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猫化して異世界を渡り歩きます  作者: 阿谷幸士
第一章 猫の夢
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1,見たことのない夢

猫になりたい。

これは私の夢であり願望である。


なぜ私は猫になりたいのか、いつからそんな事を願うようになったのか、私自身正答は出せない。

ただ何となく、ふっとしたときに思うようになった。

その程度の物だ。

夢といっても目的も達成願望もなくそうなればいいのに等という実に浅い願いだ。


そもそもこの猫になるという定理が私の中で少しおかしい。

私は人のまま猫になりたいのだ。

猫にはなりたいが死ぬまで猫で居続けるのは少し不便そうだし、食事も満足に出来ない。

つまり、私がなりたい時に猫になって普段は人間として生活したい。

これが私の中の猫になるという定理である。


要は人生で嫌な事があったときに猫になって逃げたい、そういう事だ。

詰まるところ私の本当の願いはこうかもしれない。



猫にでもなれたら、ここから逃げ出せるのに。



これは私の夢であり願望であり、現実逃避でもある。

だからこそ曖昧で抽象的であることも許される。







夕暮れ時。無人の教室。開いた窓から風が入り込みカーテンを棚引かせる。

窓際の前から3番目の席。

そこに座り、一人黄昏る。

私の机の上には進路希望調査用紙が白紙のまま鎮座している。

窓から入る風が紙を吹き飛ばしてしまいそうだ。

いやいっそのこと飛ばされてしまったら楽になるのではないか。

そう思ってしまうことを誰が咎めることが出来よう。


私、「霧島 彩乃(きりしま あやの )」は人生の岐路に立っている。

高校3年の春。進路について真剣に考えなければいけない時期だ。

新年度が始まり早2ヶ月。

早々に配られた進路希望調査用紙をクラスでただ一人、私だけまだ出していない。

別にめんどくさいとか、全く考えていない訳ではない。

むしろ逆だ。

考えがまとまらないのである。

私には両親がいない。小学生の時に両親共に事故で亡くした。

その後親戚に引き取られた訳だが。

はっきり言って親戚夫婦からしてみれば、私は完全にお荷物だ。

彼らは面と向かって私にそんなことは言わなかったが、私は特にそういう物を敏感に感じ取ってしまった。

もしかしたら自分でも気付いていないだけで、両親を亡くした悲しみが精神を著しく削っていたのかもしれない。

高校に入って、私は自分でも理解出来ない行動に走るようのなった。

自傷行為、家出、登校拒否。

親戚夫婦に迷惑をかけまいと気を使っていたのに、いつの間にかその緊張の糸はプッツリと切れてしまっていた。

それでもここまでやってこれたのは、私の中の理性が後一歩のところで食い止めていたからだろう。

私には味方はいなかった。

友達もいない。教師は私を問題児扱い。親戚夫婦もあからさまに私を避けるようになった。


そんな中、配られた進路希望調査用紙。


もうどうでもいいと自暴自棄になりそうな考えを必死でこらえ、真剣に考える。


(進学はお金かかるしな・・・。就職かな・・・。多分一人暮らしすることになるだろうけど、初期費用がな~・・・。しばらく親戚の家にいてお金貯めて出るしかないか。これ以上あの家に迷惑かけるわけにはいかないし。)


そこまでは決まった。だがそこからが問題なのである。

ここは田舎も田舎。

この近くで就職するなら車は必須である。

免許を取るのも無料ではない。お金が必要である。

免許を取るお金と自分が運転できる車。この2つを持とうと思ったら、正直一人暮らしを始めた方が安く付きそうな気がする。

どちらにしろ、親戚の力を借りないと行けない。

八方塞がりである。

こんなことならバイトでもしてれば・・・とも思うが、引きこもりになりかけた私にはハードルが高すぎる。

過ぎてしまったことはどうしようもないのである。

私は小さくため息を付き白紙の用紙に目を落とす。


(私の将来ね~・・・。はあ・・・猫になりたい。)


これは逃げである。

しかし誰にも言っていないため、それも許されるだろう。

私はペンを持ち、用紙に筆を走らせる。


(第一希望・・・。そうだな・・・。やっぱり猫化でたらいいな。それで第二志望は私のことを誰も知らない所でお金に困らない生活がしたい! それで第三希望は・・・!)


そこでペンが止まる。


もう一度言おう。これは逃げである。


どのみちこれは消してちゃんと書き直すつもりだ。

だったら何を書いたって問題ないはずだ。

そして私は心の奥底、(むらと)にある思いを綴る。


(第三希望・・・。誰かに心から愛してほしい。)


これが私の願い。

別に異性に好かれたい訳ではない。

ただ人として、家族として愛してほしいのだ。

そうして私はペンを置いた。


夕暮れ時。

傾いた太陽が私を赤く染めている。


刹那。


今までの光とは明らかに違う強い光が放つ。

とっさに光を遮ろうと手を挙げる。

しかし少し間に合わず、一瞬だが完全に視界を奪われる。


(な、何!?)


ゆっくりと光が弱まり、視界が戻り始める。


(何だったの今の・・・?)


戻った視界と共に挙げていた手を下ろす。

そこには・・・。


(何・・・? これ・・・・?)


教室にいたはずの私は、行った事も見たこともない場所に一人座っていた。

新連載です!

ぼちぼちやっていきますさかい、よろしゅうたのんます

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