男色家で女嫌いだっていう公爵様からエーリンのおうちに結婚の申し入れがありました――どうやら小鳥で勇者な姫は黒翼の魔王と呼ばれる公爵の想い人であるらしい
女嫌いで男色家だっていうエスター公爵からおうちに結婚の申し入れがありました。エーリンの社交界デビュー迄にはまだ二年あったのに何処でお目にとまったのでしょうか。
公爵は黒翼の魔王と怖れらてる冷酷な人だと聞きます。エーリンは怯えてこわくて夜眠れず、ベッドで布団を被って泣いてました。うちは貧乏な伯爵家でお部屋にトイレなんて付いてなくてお漏らししてしまいました。だって、暗い廊下を歩かなければいけないし、臭くて狭いぽっちゃんのお便所なのです。
お布団に地図を画いたお仕置きのため、年取ったメイド長からお尻をぶたれて、とっても痛くて恥ずかしかったです。くすん、エーリンの黒歴史にあらたな一頁が書き加えられてしまったのです。
黒歴史とゆっても厨二病とかゆーのじゃありません。エーリンはそうゆーイタい子ではありません、お尻は痛かったけど違うのです。意地悪なお友達からは身長とお胸とおつむが足りないなんていわれてますが、かっこいい勇者や美しく清らかな囚われの姫に憧れちゃって親に黙って旅立とうとし、庭にある生け垣の迷路で迷子になって鼻水たらしながらわんわん泣いてるような、そんなお子様ではもうないのです。
今ではパンツ丸出しで木登りしたり裸で水浴びなんてちょっとくらいしかしない楚々とした令嬢なのです。
仇っぽくて美しい貴婦人から理不尽に嫉妬されたり、彼の恋人だった青年に命をねらわれたりしましたが、それもこれも無事に片付いてお会いした公爵様はとっても優しくて素敵な方で、心はもうわちゃわちゃで子宮がきゅ~んとしちゃいました。エーリンはえっちなのです、エーリンはおませさんなのです。
そんでもってそんでもってエーリンはエスター様に、そう呼んでくれっておっしゃった公爵様にお返事しなきゃいけないんですが、どーしましょどーしましょ。
あらすじが前ぶりで、ことの顛末は端折られており、本文がいわばエピローグとなります。
いろいろあれこれ想像していただければさいわいです。
「あんまりドキドキし過ぎて、心臓が口から飛び出しそうです」
初めての愛を囁かれた少女は、尨毛の雛鳥が羽ばたこうとするように、わたわたと腕を振り回した。
「大丈夫ですよ。飛び出して来たら、私が捕まえて上げましょう」
その肩を掴んでそっと引き寄せる。
「逃がさないで下さいね」
小柄な彼女は上向いてパクンと口を開けた。
「可愛い人ですね。食べてしまいたい」
肩に掛けていた手を静かに背中へと滑らせ、もう一方を腰へ回す。深く接吻し舌を絡めた。
「食べないで下さい! 舌を食べられたらしゃべれません、心臓を食べられたら死んじゃいます!」
息継ぎが出来なかったらしい彼女は押し退けようとしながら憤慨する。
「ほう、それは残念です。仕方がないから鳥籠に入れて置いて楽しむとしましょう」
生まれたての子鹿のようによろめいているのを支えてやった。
「なんですか、あなたは魔王ですか? エスター様!」
こちらに縋りながら頬を脹らまし、彼女のぷんぷんはまだ収まらない。
「おやおや、私にそんなことをいうとは勇者ですね」
揶揄うように微笑んでみせる。
「うーん、もう! 退治しちゃいますからね!」
どうやら回復したのか、ぴょんぴょん跳ねてポカポカ胸を叩く。
「朗な声で歌う私だけの小鳥。既にあなた私を虜にしていますよ」
姫はまっ赤になって俯いた。
こうして、勇者な姫と魔王様な公爵とは結ばれて、末永く幸せにくらしましたとさ。
めでたしめでたし。