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邂逅

どうも、こもっちです。少し遅くなりましたが、次の話の始まりです!

 俺、オリヴァー・バトラーは『闇の帝王』であり、『宿命仕組まれた子供』とも『神の御身』とも呼ばれる今の世界に十二しかいない自分で言うのも自惚れが入りそうだが、他者共に認める貴重な存在だ。俺がいなければ世界が滅びを選択しなければならないことは言うまでもない。しかし、そんな俺が最近何だかんだ良いように使われていると確信を持って言える。


 こんな俺を良いように使っている希少価値も分からないやつの名はアルヌー。先の件で支えるとか支えられるとか言っておきながら、助けたことを十倍にして返せと笑みを浮かべながら要求してきやがった。これはさすがの俺もぶち切れそうになって闇の魔力をあふれ出したところ冗談だとか言って、三つのクエストをやるように言われた。


 三つのクエストは少し長いものであった。思い出すだけでも長いと思ってしまうほどのものであった。て言うか、アルヌーのこれはただの使い走りであって、支え合うとかじゃないよな。良いように使われているただのイジメている奴とイジメられている奴じゃないか。


『クエスト名:雷光大蛇討伐。

 ランク:AA

 詳細:雷鳴の大地に生息する雷光大蛇が王都近くの森にて出現したもよう。だたちに雷光大蛇の討伐をせよ。

 報酬:金貨200枚。

 クエスト発注者:商人ギルド・ギルドマスター』


 俺はモモネとカンナと共に、王都の南にある惑わしの森へと来ていた。目的はこの森に突如として迷い混んできた雷光大蛇を倒すことである。このモンスターがこの森に来ているせいで、この森を通らなければたどり着けない町の物流が止まってしまった。さらに、この森に住む、いたずらに惑わしてくる精霊が森から抜け出し他に被害を出してしまっている。


 すぐに雷光大蛇を討伐せよ、とのことだが、惑わしの効果がない森を歩くこと三十分ほど経った現在、全く雷光大蛇の姿を確認できていなかった。俺の≪気配察知≫にも引っかからない。


「ねぇ、オリヴァー。ここら辺にいんの?」

「そのはずなんだが。その証拠に、ここを見ろ。地面がえぐれている場所は、落雷でえぐれたものだ」

「あ、ほんとだし。・・・でも、いなくない? さっきからずっと歩き回っているけど一向に見つからないし」

「この森にいるはずなんだがな、もう少し探し回るか。カンナも≪気配察知≫を使っておいてくれ」

「うん。分かった、オリヴァー。オリヴァーのために探す」


 俺の腕に抱き着き顔をすり寄せてくるカンナも≪気配察知≫を使ってくれているようであった。しかし、これだけ探し回っているにも関わらず一向に見つけることができないんだ。≪気配察知≫と≪魔力察知≫を使っている時点で、潜んでいても見つけることができる。


「もしも、あたしたちが元の世界に帰る方法を見つけたとするじゃん? 本当にもしもの話」


 探し回っている最中、珍しく暗い顔をしているモモネが変なことを聞いてきた。だが、俺は黙って頷いて先を話すように促す。


「あたしたちが帰る時、オリヴァーも一緒にあたしたちの世界に来る気はないの?」

「・・・暗い顔をして話し出したと思えば、何だ? 俺と離れるのが寂しいのか?」

「そ、そんなわけじゃないし。す、少しくらいはあるけど・・・。でも、あたしたちの世界の方が文明が発達していて住みやすいと思うし、何より、カンナが元の世界に変えるとは思わないから」

「そうなのか? カンナ」

「私の居場所はオリヴァーがいるところ。だからオリヴァーがあちらに行けば私も戻るけど、こちらに残るなら私も残る。でも安心して、元の世界に帰る方法はちゃんと探すから」

「俺がこちらに残れば、モモネとミユキと別々になるぞ? 良いのか?」

「・・・うん。モモネとミユキは大事だけど、私はオリヴァーと一緒にいたいから。二人が無事に戻れるように尽力するのが、せめてもの私の感謝の印」

「ハァ・・・。こうなるって分かっていたから、オリヴァーに聞いたんだし。オリヴァーが一緒に来れば問題ないと思ったわけ」


 モモネたちがいた文明が発達している世界か。モモネたちの話を聞く限り、興味深いものばかりの世界だから行ってみたい気持ちがないわけではない。だが、俺はこの世界で生き続けることを義務付けられている人間であるから、どうしても行くことはできない。


「悪いな、俺は行くつもりはない。そしてカンナを俺の元へと置いておくこともできない。俺は三人にはいるべき場所に帰るべきだと思っている。世界から世界への移動は異常であり、何らかの障害が発生しているかもしれない。それに、きっと親御さんの元へと戻るのが一番良い選択なのだから、ここの出来事は夢とでも思った方が良いのかもしれない」

「嫌、私はオリヴァーの側にずっといる。それはもう決めたことだから」

「・・・まだ帰る方法を見つけたわけじゃないんだ。それまでによく考えておけばいい。モモネもカンナを説得しておくことをお勧めする」

「それをできればやってるし・・・。ハァ、頭が痛くなってきた」


 溜息を吐きながら頭をおさえるモモネをしり目に、俺がどうしてもあちらの世界にいけるとすれば、“極絶龍”を倒し、神の呪縛から解き放たれる時だろう。




「何でいないわけ? ちょー腹が立つんだけど!」


 再び探し回って三十分ほどしたが姿すら捉えることができていないため、モモネが癇癪を起し始めた。本当にここにいるのかと思うくらいに姿も気配もしない。いなければいなかったで良いだけの話だが、そんなはずはない。ここいらのモンスターがいなくなっているということは、雷光大蛇が住処にしているためだ。いなくなっていれば、モンスターがここに近づいてくるだろう。


「モモネ、文句を言わずに探さないと。一応アルヌーさんにも助けてもらったんだから」

「それは分かってるし。・・・て言うかさ、あんたは随分と幸せそうな顔をしているけど、そんなにオリヴァーといるのが幸せ?」

「うん、幸せ。いつまでもこうしていられる。こうやって歩き続けるのもオリヴァーがいれば天国へと変わっていく。・・・モモネも反対側に来る?」

「・・・・・・・・・べ、別に行かないし!」

「随分と間があったけど、来たいなら来ていいよ?」

「おい、勝手に本人に代わって許可を出そうとするな」

「でも、別に構わないよね?」


 不思議そうな顔をしてさも当たり前のように返してくるカンナを適当にあしらって雷光大蛇探しを続ける。だが、このままではらちが明かない。・・・ここまでいない原因と言えば、一つに俺の索敵を凌駕するほどの隠密スキルを兼ね備えている雷光大蛇なのか、はたまたこの森に今いないのか・・・。


 襲われた運び屋や商人で、生き残っていたやつが一人おり、そいつから話を聞いたらしい。曰く『ある方向が光ったのが見えた後、少ししたら轟雷が鳴り響いたのは覚えているが、それ以降は仲間が雷で焼け焦げた姿しか覚えていない』だと。雷の光と音の乖離、つまり遠くで雷が鳴っていたということになる。最初は森の端で獲物が来たら雷を纏わせて行っているのかと思ったが・・・どうやら勘違いしていたらしい。


「おい、雷光大蛇に備えておけ」

「え? 見つけたん!?」

「いや、まだだが、今からおびき寄せる。二人は少し離れて準備しておいてくれ」

「ようやく! やってやるし!」

「・・・うん、分かった。来たらすぐに終わらせる」


 俺は三人にかけていた≪気配遮断≫を、俺のだけ解除する。そして、できるだけ早く俺の元へと来てもらうために魔力で作った剣を俺の腕に当てて切りつけた。当然、血は大量に出てきて滴っている。それを見たカンナが俺の元へと駆け寄ってきて血を止めようとする。


「オリヴァー何をしているの!? 早く治療しないと・・・」

「大丈夫だ、カンナ。これは雷光大蛇をおびき寄せるための血だ。それにこれくらいの出血では死にはしない」

「分かった。・・・でも、五分経っても来なかったらすぐに治療するから」

「これくらいなら治療しなくても治ってくる。それに・・・時間の心配は大丈夫のようだぞ」


 俺は予想していた通りに西の方角を見ていると、遠くで明るい内でありながら強い光を放っている様子が見て取れた。そして、少ししてから腹に響くような雷が鳴り響いた。カンナを突き飛ばし、俺から距離を取るようにした次の瞬間、西の方角から人など軽々と丸呑みできるほどの雷を纏っている大蛇が俺を喰らおうと口を大きく開けてすぐそこまで迫っていた。


 二人は急に出てきた大蛇に驚いて硬直していたが、俺は目の前まで近づいていても焦らずに≪魔力武装≫のスキルで作り出した大きな手によって口を開けた大蛇を受け止めた。身体を受け止めていてもなお、俺を喰らおうとより大きく口を開けて力を入れてくるが、相手が悪かったな、俺の筋力は370000だ。俺を喰らいたいなら10倍の筋力をもってくることだな。


「モモネ、カンナ。俺が抑えているからやれ」

「わ、分かった!」

「了解」


 俺が二人に合図すると、モモネは無詠唱の多属性の魔法を放ちながらカンナが腰に携えていた剣を抜き、闇の魔力を纏わせながら雷光大蛇の首に斬りかかる。雷光大蛇は二人に応対しようとするが、俺の大きな手がそれを許さずに大蛇の頭をつかんで自由を奪う。


 カンナの攻撃は無事に当たったものの、思った以上に雷光大蛇が硬く、それほど切り込めなかった。そして動けない雷光大蛇は纏っている雷を無差別に周りに放ち始めた。雷に対して、モモネは自身とカンナを魔力障壁で守り、俺にも障壁を張ろうとしたが首を振ってそれを拒否した。


 これ以上雷を放たれても森が燃えてしまう恐れがあるため、俺の魔力吸収を使い無差別の雷をすべて俺の方へと引き寄せて雷を吸収していく。ついでに雷光大蛇の魔力も吸い取っていく。こいつに時間をかけているほど時間があるわけじゃないからな、なるべく早く終わらせる。


 吸い始めて数秒後に雷光大蛇の力が弱まってきたことが分かったから、今のままではとどめを刺しきれないカンナに限界を超えない程度の力を譲渡する。これで確実に雷光大蛇を殺しきれるはずだ。


「んっ・・・これは、オリヴァー?」

「そうだ、俺がこいつを抑えている間にその力で早く斬り落とせ」

「オリヴァーの、力。・・・ふふふっ」


 力を受け取ったカンナは何やら不気味な笑みを浮かべていると思ったと同時に、何をしたかは分からないがカンナの内から莫大な力があふれ出てきている。カンナはその力を使い、さっきとは比べ物にもならない速さで雷光大蛇の元へと走り出して闇を纏った剣で大蛇の首を易々と斬り落とした。首を斬り落としたカンナはすぐに剣を鞘に納めて俺の腕に抱き着いてきた。


「・・・やっぱりここが一番落ち着く」

「それは何よりだが、雷光大蛇を片づけないといけないから離れていてほしいんだが」

「それは無理。あと二時間このままにしておかないと私が疲労で死んでしまう。今の私にはオリヴァーの元から離れると言う選択肢はない」

「やめな、カンナ。さっさとこれを終わらせて王都に帰るし」

「・・・それもそう。速く終わらせる」


 モモネがカンナを説得してくれたおかげでカンナが離れてくれた。三人で雷光大蛇を適当な大きさへと切り分けて容量拡張袋へと入れた。こうして一個目のクエストが完了だ。


『クエスト名:宝玉龍の角の採取。

 ランク:AAA

 詳細:住処である深青鉱山の鉱石を喰らい、その成分を己が身体に蓄積して宝玉を体内で生成する宝玉龍・ゲムマの一番硬いとされている角の採取。

 報酬:金貨400枚。

 クエスト発注者:錬金術師』


 モモネが≪魔力工場≫を強化して手が離せないため、俺とカンナとミユキの三人で、王都・ザイカの北東に位置する場所にある深青鉱山に来ていた。この鉱山は山肌にもちらほらと青い水晶が飛び出しており、中に入ると一面が青の空間になっている。俺たちはこの鉱山の最下層に住むとされている宝玉龍・ゲムマの角を取るためにここに来ている。相変わらずカンナは俺にくっついており、ミユキは不思議そうに鉱山の中を見渡しながら歩いていた。


「透き通る青色の水晶が綺麗ですね」

「ここの水晶は純度が高いからな。手つかずのここで採掘すればかなりの値段になるだろう」

「高く売れるのなら、何で他の冒険者たちが来ないの? 取るだけなら来ていてもおかしくないと思う。もしかして知られていない?」

「いや、ここは結構な人数に知られているが、ここに冒険者が来ないのには三つの理由があるんだ」

「三つ? ・・・・・・全く分からない。教えて」

「まず一つに、この鉱山の周りにはランクB以上のモンスターが大量にいる。これはここに来るまでに遭遇しているから分かるな」

「うん、結構いた。でも、私たちにとっては大した敵ではなかった」

「一つ目までならそこら辺にいる冒険者がパーティーを組んでいれば、ここまで来ることにそれほど苦労はしない。だが、二つ目の理由である水晶を取るためのスキルレベルの高さによって冒険者の大半があきらめることになる」

「スキルレベル? 鉱石をを取るスキルは≪採取≫とか≪採掘≫のスキルだったはず。ありふれているスキルなら問題ないと思うけど、どういうことなの?」

「≪採取≫などの採集スキルは習得することが容易であるが、それを覚えるかどうかは別の話だ。それにスキルを習得している冒険者は大抵戦闘では後方支援に回ることが多く、大半の冒険者がそんな足手まといを連れて行くことを良しとしない。それにここで必要な≪採取≫レベルは10で、滅多に持っているものなどいない。だからここにたどり着いたとしても採掘することができないし、採掘レベル的にも不可能と言っても良い」

「なるほど・・・。ここまでの理由で十分だと思うけど、あともう一つの理由は?」

「それは俺たちが狙っている宝玉龍の存在だ。ここは奴の縄張りであり、その水晶などを勝手に取ろうとすれば怒りを買ってしまう。龍の名を冠するSランクの一歩手前にいる存在だ。そんな奴がいる鉱山にお金儲けで入ろうとはしないだろう?」

「確かに。でも私たちはそんな相手の角を取ろうとしている」

「たかがSランクだ。ランクが付けられている相手は想定できるからまだいい」


 ランクが付けられていないモンスター、それは世界に十二しかいない。そう言えば、前に一度だけ四国がその十二の化け物たちのランクをつけようとしていたらしいが、結論は測定不能とくだらないものだった。測定不能なことは誰にでも分かることだ。国で決めることではないだろうに。


「オリヴァーさんの話を聞く限り、私たちも取れないと言うことになりますけど、どうやって取るのですか?」

「いや、俺が≪採取Lv.10≫を持っているから採掘できるぞ」

「えぇっ!? それは驚きです。戦闘スキルしか持っていないものかと思っていました。どうしてそのスキルを持っているんですか?」

「どうして、か。それは俺が生きるために必要だったからとしか答えられない。もっと詳しく言えば、このスキルを持って採取すると物の品質が桁違いに良いものになる。品質が良いものを売れば同じものでも高く売れるが、それをさらに高いスキルレベルの調合や錬成で加工すれば、よりお金になる。そうしてお金を稼いで生計を立てている頃があったからな」

「へぇ~、何か意外です。オリヴァーさんは最初から強いイメージがありましたからそういうスキルを持っていないものかと思っていました」

「才能を持っていたとしても誰もが最初から強いわけじゃない。かくいう俺も強かったわけじゃない。小さい頃は生きるためにモンスターから逃げてばかりだった」

「・・・小さい頃からオリヴァーの両親はいなかったの?」

「いや、いた。俺のことは分かっていると思うが、俺は『闇の帝王』だ。だから俺は親に見捨てられていたんだよ。見捨てられていただけで、姉のおかげで家にいることは許されていて最低限の生活はしていたが、あれは追い出されるよりか辛いものだった。それが直接的な原因ではないが、子供の頃の俺は我慢できずに自ら家を出て行ったがな」

「言いずらいことを聞いて、ごめんなさい」

「今更気にしていないから構わない。カンナが気にすることではない」


 沈んだ顔をしているカンナの頭を元気になるように撫でてあげる。張本人でもないから落ち込むことではないのに。昔の話で、それ以降にそれよりも一層ひどい目にあったから親なんてどうでも良い。と言うか、俺が出ていくこととなった直接的な原因は俺自身にあるのだから言いずらいことでも何でもない。


「オリヴァーさんはお姉さんがいるんですね。どんなお姉さんなんですか?」

「・・・そうだな。俺の姉は優秀だった。それこそ、バトラー家の史上最高の天才と呼ばれるほどに戦闘も勉学もずば抜けていた」

「へぇ、オリヴァーさんがそこまで言う人なんですね。オリヴァーさんにとってお姉さんはどんな人なんですか?」

「また難しいことを聞く・・・。姉は、『闇の勇者』である俺を両親から守ってくれていた。俺にとって姉は頼りになる姉、と認識していた」

「好き、ではなかったのですか?」

「さぁな。小さい頃の話だから好きとかそういう感情には疎かったんだよ」

「あぁ~、なるほど。小さい頃にお父さんと結婚するとかいう訳のわからない子供心みたいなものですよね」

「その例えはよく分からないが、そんな感じだ」


 嘘だ。俺は姉のことが大好きだった、姉の親友カティさんも。それこそ、殺してしまいたいくらいに愛していた。だからこそ、俺はあの家から出なければならなかったのだ。二人はきっと俺を心配してくれていただろうが、俺があの二人に会うことはもうないだろう。あの二人が幸せに生きることを願っている。


 俺の身の上話は置いといて、深青鉱山の中にある空洞を下りていく。純度の高い青い水晶が比率的に多いが、他の鉱石も数多ある。どれを取っても値が高くつきそうなくらいだ。それだけのものを食べている宝玉龍が、果たしてAAAで済むのか。宝玉龍の主な食料は鉱石であり、鉱山に生息している。だが、宝玉龍はそこで食べている鉱石によって強さの幅が大きく変わる。純度の低い鉱石を食べている宝玉龍ならそれほどの強さではなく、Aランクに落ちるが、ここみたいな純度が高い鉱石ならSランクに行っているかもしれない。


 そこら辺は行ってみてのお楽しみと言うやつだ。それに、もしかすると高い知能を持つ純正のドラゴンであるから話し合えば分かるかもしれない。分からなければ倒すだけだ。納品する角以外は売ることにしよう。それかもしくは武器を作るか。リアの武具も作れればいいが。


「ここが、最下層・・・すごい」


 カンナが圧倒されているように、床も壁もすべてが青い水晶でできており、ところどころに水晶の塊が飛び出ている。そして、その奥に身体を丸めて寝ているように見える、青い図体に、鉱石が鱗のようになって身体を覆っているその巨体、宝玉龍そのものの姿であった。ただ、こいつらの色は喰らう鉱石によって違うから今回は鮮やかな青の宝玉龍だ。


「これからどうするんですか? 寝ている間にできないですかね?」

「寝ている隙に、と都合よくできるとは思わない方が良いだろうが、俺がやってみよう」

「オリヴァーだから大丈夫だとは思うけど、気を付けて」

「あぁ、分かっている。二人はここで待ってろ」


 俺はカンナを引き離して≪気配遮断≫を使い、丸まっている宝玉龍の元へと向かう。少しずつ近づいていくが、宝玉龍が動き出す気配がない。このクラスのモンスターなら気が付いてもおかしくないと思う。いくら≪闇ノ神の情愛≫で底上げされている≪気配遮断≫を使ったとしても、一定のランク以上ならスキルが通じない敵がいる。特にSランクで、テリトリー内なら気づいても良いと思うが・・・。


 とにかく、宝玉龍の近くに行こうとしたその時、下から何かが突き上げてくるような音と振動を感じたため数歩下がり、すぐに元いた場所を見ると水晶の地面を貫いて青い尾が出てきていた。この尾は宝玉龍のものか。よく宝玉龍を見れば尾が地面に入っているのが見える。気が付かないとかではなく、待ち伏せしていて好機を伺っていたわけだ。力での戦いを好むドラゴンの割には力より知恵を使う。


『我が縄張りに何ようだ?』


 宝玉龍は寝たふりを解いて、表面に水晶の成分が濃縮されている鉱石があり大きな角が二本ある巨大な身体を起こし俺を見下しながら、おそらく龍の言語で話しかけてきている。おそらく、と言うのは、人間が使う言葉ではないからモンスターたちの言語の区別はつかない。しかし、俺は≪言語共有≫のスキルを持っているからどんな言語で話しかけられても相手と意思疎通ができる。


「俺はお前の角をもらい受けに来たものだ」

『我が角を? ・・・フフフフッ、フハハハハッ!! 何を言うのかと思えば、この我の角を取ると言うのか! それも陰なる神の力を受けし人間が!』

「どうやら俺のことは知っているようだな。それなら話が早い、俺に角を渡せば穏便に済ませるがどうする?」

『我がそんなことで角を渡すと思っているのか、人間』

「いや、思っていない。ただ提案しただけだ」

『思っていないのなら言う必要はなし。欲しいものがあれば力と知恵を駆使して奪い取るのみ』

「そうか、なら俺も遠慮なく力で奪い取って見せよう」

『できるものならな』


 宝玉龍は戦闘態勢に入り、俺も身体を隠せるほどの盾とそれに見合った剣を作り出して戦闘態勢に入る。数秒の静寂が過ぎたのち、宝玉龍がその巨体では考えられないほどの速度で俺に突撃してきた。それに対して俺は避けずに大盾で少し後ろに押されてしまったが防いだ。


 少しこいつの力を見誤ったとは言え、少しでも後ろに押されるとは思わなかった。こいつは種族ランクをかなり超えているそれなりに強い部類に入るドラゴンだ。ランクで言えばSSと言ったところか。複数でSランクはあったが、単体でSSランクとなると絶対に負けないが油断できなくなるくらいだ。油断すると一本くらい骨が折れるくらいはあるが負けはしない。


 宝玉龍の翼や爪での攻撃が連続して来るが、俺はそれらを盾で防いで難を逃れる。一通り宝玉龍の攻撃が終えると、次は俺が攻撃を仕掛ける。様子見でSランクのモンスターが真っ二つになるくらいの攻撃を胴体に食らわせるが、身体中にある鉱石で防がれて肉に攻撃を入れることができなかった。ただ、俺が攻撃をした鉱石にひびが入っていた。この宝玉龍は硬さ的に言えば、五本の指に入るくらいの実力を持っている。


『我の鋼鱗にひびを入れ、それも本気じゃないと来た。本当にふざけた人間だ。本来龍は人間に畏怖される存在であるのだが、恐れられるどころか狩られる側に回るとは』

「悪いな、俺は例外な人間だからな」


 俺は盾を魔力に戻して武装を剣だけにして宝玉龍に斬りかかる。次も様子見程度の攻撃力で宝玉龍の身体中を斬りつけていく。身体中から鋼鱗と自身で呼んでいた水晶を濃縮した塊が落ちていく。そして、狙いの角も片方だけ角の真ん中を狙って、綺麗に斬れる程度の力で剣を振った。宝玉龍の角は俺の狙い通りに綺麗に斬れ、俺はそれを落ちる前に回収して引き下がる。


「お前の角、確かにもらったぞ」

『・・・・・・ふ、フハハハハッ!! まさか本当に取られるとは思わなかったぞ! さすが闇の勇者と言ったところか。これは完全に負けてしまった』

「何か、案外あっさりしているな。逆上してくることを考えてもいたが」

『こうも簡単に取られては負けを認めるしかなかろう。ここで負けを認めなければ、それこそ格好悪いことこの上ない』

「・・・そうか、それなら良いんだ」


 角を取った後、無用な殺生をしないためにすぐに逃げようかと思っていたが何も起こらなくてよかった。龍という生体はイマイチまだ分かっていない。そもそも知能が高い龍と出会うこと自体そうそうないことだから仕方がないと言えば仕方がないことになる。


「もう終わっちゃったんですか?」

「そのようだ。これでクエストを達成したから街に帰るか」

『ちょっと待ちな。そんなに急いで帰ることはないだろう』

「まだ何か用があるのか?」

『いや、お前さんが欲しいと言うのなら、我から削り落ちた鋼鱗やこの鉱山の水晶と鉱石を取っていくと良い』

「良いのか? 一応お前の食い物だろう」

『ここは次から次へと鉱石が出てくるから、むしろ片づけてほしいくらいだ。いくらでも持って帰るといい』

「それならありがたくもらおうことにしよう。と言うか、有り余っているのなら冒険者が来たら取らせてあげても良かったんじゃないのか?」

『それは我が許さない。何せ我の縄張りであるから勝手なことをして良いと思われてはいけないからな』


 俺たちは鋼鱗や鉱石を拾ったり採掘した。これらの鉱石を全部売りに出すのは勿体ないということでアクセサリーや武具にするとカンナとミユキと話し合いながら採掘し終えた。宝玉龍に別れの挨拶を述べた後に国へと帰還した。こうして二つ目のクエストが完了した。




『クエスト名:虹色美鳥の捕獲もしくは七色の羽毛と血液の採取。

 ランク:SS

 詳細:滅多に人前に現れない虹色美鳥を生きたまま捕獲もしくは羽と血液を採取せよ。ただし、虹色美鳥は存在自体が貴重なため、殺すことは禁じ、殺した時点でクエストの報酬はないものとする。

 報酬:金貨1000枚

 クエスト発注者:モンスター研究者』


 俺とカンナ、そして珍しくリアも同伴して、虹色美鳥と出会うために東にある深い谷底の『魂集う峡谷』に来ていた。この美鳥は滅多に人前に現れないことからランクが高いものとなっている。その遭遇率に低さから、その姿を見たものは幸福になれるなんていう地域もあると聞く。俺たちはそんな伝説のモンスターを見つけようとしているんだが、強いモンスターと戦うよりか難しい。峡谷に到着すると、都合よく下へと降りれるようになっている少し細い道を見つけ、俺を先頭にして俺たちは下っていく。さすがにこの細い道でカンナは抱き着こうとしない。


「どうやって見つける気なの?」


 峡谷を下りている最中にリアが慎重に歩きながら聞いてくる。実を言うと俺はその問いに答えることができなかった。そもそも見つける方法があれば見つけている。三つのクエストの中で一番難易度が高くて一番割に合っていないクエストだ。伝説級のモンスターを見つけて、それを殺さずに羽と血液を取ってくるのがたったの金貨1000枚とは随分と馬鹿にされたものだ。5000枚出しても問題ない程度だぞ。


「さぁな。適当に歩き回るしか思いつかない」

「えっ・・・。それ大丈夫なの?」

「仕方がないだろう。虹色美鳥は見つけるのが困難な上、その生態がまだ解明されていない種だ。どこに好んで生息しているとか、何が好物とか、どれくらいの寿命なのかとか分からない。こんなモンスターを、あまり信憑性のない目撃証言で見つけること自体が不可能だ」

「・・・それ、もしかして見つけれないかもしれないの?」

「最悪クリア不可能なクエストだ。それを分かって俺にクエストを提示してくるアルヌーの性格の悪さがうかがえる。この状況で俺ができることは≪気配察知≫を広く使って、いるかいないかを探すことくらいだ」


 ここら辺一帯を俺の≪気配察知≫で網羅することはできない。察知範囲を広げて何かいるかどうかを探すのは可能だが、それが虹色美鳥とまで探ることはできない。それに、自然と共存している場合は俺のスキルでも見つからないくらいの隠密精度を出してくる。だからこうして歩き回るしかない。


「広く、使う? ≪気配察知≫を広く使うとはどういうこと?」


 カンナが少し驚くようなことを言って来た。≪気配察知≫のスキルを持っているにもかかわらず、広く使うということを理解していなかったとは。もしかするとスキルを使うことをあまり意識せずに使っているのかもしれない。何となく使っているのならそれは勿体ないことをしている。


「何だ、それも分からずにスキルを使っていたのか」

「うん。あまり意識せずにスキルを使っていた・・・。スキルと魔法の違いもあまりよく分かっていない」

「そこからか。まぁ、探しているがてら教えよう・・・。まず、スキルと魔法の違いだが、スキルは秘めた力、魔法はもらい受ける力だ。スキルは自身が持っている特性や技を示したもので一人でできるが、魔法は魔法詠唱と魔力を消費することにより使える神や精霊に依存する力だ」

「なるほど・・・。私は、スキルは魔力を消費せず、魔法は魔力を使うものだと思っていた」

「間違っていない解釈だが、スキルでも魔力を使うものと使わないものがある。例えば、≪気配察知≫で言えば分かりやすい。このスキルは常時使っていても魔力を消費することはないが、察知範囲を広げようとすれば、魔力が消費するようになる。俺が言った、≪気配察知≫を広く使うとはこういうことだ。だが、人によって違うが広げようとする範囲は限られており、それ以上無理やり広げようとすれば察知精度が落ちることとなる」

「広く使うにはどうすれば良いの?」

「意識すれば良い。≪気配察知≫を使う感覚があるのなら、今まで索敵していた範囲を意識することから始めろ。意識できれば広げることが可能なはずだ」


 俺の言葉にカンナは一旦止まって目を閉じて集中しだす。俺とリアはそんなカンナを待つために止まる。しばらくするとカンナは目を開けて長い息を吐いた。


「・・・今までより、広く≪気配察知≫を使えたと思う」

「もうできたか、上出来だ」


 こんな数分でスキルを使うのが上達するようになる奴はあまりいない。カンナは器用で俺と同じタイプなんだろう。俺と同じく色々なことに対応できるようになる。色々なことに対応できる分、火力不足になりがちになるが、カンナの場合はミユキとモモネに任せておけばいい。


「前々から思っていたけど、バトラーさんはどうして私を助けてくれたの?」

「突然どうした?」


 リアが探している中でいきなり変なことを聞いてきたから、俺は足を止めずにリアの方を向いて聞き返した。それに何のことだかさっぱりわからない。


「こうやって何かしている時にしか聞けないよ、こんなこと。私はバトラーさんを殺そうとしたのに私と私の両親を助けてくれたよね。どうしてなの?」

「どうしてと言われても、何となくとしか言えないな」

「そんな曖昧な言葉では納得しないよ。私はちゃんと答えてほしいの」


 俺は足を止めてリアの方を見ると、リアは真っすぐと俺の目を見てくる。これは適当に答えても納得してくれなさそうな目だ。俺はため息を吐いてどう説明するか考える。俺自身、本当に何の考えもなく助けたにすぎないからな。建前的に言えば、俺という『闇の帝王』がいるせいで受けた被害の尻拭いと言うところか? いや、本当のところはそうではない。それを言うのは少し恥ずかしいが、これを言えば納得してくれるだろう。


「俺は生まれながら闇ノ神の恩恵を受けた人間。そして、人類が本来魔族が持つ闇の力を俺が持っていたことで俺を快く思わず、俺を迫害してきた。それはもう、普通なら相手を殺してしまいたいくらいと思うくらいのいわれのない憎しみを受けてきたと言っても良い。だがな、俺は憎しみを受けたとしても、人を愛し愛されたいと心の底で思っていた。だからこそ、憎しみを受けても憎しみを返すのではなく、人を愛することで愛されるのではないかと思ったんだ。だから俺は王都で憎しみを受けても憎しみを返さず、殺そうとしている奴にも多少の温情は与える。もちろん、本気で殺しに来るやつには容赦しない。で、リアを助けた理由だが、それはリアが一寸の憎しみも持っていなかったからだ。大げさに言えば俺を愛してくれそうだったからとも言えるか・・・。えり好みをする俺は自分勝手だろ?」

「・・・・・・ううん、大抵の人はそうだと思う。いや、バトラーさんが良い人すぎるっていうのが分かったかな。うん、そうだね・・・。納得した、ありがとう」


 リアは俺から顔を逸らしいるが、納得したと言ってくれているから良かった。こういう時にどう言えば正解なのか分からないのが俺の欠点だな。人との対話の少なさが顕著に表れる。


「オリヴァー、私をどうして許してくれたの?」

「カンナを? リアと大体一緒だ」

「つまりどういうこと? 抽象的に言っても分からない」

「つまり? どういうことも、さっき言った通り、愛されたいと思ったからだが?」

「大丈夫、私は現在未来でオリヴァーを愛しているから」

「そうか、それはありがとう」


 愛している、か。その言葉を聞けばあの人が死に絶えている姿が脳裏によぎる。俺がさっき言った言葉は師匠からの最後の受け売りだ。


『どんなに人に憎まれても、人を憎まないで。この先きっとあなたの大切な人が現れるから、その機会を逃さないために憎まないで。それはつらい道のりかもしれないけれど、オリヴァーならきっとできるはずだよ。何たって、私の弟子なんだから!』


 師匠とこの言葉がなければ、俺はどんなに醜悪な人間に陥っていただろうか。仮定の話をしても意味はないが、今でもあの時師匠を助け出せていれば、なんて幻想を抱いてしまうことはある。今を生きている俺にはその仮定に意味がなく、本当にどうしようもない。


 頭を切り替えて峡谷を降り、水の流れが激流になっているから落ちないようにしながらも、そのそばを歩きながら俺とカンナの≪気配察知≫で探しているが、一向に見つけることができない。俺とカンナの二重で探しているのだから、気配を漏らすことはないと思うのだが、ここまで見つからないのならいないのかもしれない。


「いないね」

「いない」

「いないな」


 ここまで粘っていないのだから、これはここにいないということで良いのかもしれない。滅多に人の前に姿を現さないのは人間が嫌いなわけだろう。無理やり会おうとしても良いことはない。だからこのクエストは終わらせて別のクエストに行こう、そう思って二人に声をかけようとすると、≪気配察知≫に何かが反応した。カンナもそれを気が付いたようで俺と同じ川の向こう側の壁を見る。断崖に大穴が開いており、その壁から俺たちを見ている毛並みが綺麗な大きな鳥がいた。


「オリヴァー!」


 カンナがようやく見つけたから少し嬉しそうな表情をしながら俺の方を見ながら鳥を指さす。リアは何のことだか分からない表情だったが、カンナが指さしている方向を見て気が付いたらしくリアは驚いた拍子に一歩前に出た。その一歩進んだ先には激流の川の川縁なわけで、運悪く川縁がリアの一歩で崩れた。


「あ――」


 リアは手を伸ばしながら体勢を崩して川に落ちていく。俺は素早くリアの元へと向かいリアの手を取る。しかし、一安心する暇もなく、激流の中からこちらへと殺気を出してくるモンスターを察知した。そのモンスターは俺たちを喰らおうと水中から飛び出してきた。


「こんな時に、『シャークローズ』かよ」


 噛み千切れないものはないとされている『シャークローズ』。その硬い歯と咬合力を兼ね備え、獲物を丸呑できる巨体を持っている。巨大な身体を持っているが、水の中では超速で動くことができる。ランクはSに指定されている危険モンスターだ。こいつが生息している地域は魔族領域の中か、そこに近い場所だが、何故こんな場所にいるんだ・・・。今はそんなことを考えている場合じゃないか。二人にはまだこいつらを倒すことができない。


 俺も体勢を崩しながらもシャークローズを全力で殴る。殴り終えると、シャークローズは跡形もなく消えていった。全力で殴るということをしたことがなかったが、こうなるとはあまりしない方が良い。これでは素材が取れなくなる。すぐに水辺から引こうとしたが、次々にシャークローズたちが水上へと飛び出してきて俺たちを喰らいに来た。


 この大勢ではリアを守りながらでは戦えないと思い、俺はあえて川縁を蹴り水中へと入る。水中は激流で流されそうになる勢いであるが、≪魔力武装≫で地面に槍を突き刺して流れるのを止める。水中に逃げたのは良いものの、水中は奴らのテリトリー。これでは奴らの思うつぼだと思っているかもしれない。俺を除いた冒険者ならここで奴らのエサになるところだろうが、俺はそうはいかないぞ。


 リアをカンナのいるところに向かって投げる。リアが投げ出されている最中に喰らいに来ようとしているサメは、再び作り出した槍を投擲して貫いた。無事にリアが川からいなくなったのを確認した俺は、手のひらに雷を生み出す。俺の常時効果により、黒い雷と化したそれを水中でぶっ放した。黒雷は水を伝ってシャークローズたちに直撃し、雷の餌食となる。奴らは黒雷を喰らい感電しており、次々にシャークローズたちが感電死していく。中には、黒雷を受けても中々死なない個体がいたため、そいつには槍を投擲して直接息の根を止めた。


 すべての個体の死を確認し、シャークローズと共に水の中から出る。水の中から出ると、涙目のカンナが飛びついてきた。リアも安心そうな顔をしている。


「おい、大丈夫だから離れてくれ」

「・・・無理」

「俺は濡れているから濡れるぞ」

「・・・そのくらい、気にしない」


 これはどう言っても離れてくれないと観念して、リアの方を向く。リアもずぶ濡れになっているが、外敵損傷はないように見える。投げた拍子にどこかを打ったとかくだらないオチはなくてよかった。


「リアは無事だったか?」

「うん、無事だよ。バトラーさんが助けてくれたから」

「それは良かった・・・。で、肝心の美鳥は・・・」

「ごめんなさい、私が落ちそうになったから」


 申し訳なさそうな表情をして俯いているリアの言う通り、さっきまでそこにいたはずの虹色美鳥はすでにいなくなっていた。だがまぁ、姿を見れたくらいで良しとしようではないか。元々このクエスト自体無茶なものだったのだから、失敗しても文句は言えないだろう。むしろ俺が言わせない。言った日にはあいつらにも虹色美鳥のクエストをやってもらうまである。


「さ、もういなくなっているだろうから、帰る――」

『お待ちになってください、そこの心清き者たちよ』


 帰ろうと二人に声をかけていた時、後ろから聞き覚えのない声が聞こえてきた。しかし、この気配はさっきも感じたことのあるものであった。俺はすぐに後ろを振り返ると、さっき穴からこちらを見ていた七色に色分けされている羽毛の美しい大きな鳥がそこにいた。鳥は人間が使う言葉を使って話しかけてきている。


「お前は、虹色美鳥か?」

『おそらく私のことを指しての呼び名でしょうが、その名は相応しくありません。私の名はアエル。そして種族名は天召鳥です』

「そうか。ならアエルと呼ばせてもらおう。アエルは何故俺たちの前に現れたんだ? 人間の前に滅多に姿を現さないはずなんだろう?」

『災いから守ってくださった恩人に礼を言わない恥知らずではありません』

「災い? さっきのシャークローズか」

『はい、その通りです。シャークローズたちは私から漏れ出す死の感覚を追い求めてここまで追ってきました。私を喰らおうと幾度となく襲ってきました』

「死の感覚?」

『はい。私たち天召鳥は一度死んだ生き物が、死を克服して成り代わった姿です。私たちは生と死を行き来することができる唯一の生き物ですので、生はおろか死すらも喰らおうとするシャークローズにとって恰好の餌食なのでしょう』


 シャークローズの呼び名の由来は、終末でもすべての生き物を喰らい尽くすと言われているところから来ている。それがまさか死を喰らおうとするとは、新たな発見だ。虹色美鳥こと、天召鳥の話も聞けて新たな知識を得ることができた。ついでに俺たちを乾かしてくれたし。


『それで、心清き者。私に何か用があるのでしょう?』

「あぁ、用があるが、その前にその心清き者というのは何だ?」

『言葉通りの意味です。心が清い人間、という意味です。そちらの二人は清くて美しい心を持っていますが、あなたは別格に心が澄んで何物にも汚されないものを持っています。長年生きてきましたが、ここまで心が澄んでいる人間を見るのは初めてです』

「俺の心が澄んでいる? それは何かの間違いだろう。俺は『闇の帝王』で、幾度となく人や魔物を殺しているんだ。そんな俺が澄んでいるはずがない」

『いいえ、そんなことはありません。あなたがやっている殺しは生きるためにしていることです。それを悪とするはずがありません。それに闇ノ神を悪神と呼んでいるんは人間だけであり、他の種族はそうは思っていません。何より、私の姿が見えている時点で心が澄んでいることは確定しているのです、心清き者よ』

「・・・そうか、分かった。心が澄んでいることは認めるから、心清き者はやめてくれ。俺の名はオリヴァー・バトラー。心清き者以外の呼び名で好きに呼んでくれ」

『では、オリヴァーと呼ばせていただきましょう。その者たちは?』


 天召鳥の視線がリアとカンナに移る。リアは魔物と話すのが初めてなのか、少し緊張した声音で自己紹介を始めた。一方のカンナの方を見ると、話す気がないらしく俺の胸にずっと顔をうずめいてる。代わりに俺が言うか。


「は、初めまして。私はリア・ドカエです。よ、よろしくお願いします」

『リア、ですね。改めて、私はアエルと申します。あなたの心も純粋でとても澄んでいる』

「あ、ありがとうございます」

『はい・・・。で、そちらは?』

「あぁ、それは俺が言う。彼女はカンナだ。悪気があるわけではないから許してやってくれ」

『いえ、気にしません・・・。カンナは、あなたに染められているのでしょう、オリヴァー』

「何でそう思う?」

『カンナの心は何者にも染められないほどの色で染められています。その姿を見ればあなたがよりどころになっていることは言うまでもありません』

「そうか。隠す必要がないから否定はしない」

『彼女たちを大切にできる日まで、大切にしておくことですね。それよりも、挨拶はこのくらいにして、あなたの用件を聞きましょう』

「そうだったな。単刀直入に言おう、お前の羽毛と血液を求めてここまで来た。アエルが良ければその二つを譲ってほしいと考えている」


 魔物に対して、こうやって頼むのは初めてだな。意思疎通できないということもあるが、身体の一部を他人に渡すという行為自体考えられないだろうからな。それも研究に使うのだから。俺とアエルの立場を逆にして頼まれたとしたら絶対に嫌だ。研究されるなどいい気分はしない。


『それくらいのことなら構いません。持って行ってください』


 俺の考えていることとは裏腹にアエルは快く引き受け、七色の羽毛を俺の手に出現させ、俺が懐にしまっていた少し小さめの瓶に血液をどこからともなく入れてくれた。俺は驚いてアエルを二度見してしまった。もしかして俺が助けたことでその恩をすぐに返そうと無理に渡してくれているのかもしれない。


「大丈夫なのか? もらえるのならありがたいが、天召鳥の羽毛と血液は貴重だろう?」

『問題ありません。そのくらいの血と羽毛なら大したことでもありませんから。それに、助けてもらった恩以外にも私が見えるということは私を使役する資格があり、天かはたまた地へと誘われる日が来るでしょう。私が見える人には最大限の敬意を払う必要があり、できることなら何でも願いをかなえると決めていました。そのことは私の自己満足なので気にしないでください』

「・・・そうか、ならありがたくもらっておく」


 何やら俺の知らない事情があり、俺もそれに巻き込まれそうな感じだが、そんなことは今更で闇の勇者になった時から日常茶飯事なのだから構わない。今は素直に羽毛と血液が手に入ったことを喜ぼうではないか。


『それからこれも授けておきましょう』


 アエルがそう言うと、俺の目の前に虹色の炎が出現し、炎は次第に形を丸く変えていき固体へと変化していった。そして俺の前に落とされたから俺はそれを取った。手のひらに収まる大きさの虹色に輝く玉であった。綺麗というくらいしか特徴のない玉だ。


「これは?」

『それは私とを繋ぐ宝玉。私が見えるもの、特に神の加護を受けているものには必ず渡している宝玉です。私に用がある時に宝玉を掲げれば、私はすぐに現れます。もちろん、私の力を必要とする時がが来ないと良いのですが』


 天召鳥の力は、確か生と死を行き来する力だと言っていたな・・・。そんなときは来ないと思いたいが、一応もらっておこう。この世界に絶対はないのだから、必要になる時が来るかもしれない。その時は遠慮なく使わせてもらう。


「分かった、ありがたく受け取っておこう。羽毛と血液も感謝する」

『いえ、お役に立てて何よりです。目的の場所まで送っていきましょうか?』

「そこまでしてもらわなくて大丈夫だ。自分たちで帰るよ」

『そうですか・・・。では、またお会いすることを楽しみにしています。神の御身よ』

「あぁ、またな」


 俺たちは天召鳥の羽毛と血液を持って王都へと帰還した。最後のクエストは知らない生き物である生と死を行き来する天召鳥に会えたのだから有意義なものだったと言える。ついでにシャークローズをおまけに討伐できたわけだ、これは結構な値で売れる。これで装備などを充実させれる。


 余談だが、天召鳥の羽毛と血液をクエスト発注者であるモンスター研究者の女に渡しに行ったところ、本当に取ってくるとは思っていなかったらしく腰を抜かしやがった。取ってこれないようなクエストをクエストとして出すなよ? と脅しをかけながらも報酬をもらった。そして、知らないであろう天召鳥の情報を高値で売ってやった。金貨1000枚という今回のクエストの報酬と同じ額でな。だが、女は喜んでお金を払って情報と羽毛と血液でよだれを垂らしていた。




 このようにして、俺は三つのクエストを終了させた。クエスト受注者の元へと足を運んだ後、クエストが終了したことを知らせにアルヌーのいる裏の地域に来ていた。


「借りた分を多く返した気がするんだが?」

「そう? 私がいなかったらこの国を鎮圧することができなかったと思うわよ?」

「それにしては手数料と利息が高くつき過ぎている。難易度が高いものばかり出してきやがって」

「少しくらい良いじゃない。それにあの三つはあなたくらいしかできないクエストだったのよ。少しやりすぎと思う節はあるけれど、それは追々返していくわ」

「終わったことだからもう構わない。それにしてもあの三つ目のクエストは特にひどかった。クエスト達成条件よりも前提条件が希少な鳥と出会うことだからな。それに、あの女は何だったんだ?」

「彼女は少し変わり者だけど、好奇心旺盛で優秀な子よ。最後のクエストに関して言えば、やらなくても良いと思っていたけれど、まさか手に入れてくるとは思っていなかったわ。おかげで彼女との関係も良好になりそうだわ」

「結局のところ、今回受けた三つのクエストはお前が色んなところに関係を持つためのものだったんだろう? それに俺は使わされたと」

「あら? 気に障った?」

「いや、気にしていない。それ以外のことでお前が無意味にクエストを受けるとは思っていなかったからな」

「それは良かった。でも、今回のことで討伐以外にも目を向けてみようと思ってみたでしょ? あなたは討伐クエストしか受けないから困っちゃうのよね」

「昔は討伐クエスト以外やっていた。それに困るのは知ったことではない」

「あなたがもう少し色々なクエストを受けてくれたら私も商売がしやすいのだけれど・・・」


 アルヌーがまさに色目を使って俺に承諾させようとするが、俺はその視線を無視してアルヌーに背を向けて歩き始める。アルヌーはそんな俺に何も言わずに送り出してくれた。アルヌーとこれから良好な関係を築くのは良いことだと思う。アルヌーは根本的に俺の力を認めて俺を大切に扱ってくれる数少ない人物だからな。それに甘えて俺がアルヌーに踏み込めば、きっと俺は彼女を失う羽目になる。そのため、一定の距離をあけておかなければならない。


 俺が裏地域から出ると、一緒にクエストへ行っていたリアとカンナはもちろんのこと、用事で来れなかったモモネとミユキまでそこにおり楽しく談笑している。楽しそうに話していた四人は俺の姿に気が付くと俺の元へと来た。


「お疲れ、オリヴァー。また何かアルヌーから言われたん?」

「いや、特には言われていないぞ。それよりも、モモネは用事が済んだのか?」

「うん、バッチリだし! あとで自信作を見せてあげる」

「楽しみにしておこう。で、ミユキはどうだったんだ?」

「はい! 優勝してきましたよ、大食い大会! もうお腹いっぱいで幸せですぅ」

「毎度思うが、その身体のどこに入るのか分からないな」

「あれですよ、たぶん胸にすぐに栄養がいっているんですよ。頭に行かない分」

「少しは頭に栄養を送ってほしいくらいだ」


 今日会ったことを話しながら四人で街中を歩く。少し前まではひそひそ話をされながら一人で歩いていたのに、今となってはこうして仲間と歩いている。こういう感じは昔ジュリ姉とカティ姉さんと俺で一緒に歩いていた頃を思い出す。俺が同世代の子供から意地悪をされるたびに姉さんたちは俺を守ってくれ、その帰り道に俺を心配しながら一緒に帰る。そんな昔のことを彷彿とさせる。


「オリヴァーっ!!!」


 今のちょっとした幸せを感慨深く思っていると、どこからか俺の名前を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。・・・いや俺ではないのかもしれない。ここで俺が呼ばれる呼び方と言えば、『闇の帝王』や『闇落ちの勇者』など名前で呼ばれるはずがない。呼ぶとすればここにいる四人くらいしかいない。つまり、これは俺を呼んでいるのではないだろう。


「誰かオリヴァーの名前を呼んだ気がするけど・・・。気のせい?」

「気のせいだ。さっさと家に帰るぞ」


 モモネが声に気が付いたようだが、俺はそれを気のせいだと結論付けて進むように促す。俺たちは声の方を気にせずに歩き始める。しかし・・・。どこかで聞いたことのあるような声だったような気がする。歩きながらどこで聞いたのかを思い出していると、俺の背後へ誰かが来ているのを察知した。俺を殺しに来た奴かと思ったが、俺に敵意はないから違う。俺が背後を確認するのと同時に、俺の肩をその誰かがつかんできた。振り返りざまに顔を見合わせた瞬間、俺はその女性に驚愕した。


 手入れが行き届いている長い黒髪は荒れており、凛としている表情がよく似合う表情は汗だらけで必死な血相をしている女性。前に見たのは十数年前だが、その姿は俺が見間違えるはずもない人であった。


「待ってオリヴァー!!」

「・・・ジュリ姉」


 俺の姉であるジュリー・バトラーがそこにいた。俺は言葉を失い、ジュリ姉は俺だと分かったら俺に抱き着いてきた。力いっぱいに抱きしめて。まさかもう会えないと思っていた姉と出会えることになろうとは思ってもみなかった。実に、十二年ぶりの再会だった。

誤字脱字などがあればすみません。指摘くださるとうれしいです。

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