表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫化して異世界を渡り歩きます  作者: 阿谷幸士
第一章 猫の夢
6/40

6,新しい生活

知らない国名。知らない地名。

これは私の異世界説は濃厚だろう。

ブレンダには、「良く分からないけど、多分ここからそう遠くない所に住んでいた」と誤魔化しておいた。

多分嘘だとばれているかもしれないが私も分からないのだ。仕方ない。


「ここってブレンダの店なの?」


強引に話題を切り替える。


「そうだよ。といってもオープンしたの一年前なんだけどね」

「そうなんだ」

「そういえば、あんた仕事先探すって言ったじゃない?どうだい?ここで住み込みで働かない?」

「え!?」


願ってもない提案だ。


「いいの?私、働いたことなんだけど・・」

「それなら余計に他のところじゃ働けないだろ?見たとこあんた料理出来そうな感じだったし。それに私が留守にするときいつも店閉めてたから、代わりに店番してくれる人が欲しかったんだよ」

「・・・ブレンダがそれでいいなら、お願いします」


それ以外の返答は無かった。

本当なら、これからこの街を見て回って情報を集めようと思っていたが、お金がない状態だと思うようにいかないだろう。

だから、ある意味この選択肢は色々と近道かもしれない。


「そうと決まれば・・・付いてきな。色々教えてやるから」


そう言ってブレンダは立ち上がる。

正直、何でここまでしてくれるのか疑問に思う。

だけど今の私はどこにも行く当てもないし、頼らなければやっていけない。

私は素直に彼女の後に付いていった。


彼女は残りの半日を使って色々と教えてくれた。

店のマニュアル、メニュー、仕入先等々。

ここ喫茶「白猫」は軽食も扱う喫茶店だ

どうやら軽食は自前で作っているが、ケーキなどのデザート系は外注しているようだ。

近くのケーキ屋さん。場所も教えてもらった。

行く先々で、「新しい従業員です。よろしくお願いします」という度に尋常じゃない驚きで私とブレンダの顔を見てきた。

私が働くのがそんなに意外だったのか?

確かに子供に見えるかもしれないけど・・・


色々と教えてもらったが、その中で一番驚いたのは電気がないということだ。

使うのは魔力。

電力の代わりに魔力を溜めて使っていた。

冷蔵庫もオーブンも照明さえも魔力で動いているらしい。

直接彼女に聞いた訳ではないが、話の流れを聞く限り間違いないだろう。


最後に立ち寄ったのは服屋。

そこで私の制服を注文してくれるらしい。


「お会計、金貨1枚と銀貨1枚になります」

「金貨1枚と・・・すまない。銀貨を切らしてるから銅貨10枚でいいかい?」

「構いませんよ!」


店員とブレンダのやり取り。

なるほど。ここは金貨とかなのか。

銅貨10枚で銀貨1枚。だとすると銀貨10枚で金貨1枚か、

店でも使うから覚えておこう。

価値観は分からないが、多分金貨1枚が一万円。銀貨1枚が千円。銅貨1枚が百円ってところか?

間違っていたら訂正すればいいか。


「あっそうそう。給金だけど1日銀貨7枚でいいかい?ちょっと格安だけど住み込み分でいいだろ?」


ブレンダが帰り道聞いてきた。

さっきの基準なら7千円ってところか?

十分だ。というか住み込みで働かせてもらうのにそんなにもらっていいのかな?

まあ今まで働いた事がないから相場なんて分からないけど。

私は何も言わず彼女に頷いた。


店に帰り、メニュー表を見せてもらった、

コーヒー一杯銅貨4枚。400円ってところか。妥当だ。

やはり私の考えた基準で間違っていなかったみたいだ。

こうして、昨日とは別の忙しさの中、1日が終わった。





次の日。

昨日の経験を生かし早めに起床。

私はブレンダにお願いして部屋に時計を置いてもらっていた。

時間の感覚は同じらしい。1日24時間。

白猫は10時オープンの4時閉店。かなりホワイトな職場だ。

というか、それで儲かっているのかな?


でも朝は仕入れ等で結構忙しい。

私とブレンダは手分けして仕入れを行う。

代金はブレンダの口座から引き落としらしい。

ただひとつ、やはり気になるのは。


「白猫のものです。仕入れの品受け取りにきました」


という度に。


「え!? あ、あぁ・・・」


と微妙な返事が帰ってきた事だ。

一体何だというのだ?


それからブレンダと、どたばたで色々な事を決めていった。

やれ食事当番はどうするだの、家事はどうするだの、簡単に決めた。

どうやらブレンダは長期的に私を置いてくれるらしい。

信じていないわけではなかったが、疑念は抱いていた。

身元も分からない人間を家に住まわせる。

どれほど治安の良い日本だったとしても、そんな事する人はいないだろう。

それにましてやここは・・・


それに、私も彼女の事を知らなさすぎる。

ただ彼女の事を聞くのならば、私も自分の事を話さないといけないのだろう。ということくらいは分かる。

ならばいっそのことお互い知らないでいい。

そう私は思っていた。



こうして始まったあまりに奇妙な住み込みバイト。基、居候生活がスタートした。





働き初めて一週間。

取り立てて、困ったことなど何もなく粛々と日々が続いていっていた。

それでもあえて問題点を言うとするならば、常連さんであろう人たちが私を見るなり一瞬目を丸くする事くらいだろうか。

だが一週間も経てば皆馴れてくる。

私も名前こそ覚えてはいないが、何となく常連さんの顔を覚えていた。

まあ対して忙しい店でもないし、色々な事を覚えるには打ってつけだ。

特に電化製品ならぬ魔力製品の使い方。

使い方は電化製品と何ら変わりない。

ただこれが魔力で動いているということに違和感を覚える。

この間夜に見た街灯も魔力で動いているのだろうか?

聞いてみたいが、聞いたら知らないということに疑念を抱かれそうなので聞けない。

これは今後の私の宿題としよう。

ブレンダとの共同生活も順調でこれといって問題ない。

ここ2、3日昼間ブレンダは「用事がある」といって出掛けて行き、夜まで帰ってこないが

最初、


「お店私に任せていいの? 昼ご飯と夜ご飯は?」


等と色々聞いていたが


「あんたは十分一人でやっていける能力があるから大丈夫だよ。あと帰りは何時になるか分からないから、自分の分だけ作って適当に食べて」


と毎回言うため、わざわざ聞くこともなくなった。

だがお世話になってる身だし、今度お昼のお弁当でも作ってあげようかなと思っている。



そして今日も今日とて、誰もいない店内に一人。店番をしている。

今日はブレンダは朝の仕込みが終わるなり出掛けていってしまった。

いったい何をしているのか。

適当に掃除したりして時間を潰していると、裏口からノックの音が聞こえてきた。

裏口から来るということは考えられる人は一人しかいない。


「おはよう、アヤノちゃん。暇してる?」

「おはようございます。サタリーさん。ええ、まあ暇ですね」


この人は、この店の隣で「ケニスの宿」という旅館をやってる女将さん。

THEオカン、って人で妙に貫禄がある。

私がここに住みだしてすぐ、今みたいに裏口から入ってきた人だ。

私が働きだして色んな人に驚かれたが、この人の驚き方は尋常ではなかった。

私が何度、ここで働き始めましたって言っても信じてくれなかった。

ブレンダが来て私を紹介してくれてようやく信じた。

でも印象的だったのは、この人には驚きと共に少し嬉しそうな感じも匂わせていた。

彼女はどうやらブレンダと古くからの付き合いらしい。


「ブレンダは?」

「仕込みが終わってすぐ出掛けました。どこに行ったかは聞いてないですけど・・・」

「そう。アヤノちゃんも大変ね。一人で留守番」

「いえ、そこまで忙しくないので」

「ブレンダも助かると思うよ。でもそっか~・・・伝えたい事あったんだけどな~・・・」

「私が言付けしときましょうか?」

「う~ん。じゃあ私が話したい事があるってだけ伝えてくれる?」

「分かりました」


あ~・・・いつものパターンか、と心の隅で思う。

この二人、ブレンダとサタリーさんは何か私に隠してる。

まあ私も大概大きな秘密を隠してるから、人の事言えないけど。

何度か言付けを頼まれたことがあるが、内容を教えてくれたことは一度もない。

それに、話をするのは私の居ない所でのみだ。


そういえば学校に通っていた時、よくひそひそないしょ話をされたものだ。

そういう物の対処法は簡単だ。触らぬ神に祟りなし。

首を突っ込まないことだ。

なので二人の件も私は何もしないし、聞かない。


「じゃあ言付けお願いね。あっそうそう。リタが明日の休み、買い物に行こうってさ」

「分かりました。いいよって伝えてもらっていいですか?」

「了解。じゃあまたね」


そう言ってサタリーさんはまた裏口から出ていった。


「明日はリタと買い物・・・か・・・」


私はまた一人ぼっちになった店内で、暇を持て余す。


リタ。

サタリーさんの一人娘。サタリーさん似の元気たっぷりな少女だ。

私と同い年の17歳。

私はあまり同年代と仲良くするのは得意ではないので避けていたが、彼女がぐいぐい来るので私が根負けした。

今のところ毎日、彼女と何かしらを他愛のない話をしたりする時間が出来ている。

リタには裏表がない。純粋に私に近づこうとしてくれた。

こんな人は初めてだ。

もしかしたら、彼女とは本当に友達になれるかもしれない。

知らない土地で初めての友達か。悪くないかも。

密かにそんな期待を想像しながら、また一人の店内で暇をもて余すのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ