやり直してしまいたいとすら思う。


あの一件以降、僕に友人ができる事もなく、

彼女が話しかけて来る事もなくなった。

それと同時にトラウマから派生したある”癖”が僕には出来た。

相手の望む答えを出さなければあの悲劇を繰り返してしまう、

そんな気持ちからか自分が思っている事をそのまま喋って良いのか

頭の中で深く考える様になった。

否、考え過ぎる様になってしまった。


話しかけられても相手の望む答えを出そうと頭をフル回転させてる間に、

無言の時間がどんどんと出来上がり、それが余計に自分を焦らせる。

会話のキャッチボールなどその場には存在せず、

毎回不機嫌な顔と色々な文句を言われ終わりとなる。


全て自分のせいだと分かった上で、癖を直そうとする度

あの時の情景が鮮明に思い出されてしまう。

僕の心だけまるで成長せず、気づけば大学を卒業し学生時代を終えていた。

付いた癖が1日2日で無くなる訳もなく、

案の定就職活動に失敗し、アルバイトも落ち続けた。



出来る仕事は結局見つからず、日々後悔だけを重ねて、

家族以外に誰とも会わずに家から出ないで

ただただ時間だけが無駄に消費されていた。


少しだけ昔のことを思い出しながら、

ふと時計に目をやると意外にも長い時間が経過してしまっていた。


「・・・もう、寝よう。」

部屋の電気を消し、保安灯のオレンジ色がぼんやり真っ暗な部屋を照している中、

普段よりも目深に布団を被って寝る事にした。


これが僕の現状だ。

もうこの癖は直らないと諦めてしまった方がいいかもしれない。

今はただ、誰かと話す事が煩わしくて———


泣きながら眠るなんて、一体いつぶりだろうか。

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