5.中二病キャラが素に戻るとき、ツンデレのデレ並みの破壊力があると個人的に思っているのですが、皆様はどうお思いですか?
絶句している名も知らぬ彼女の前で大きく一回深呼吸をしてから、俺は口を開いた。
「いいか!? まずテンポがぐちゃぐちゃだ! 最初は百二十の行進曲くらいだったくせにメロディが変わった瞬間に九十くらいまでダウンしやがって! 弾いてた曲のタイトルはドがでるごとに遅くなっていく音楽なの!?」
「ち、違うわよ! これは……そう! アレンジよ! リミックスとか知らないのかしら!?」
「今の間は何!? 絶対今考えた言い訳だよね!? それとリミックスじゃない! 君のはただの音ずれだ! 戦闘シーンで切る音が遅れて聞こえてくるくらい酷い音ズレだ! 君はメトロノームを知らないの!?」
「し、失礼ね! 何言ってるのか分からないけど貶されてることは分かったわよ! それにメトロノームくらい家にあるわよ!」
アニメの曲を起こすバイトをしていたせいで例えがアニメ寄りになってしまった。
伝わらなかったらしいけれど、俺は確かに褒めてはいなかった。
もしも、他に例えるとしたら……そう、踏切の信号機だろう。
光の点滅と音のタイミングを微妙にずらしているからこそ感じる不快感、あれは不快感を起こさせるためにわざとそう設定されているけれど、予想通りに行ってくれないからこそイライラする。
遠くから見る花火は別だ。距離があるという事実が光と音の差による不快感を打ち消してくれる。
いや、こんな話は後回しだ。今はこの自意識過剰をどうにかしなければ。
「次に! どうしてこんなところでヴァイオリンを弾いているの!」
「なによ! だめなの!?」
「ダメに決まってるでしょ! ここは公園で砂ぼこりが立つんだよ!? ヴァイオリンだからまだましかもしれないけど金管だったら俺はキレてるよ!?」
「そ、それは……。ってもう君は切れてるじゃん!」
彼女の口調が崩れた。
多分、こっちが素なのかもしれない。だけど、そんなことに気がつきもせずに、俺たちの口論はヒートアップしていく。
「これで素晴らしい演奏だなんて言うなんて甚だ遺憾だね! 何が息を飲むほど素晴らしかっただ! 息を忘れるほど酷かったさ!」
「む、むきいいい! あれは弾き終わって気分が高まってただけだから! と、というかそんなに言うなら君は私よりも上手くヴァイオリンを弾けるんだよね!?」
「あ、俺、ヴァイオリンは専門じゃないから」
「はあああああ!? 何よ何よ何よ! 何よそれっ! もういい! 私は帰るから!」
そう言って名も知らない彼女は広場から出て行ってしまった。
目の端に若干光るものが見えた気がしたけれど、きっとそれは勘違いだと信じたい。
「……何やってんだ俺は……」
いつもの俺なら、遠くからこんな演奏を聴いたところで文句を付けに行ったりはしない。なのに、なぜか今日だけは言わなければならないという衝動に襲われてしまった。
思い返してみればかなりひどいことを言ってしまった気がする。もしも、また会うことがあったら、その時は素直に謝ろう。
もしも、万が一また会った時にだけど。
そう考えて、俺も帰路へとついた。
——こんな最悪な出会いこそが、俺と柊屋琴音の出会いだった
風邪をひきました。
これはいわゆる書き溜めです。
隔日投稿にする予定でした。