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オリヴァーと転移乙女たち。後編

 随分と長くなりました。少し長く書き過ぎたと思うところはあります。

 そういうところも含めて、評価してくださるとありがたいです。

 俺たちは大きな城が象徴としてそびえ立っている王都が見えるところにまで来ていた。その道中では場数を踏むためにモモネたち3人がモンスターを倒していた。彼女たちの要望で、王都に帰ることより場数を踏むことを優先したため、王都に戻る道から少し離れ、色々な場所へと回ったり、色々なことがあった。




 一か月のとある一日・王都とバオル町の中央にある森の中の湖にて、数日間身体を洗わないのは許せないとのことで湖に目標を変えた。


「うぅん! 汗だくだったから気持ち良い!」

「そうだねぇ! 冷たくて気持ちいぃ」

「・・・火照った身体には良い」


 モモネとミユキ、カンナが全裸で湖に入っている。俺は木の陰に隠れてボーっとしていた。


「オリヴァー、絶対に見んなし!」

「分かっている。お前らの身体を見るつもりはない」

「はっ!? あたしたちの身体がそうでもないってこと!?」

「そんなことは言っていない。どうでもいいところで反応するな。それよりもこの湖は気を付けろ。湖に巨大なタコが――」

「「「きゃぁぁっーーー!!」」」


 俺が注意を言い終える前に、どうやら3人は巨大なタコに襲われているようだった。俺は絶対に見るなと言われているからすぐには助けに行かないが、助けに行く気がないわけではない。


「助けが必要か?」

「ちょーいる! てか身体中にタコの足が巻き付いてきて、あ! 変なとこに来てる! 助けて!」

「助けるのは良いが、その際に裸を見ても文句は言わないか?」

「言わないし! 言わないから早く! あっぐ、んんっ!」


 何やらタコに捕食されそうな声音が聞こえてきたものだから、俺は身の丈ほどある刀剣を≪魔力武装≫で作り出して木の陰から飛び出す。飛び出した先には全裸になっている3人が巨大なタコ、と言うかAAランクモンスターのクラーケンの足に囚われており、足で圧迫されて息もしにくそうだった。そんな中、クラーケンは湖の中に入ろうとしている。


 俺は一歩踏み込んだだけでクラーケンの目の前に移動し、魔力で刀剣の長さを増大させてクラーケンを一刀両断にする。クラーケンは斬られてもなお足が動き続けているから、3人に絡みついている足を切り刻み全裸の3人を救出した。


「ゴホッ、ゴホッ! ・・・はぁ・・・はぁ・・・やば過ぎなんだけど。水浴びするだけでこんなになるなんて聞いてないんだけど」

「こんなモンスターが住み着いている湖で水浴びなんて普通しないからな。人間の領土でモンスターが水浴びしている、なんて馬鹿げたことと同じようなことだからな」

「モンスターが住んでいるなんて言ってなかったじゃん!」

「国や町から離れているところなら、大抵のところでモンスターはいるぞ。当たり前だ」

「だから当たり前を言われても分かんないんだって!」

「それは悪い、これから気を付ければいい。それよりいつまでその格好でいるつもりだ?」


 モモネが全裸のまま俺に近づいてきていたため、その弾力のある大きな胸にピンク色の乳首、それに毛のない恥部に目を行かざるを得なくなっている。俺の言葉でそれに気が付いたモモネは顔を真っ赤にし、俺の顔に平手打ちをして来ようとするが、軽く後ろに下がって避けた。当たるまで続けようとしたモモネだが、身体を隠すことに専念した。


「こっち見んな!」

「裸を見てもいいと言ったのはモモネだろうが」

「凝視することないじゃん! それとなくならともかく!」

「それは仕方がない。俺の目の前に女体があるのだから」

「さっき見るつもりはないって言ったばかりでしょ!」

「時と場合による。今は見たい時と場合だ。順応しないとこの世界では生きてはいけないぞ」

「そんなことは良いから、さっさとあっち向けぇぇっ!」




 一か月のとある一日・ミユキが唐突にバードラゴンの肉を食べたいと言い出し、かたくなに食べたいと言い続け、食べないと死んでしまうとかアホなことを言ったため、ドラゴンが住む森へと移動した。


「へぇ、いっぱいドラゴンがいるんですねぇ」

「いっぱいいるどころの話じゃないんだけどな」


 俺たち四人はAランク以上の様々なドラゴンたちに囲まれている。ここは魔族領土に近いところにあるドラゴンが生まれ育つといわれているドラゴンの村に近い森。ドラゴンの村に近い森自体、危険度がSSという絶対に近づいてはいけないと言われている場所だ。


「これどうすんの!?」

「・・・かなりピンチ」

「どうするって・・・それは倒していくしかないだろ。今回ばかりは俺も参戦するぞ」


 モモネとカンナが少しだけ腰が引けているが、戦闘態勢に入っているからだいぶ場数を踏めていると見える。一番度胸面で成長しているのはミユキだろうな。この状況だろうと堂々とお腹を鳴らしている。この場面でエサはどう考えてもこちら側なんだけどな。


「あっ! バードラゴンがいた!」


 ミユキが指さした先には、木の枝にとまっているバードラゴンがいた。ミユキは俺たち3人を放っておいて一目散にバードラゴンに向けて走り出した。当然周りにいたドラゴンはその走り出したミユキに対象を向けて攻撃を仕掛けようとする。


「もおぉっ! あの子は本当にマイペースなんだから!」

「同意。そして帰ったらお仕置き」

「俺が周りのドラゴンを抑える。お前らはミユキとバードラゴンを追っていろ」

「了解!」

「分かった」


 3人がバードラゴンを追っている間、俺はバードラゴン以外のドラゴンに向けて、自分より低いレベルの相手の戦意を喪失させる≪気迫Lv.10≫のスキルを使い、気迫だけで威嚇をする。少数のドラゴンは俺の気迫に恐れてどこかへと飛んで行ったが、大抵のドラゴンたちは彼女たちではなく、俺に攻撃対象を変えた。200越えの俺に怖気づかないのは、俺よりレベルが高いのではなく、ドラゴンの誇りが高いから耐えきったのだろう。


 ドラゴンたちは俺に向けて尻尾で攻撃や炎を吐いたりしているが、俺には一切効かない。レベル223で≪全物理耐性Lv.10≫と≪全属性耐性Lv.10≫を持っている俺にはな。俺からしてみれば最凶のドラゴン以外のドラゴンは恐れるに足りない。


 俺はミユキたちが俺の能力の範囲に入らないように調節し、それ以内に入っているドラゴンに対象を向ける。≪魔力往来・弐≫・≪空間把握≫・≪魔力流動強化≫の3つのスキルを使い、範囲内にいるドラゴンの魔力を吸い尽くす。名付けるならば、


「イールド・アブソーブ」


 ドラゴンは魔力をとてつもなく早く奪われており、ドラゴンのほとんどがまともに動けていない。しかし、それを我慢して俺に立ち向かっているドラゴンもいる。こいつは上位の存在なんだろう。ただ、俺がこれを使い続けることで、体力が消耗していく。それにドラゴンの魔力を入れる俺の魔力受容量にも限界がある。まあ、それを危惧すべき状況ではないから構わないんだが、早めに終わらせるのに越したことはない。


 二対の剣を作り出し、魔力を吸われてもなおこちらに殺意を向けている翼がないが大きな身体に大きく鋭い爪を持っている青色のドラゴンに攻撃を仕掛ける。青色のドラゴンに斬りかかると、ドラゴンの鋭い爪で拮抗する。魔力をそれなりに奪っているのにこれだけ動けるとは、さすがドラゴン。


『貴様らの目的は何だ!?』


 拮抗している際に、目の前のドラゴンが俺がスキルを使わずに聞き取れる言語で話しかけてきた。モンスターの中でも知能が高いと人間と意思疎通できると聞く。その中でもドラゴンは非常に知能が高いため意思疎通しやすいと言われているが、ドラゴンと意思疎通しようとする奴なんてそうはいない。


「ツレがお前らのところのバードラゴンを捕食する用事があってな。それで来ているんだよ」

『村を襲いに来たわけではないのか?』

「村を襲ったって、俺に何のメリットなんてないから興味がない」


 俺と青いドラゴンは爪と剣で攻防を続けながら話し続ける。


『闇の勇者が来たかと思えば、そのようなくだらない理由か』

「くだらなくはないだろう。一応お前らの種族を食らおうとしているわけだが?」

『あのような誇りのかけらもないドラゴンなどドラゴンではない。村に置いているのはドラゴンと名がついているからだ。いくらでも狩るといい』

「なら、遠慮なく捕えに行く、ぞ!」


 青いドラゴンの爪をはじき態勢を崩した隙に、3人の元へと向かう。3人はバードラゴンを仕留めようというところまで追い込んでいた。


「に~くなの、に~くなの。どうしてあなたはに~くなの?」


 ミユキはバードラゴンを見て謎の歌をご機嫌に歌いだしている。バードラゴンはそのミユキを見て畏怖の感情を覚えたのか、悲嘆した声音で鳴いて飛び立とうとしている。それをミユキが見逃すはずもなく、最後の一撃を与えようとしたとき、さっきまで俺側にいた大きな黄色のドラゴンがバードラゴンをくわえてものすごい速さで逃亡した。


 俺たちがそっとミユキの方を見ると、唖然としている表情であったが、段々と震えだした。


「ふっ・・・ふふふっ。バードラゴンの肉が・・・・・・」

「お、お~い、ミユキ? だ、大丈夫?」

「これは大丈夫じゃない。え、何か身体からモヤが出ていない?」


 ミユキが不気味に笑い出したと思えば、ミユキの身体から紫色の魔力が漏れ出している。ミユキが魔法を発動させるのかと思ったが、モモネとカンナには教えたものの、ミユキの魔力量から今はまだ魔法を教えていない。つまりこれは――


「おい、ミユキから離れるぞ!」

「ちょ、何!?」

「離れたらミユキが孤立する。離れられない」

「あれは放っておいて大丈夫だ。あれをまともに食らって無事じゃないやつはいない」


 俺は驚いているモモネと渋っているカンナをミユキの元から無理やり離れさせる。離れた瞬間、ミユキの身体から出ている魔力は一際光りだし、周囲を飲み込むほどの大爆発が起きた。


 この技は魔力を使わない前衛職が相打ち覚悟で全魔力を放ち爆発する『オーバーヒート・マジカル』。全魔力と一日動けなくなることを引き換えにする魔力大爆発。この爆発はレベルが50以上で魔力をほぼ使っていない前衛が覚えることができるスキルだが、ミユキのレベルは53。そして魔力を全然使っていないから爆発しても何も不思議には思わない。ただきっかけが怒りとは、不安定で不安だ。




 一か月のとある一日・夜にて。


「まだ起きてるの?」

「それはこっちの言い分だ。寝れる時に寝ておけ」

「少し、昼間の戦闘で興奮して、いまだに興奮しているから寝れない」


 倒れている木に腰かけている俺の横にカンナが座った。カンナたちは昼間に俺の援護しながらもSランクのモンスターと戦っていた。他の二人はぐっすりと寝ているが、カンナは逆のようだ。


 しばらく俺たちは何も言葉を交えず、ただたき火を見ているばかりだった。するとカンナは俺の方へと身体を寄せてきて、俺の肩に頭を乗せてきた。


「ねぇ、私たちは強くなっているよね?」

「あぁ、この世界の誰よりも強くなっている。一か月弱でレベルが50前後に行くなんてことはあり得ない。それにどのステータス値も10000を超えているなら、Sランクは確実だ。自信を持て、お前たちは誰よりも強くなっている」

「・・・そう、だよね」


 俺の言葉の何が引き金になったのか分からないが、彼女は暗い声音で答える。


「強くなったことが不服か?」

「ううん、不服じゃないよ。強くなって、この世界で生き残れているから嬉しいくらい。でも、どれくらいで元の世界に帰れるのかと思って。もしかしたらこの世界で一生を終えるかもしれないって。元の世界に帰ったとしてもちゃんと元の生活ができるか、とか色々と不安が過るの」


 彼女はしっかりとしている分、今目の前の現状だけではなく、先のことまで考えてしまい不安に押しつぶされているのだろう。その考えは分からなくもないが、悲観することはない。


「悲観的な考えをするからいけないんだ、もっと楽観的に考えればいい。未来など未知数で、誰にも考えが及ばない。未知数であるから悲観的に考えることは分かる。だがな、分からないことにそんな考えを巡らせても良いことなんてない。未来に対して今できることを少しだけ考え、少しだけ未来のために実行し、今を生きていけばいい。俺がそうしているように。・・・これが正解かどうかは分からないから、あまり俺の言葉を鵜呑みにするなよ」

「・・・少しだけ、か。そうだね、私たちは今を生きていることに精一杯なんだから、未来のことを悩むほど考えても仕方がないよね。・・・それよりも、あの言い方だとオリヴァーも何か未来に悩んでいることがあるの?」

「生きていれば未来に不安を抱くことくらい誰にでもある。それにお前たちは3人なんだから3人で悩んだ方が不安が和らぐだろう」

「モモネとミユキに?」

「そうだ。一人で悩んでいても仕方がないんだから。一度くらいその心境を話してみたらどうだ? 案外他の二人も思っているところが一緒かもな」

「・・・分かった。明日話してみる。ありがとう、だいぶ楽になった」

「それは何よりだ」


 俺の言葉で、何とかカンナのわだかまりを和らげることはできたようだ。ただ、彼女の不安はこの世界に生きている間、彼女の心を浸蝕し続ける。それを取り除くことは俺にはできない。




 一か月もの間、それだけをこなしていた3人は、それなりに場数を踏むことはできた。3人の帰りたいという意思の強さにも起因しているところもあるだろうが、それ以前に彼女たちのステータスの上がり方が異質であるから、楽しさなどから彼女たちのやる気も上げているんだろう。


「やっと、着いた」


 カンナは魔法や剣での戦闘の二つをこなせる魔法戦士の型へと定めていた。完全に前衛職のミユキと後衛職のモモネを補うための中衛を選んだのだろう。きっと職業を決める際には、スキルが影響して魔法戦士などの融通の利く職業になれるだろう。


「ほんと、やっとだし」


 モモネは魔法に特化した攻撃兼援護を担う後衛タイプ。俺が知りうる限りの魔法は教え、俺が所有していた魔法が書かれている本もあげて熱心に勉強していた。仲間の援護・補助はもちろんのこと、威力が弱い魔法から強力な魔法までマスターしていると言える。


「ふへぇ~、早くベッドで休みた~い」


 ミユキは攻撃力と防御力に特化した前衛職。その硬さはSランクモンスターの攻撃だろうと揺るぎはせず、その剣は一撃でAランクモンスターを屠れるだろう。ただ、ミユキは二人を守ることに重視しているためか、攻撃は二人に任しているところもあるから、防御の方が本職だ。


 この3人はバランスの取れている良いパーティーだ。初期スキルの方はまだ必要ないと思い、放置しているが、これから使えばいいと思っている。これまでの目的はとりあえずステータス値を上げることであったからスキルなど後からでもいい。


 彼女たちと共に王都の門の前まで来た。門には相変わらず王都の中の人々のように俺を知って嫌っている門番の男がいた。その男の前を何も言わずに通ろうとすると、男は邪魔はしなかったが独り言のように小さい声で喋った。


「何だよ、また戻ってきたのかよ。野垂れ死にしていれば良かったのに」


 いつものことだから俺は無視して行こうとしたが、いつものことではないモモネにとっては無視できないことであったらしい。


「あ? 言いたいことがあればハッキリ言えば?」


 モモネは門番を睨めつけながらハッキリ言うように促した。門番はモモネの鋭い視線と声音に威圧されて口ごもっている。一か月前まではただのか弱い女の子が、王都の門番を任されている男を圧倒するとは誰も思わないだろう。これまでの戦いで人間なんて怖くなくなったのだろう。


「やめておけ。そうやってコソコソと喋ることしかできない男なんだ。そんな奴に構う時間など無駄だ」

「でも、何か言われたら腹が立たない?」

「あいつと同じ地に落ちたいか? その程度の男は放っておけ。自分の恥ずべき言動も分からない男なんだから」

「・・・分かった」


 モモネは渋々分かったような返事をしてくれた。対する門番は顔を真っ赤にして俯いているが、この程度のことを言われたくらいで言い返せないとは、所詮その程度の男なんだろう。


 俺たちは王都に入り、冒険者になるために冒険者ギルドへと向かう。王都に帰って最初にやることと言えば、休むことも大事だが、それよりも前に冒険者登録した方が良い。冒険者登録すればこの国での身分証明書となり休むことも優遇されることもある。俺は別だけどな。


「おい、あれ見ろよ」

「あ、何だよ、まだ生きてたのかよ」

「しかも今度は女を引き連れているぞ。奴隷か何かか?」


 相変わらず、街中を歩いていると俺を見てコソコソと喋るやつが多い。俺は気にしないが、やはり彼女たちは気になるようであった。


「聞いていたけど、本当に聞こえるくらいに言ってくるんだ」

「これだけむき出しにされると気分が悪いですぅ」

「・・・何か、超ムカつくし」

「放っておけ。まぁ、それが気になるならこうしてやればいい」


 俺はスキルも何も使わずに、コソコソと言っている奴らを睨めつけてやる。すると顔を青くしてその場から離れていった。目力だけで散らすことができる人間など、たかが知れている。一人でいる時にはそう言えない臆病者なのに。


「おぉ、お見事。虫のように散って行った」

「・・・あぁ! やっぱり何か言わないと気が済まない! 言われっぱなしは性に合わないし!」


 これだけではモモネの気は収まらないらしい。確かにモモネの性格からすれば、何倍にも返さないと気が済まないだろうからな。


「そう言うな。どうせ何もできないのだから。だが、それでも気が収まらないのなら、何も言わせないくらいの功績や称号で黙らせればいい。きっと奴らは恨めしそうに見ることしかできないだろう。さっきも言ったが、同じ地面に落ちるよりそっちの方がずっと良い」

「・・・・・・ふぅ、分かった。絶対に黙らせるし」


 この気持ちがきっと彼女のやる気を何倍も引き出せるだろう。彼女たちは良くも悪くも素直な子たちだ。元の世界でも汚い部分を見たことがないから、そうやって素直になれたのだろう。


 ただ、口だけで収まれば良いが、もっと狡猾な奴らは他の人間をけしかけたり、馬鹿な奴らは武力行使をしてきたりと、面倒な時はある。その時は何も遠慮はしない。俺は“良い人”ではない。だから生きていることを後悔するくらいの恐怖を与えた後、命だけを残しておく。そうすれば自分で自分を殺してくれる。


 ギルドへと向かう道中、少しだけ遠回りして出店に売っている串焼き肉などを買い食いしながら街の中を見て回る。彼女たち曰く、あまり街の中を見て回っていなかったらしく彼女たちたってのお願いで見て回ることになった。


「あ、これも食べたいです!」


 色々な場所へと回っているが、一番楽しんでいるのがミユキであった。そのマイペースさと旺盛な食欲により、その身体のどこに入るんだと思うくらいに食べ続け、俺たちは振り回されている。・・・いや、俺だけか。


「あれ何!? ちょー興味あるんだけど!」

「私はあれが食べたい」


 モモネは出店にある綺麗な宝石を使っている装飾品を見てそちらに行ったり、カンナは甘くて女性に人気な菓子に目がないらしく食べたいと言ってくる。この一か月間、戦い漬けの日々であったから、日常の部分を欲しているんだろう。俺は頑張ったご褒美として彼女たちが楽しめるようにとことん付き合うことにした。


「早くこっちに来てくださ~い!」

「アンタはさっき食べたばかりでしょ! あたしの方からお願い!」

「私はすぐに済むから私から」

「・・・そう焦るな」


 生まれてこの方、ずっと、ずっと一人でいたから、こういう仲間? という者たちと一緒に買い物なんて初めてだ。食事を取る時も、寝る時も、歩く時も、今まで本当の意味で一人であったから、俺が闇ノ神の加護を受けていなければこんな生活を姉や、ニーナとできていたのだろうか。・・・まぁ、今更そんな仮定をしても意味がない。俺は“今”を生きている。




 予定より時間を食ってしまったが、ようやくクエスト仲介を主な仕事とする冒険者ギルドへとたどり着いた。色々と回ったから、俺のあらぬ噂が流れているんだろうなと、くだらないことを考えながらギルドへと入る。ギルドに入るとやはり俺に全員の視線が釘付けになっている。俺のオーラが馬鹿でかいからかもしれない。


「冒険者登録ってどこですんの?」

「うん? あそこだ。『冒険者登録兼相談所』と書いてあるだろう」

「あぁ、あそこね。じゃあさっさとやろ」


 モモネはようやく俺に対してのこの奇異を見るような視線に慣れたのか、我関せずで俺が言った場所に進んでいった。カンナとミユキも同じように進んでいく。


「ようこ・・・闇の勇者」


 俺を見た瞬間、嫌な顔をした短い茶髪の見覚えのない受付嬢がそこにはいた。ここの受付嬢で俺に普通に接してくれるのはマーフィーだけだ。


「あたしたち3人、冒険者登録をしたいんだけど」


 モモネは茶髪の受付嬢を睨めつけながら、低い声音で受付嬢に声をかける。受付嬢は来るとは思ってなかったところから威嚇のようなものをされて驚いているようだった。しかし、そこはさすが受付嬢。すぐに元の表情に戻して通常業務に戻る。


「はい、こちらの紙に必要事項をご記入ください」


 3人の前に冒険者登録用の紙とペンが置かれ、モモネたちはそれに必要事項を書いていく。俺は3人が書き終わるまで何もすることがなく、クエスト掲示板の方をボーっとしながら見ていた。特に目立つクエストはないと思いながら、すべてのクエストに目を通していると、あるクエストに目が留まった。


『クエスト名:小さく真っ赤な龍の討伐

 ランク:不明

 詳細:不明

 報酬:金貨100枚

 クエスト発注者:ザイカ王』


 この国の王が出しているクエストであった。ランクも詳細も不明で、報酬が金貨100枚とはとんだクエストだな。ランクが不明というのは、ランクが付けられないクエストなのか、ランクが本当に分からないクエストなのか。前者なら100枚は少なすぎる。せめて討伐ではなく調査だろう。曲がりなりにも龍と名のついている生き物は金貨100枚では収まらないことが多い。小さく、真っ赤な龍か。真っ赤と言うくらいだから、相当な龍だろうが・・・・・・まさか、極燃龍が動き始めたのか?


「ねぇ、オリヴァー」


 カンナに話しかけられ、俺は現実に戻された。今は考えても仕方がない。それにあれに関して言えば、俺に被害が及ぶことはほぼないから心配するなら炎の勇者の方だけどな。


「っ! 何だ?」

「大丈夫? 何か考え事?」

「いや、何でもない。大丈夫だ」

「そう、それなら良いけど。それよりも・・・」


 何か言いづらいことらしく、カンナは少し背伸びをして俺に耳打ちしてきた。


「この“出身地”は、どこにすればいい? 正直に日本とか書いたら良いの?」

「・・・そうだな。嘘を書くと後々不利に動くことがあるかもしれない。日本と書いておけ」

「分かった」


 カンナはまた書き始めた。冒険者登録の紙には書く項目が多いから、それなりに時間がかかる。クエスト掲示板をまた見るのも、何か考えそうだからやめて、目をつぶって待つことにした。


「あれ? バトラーさん? 久しぶりですね、一か月ぶりですか」


 声をかけられて目を開けると、目の前に手入れが行き届いている長い金髪の女性こと、マーフィーがそこにいた。こんなにも悪意のない挨拶はそうそう来ないものだ。


「あぁ、そのくらいだな。マーフィーは変わらず元気だったか?」

「はい、病気も何もありませんでした。・・・ところで、そちらの方々はお知合いですか?」

「モモネたちか。バードラゴンを討伐した時に成り行きでな」

「あ! そう言えばバードラゴンは無事に倒したのですね。バトラーさんがバードラゴン討伐くらいで失敗するはずがないので、一か月間どうしていたのかと心配していました」

「少しな。俺がいない一か月間、国では何もなかったのか?」

「・・・う~ん、特に目立ったことはなかったと思いますよ。・・・あ、でも、バトラーさん関連で言えば3日前に計8人の勇者がこの国に召集されて会議をしたようですよ。バトラーさんは・・・」

「もちろん出ていないし、呼ばれてもいない。何か発表でもされたか?」

「いえ、特には。ただ、最近魔物の活性化が激しいから、国が何かをするとかしないとか噂にはなっていますね」

「魔物の活性化、か」

「どうしました?」

「いや、何でもない。教えてくれてありがとう」

「いえいえ、バトラーさんのお役に立てたのなら嬉しいです」


 これは考えないようにしない、というのはナシだな。目覚めつつあるようだが、俺のレベルで通用するかが分からない。


『名前:オリヴァー・バトラー

 種族:人間

 年齢:二十二

 職業:闇の帝王

 称号:闇夜深める帝王

 ≪スキル≫

 ≪闇ノ神の情愛≫・≪降臨の印≫・≪闇落ち≫・≪帝王従属≫・≪重力操作≫・≪言語共有≫・≪明鏡止水≫・≪六感強化Lv.10≫・≪身体能力上昇Lv.10≫・≪潜在力感知≫・≪超速再生Lv.10≫・≪魔力察知≫・≪気配察知≫・≪気配遮断≫・≪気配追尾≫・≪気迫Lv.10≫・≪騎乗Lv.10≫・≪体術Lv.10≫・≪武装術Lv.10≫・≪魔力武装≫・≪魔力具現化≫・≪魔力纏身≫・≪魔力往来・弐≫・≪空間把握≫・≪魔力流動強化≫・≪魔力性質模倣・改≫・≪全物理耐性Lv.10≫・≪全属性耐性Lv.10≫・≪全物理反射Lv.10≫・≪全魔力反射Lv.10≫・≪背水の陣≫・≪採取Lv.10≫・≪調合Lv.10≫・≪錬成LV.10≫』

『オリヴァー・バトラー Lv.227

 筋力:301673(+100000)

 物理耐久力:300988(+100000)

 速力:312266(+100000)

 技術力:309990(+100000)

 魔法耐久力:301050(+100000)

 魔力:325917(+100000)』

『スキルスロット残数4』


 ステータス値は他から見れば異常なのかもしれないが、油断はできない。あと、瞬間移動的なスキルを習得しようと思っていたら、≪降臨の印≫とか意味が分からないスキルが、勝手に60ものスキルスロットを使って追加されていた。何をしてくれているんだと思った。


「ん? どうした?」


 俺がステータスから顔を上げると、モモネたちが俺とマーフィーを何か怪しんでいる視線で見ていた。俺とマーフィーのどこに怪しむ要素があるのか分からない。


「随分とその人と仲が良いじゃん」

「仲が良いというか、これが普通の対話だと思うが」

「・・・そんなことはない。その人の顔を見れば分かる」


 カンナに顔を見れば分かると言われても、マーフィーの顔をじっくりと見るが何も分からない。段々と顔が赤くなってきだしているくらいで、何も分からない。俺のスキルは戦闘スキルしかないからな。


「顔で、何が分かるんだ?」

「そ、そんなにジッと見ないでください」

「・・・分からない」

「はいはい、そういう鈍いところがムカつくか、ら!」


 モモネに足を思いっきり踏まれているが、なぜ踏まれているのか分からない。俺は悪意を感知することには特化しているが、善意に対しては分からない。ただ、今のモモネからは嫉妬の感情が感じ取れる。何に嫉妬しているんだ?


「そんなことより、書けたんだろう? ならさっさと職業を決めろ」

「そんなことじゃないし!」


 場を納め、3人は茶髪の受付嬢に冒険者登録用紙を出した。マーフィーに見送られながら、ギルドの裏へと案内される。俺は行かなくても良かったが、3人が付いてきてほしいとのことで付いて行っている。


「オリヴァーも最初はこういうところで職業を決めたの?」

「いや、俺の場合は職業を決められていたし、人の手で変えることはできない」

「どうして? 最初は全員無職じゃないの?」

「世界には例外の一つや二つある。俺の職業然り、お前らのステータス値も然り」


 カンナの疑問に答えながらとある部屋へと案内された。ギルドの裏の一室には台座に乗せられていた水晶のみがあった。ここでは、職業を変えることができる職のものがいなくても職業を決めることができる。ただ、職業が決まっていない無職の時に限るがな。


「では、一人ずつこの水晶に手をかざしてください」

「じゃあ、あたしからで良い?」


 すぐさまモモネが手を軽く上げ、申し出てきた。カンナとミユキは、特に文句がないようで頷いて一歩引いた。モモネは水晶の前に立ち、水晶に手をかざした。すると水晶は輝きだし、モモネの身体も輝きだした。


「職業適性は・・・魔法に関する職業ばかりですか。あ、上級職の『賢者』がありますね。非常に魔法職の適性が高いです」


 俺を含めた全員が水晶を覗いており、水晶に文字が浮かび上がっているのが分かる。俺の指導を受けた成果か、色々な属性の適性が出ている。『賢者』は、魔法職の中で最強で最上級職の『大賢者』へとなるために必要な前段階の職業だから、良いな。


「ねぇ、『賢者』って何?」


 モモネにそう尋ねられるが、そうか。モモネたちは職業の概要を知らないから教えてやらないといけない。


「『賢者』は、今のモモネの戦い方に合っている職業だ。支援魔法や攻撃魔法を得意としている職業だから『賢者』でもありだな」

「ふぅん・・・他に珍しい職業はないの?」

「賢者でも良いと思うが・・・」


 俺は水晶の中を覗き込み映し出されている職業を見ていると、とある珍しく強力な二つの職業を見つけた。どうやら茶髪の受付嬢も見つけたようで俺の方をすぐに見てきた。


「これ、アンタの影響でしょ?」

「それしかないだろ。それに、この職業を発現させるには俺の職業が必要なのだから」

「え? 何? どの職業の話をしてんの?」


 茶髪の受付嬢と俺が見ている職業は、『闇の魔導士』と『光の魔導士』という職業だ。『闇の魔導士』は、すべての属性を専門職業と同等の力で出せ、支援魔法も同じように強化されおり、ほぼ『賢者』と同じと言える。ただ、その力には闇属性が付与されているため、昼に使えば若干の力の弱まりがあるが、それはさほど気にするところではない。だから『闇の魔導士』は強力だ。


 だが、その職業の発現基本条件は、『闇ノ神の力を受けしものと親しくする』ことだ。彼女らが俺と共に行動することで親しくなっていると判断されたのだろう。・・・『闇の魔導士』なら分かる。だが、『光の魔導士』は何故だ? 『光の魔導士』も『闇の魔導士』が発現する条件と一緒だ。もしかしたら、彼女には『光の魔導士』になる素質があったのかもしれない。


「この『光の魔導士』と『闇の魔導士』のことだ。この二つのどちらかに決めた方が良いと思うぞ。この職業を発現しているものは、歴史上数人としかいない貴重で強力な職業だからな」

「『光の魔導士』一択でしょ。『闇の魔導士』を選んでもこの子が幸せになるとは思えない」

「それはモモネが決めることだ。それに光と闇はさほど変わらないだろ」

「確かに力は変わらないかもしれないけど、光と闇では大衆の受け入れ方が違うってことを言ってんの。光の方が快く受け入れてくれるでしょ」

「受け入れてくれるかどうかで決めて、大事なものを見失ってはいけないだろ。受け入れられずとも、自分が納得すれば良い話だ」


 モモネ自身の話なのに、俺と受付嬢の話が熱を帯びてしまった。俺は自分の境遇が過酷とも、それを受け入れ、納得しているから何も文句はない。それを、大衆が受け入れるような薄っぺらい感情のために無理やり納得するようなことだけはしてほしくはない。だが、それは彼女自身が決めることだ。


「とにかく、よく考えて職業を決めることだな。す――」


 少し時間をおいて考えてもいい。と言おうとした時、水晶の文字に小さく薄く、しかし存在感を発揮している職業が見えた。


「『明暗の魔導士』?」

「明暗? ・・・ほんとだ、聞いたことがない職業だ」


 俺は水晶に浮かび上がっている職業に触れ、詳細を見る。


『明暗の魔導士・・・光と闇の力を併せ持つ魔導士。全属性を強化されている状態で使え、なおかつ光の魔導士と闇の魔導士の弱点をそれぞれの長所で補い合う特性を持つ』


 ・・・これは、強いな。光と闇の両方の力を使えるということは、弱点がなく強力な魔法を使えるということだ。


「オリヴァー、この『明暗の魔導士』はどうなん?」

「強いぞ。この中では一番使える職業だ」

「・・・じゃあ、これにする」


 モモネが即答したことに、俺と受付嬢は特に文句はなかった。聞いたことがない職業かつ使える職業の時点で選ばない選択肢はない。


「では、水晶に手をかざし、浮かび上がっているその職業を強く思い浮かべてください」

「ん・・・こう?」


 水晶から放たれている光が強くなり、解き放たれたその光はモモネに収束した。光が収まり、モモネは身体に変化がないか身体を動かしている。


「何か・・・職業を得ても何も変わんない?」

「職業が決まっただけだからな。魔法を使う時が一番威力で分かりやすいだろうが、他にも職業に合わせたスキルを得るようになるだろう」

「ふぅん、そうなんだ。・・・っ!? 何か目の前に色々とスキルを習得しましたって出てきてるんだけどどういうこと!?」

「その職業に合わせた固有スキルを得ているんだ。だが、とりあえずそれは後にしろ。他の二人がまだ決まっていない」

「え!? 頭の整理が追い付かないんだけど!?」

「だから後にしろと言っている。そこで馬鹿っぽくしておけ」


 騒いでいるモモネを放っておいて、次はカンナが職業を選択する。カンナはさっきのモモネを見ていたから水晶に手をかざすことを言われずとも自分からしてくれた。水晶は光り、文字が浮かび上がってくる。モモネ以外の全員が水晶を覗き込む。


「カンナさんの職業適性は幅広いですね。剣士から始まり、暗殺者や魔導士の適性まであります。上級職の『魔法剣士』なんかも良いですね」

「そう。オリヴァーはどれが良いと思う?」

「そこは自分で決めてほしいところだ」

「決めると言っても、あまり職業のことを知らないから安直には決めれない。そういう面ではオリヴァーに助言をもらった方が確実だと思うけど、どう?」

「助言はやるが、決めるのは自分でしろ」

「分かった」


 俺は水晶に浮かび上がっている職業を見る。どの職業を選んでも器用なカンナはどれも卒なくこなせるだろうが・・・どうやら俺の影響力というものは凄まじいものらしい。この『闇黒戦姫』という職業も聞いたことがなく、俺の影響だということがよく分かる。


『闇黒戦姫・・・闇を愛しものにのみ授けられる職業。闇の恩恵を受けることができ、闇を深く愛していればいるほど恩恵の効果は上がる。さらに、闇に準じるものが近くにいれば能力値が大幅に加算される』


 これは完全に闇に取りつかれる職業だな。あまりおススメできない職業だ。愛という不確定要素で不安定に上がるような能力値を信用できないからな。


「何を見てるの? ・・・『闇黒戦姫』? 内容は・・・うん、これにする」

「本当に良いのか? 他にも役立つ職業はいくらでもあるぞ」

「これにする。闇に準じるものはオリヴァーもそうだけど、これってモモネの職業にも適応されるよね?」

「そうだな。モモネの職業もそうなっている」

「それならこれで良い。見たところこれ以外に目立ったものはないし、何となく直感でこれにした方が良いような気がする」

「・・・自分で決めたのなら俺は何も文句はない」


 カンナは水晶に手をかざしてモモネと同じように光を受けた。


「あ、本当だ。すごくスキルの習得が出てきている」

「後で整理するから今は待っておけ。最後の――」

「はいは~い! 最後は私です!」


 ミユキは待ちきれないようですぐさま水晶の前に立ち、水晶に手をかざす。三度目で見飽きた水晶に文字が浮かび上がるという事象を観察した後、文字を覗き込む。ミユキのステータス値から前衛職、それも防御力が高い騎士に関する職業が多い。お、上級職の『竜騎士』や『神聖騎士』がある。・・・だが、さっきの二人と同様に隅々まで見るが、特に変わった職業はなかった。


「どれが良いですか?」


 ミユキは期待を込めた視線で俺に問いかけてくる。たぶん彼女はさっきの二人のように珍しい職業がないかと聞いているのだろうが、ない。ここは普通にすごい職業を言うか。


「『竜騎士』や『神聖騎士』なんかが良いと思うぞ。なぁ、そこの茶髪の受付嬢?」

「茶髪の受付嬢じゃなくてアリア・オルティース。でも、その二つは良いと思うわ。無職からのその職業はこれからが期待できる」


 俺と茶髪の受付嬢ことオルティースが一般論を述べるが、その続きを待つように彼女はこちらを笑顔でずっと凝視してきている。残酷な事実、いや、モモネとカンナが異常なだけでミユキは普通だが、要は仲間外れの事実を言わなければならない。


「ミユキ。お前は何かを期待しているようだが、特に目立った職業はない」

「・・・・・・え?」

「もう一度言うぞ。聞いたことがない職業はない。どれも強い職業だが、珍しい職業はない」

「・・・・・・えっ?」

「つまり、ミユキは一人だけ仲間外れというわけだ」

「え・・・えぇっ!!!?」


 目が飛び出るほど驚いている。そこまで驚かれるから、俺とオルティースまでも驚いてしまった。


「も、もう一度よく見てくださいよ! 一人だけ仲間外れなんて嫌ですよ!」

「・・・・・・お、これは」

「もしかしてありました!?」

「いやない」

「そんなことありますか!?」

「別になくても良いだろ。いつもマイペースに外れたことをしているんだから」

「よくありませんよ! ご飯を一緒に食べていて、おかずが違うのは良いですけど、和風と洋風で違うのは良くないんですよ!」

「よく分からないが、どちらも違うから結局は違うだろ」

「根本的な部分で違うから嫌なんですよ!」


 ごねているミユキだが、結局はどうしようもないため、水晶に浮かび上がっていた職業で一番強いとされている『神聖騎士』を選んで終わった。




 3人の冒険者登録を終わった俺たちは、一旦職業や職業のスキルを整理するために冒険者ギルドの一角にあるテーブルがあるイスに座る。


「・・・ハァァァァ」

「いつまで落ち込んでんの。いい加減そのため息もやめろし」

「でもぉ・・・」


 ミユキは職業を決めてからずっとこの調子だ。一人だけ仲間外れだったのがよほど嫌だったらしい。これからどうにかしないといけないようだ。


「考え方次第で、ミユキは仲間外れではないと言えるぞ」

「そんなこと言っても、仲間外れなものは仲間外れじゃないですかぁ」

「モモネは『明暗の魔導士』、カンナは『闇黒戦姫』、そしてミユキは『神聖騎士』。この三つは闇と光によって分類される」

「分類?」

「『明暗の魔導士』は闇と光。『闇黒戦姫』は闇。『神聖騎士』は光。こう考えたなら仲間外れではないだろう?」

「・・・確かに! 仲間外れじゃなくなりました!」

「そうだろ」


 ミユキの調子は完全に戻った。まぁ、見慣れない職業ではないことは確かなんだけど、そこは論点をすり替えて納得してもらった。ミユキが頭が緩くて助かった。


「さて、これから職業特有のスキルを整理するわけだが、何回も言うが俺に見せるのはあまり――」

「それも何回言わせる気だし。オリヴァーは信頼しているから見せてもいいし」

「同意。私たちがこの世界で最も信頼しているのはオリヴァー」

「そうだよね。私たちがここにこうやっているのはオリヴァーさんのおかげなんだから」


 一か月間寝食を共にしてきたとは言え、の下りはやめておこう。そのくだりはすでにカンナのスキルで解消しているのだから。だが、そうと決まれば場所を変えるか何かをしないといけない。ここだと視線を総受けしていて無駄に目立っているからスキルの話をしたら、瞬く間に彼女たちのスキルが拡散されてしまう。


『防音・・・一定の範囲の音を範囲外に漏らさないようにする透明な壁を作り出すことができる。消費スキルスロット1』

『視界遮断・・・一定の範囲の動きを範囲外に見られないようにする壁を作り出すことができる。消費スキルスロット1』


 俺の望んだスキルが俺の目の前に現れたが、スキルスロットの残数は4で、2つを習得すれば残数は2になる。だが、今後色々と必要かもしれないし、便利であることは変わりないから取っておくか。


 習得した『防音』と『視界遮断』を早速俺たちの周りに展開する。内側にいる俺たちからは何も分からないが、外側にいる奴らは俺たちが見えないようで驚いた顔をしている。これでここで話しても大丈夫だろう。


「じゃあ、お前たちのステータスを聞こうか」


 俺は3人のステータスを詳細に聞いていく。


『名前:モモネ

 種族:人間

 年齢:十七

 職業:明暗の魔導士

 称号:?

 ≪スキル≫

 ≪透視≫・≪詠唱破棄Lv.7≫・≪詠唱強化Lv.4≫・≪言霊Lv.2≫・≪魔力工場Lv.3≫・≪闇夜の加護≫・≪白昼の加護≫・≪全属性強化Lv.1≫・≪中和する性質≫・≪闇黒付与≫・≪光明付与≫・≪魔導書作成≫

『モモネ Lv.59

 筋力:3005

 物理耐久力:5518

 速力:3886

 技術力:18455

 魔法耐久力:10033

 魔力:35896』


『名前:カンナ

 種族:人間

 年齢:十七

 職業:闇黒戦姫

 称号:?

 ≪スキル≫

 ≪真偽の加護≫・≪気配察知≫・≪剣術Lv.6≫・≪戒めの誓い≫・≪脚力強化Lv.9≫・≪魔法支援Lv.

 4≫・≪魔力纏身≫・≪全属性強化Lv.1≫・≪常時闇黒付与≫・≪闇の共鳴≫・≪闇夜の加護≫・≪闇への愛情≫・≪半闇落ち≫

『カンナ Lv.58

 筋力:15597

 物理耐久力:14260

 速力:18853

 技術力:17223

 魔法耐久力:14680

 魔力:16672』


『名前:ミユキ

 種族:人間

 年齢:十七

 職業:神聖騎士

 称号:?

 ≪スキル≫

 ≪精神回復≫・≪盾剣術Lv.5≫・≪身体能力上昇Lv.6≫・≪不屈の精神≫・≪魔力暴走≫・≪全反射Lv.1≫・≪神聖剣術Lv.1≫・≪邪霊滅却Lv.1≫・≪絶対の盾Lv.1≫・≪光明付与≫

『ミユキ Lv.55

 筋力:18904

 物理耐久力:20660

 速力:3899

 技術力:9440

 魔法耐久力:19088

 魔力:3500』


 やはり3人の中では、ミユキが一番劣っているように見える。ただ、これだけでも十分人間の中では上位の方に入るから凄くないとは言えない。他の二人が凄いだけだ。モモネとカンナのスキル数は異常なほどだ。ミユキも戦い始めて1か月強の間でここまで来ているのだから一般的に言えば凄い。


「・・・職業も定まったことだ、少し職業を馴染ませるために簡単なクエストに向かうか」

「えぇ!? もう行くんですか!?」

「今日はもういいんじゃないん? さすがに疲れたんだけど」


 ミユキとモモネの反感により、今日クエストに行くことは却下された。確かに今日はしっかりと休んで明日以降に万全の態勢で臨んだ方が効率的か。


「分かった。今日のところはクエストに行くことをやめよう。そうなれば、今日は武具を買いに行くか?」

「武具? 武器ならオリヴァーがくれた剣がある」

「私も盾と剣がありますよ」

「武器以外にも防具とかだな。さすがにこれから防具なしだと見栄えが悪いだろう。それにモモネの杖も見繕わないとならない」

「別にあたしはなくても魔法が撃てるけど。そもそも杖ってどういう意味があんの?」

「杖は魔法の威力を上げたり、魔力の消費を抑えたりと便利な効果が付いている。持っていて損はないだろう。それから服も買わないといけないな」


 3人の服は、ひどく汚れた時などは湖や川で洗ったりしていた。俺も女性用の服を持っているわけでもないからな。すでに服は黄ばんだりしている。普通の女の子なら気にする処なはずだが。


「その服で、気にならないのか?」

「・・・あぁ~、確かに汚い。今まで気が付かなかった」


 モモネは自身の身体を見てようやく服が汚いことに気が付いたようだった。意外だな、気にする方だと思っていたが。


「今まで気づかなかったのか?」

「何か今までは生きていることに精一杯だったから、気にする余裕がなかった感じ? でもよく見たらこの格好はありえないし」

「そうだろう。だが、まずは資金の調達からだ」

「資金の調達? それってあたしたちの服を買う余裕があまりないってこと?」

「馬鹿を言うな。俺はSランククエストを受けるほどの男だぞ。お金なんてすぐに稼げる」

「でも、何から何までやってもらうって、気が引けるし。それくらいのお金は自分たちで稼ぐ」

「その心配はない。お前たちはすでにお金になるものを集めきっている」


 何のことだか分からずに首を傾げる三人を連れて、ギルドから立ち去った。




 ギルドから出た俺たちは、人通りが少ない街の裏手に来ていた。そこは暗く、何が出てもおかしくない雰囲気を醸し出している。


「ねぇ、ここに何があんの?」

「もう少ししたら分かる」


 しばらく歩き、曲がり角を曲がると行き止まりの場所にたどり着いた。


「道を間違えた?」

「いや、間違えていない。ここで合っている。それより全員で手を繋ぐぞ」


 俺は片手に魔力を帯びている赤色の丸い宝石を容量拡張袋の中から取り出し、三人に向けて手を差し出す。しかし、俺の言っていることが理解できないようで固まっていた。


「手を繋がなくていいが、俺と繋がっておかないとここに置いてけぼりになるぞ」

「どういうこと? どうしてそうなるし」

「・・・説明しておいた方が早いか。ここを通り抜けるためにこの宝石を持っていないといけない。だから宝石を持っている俺と直接的か間接的につながっていないといけないわけだ」

「なるほど。そういうことなら早く言うべき」


 カンナがそう言うと、俺が差し出している手ではなく、俺の腕に身体を絡ませてきた。カンナの豊満で柔らかな胸の感触が伝わってくる。


「あ、それはずるいし! じゃああたしは反対側!」


 何がずるいのか分からないが、モモネは宝石を持っている方の腕に絡みついてきた。モモネの大きな胸も俺に心地よさと共に伝わってくる。


「じゃあ~、私は胴体!」


 ミユキは俺の身体に抱き着いてきた。この三人の中で一番巨乳なミユキの胸を直で堪能して少し満足した気分になりながらも、とりあえず全員俺に触れているからこの状態で壁の方向へと歩き出す。壁は目の前まで来たが、気にせずに進むと壁に当たらず暗闇が訪れた。


 数歩歩いたところで暗闇は解消され、元いた裏路地と同じような場所へと出た。しかし、さっきの人がいないような雰囲気ではなく、人がいる気配がする場所であった。そして目の前にふらりと現れた、必要な部分しか隠していない服に腰まである長い赤髪を持つ女が不気味な笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「久しぶりね、オリヴァー」

「そうだな、アルヌー」


 彼女の名はモニク・アルヌー。この王都に限らず、数多くの国や町に根を張り商売をしている商売人。俺もよく利用している。まぁ、俺がよく利用している時点で全うではないがな。


「しばらく見ないと思ったら、両手どころか全身に花をつけてくるとはね」

「つけているわけではない、成り行きだ。それよりも俺は世間話をしに来たわけじゃない」

「つれないわね。もう少し私と仲良くしても良いと思うわよ。そうしたら素材の値が上がるかもね」

「冗談を言うな。そんなんで上がるほどお前の商売魂は安くないだろう」

「正解。さすがよく分かっているわね、闇の帝王」

「今それは関係ないだろう、漆黒の女帝」


 俺と彼女の二つ名、俺の闇の帝王は二つ名ではなく職業だが、二つ名的なものが似ていることでアルヌーが俺に接触したことがきっかけだったな。二つの決定的な違いは知名度だが、悪名という点では大差ない。ただ俺は悪いことをしていないが、彼女は悪いことをしている。俺が彼女に関わっている時点で俺が悪くないとは言えないか。


「さぁ、そろそろで商談を始めましょうか。付いてきて」


 今もずっと俺の身体に絡みついている彼女たちに離れるように言い、アルヌーが歩く方へと付いて行く。路地から出ると、人々が行き交っているが、さっき歩いていた表の人々の表情とは違うものがある。表の人々が希望を持って生きているのなら、裏の人々は希望に縋り付きながら生きている。


 この王都には表と裏で住んでいる人が違う。表には、それこそ一般的な人々が住んでいるが、裏の人々は表から外れた、外法のものたちが住んでいる。裏は本来、表の人々が入れないようになっている。ただし、裏へと踏み込もうとする意思があるのなら話は別だ。


 それに、往来する人々の中で、顔は隠しているものの気配で分かり切ってしまうこの国の重鎮なんかも裏に入っていることなんかよくある話だ。この国で禁止されていることでも、裏では通用しない。国王もここのことは放置しているから手が付けられない。


「ねぇ、ここ何?」


 ボロボロの格好をしながら道端に座り込んでいる男や、同じくボロボロの格好をしながら乳飲み子を抱えて地べたに座り込んでいる女など様々な変わり果てた姿をしている人間を見て、モモネが少し顔をこわばらせて聞いてくる。


「あぁ、あれらのことは気にするな。自業自得のなれの果てなのだから」

「どういうこと?」

「別に気にすることではない。自分たちでこうなることを選んだのだから、こちらが何かしようとすると調子に乗って付きまとわれるぞ」

「でも・・・小さい子とか。子供は助けてあげても・・・」

「確かに子供に罪はないが、そうなる運命だったんだ。あの親から生まれたのだから。恨むのなら親を恨むのが筋というものだ」


 突き放しているように言っているが、あいつらは真っ当な人生を送れる機会はいくらでもあった。それを不意にして今の地位なら本望だろう。今のあいつらを助けたところでまた落ちる。助けるという選択肢など、はなからないのだから。


「優しいわね、その子。まだここに来るのは早かったんじゃなかったの?」

「いずれ通るなら、今のうちに通っておいた方が良いだろう。手違いで知らないところで入られても面倒だからな」

「へぇ、随分とその子たちに優しくしているのね。もしかして彼女たちとできちゃってるの?」

「馬鹿を言うな。成り行きだと言っている」

「ふぅん、成り行きでそうなるものかしら。・・・まぁ良いわ。それより着いたわよ」


 話している内に、とある一角にある鉄格子の先に地下へと続く階段が見える目的の場所へとたどり着いた。アルヌーは鉄格子についている特定の魔力を感知して錠に手を触れて解き、俺たちを下へと案内する。


「・・・長くない? この階段」

「文句を言うな、カンナ。この沈黙が帰りであと一回あるということを考えながら降りればいい」

「いや、それ憂鬱な気分を加速させているから」


 下へと降りる階段は片道三十分はかかる長い階段だ。それだけ下にしないと、ばれる可能性が高いのだろう。この国の王様ではなく、第一王女が、そういう国の汚い部分を嫌って排除しようとするから念入りにしているのだろう。そもそもこの裏の街にも隠密結界を張っている念入りぶりだ。


 約三十分経ち、階段は終わりを迎えた。階段を下り切ると、華々しい光景が目の前に広がっていた。ここは上で道端に座り込んでいる奴らでは入れない、要重要人物や金を持っている奴らが来る場所だ。一晩で破産する賭博や、人体・死体の売買をしたり、殺しの依頼をするなどの闇の部分をここに集めている。


 アルヌーは商売人であるが、ここの支配権を持っており、女帝と言わざるを得ないだろう。たまにこいつを殺しに来るやつを殺してくれという依頼がこいつから来るくらいの重要人物だ。


「さ、こんな野蛮なところよりもこっちよ」

「お前、自分の縄張りなのに野蛮と言うものか?」

「別に私がここを作ろうとしていたわけじゃないわ。ただ私が好き放題商売をしていたら、私の権力にすり寄ってくるやつらがいて、そいつらが勝手にここを作っただけなんだから。私としては『漆黒の女帝』なんて呼ばれたくて呼ばれているわけじゃないわよ」

「そうなのか、てっきり俺はお前がすべてを牛耳りたいと思っているのかと思ったぞ」

「まさか。必要なものと不必要なものの区別くらいはするわ」


 アルヌーの案内により、一番最奥に位置する部屋の前へと到着した。部屋に入ると、大きな空間が広がっているが、部屋の一角にしか物が置かれておらず、一角には本棚に色々な資料が並べられていたり商売道具がちりばめられていた。部屋の隅にあるテーブルとイスのところに案内されて腰を下ろした。アルヌーは俺たちの前に人数分の飲み物を出してきた。


「どうせならゆっくりと話した方がお互いのためだと思わない?」


 アルヌーもイスに腰を下ろして飲み物を口にする。俺はこの部屋に来たことはあるが、こんな対応をされたことがなかったから、少しだけ疑ってしまった。しかし、アルヌーからは悪意などは感じられないから別に何も飲み物には入っていないと思う。


「別にそんなにまじまじと見なくても何も入っていないわ。私がそんな無粋な真似をすると思う? 私は歴とした商売人、そんな大事な客を殺そうとはしないわよ」

「殺そうとはしなくても、俺たちに薬物を仕掛けて思い通りに動かそう、なんて思っているかもしれないだろう?」

「冗談はやめて、あなたにそんなことが効くと思っているような馬鹿ではないわ」

「まぁ、最初から分かっているがな」


 俺は飲み物を口にする。これは・・・『カワリマスウヨオ』か。甘味やほんのりした苦みなど飲むほどに味が変わっていく独特なハーブティーだ。結構レアなハーブであるから、俺は数回しか飲んだことがない。こんなレアなハーブを出してくるとは、さすが最高位の商売人は一味違う。三人もこのバーブティーを飲んで驚きながらも、楽しんで飲んでいた。


 俺たちが一息つくと、アルヌーは話し始めた。


「今回はどこに行っていたの?」

「それくらい言わなくても分かっているだろう、俺がバードラゴン討伐に行ったことを」

「ほんの世間話でしょ? それとも本気で私と世間話もしたくないの?」

「あまり関わって良いような人間ではないだろ。それよりも本題に入るぞ」

「本当に私のことが嫌いなのね・・・まぁ良いわ。本題は素材の買取でしょ?」

「お前、また俺を監視させていたのか?」

「そうよ。あなたの行動はそれなりにお金になるから」

「どこの誰だ、本当に。俺の行動を知りたがる馬鹿は」

「それは言えないわよ。でも、あなたはそれくらいの影響力を持っているとだけ言っておくわ」

「毎回思うが、俺のスキルに感知されないとは随分と腕のいい監視者を抱えているな」

「腕のいいと言っても、監視スキルにだけ時間を費やした子だからあまり融通が利かないわ。それに一日監視するだけで結構な労力がかかるし、厄介な監視相手よ。あなたは」


 アルヌーはため息を吐きながら俺のことを呆れた表情で見てくるが、俺的には監視をやめたらいい話だろうと思った。今はこの話を広げずに本題に入ろう。ここに長居するのはあまり良くはないからな。


「そんな顔をしなくても、もう本題に入るわよ。早く素材を出してちょうだい」


 おかしなことを言う。俺の顔には出ていなかっただろう。俺は表情を出さないことで定評のある男だぞ。『あいつ何を考えているのか分からない』とか『無表情で気持ち悪い』とか、『欠落人間』など言われている男だ。だからこいつはスキルで俺の感情を読んだのだろうな。


 そんな推察をしながらも、立ち上がって何もない空間に容量拡張袋からモモネたちがレベル上げに殺して手に入れたモンスターの素材を取り出していく。


「あぁ、なるほど。あたしたちが倒したモンスターがお金になるんだ」

「そういうことだ。これくらいあれば十分に欲しいものは買えるだろう」


 大きい空間であったがすぐに空間は満たされた。Bランク以上のモンスターの素材であるから、それなりに値が付くだろう。


「へぇ、これは『メタートル』の甲羅。それにこっちは『プテランド』のくちばし。いつもならAAランク以上のモンスターの素材を持ってくるけど、今回はそこの彼女たちのレベル上げを手伝ったからBランクのモンスターの素材があるのね」

「そうだ。これの買取を頼む」

「数が多いから少し待って。なるべく早く鑑定するから」

「分かった。なるべく早く頼む」


 アルヌーは一人で大量の素材の鑑定をし始めた。俺はそれを眺めながら席に座りハーブティーを口に入れる。


「ねぇ、オリヴァー」

「何だ? モモネ」

「何でこんな危ないところで素材の買取をしてもらってるの? 別にやましいことなんかないんだから、正式なところでやっても良いんじゃないの?」

「それは無理だ。俺とモモネたちのどちらも、上で買取を頼んでも奴らは正式な価格で買取などしない」

「え、何で? そんな不条理があるの?」

「まだ大きな組織や有名なパーティーなら兎も角、俺なら闇の帝王だから買取をしてもらえるだけありがたく思えという態度を取ってきて、有名ではないモモネたちなら足元を見られる以前にこんなに大量の素材を売れば怪しまれる。だから俺は素材の買取や道具の購入はここでしている」

「何それ! 超腹立つ! きちんと商売をしろし!」

「この腐った王が統治している国で商売をしているんだ。媚びるためなど商売人を名乗るに恥じる行いをしているのに何ら疑問を抱かないやつらが大半だ。それを考えればまだアルヌーは真っ当な部類に入るのかもしれない」


 ハーブティーを味わいながら待つこと三十分くらいで鑑定が終わった。鑑定したものは次々とアルヌーの部下たちに回収されていき、俺たちの前に金貨が入っている大きな袋が置かれた。


「締めて金貨10053枚。モンスターの状態も良かったし、Aランクモンスターも三割くらいいたからこれくらいが妥当ね。即買取で良かったわよね?」

「あぁ、構わない」


 金貨10000枚もあれば十分すぎるほどに三人分の服や装備を買えるな。それに彼女たちにとって宿よりかは持ち家を買った方が良いかもしれない。ここ以外に情報を仕入れるほどの国はないからな。


「オリヴァー。金貨10000枚ってどれくらいの金額なの?」


 ふと、モモネがこの世界ではごく当たり前のことを聞いてきた。これが俺とモモネたちだけの空間の時に聞いてくるなら普通に答えたが、アルヌーが近くにいる状態で聞いてくるのは完全に怪しまれてしまう。そう一瞬だけ思ったが、こいつはたぶん彼女たちが転移者だということを知っているだろう。いや、知っている。こいつの情報網は俺のお得意の情報屋よりか広い。まぁ。情報の仕入れ速度はお得意の情報屋の方が早いけどな。


「金貨10000枚あれば、10年は豪遊して暮らせるほどの金額だ。まずは服や装備品を買った後に住居を買っておけば良いだろう。この国で少しの間暮らすのは変わらないのだからな」


 俺はアルヌーを気にせずに答えた。アルヌーの方を見ると微笑みながらこちらを見てきている。この顔は絶対に知っている顔だ。


「そ、そんな金額をキャッシュで持つなんて怖いんだけど・・・」

「右に同じく。こんな大金を持つなんて無理」

「これだけあれば~・・・ご飯がいっぱい食べれるぅ」


 モモネは大きな袋から見える金貨を身震いしながら見ていた。カンナも同じ想像をしているようだが、ミユキだけは前向きな考えをしていて何よりだ。それよりも彼女たちにここでしか買えない必要最低限のものを買わせておかないといけない。


「アルヌー、彼女たちに人数分の容量拡張袋とここに入るための通行許可宝石を頼む」

「袋はともかく、宝石は良いの? 彼女たちが勝手にここに入るかもしれないわよ?」

「入ること自体は別に構わない。素材の買取は知名度がない状態だとここの方がよっぽどいい」

「もしかしたら何かに首を突っ込むかもしれないわよ?」

「ここのことはある程度見聞させた。それに彼女たちは子供じゃない。それくらいの判断が自分たちでできなければ、この先、生きていけない」

「優しいかと思ったけど、随分と辛口なのね」

「俺がいつまでもそばにいるわけではないからな」

「あら、優しい」


 からかうような表情をしながら俺を見てくるアルヌーを無視して、早く出すように目で訴えかける。肩をくすめながら部屋の中にある机の引き出しから三人分の袋と宝石をテーブルの上に置いた。


「これがお目当ての物よ。容量拡張袋と通行許可宝石。二つセットで金貨100枚の三セットで金貨300枚。お買い上げありがとうね」


 アルヌーは金貨300枚を大きな袋から枚数を素早く数えて取り出す。ここの物は上では出回らない代物ばかりだ。だから結構な出費になってしまうが、それは今後のことを考えたら仕方がないことだ。


「各自一つずつ持て。もうここには用がないから外へと出るぞ」

「うん、分ってる。・・・でも、これは誰の袋に入れていくの?」


 モモネが指摘した大金が入っている袋を、3人は誰一人として持とうとしない。誰か奪うつもりで持たないのかと思ったが、この仲良し3人組が裏切ったりなんかはしないだろう。となれば誰かが名乗り出てくるだろうな。そして名乗り出たらそいつに重荷を負わせたくなくて泥仕合になる。そうなる前に俺が手を打つか。


「俺が持っておくが、最低限の金貨は持っておけ。金貨1000枚ずつ配っておくから、それで服などを揃えろ」


 俺は彼女たちの袋に大体金貨1000枚になるように適当に入れた。残りの約7000枚は大きな袋ごと俺の容量拡張袋に入れた。


「よし、上に行くぞ」

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