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猫化して異世界を渡り歩きます  作者: 阿谷幸士
第一章 猫の夢
8/40

8,それぞれの目線

〈ブレンダ〉

一人の少女を拾った。

黒い髪に黒い瞳。

少女は木立の間で眠っていた。


どこから取ってきたのだろう?

少女は折れた木や集めた落ち葉を使って、簡易的な寝床を作っていた。

ここは国の管理する森林公園だ。

つい先日、近隣住民総出で大規模な清掃が行われたばかりだ。

寝床が作れるほど、枝葉が落ちているとは思えない。

彼女が自力で調達した。あるいは誰か協力者が手助けをしたかのどちらかだろう。

だがこんな所で寝ているのだ。協力者の件は考えにくい。

つまり少女はたった一人で、野宿において自分が最も安眠できる方法を選択したのだ。


それにしても、気持ち良さそうに寝てるものだ。

こんな森、いったい何が。いや()()いるか分かったものではないのに・・・

なぜなら私は、それを調査するためにここに来たのだから。

眠っているのが少女だということもあるが、私の調査の仕事という点においても、私に「彼女に話しかける」という選択肢意外考えられなかった。


「あんた。こんな所で何してるの?」


少女が驚いたように目を覚ます。

だが彼女の目からは怯えは感じ取れなかった。

ただただ状況が飲み込めない。そんな感じだった。


彼女の視線が私の顔で止まる。

じっと見つめ、動かない。

私は下から見上げられるこの状況に、些か居心地の悪さを覚えた。

なぜなら下から私を見つめるその顔はまさしく。



捨てられた子猫そのものだ。



本来なら。いやここで寝ていたのがこの少女でなかったら、私は迷うことなく関所に連れていっていただろう。

だが私は何となく、少女を連れて帰るという選択をしたのだった。


連れて帰った少女。「アヤノ」はとにかく変わった少女だった。

どうやらここがどこなのか分かっていないようだった。

国名を知らない。

それどころかどうやって来たかも覚えていないようだった。

学校に居たら気がついたら公園にいた。親戚の家に居て、居場所がないと感じてるから帰らない。

情報はそれだけ。

ただ、何か隠してることはある。そのことはすぐにわかった。

どうやら彼女は嘘は苦手なようだ。

顔の表情ですぐに分かる。


彼女は何か隠している。でも私の追っている調査対象とは関係ないだろう。

それだけ分かっただけで十分だ。

まだ未成年の少女だ。多少隠し事があったとしても大きな問題ではない。

それよりも、話していて気になる事があった。

それは彼女の腕。リストカットの跡。

ここにどうやって来たか思い出せない事と、少女の精神的な不安定さと何か関係があるのだろうか?

それとも誰かに眠らせれるかしてここに来たのか?

まあこれは今考えてもしょうがないかと諦めて、今後の課題と言うことにでもしよう。


さて、問題はアヤノをこれからどうするかだ。

この謎だらけの少女を置いておくのは、些か問題が多すぎる気がした。

置いてどうする?

私には彼女や彼女の問題を解決することなど出来ないかもしれない。

だけど・・・・



少女を見る度に、少女を見つけたあの夜の事を思い出す。




これは私の個人的な欲求なのかもしれないが、私はこの捨てられた子猫のような少女を家に置いてやりたいと思った。







驚いた。

アヤノは想像以上に使える少女だった。

料理も上手い。計算も出来る。必要最低限の年上への敬意の払い方も知っている。

私が彼女を雇って置いてやると言ったのは、どうやら正解だったようだ。

時々びっくりするくらい一般常識が抜けてる時もあるが、気にしなければどうってことない。

何か情報があれば私に知らせるよう関所に言ってあるが、ここ数日特になし。

彼女自信何も気にした様子もないし。

馴れてきたからなのか、楽しそうな表情をするようになった。

この分ならリストカットも、もうやめてくれるだろうか?


ここ数日一緒に居て彼女に抱いたイメージはマイペース。

本当に猫みたいだ。

基本的に眠そうにボーっとしている。

ただ機嫌がいいときはしゃべりかけてくれるし、お客さんにも愛想よくしている。

そういえば、ちゃんとリタとも友達になれただろうか?

リタに、アヤノと友達になってほしいとお願いしたのは私だ。

この近所にリタと同年代の子がいなかったから、リタとしても調度良かったか。

サタリーも喜んでくれてたし。

サタリーも時々、店にアヤノの様子も見に来てくれてるみたいだ。


サタリーと私は古くからの友人だ。

サタリーほど私について知っている人物はいない。

いやもしかしたら私以上に、私の事を知っているかもしれない。

何度彼女に救われたことか。

もし可能なら、リタとアヤノもそんな絆が生まれたらいいのに。


アヤノについてはゆっくり親しくなればいい。

いずれ私のことも話してやってもいいかも知れない。


とにかく今は自分の仕事をこなすだけだ。






〈サタリー〉

ブレンダが女の子を拾ってきた。

それどころか、店で雇うといっている。

これは旧友の私にとって衝撃だった。


この街で彼女を知らない人間はいない。もちろんいい意味で。


彼女はこの街の英雄だ。


だが英雄も完璧ではない。

彼女は〈ある事件〉をきっかけに、一時期完全に引きこもっていた。

でもそれは彼女のせいではない。

町中の人が、その事を分かっていた。

でも彼女はひどく落ち込んだ。

そこから彼女を表に出させるのは本当に苦労した。

お店を用意したのも私だ。

店の店員として町の人を見ると、また自分の生き方の見え方が変わるのではないか。そう思っていた

私の予想通り、町の人はとても優しくブレンダを迎えた。


だがここで一つ誤算が起きた。

彼女がとある仕事を引き受けたのだ。

依頼主は国王。

ブレンダは仕事で一切手を抜けないタイプだ。

もしまた何かのきっかけで落ち込んでしまうかもしれない。そう思った私は国王に、彼女の手伝いを申し出た。

国王は快く了承してくれた。

国王もまたブレンダが、引きこもられることが心配だったのだろう。

私はブレンダの監視もかねて仕事を手伝った。


そんな矢先、少女を拾ってきたのだ。

〈ある事件〉をきっかけに人を過度に近づけて来なかった彼女がだ。

だが少女と話していて、ブレンダが受け入れた理由が何となく分かってきた。


おそらく少女はブレンダについても、私についても、この街についても何も知らない。

ブレンダにとってはそれが良かったのかも知れない。

最初私は、この謎だらけの少女に一抹の不安を覚えていたが、どうやらその必要はなかったようだ。


だから、ブレンダからリタと友達にと言われた時、快く了承した。

私もブレンダと一緒に引き受けた仕事をこなさなければならない。

そのためにリタを一人で置いておくことには不安があった。

だからその申し出は私にとってもありがたかった。

私としても彼女についてもっと知りたかったし。


アヤノちゃんとはこれからゆっくり仲良くなって行くとしよう。


それにブレンダが彼女を置いておく理由は、もう一つあると私は思っている。

だけどこのことはブレンダ自身、きちんと理解していないような気がする。

「なんとなく」

そんな感じだろうか。


いずれにしろ、今日明日でどうにかなるような問題ではないが。




それにしても、アヤノちゃんのボーっとした顔を見てると何だか笑えてしまう。

街の人どころか国王までも「あの少女は誰だ!?」と聞いてくるのだ。

もう相当の有名人になってきている。

その事も彼女は全く知らないのだろうなと思うと何だか可笑しい。

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