3.もう1人の妹
エルとジミの間にはもう1人の兄妹がいる。キセという女の子で14歳、年齢の割には少し背が小さい。キセはこの世界では珍しく、ゾンビを食すことを極端に嫌っていた。ゾンビが主食のため、新鮮な生肉はあまり売られていない。牛肉や豚肉、鶏肉などは高級品とされている。キセは新鮮な生肉を好んだため、ご飯の時間になるといつも家にいなかった。
「バイト行ってくる」
「キセ、そこまでしてゾンビを食べたくないのか?」
「アニキ達は皆頭がイカれてると思うよ。腐った肉や骨を食べるなんてあたしには理解できない。新鮮な肉が一番いい」
キセはバイトに行くため家を出た。近所の牧場で働き、家畜を育てている。ゾンビになるのは人間だけではなく、ごく稀に動物達も感染してしまうので注意が必要になってくる。長時間のバイトを終え、家に着いたら両親がゾンビに噛まれていた。
「エル……わたし達を殺して……あなた達に食べられるのならわたし達は幸せよ…………」
「ママ……出来ない、ママを殺せないよ!」
「早くしなさい!あなた達までゾンビにさせたくない!」
両親がゾンビになった。両親は絶対にゾンビにならないと信じていた。両親はずっと両親だと、キセは心の中で思っていた。安心していた。ショックだった。
「あたしが殺す」
キセはそう言うと、日頃から装備している拳銃を手に持ち、母親の頭に向けた。
「キセ!やめろ!」
「アニキ達まで死にたいの?」
「キセ、早く打ちなさい」
「ママ、ママはゾンビになんかならないと思ってた」
右手の人差し指に力を込める。母親の頭から血が流れる。後ろにいた父親を見ると、ゾンビになるまで残り僅かのように見えた。
「パパ、また遊んでね」
父親の頭からも血が流れた。エルとジミは互いに抱き合い、「ママ!パパ!」と泣き叫んでいる兄妹の声を聞きながら、キセは両親を解体した。肉と骨、食べられそうな内臓を分けて保存した。両親の肉を少しだけ焼いてテーブルの上に置いた。
「アニキ、ジミ。パパとママの願いを聞いてたか?これ食べな」
二人は泣きながら椅子に座り、時間をかけながらゆっくりと食べた。ゆっくりとしっかり噛んで、味わいながら食べた。
「あたし、ゾンビを許さない。これ以上ゾンビを増やしたくない。ゾンビが主食だろうが関係ない。ゾンビを殺す。絶対殺す。全滅させる。大切な人を殺したくない。殺させたくない。これ以上悲しんでいる人を見たくない。悲しませたくないんだ……だからさ、あたし旅に出るよ。そしてゾンビを殺して全滅させる」
たった今両親がゾンビになり、死んだのを目の当たりにしたエルは否定しなかった。エルはゾンビの肉が好きだ。でも、そのゾンビは誰かの大切な人だったのかもしれない。そう考えると、ゾンビの肉が少し食べたくなくなってきた。
「わかった、キセの好きにしろ」
「ありがとう、アニキ」
キセは必要最低限の荷物を持ち、家を出た。






