2.授業中に授業に関係ないことをする行動を内職って言うよな? え、言わない? は?
「よし! 完成っ!」
「ふぅん、鳴神さん、何が完成したというのかな?」
「え? それはもちろん今作のアニ……メの……」
俺の言葉は最後まで続くことはなかった。
ハッと顔を上げた俺の視界に入ってきたのは、授業中に突然大きな声を出した俺を怪訝そうな目で見つめるクラスメイトと、俺の机を覗き込む、今まさに授業をしていた担任の長岡先生の顔。
授業中の内職に夢中になっていたら、今が授業中だということを忘れるという元も子もない事態。
冷や汗をかき始めた俺を見て、長岡先生は大きくため息を吐いた。
「はぁ……。一応言っておきますが、教卓から何をしてるかは大体見えますからね?」
「えぇ!? そうなんですか!?」
「そうですよ? それに、皆さん鳴神さんを笑ってますけど、例えば……小西さんがいつも授業中にスマホをいじってることも中山さんがイヤホンを付けてることもばれてますからね?」
その言葉を聞いてクラスメイトに動揺が走る。
小西が急いでスマートフォンを隠しているのが目端に写った。その様子を見てクスリと笑うと、長岡先生は目を吊り上げて俺を見る。
表情は一瞬で真顔に戻すこととなった。
「な、鳴神のとばっちりだ!」
「とばっちりじゃありません。分かったらしっかりと授業を受けるように! 鳴神さんも、次見かけたら没収しますからね?」
「は、はい」
「さぁ! 授業を再開しますよ! 罰として、この問題は鳴神さんが解いてください」
長岡先生の指示に従って、俺は前に出た。
罰で解かされるのは、どうしてだか恥ずかしく感じる。ここで分かりませんというと更に恥ずかしいことになったかもしれないけれど、問題は解くことができた。
正解という声が聞こえてきたことを確認して、俺は着席する。
「ねぇねぇ詩音、結局のところ何が完成したの?」
内職を片付けていると、誰かから小声でそんな質問が飛んできた。
声のした方向をちらりと確認すると、そこにいたのは幼馴染の西野翠。どうでもいいことだけど、小学生からずっと同じクラスでもある。
「うん? あぁ、楽譜だよ。翠も知ってるでしょ? 俺のバイト」
「ふぅん?」
「な、なんだよ、その何か言いたげな表情は……」
「別に? ピアノは辞めたくせにそういうことは続けてるんだって思ってね?」
そう。
俺は、最新のアニメやドラマの主題歌をピアノの楽譜に起こすというアルバイトをしている。アレンジやメドレーも作ることがあるけれど、基本的にはテレビサイズで作る事がほとんどだ。
結構痛いところを突いてくる翠。に俺は「うっ」とうめくことしかできなかった。
「まっ。良いけどね? 辞めた理由も知ってるし……」
同情みたいなことをされるのも癪だから、せめてもの抵抗に俺はただ一言だけ言い返す。
「ほっとけ」