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オリヴァーと転移乙女たち。前編

 日はすでに落ち、町の広場では祭りのような賑わいを見せていた。広場に設置されたテーブルにはバードラゴンの肉がメインに置かれ、他にも調理が難しいとされている『リンゴング』や『チキンコ』などが料理されている。とりあえず調理されているメインであるバードラゴンを一口食べる。


「・・・美味い」


 引き締まっている身は濃厚な味わいに手が止まらない。バードラゴンの肉を頬張りながら周りを見ると、町の人たちは俺のことなどお構いなしに次々と料理を出したり、料理を食べていたり、酒を飲んで笑っていたりと全員が楽しそうにしている。俺としては騒がしくない方が良いから別に構わないが。


「さてと・・・」


 バードラゴンの肉を一塊食べ終え、俺は広場の隅っこで座り込んでいる三人の女の方に目を向ける。俺がさっき助けた、男に捨てられて死にそうな顔をしていた女たちだ。あいつらはこの町に来てからずっとあの場で三人で固まって動かない。町の人が一緒に食べようと親切に声をかけてもやんわりと茶髪の女が断っていた。


 俺はバードラゴンの肉が乗った皿を持ち、女たちの元へと向かう。


「食べないのか?」


 皿を女たちの前に突き出して聞いてみる。


「・・・いらない」


 俺の問いかけに答えないと思ったが、案外素直に金髪の女がそう答えたが、次の瞬間金髪の女から腹の虫が大きく鳴った。俺と他の二人で金髪の女を見ると顔を真っ赤にしてうつむいた。


「お前らはいらないのか?」

「桃音がいらないなら、私もいらない」

「私も同じく大丈夫です」


 他の二人の答えも同じ答えだった。友達を見捨てれないってか、随分とおバカな考えだ。よく言えば美しい友情で、悪く言えば死にたがりということになる。


「おい、お腹が減っているのなら素直に食べたらどうだ?」

「べ、別にお腹なんか減ってないし! 放っておいて!」


 強情だな。土下座して食を恵んでくれと言わない限り恵まないと言っているわけじゃないのだから、素直に食べればいいものを。


「っ!? おい、お前身体が変だぞ」


 俺は急に焦ったような声音を出して、金髪の女の身体を揺すった。金髪の女はパッと顔を上げて驚いて表情をしている。


「お前・・・まさかゴブリンの血を浴びたんじゃないんだろうな」

「え、え、な、なに? 浴びたらどうなるの!?」

「ゴブリンの血を浴びること自体は何もないが・・・ゴブリンの血を少しでも体内に入れてしまうと、ゴブリンの血の盟約者として身体中に変化が起きるぞ」

「う、嘘!? どうしたら良いの!?」

「とりあえず身体に何も変化がないか確認する。口を大きく開けろ」


 金髪の女は素直に大きく口を開けた。


「こ、こおっ?」


 綺麗な歯に綺麗な舌を見ながら、フォークで突き刺したバードラゴンの肉の一切れを口の中に入れた。金髪の女は慌てて口を閉じたが、肉は口の中にありフォークを引っこ抜いた。


「どうだ、おいしいか?」


 彼女は肉をよく咀嚼して飲み込んだ後、軽く頷いた。


「って、そうじゃなくて! ゴブリンの血は!? まさか嘘!?」

「あ? むろん嘘だ」


 俺の言葉を聞いた金髪の女は言葉にならない声を出してプルプルと身体を震わせている。まさか本当に信じるとは思わなかったから俺にも驚きだ。


「こいつが食べたのなら、お前らも食べるだろ?」

「え? ま、まぁ・・・」

「確かにそうですけど・・・」


 黒髪の女と茶髪の女は煮え切らない態度を取る。だから俺はまず黒髪の女の前にフォークで突き刺した肉の一切れを持って行き、


「ほら、あーんだ」

「・・・え、えっと」


 口を開けるように促すが、困惑して口を開けようとしない。


「手が疲れる。早く食べろ」

「じゃ、じゃあ、遠慮なく」


 黒髪の彼女は口を開けてバードラゴンの肉を食べる。すると目を見開いた後、すぐに食べ終えた。


「お前もいるだろ?」


 茶髪の女に肉が乗った皿とフォークを差し出すが、少し残念そうな顔をした。


「何だ? あーんをしてほしいのか?」

「そ、そういうわけではないというか・・・してもらえると期待はしたのは確かですけど」

「そうか。じゃあ、あーん」


 俺は肉を茶髪の女の前に差し出すと勢いよく食いついた。


「おいしい! これが、えっと・・・何というお肉ですか?」

「バードラゴン。貴重な肉だからありがたく食べとけ」


 俺はまだまだたくさんある広場のテーブルから三人分の肉を持って行き、彼女たちに渡した。今度は金髪の彼女も大人しく受け取って食べた。俺もバードラゴン以外の珍しい果物『ワレンジ』を食べながら、祭りのように盛り上がっている人々を眺めた。




 食後の飲み物を俺と彼女たちの四人で飲みながら余韻に浸っていたが、黒髪の女がおもむろに口を開いた。


「ねぇ、私たちのこと何も聞かないの?」

「何って・・・あぁ、そう言えば名前を聞いてなかったな」

「そういうことじゃなくて、いや、それもあるけど」

「俺はオリヴァー・バトラー。お前は?」

「私はカネ・・・カンナだけど、私たちがどうしてあそこにいたとか、あの男とはどういう関係とか、聞かないの?」

「何だ、聞いてほしいのか?」

「別に聞いてほしいわけじゃ・・・」


 こいつのこの顔は聞いてもらって楽になろうとしている奴の顔だ。人に話せば楽になるというのは確かだから聞くか?


「じゃあ聞かせてもらおうか。ちなみに、そこの二人の名前は?」


 さっきからチラチラとこちらの会話に混ざりたそうにしている金髪と茶髪の女にも話を振る。


「私はミユキ。家族構成は両親と姉と妹の五人家族で、好きな食べ物はさっき食べたバードラゴンのお肉でぇす」


 茶髪の女ことミユキはすぐに元気よく自己紹介をしてくれた。


「・・・モモネ」


 金髪の女ことモモネはボソッと言うだけで終わった。


「で、結局あの男はお前らの何だったんだ?」


 俺は面倒な質問は最初にしておこうと思い、核心的な部分に一気に踏み込んだ。


「私の彼氏」

「私の彼氏です」

「あたしの許嫁」


 カンナ・ミユキ・モモネがそれぞれ同じような答えをすると同時に、全員が他の二人の回答に驚いて二人を見て固まっていた。この状況、つまり・・・


「ハーレムか」


 俺の言葉で三人の硬直が解け、話し始める。


「いやいや、いくらあんなクソに捨てられたあたしのことを気を使って、彼氏って言わなくていいじゃん?」

「それはこっちのセリフだよ。あのクソのことを許嫁って、そんな分かり切った嘘をつく必要はないと思うけど」

「二人ともゴブリンに襲われそうになって頭がおかしくなったの? 今更あれについて嘘をついても仕方ないし、彼氏に捨てられたのは私だよ」


 何か、ややこしくなっているな。いや、結論は分かっているけどこいつらを落ち着かせるためにはまとめるしかない。三人でヒートアップしているから一旦落ち着かせるか。


「一回落ち着け、話を整理する。全員の意見を俺が一人ずつ聞くから、その間は他二人は黙っていろ。まずはモモネから話を聞こう」

「うん、何?」


 まずは軽く情報整理しよう。


「許嫁の名前は?」

「大橋大輝」


 ・・・ふむ、聞いたことがない名前の響きだ。


「いつから付き合い始めたんだ?」

「確か、一年前くらい前に大輝、いやあのクソから告白されて」

「他の二人には秘密にしていたのか?」

「うん。元々あたしたち三人と大輝の四人のグループだったから、四人のうちの二人が付き合い始めたらギスギスするから秘密にしておいてほしいって」

「彼氏ではなく、何で許嫁なんだ?」

「それは・・・処女をあげるのは結婚する人じゃないとって言ったら、『一生大切にするし、俺のお嫁さんになってくれるのなら大丈夫だよね?』って。あたしの親にも挨拶みたいなことはしていたし、だから許嫁って。・・・あのクソ野郎、やるだけやって逃げやがって」


 モモネはもじもじとしながら処女の件を話していたが、次第に怒りの表情へと変わっていた。


「じゃあ次はミユキだな。彼氏の名前は?」

「モモネと同じく大橋大輝です」

「いつから付き合い始めた?」

「うぅんと、半年前くらいだと思います」

「他の二人に秘密にしていた理由は一緒か?」

「はい、一緒です。でも、最近は二人に話すって言ってましたけど・・・まさか二股どころか三股されていたなんて」


 ミユキは見るからに暗い顔をして死んだ魚の目をしている。


「で、最後はカンナだな」

「言わなくても言うよ。彼氏の名前は大橋大輝。付き合い始めたのは一か月前にあいつから告白されて、その時は優しくて格好良くて惑わされて付き合うことにした。秘密にしておいた理由も二人と一緒。・・・あーあ、折角純情を守ってきたのにクソに奪われるとか最悪。過去に行けるのならあいつを半殺しにして私や、モモネとミユキを守ってあげたい」


 脱力した感じで話すカンナは少しだけ目に涙を浮かべていた。


「つまり、三人はそのオオハシダイキという男に惑わされた挙句に捨てられたということか。だが、この世界では戦争に駆り出されれば死ぬ確率が高くなるからできるだけ種付けすることは珍しくないし、貴族なら気に入った女を自分の妻に向かい入れる一夫多妻も珍しくはない」

「はぁ? 何それ? この世界はそんな節操のないことをしてんの?」

「まぁ、そうだな。でも本人が納得していれば良いが、今回の場合は例外だな。この世界では裁判にかけられるし、財産没収があるかもしれない。今の世は男が主導権を持っているから、男尊女卑で女が不利になることを否定できない」

「・・・ほんと、最悪。唯一良いことがあるとすれば、あいつの本性が分かったくらいじゃん」


 モモネの一言で少しの間だけ場に沈黙が流れたが、カンナの一言でそれはなくなった。


「でも、気が楽になった。ゴブリンに殺されそうになったことよりも好きな人に殺されかけたということで落ち込んでいたけど、そんなクズだと分かった今ならどうでもよくなってきた。どうせならこっちから捨ててやりたかったけど」

「・・・うん、そうだね。捨ててやれば良かった」

「それよりさ、三股かけられていて気が付かないってありえなくない!? あいつがある意味すごいのか、あたしたちが鈍いのか分からないけど!」

「確かに。たぶんどっちもどっちだと思うけど、恋は盲目って言うし」

「もぉ~、あんな奴だと分かっていたら貢がなかった~」

「うそっ!? 貢いでたの? あいつに!?」


 三人は俺を抜きにオオハシダイキという男の悪口三昧に話が盛り上がっている。


 俺が介入するまでもなかったな。三人で気持ちの整理ができたのならそれでいい。これでまた死にたいとか言い出してたら、どうしてやろうかと思っていたが、杞憂に終わってよかった。


 俺は三人の邪魔をしてはいけないと、その場から離れる。


「ねぇ、オリヴァー」


 しかし、その際にモモネに呼び止められた。


「ありがと、あたしたちを助けてくれて」

「あぁ、気まぐれだがな」

「それと、あたしを殺そうとしたことは別に気にしてないから」

「良いのか? 俺は簡単に人を殺しに行くんだぞ? 一度しかないとは限らないぞ?」

「その時はその時どうにかするし。あたしを助けてくれようとしてくれたのは事実なんだから恨むのは筋違いだから」

「それはどうも。俺としては無駄に敵を作る必要がなくてよかった。じゃあ俺は行く」


 それを最後に今度こそその場から離れる。それにしても随分と優しい子たちだ。俺の真意を知っているとは言え、普通殺されかけたのなら理由がどうであれ俺を畏怖するのは当たり前だと思っていたが。


 俺は町の人たちに言われた宿に行き、宿の部屋にある何故か一人なのに大きめのベッドに寝転がり目を閉じた。




 いつもより身体が重いと感じたのと、日の光で俺は目を覚ました。目を閉じていたらいつの間にか寝てしまっていたようだ。視界がまだしっかりとしないまま起き上がろうとすると、何かが俺の上にあって起き上がるのを邪魔をしてくる。目をこすりしっかりと目を開けてよく見ると、俺の上に茶髪の女、ミユキがすやすやと寝ており、俺の両腕を黒髪の女のカンナと金髪の女のモモネが太ももまで絡みつけて抱いて寝ていた。全員が上の服を脱いで下着姿になっていた。


 ・・・昨日知り合ったばかりの俺のベッドに入り込むような尻軽だからオオハシダイキに付け込まれるんじゃないのかと思いながらも、とりあえずこいつらを起こすことにした。


「おい、ミユキ。起きろ」


 俺の上で寝ているミユキに声をかけるが、熟睡しているため起きる気配がない。両腕にいるカンナとモモネにも声をかけるがこちらも起きる気配がない。俺が無理やり身体を起こしたら、もしかしたらモモネたちがベッドから落ちるかもしれないから声をかけていた。大きな声を出すのも嫌だからな・・・これでも起きないなら仕方がない。


 カンナの太ももがちょうど俺の手がある場所にあるから、太ももを結構強い力でつねってやる。


「った・・・いたい・・・いたいいたいいたいいたい!」


 カンナは痛さで意識が段々と覚醒していき、つねられていることの痛覚をようやく正確に理解して俺の手を太ももから離そうとしている。


「痛いからやめて!」

「なら今すぐ離れろ」

「離れるから! いたいいたい!」


 カンナが俺の腕を解放すると同時に俺もつねっている手を離した。カンナは身体を起こしてつねられた太ももをさすりながら恨みがましく俺を見下してくる。


「痛い・・・うら若き乙女の肌に痕を付けるとは、これは責任を取ってもらわないといけないね」

「俺のは正当防衛だ。どちらかと言えば知り合ったばかりの男のベッドに入り込む乙女の倫理観が問われるだろうな」

「大丈夫、見る目はある方だから。オリヴァーは良い人」

「三股をかけられていた女の言う言葉じゃないな」


 カンナは俺の言葉に目を反らしながら答える。


「ま、まぁ、そういう男を経験していくことも良い経験だと思うけど・・・」

「確かに経験をすることは重要だが、そんな男を経験したいと大抵の女は思わないと思うが?」

「・・・何とも反論できない正論だことで」


 俺とカンナがそうこう話していると、ようやくミユキとモモネが目を覚ました。


「もおぉ・・・あさぁ?」

「・・・うるさいし」

「あぁ、朝だ。とりあえず俺の身体から離れろ」


 二人は寝ぼけながらも身体を起こして俺から少し離れたから、俺もようやく身体を起こして三人を見る。


「で? お前らは何で俺のベッドで寝ていたんだ?」

「あぁ、それね。・・・何か私たちとオリヴァーがそういう関係だと町の人が勘違いしたらしくて、この部屋に案内された」


 まだモモネとミユキが寝起きで頭が回っていないから、カンナが説明してくれた。


「なるほど。それはお互いにはた迷惑な風評被害なことだ」


 全員起きたということで、俺たちは朝の身支度を始める。


「で? お前らはこれからどうするんだ?」


 もうすでに下着を見たこともあり、三人が着替え終わるまで部屋を出ることなく話しかけた。それにしても全員が胸が大きくていい身体つきをしている。筋肉の方はまだまだだけどな。


「どうするって、オリヴァーはどうするん?」


 モモネが質問に質問を返してきた。


「俺はザイカに戻るつもりだ。クエスト達成報告を一応済ませておかないといけないからな」

「ふぅん・・・じゃあ、あたしたちもザイカに戻ろうかな。それで良い?」

「異議なし」

「大丈夫だよ」


 モモネの提案にカンナとミユキは文句がない様だが、まさか俺についてくるつもりか?


「俺についてくるのか?」

「そうだけど? 何かあんの?」


 俺についてくるとかデメリットしかないから、ついてくる人はいなかった。・・・いや、俺の正体を知らないからついてくると言っているんだろうな。このまま俺についてきて、俺の正体を途中で知って逃げ出したくなるより、ここで俺の正体を知って逃げ出した方がまだ良いだろう。


「あるな。俺の正体を知れば、すぐに逃げ出したくなる」

「逃げ出すかどうかはあたしが決めることだけど、言ってみ」


 モモネはだいぶ軽いな。胸は重そうだが。


「お前らはこの世界の勇者のことをどこまで知っている?」

「勇者って、神の加護を貰っている人間で、魔王を倒すと言われているあれでしょ?」

「あぁ、大体で言えばそんな感じだ。でだ、神の加護と言っても神様は十二柱いる。炎・水・風・雷・大地・自然・光・闇・聖・治癒・精神・夢幻の十二をそれぞれ冠する十二神だ。この十二柱の神々が気に入った人間や魔族を見繕って加護を与える、それが勇者や魔王と呼ばれる存在へと至るわけだ」

「それって、勇者と魔王が合わせて十二出てくるってこと?」

「いや、十二出てくるかどうかは神々の気まぐれだが決まっていないが、今は十二そろっている」

「で? 結局何が言いたいわけ?」


 少し遠回りに説明しようとしたせいで、モモネが棘がある言い方をしてきた。


「結論から言えば、俺は闇ノ神の加護を受けている、“闇の勇者”なんだよ」


 俺が闇の勇者ということを暴露しても、三人は特段驚く様子はなかった。


「オリヴァーのやばいことがそれ? ・・・なんだ、国から追われている凶悪犯とか言われるかと思ったら全然大したことじゃないじゃん。少しドキドキして聞いて損した」

「私もそんな感じの人だとカミングアウトされるのかと思った」

「私もすごくビックリしたぁ」


 ・・・どういうことだ? 俺の正体を知っても驚かないぞ? この世界のことを少しは勉強しているとは思ったが、そうでもないらしい。


「それを聞いてあたしたちが何とも思っていないから、オリヴァーに付いて行っても問題ないっしょ?」

「確かに問題ない。だがな、俺についてくるということは、闇落ちの勇者の仲間の烙印を押されることになる。それでもいいのか?」

「烙印? 別に悪いことをしたわけじゃないんでしょ?」

「あぁ、俺は悪いことは・・・たぶんしていない」

「少しの間が気になるけど、してないならどうして烙印を押されているん?」

「十二の神はな、表と裏のように、陰と陽に分かれている。陰は闇・精神・夢幻で、陽はそれ以外」

「表と裏と言う割には三と九でバランスが悪くない?」

「数ではバランスは悪いが、強さ的に言えば闇・精神・夢幻の三つで、九つに匹敵するほどの力なんだ。だからそこは問題じゃない。俺的に問題なのは、陰は魔族、陽は人間や亜人しか基本的に加護を授かれないということだ」


 ここまで言えば、さすがに外から来た住人でも分かったようでモモネははっきりした声で俺が言わんとすることを答えた。


「つまり、魔族が受けるはずの闇ノ神の加護を受けているオリヴァーは、忌み嫌われている存在ってこと?」

「そうだ。俺自身は何もしていないが、闇ノ神の加護を受けているという時点で忌み嫌う存在であり、恐怖の対象なんだろうな。人間で神の加護を受けているが、加護が闇ノ神と来た。そこで名付けられたのが『闇落ちの勇者』というわけだ」

「でも、悪いことをしてないのに加護を受けているだけで迫害されているわけ? 意味わかんないんだけど」

「たぶん怖いんだろうな、俺という敵が持つはずの力を持っている人の形をした何かが。さて、俺の話を聞いて、どうするかお前らが決めろ。俺は別についてこられても特にやることは変わらないからどっちでもいい。ただし、人間側で忌み嫌われることは覚悟しておくことだ」


 俺がそう言ったが、三人の表情は変わらぬままだった。


「もしかして脅しのつもり? あたしたちに付いて来られたくないなら、もっと危ないネタでも出さないと引くつもりはないから」

「私も同意見。どうせ王都に帰ったところで厄介者扱いは変わらないし」

「私はオリヴァーさんと一緒に行った方が楽しくて良い気がします。良いお肉も食べられそうですし」

 モモネとカンナとミユキは俺の話を聞いても意思は変わらないらしい。三人にも何かありそうだが、今は良いか。

「・・・そこまで言うなら行くぞ。朝食を食べたら出発する」


 三人は嬉しそうな声を出した。そこまで嬉しいとはこいつらは王都で何をしたんだろうか。

 俺たちは宿で出された朝食を食べ、町を出る報告をすべく、広場で片づけをしている町長の元へと向かった。


「おや、もうお帰りですか? もう少しごゆっくりしてくださってもこちらとしては構わないのですが」

「そういうわけにはいかない。俺がこの町にいれば、町に迷惑がかかるからな」

「そんなことはありませんよ。あなたがこの町にいればこの町は安泰だ。どうですか? この町一番の娘もあなたのことが大変気に入っているようですから、お見合いでも」

「あいにく、俺は色恋沙汰にはまだあまり興味がないから遠慮させてもらう」

「それは残念です」


 町長とそんな常套句を交わしていると、ふとこの町にあるものがないことに気が付いた。


「そう言えば、この町は加護が付いていないんだな?」

「えぇ、そうなんですよ。この町は人が集まってできた、どこにも所属していない町ですから、加護を付けてもらえないのです」

「なるほど。だが、モンスターは襲ってこないのか?」

「襲っては来ますが、せいぜいCランクモンスターなので町の人々で対処できるレベルですが、Bランク以上が来ればお手上げですので」


 加護があればモンスターが襲ってくることはないからな。


「ねぇ、町に付ける加護って何?」


 モモネだけが分からないのかと思えば、他二人も分かっていないようだった。


「加護というのは正確に言えば『勇者の加護』と言って、神からもらった神の威厳をそのまま利用してモンスターに神の縄張りだということを知らしめるものだ。それを付ければごく一部のモンスターを除けばそこに襲ってくることはない。王都にも二代前の炎の勇者の加護が付いている」

「じゃあ、オリヴァーもできるってこと?」


 ・・・チッ、このモモネとか言うアホは何故いらないことを言うんだろうか。折角勇者ということを言わずに済んだと思ったのに。


「もしやあなたは勇者さまなのですか? できれば加護を付けてほしくはありますが・・・」


 さて、どうする。このまま正体を言わずに加護を付けても加護の色で俺が闇の勇者だということは一目瞭然。適当に理由を付けて断るか、俺の正体を言うか。・・・正体を言うか。俺のことをこのまま知らずに闇落ちの勇者の仲間だと思われてもいい迷惑だろう。


「あぁ、俺は勇者だ。だが、勇者と言っても『闇落ちの勇者』だから俺に加護を受けるのはおススメしないがな」


 町長は俺の言葉に驚いた表情をしていたが、笑みを浮かべながらすぐに俺の手を握って懇願してきた。


「それは闇ノ神の思し召しに感謝しないといけません! いやぁ、まさか闇の勇者さまがこの辺境の地に来るとは思ってもみませんでした。これも闇ノ神さまを崇め奉っていたおかげなのかもしれません!」


 手を握られて少し思考停止してしまったが、すぐに立て直して言葉の意味を理解する。・・・この町の住人が闇ノ神を崇めている町ということなのか?


「闇ノ神を崇めているのか?」

「はい。この町の住人は、表向きは確かに料理人です。しかし、この辺境の地へと来た理由は闇ノ神を信仰していたためです」

「それはあくどい宗教とかではないのか?」

「そんなものと一緒にしないでください。私たちはただ闇ノ神のお力をその身に受け、ただ信仰していただけなのです」


 なるほど、闇の魔法適性が高いのか。


「力を受けるって?」


 モモネが再び疑問を投じてくる。だいぶ分かっていないな、この娘たちは。


「十二の神がいると言ったな」

「うん、そこは聞いたし」

「人には、十二の神が持っている十二の属性のどれかが得意な場合が多い。モモネにもあるはずだ」

「あぁ・・・確か水だったと思う」

「信仰心と属性強化に因果関係は証明されていないが、一般的に神を信仰する際には自分が得意な属性を信仰する傾向がある。他にも魔法詠唱の言葉から信仰する、なんてこともあるが、この町の住人の場合は前者が強そうだ」

「えぇ、得意属性でもあり、詠唱にも感銘を受け、闇ノ神さまを信仰しています。ですので、この町に闇ノ神さまの加護を授けてもらえるのはこの上ない喜びです。どうか、どうかお願いします」


 闇の勇者としてここまで頭を下げられたことは一度もなかったな。まぁ、減るものではないし、むしろ加護を授ければ闇ノ神としての格が上がるから断る理由はない。・・・しかし、辺境の地にまで来て闇ノ神を信仰するとは、まだ何かありそうだな。神を信仰する理由は得意な属性と詠唱の言葉と言ったが、その前に親や周りが信仰する神を決めたり勧めたりとする。得意な魔法があったとしても、そっちの神を信仰するなんてことはさほど珍しくない。だからこそ闇ノ神を信仰するなんてことは何かないと起きない。それこそ神の奇跡と呼ばれる神の気まぐれを受けない限りな。


「ダメですか?」

「いや、断る理由もないから闇ノ神の加護を授けよう」

「ほ、本当ですか!? 本当にありがとうございます!」


 深く頭を下げられているから、気恥ずかしい気分になり早々に終わらせることにした。


「具体的に加護はどう授けるの?」


 まぁ、モモネが分かっていないから、カンナも分かるはずがないか。


「加護が授けられている場所には、大体町の中央に位置する場所にその神の色をした炎が設置されている。それが加護の正体だ」

「それは勇者全員にできることなの?」

「あぁ、そうだ。勇者に元々持っている力だ。ただ、その場所に一定以上の人と、一定以上の信仰心を持った信仰者がいないと設置できないがな」


 町長に案内され、町の中央に位置する場所へと来た。そこには炎が設置可能な小さめの石祠があるだけの広い空間であった。


「お恥ずかしながら、いつの日か加護が授けられることを夢見て私が作ったものです」

「魔族が本来持つ闇ノ神の加護を授かろうとするなんてだいぶ夢を見ていたな」

「町の人々にもツッコまれましたが、今あなたがここに来ているから無駄ではなかった。これもきっと闇ノ神のご加護ですね」


 町長は重度の闇ノ神信仰者のようだが、それは置いといて俺は石祠の前に立つ。おそらく、魔王でさえ闇ノ神の加護を授けていることはないと思う。魔族はそういう神を信仰しないと聞くし、人間はもってのほか。だから闇ノ神の加護を授けること自体、俺が初めてかもしれない。


 俺は謎の緊張感を少し覚えながら、加護の際に使う詠唱を口にする。


「・・・我は混沌と絶望を司りし闇ノ神に見初められし帝王なり。闇ノ神の力を授けられし我が名においてこの地に大いなる闇ノ神の威光を授けよう」


 石祠の中には、深く、そして威光を放っている黒い炎が灯された。すると黒い炎が周りに黒いオーラをはきだし、町全体を黒いオーラが覆い始めた。禍々しいが、どこか安心するようなオーラであった。


「おぉ・・・これこそ、闇ノ神さまのご加護だ・・・ッ!」


 町長はひどく感激している。俺も実際は驚いている。こんなにもオーラが濃いものなのか、と。王都にある炎ノ神の加護はここまで濃くはない。少なくとも王都の加護は認識できるほどの濃さではないが、ここの加護はオーラが認識できている。覆っている場所の大きさの問題なのだろうか。


『≪闇ノ神の情愛≫発動』

『スキルの効果により、レベルが181から193にアップ』

『筋力:215011(+100000)→244536(+100000)

 物理耐久力:214005(+100000)→242916(+100000)

 速力:220205(+100000)→251006(+100000)

 技術力:218507(+100000)→250808(+100000)

 魔法耐久力:214405(+100000)→243166(+100000)

 魔力:223000(+100000)→259097(+100000)』

『スキルスロットを12獲得。残数42』


 闇ノ神の格を上げたことによりレベルが上がったのかは分からないが、またステータスが異常に上がっている。2日で20も上がるとは思わなかった。


 その後、町の人たちがオーラを元へと来て、俺の正体を知って俺に跪いたりと収集が付かない状況へとなったが、何とか落ち着いて俺たちはようやく町を出れるようになった。その際にこの町の特産品を大量にもらった。王都で売れば結構な値段になるものだ。


「バードラゴンを討伐してくださっただけではなく、闇ノ神さまのご加護を下さり、何とお礼を言っていいやら・・・」

「ただの成り行きだ。大して気にすることでもない。それとバードラゴンは美味かった」

「それは良かったです。いつでもこの町に来てください、いつでも歓迎しますので」

「あぁ、また時間があれば加護の様子を見に来たりしよう」


 町長と握手を交わし、町の人々に見送られながら俺たちは町を出発した。これから目指すは王都・ザイカ。歩いて行けば二日はかかるな。


 バオル町が見えなくなり、しばらく黙って歩いているとモモネが話しかけてきた。


「これから王都に帰るんしょ?」


 モモネの言葉に頷く。


「で? それからどうするん?」

「さぁな」

「さぁなって、オリヴァーは何か目標はないの?」


 目標と言われても俺は今まで生きるためにクエストを受けたりしていただけで、考えたことはない。ただ闇の勇者としての宿命はあるがな。


「特に考えたことはない。目下の目標がレベル上げだけだ」

「ふーん。何かないん? 魔王を倒すとか、国を乗っ取るとか」

「前者は良いとしても、後者は王都で絶対に言うなよ。・・・目標と言われても、特にこれと言ったものはないな。死なないようにレベルを上げるくらいしか今までしてこなかったからな」


 それと、誰とも仲良くならないように。忌み嫌われている故に、人間らしいことが何もされていなかった人生なんてこんなものだろう。


「そういうモモネたちは何か目標があるのか?」


 俺がそう聞くと、モモネが少し悩んだ挙句、俺に待ったをかけてカンナとミユキの元へと寄って行った。そして止まって何かコソコソと話している。コソコソしていてもこの距離なら、スキル≪六感強化Lv.10≫があるから聞こえるのだが、聞こえないようにしておこう。


 話し合いが結構かかりそうだったから、どのスキルを習得しようかとスキル一覧を見ていると、どうやら話が終わったようで三人そろってまじめな顔をして俺を見てきた。俺も画面を消して聞く態勢に入る。


「終わったか?」

「うん、終わった」


 モモネが話すようだった。


「実は・・・あたしたちは別の世界から来た人間、いわゆる異世界転移してきた人間なの」

「あぁ、知ってる」

「信じてくれるとは思って・・・・・・え?」


 俺の言葉を理解できていないようでモモネは俺の顔を凝視してくる。


「し、知ってるって、あたしたちが異世界転移してきたことを?」

「あぁ、そうだな」

「え、最初から知ってたの? もしかして王都の人間なの?」

「いや、違う。昨日出会った時は転移者だと知らなかったが、言葉の端々からこの世界の人間じゃないと言っているように聞こえたからな。それに俺のお得意先の情報屋が、数日前にこの世界に転移者が現れたという情報をくれたから三人がその転移者である可能性がよぎっていた。言葉の綾の可能性があったから俺からは何も言わなかったが、やはりそうだったのか」

「え・・・そんなに露骨だった?」

「だいぶ露骨だったぞ。俺がお前たちを異世界人だと知っている体で話していたくらいだ」

「マジ? でもすぐに信じるほど、こっちでは転移者は珍しくないの?」

「いや、異世界転移者や異世界転生者自体見るのは初めてだが、そういう人間がいることは伝説級に言い伝えられている。言い伝えがあるくらいだから、脚色されていてもいるんだろうと思っていたからな。信じるのは容易い」

「そう、なんだ。それは事細かく話す必要がなくてよかったし・・・それより、異世界転移者のあたしたちの目標は、あたしたちが住んでいた元の世界に戻ること」

「ほぉ、それは随分と大それた目標だな。で? それを俺に言ってどうするつもりだ?」

 別の世界ということは次元移動が必要なのだろうから、そういうスキルを持っているやつを見つけるか、もしくは神にでも頼むか。

「オリヴァーが何か別の世界について戻る方法を知らないかと思っただけ。・・・でも、異世界転移者のことについてあまり知らなかったんなら、知らないよね?」

「あぁ、知らない。別次元の存在すら知らなかったからな」


 だが、確かどこかにありとあらゆる知識を知れる図書館があると聞いたが、不確定だから伏せておこう。


「そ。でもあたしたちの目標はそういうことだから、何か情報が入ってきたら教えてほしいんだけど、良い?」

「構わないぞ。情報が手に入れば教えよう」

「マジで助かる! あんがと。助けられたのがオリヴァーで良かったとマジで思うわ」


 闇ノ神の情愛のおかげで怒り・嫉妬・疑惑・裏切りなどの負の感情には敏感だが、こいつらからは負の感情は一切感じ取れない。つまりこいつらは俺を全面的に信用している。こんな簡単に人を信用しようとするんじゃない。だから三股もかけられるんだ、と俺は心の中で思った。




 彼女たちの元の世界のことを話しながら王都に向かうが、日が暮れてきたため川に面している場所で夜営をすることにした。そこら辺の木の枝を燃料として炎魔法で火を起こし、容量拡張袋に入れていた湯を沸かすためのポットセットを出す。ポットに水を入れて沸騰させている間、俺はとある質問をする。


「モモネたちはどうやってバオル町まで行ったんだ?」

「どうって、今と同じように歩いてきたけど、それがどうしたん?」


 モモネがさも当然かのように話すが、普通はしない。俺は普通じゃないから良いんだけど。


「王都からなら馬車があるだろ。馬車で来なかったのか?」


 俺の言葉に三人はまた暗い顔になっていた。て言うか、次はなんだ?


「国王が使えないやつに出す金はないってさ」


 カンナが代表して答えてくれた。


「国王? ・・・あぁ、この世界には国王に召喚されたのか。だが、召喚されたからにはこの世界に必要だったから呼んだんだろう。なのに何故使えないと言われたんだ?」

「えっと・・・何か私たちがいた世界で、英雄と成り得る可能性を持った人がまとまっている場所に狙いを定めてその範囲に召喚魔法を使ったらしいよ。だから私たちみたいな可能性がなくて力のないか弱い女子高生が巻き込まれたわけ」

「なるほど、それは迷惑極まりないことだ。その上面倒を見ないとは、さすがあの国王だ。性根が腐っている」


 話を聞きながら、沸騰した湯が入っているポットの中に乾燥させたニガクナイツというハーブを入れて煮だし始める。


「オリヴァーも何か国王にされたの?」

「あの国王は、俺が闇の勇者と知った途端、この国に居ずらくなるような噂を流したり国が運営している商店を利用できなくなったりと、この国から追い出そうとしたことがあった」

「ほんっと、偉そうな奴は嫌い」

「まぁ、大体の王があんな感じだから気を付けておいたほうがいい」

 しかし、王の中では実力主義で俺を買っている例外な王もいるがな。

「力がないということはスキルは何も持っていないのか?」

「いや、それぞれが一つずつスキルを持っているけど、どれも使えないと言われたスキルだよ」

「使えないスキル? どんなスキルだ?」


 スキルのことについて言うのは、本来頭の可笑しいことだ。自身のステータスを晒しているのと同じ行為なんだからな。スキルのことを聞いた瞬間、それを思い出してカンナが言おうとした時に手を出して一旦止めた。


「喋るのは良いが、よく考えて喋るんだ。本来ステータスやスキルを言うのは、自分の弱点を言っているようなものだから、そこを突かれて奴隷にされた、なんて笑えないからな。会って数日の俺に喋るのもあまりお勧めしない」

「確かに。でも、私たちはオリヴァーのことを信用しているから、別に話しても良いと思っているから大丈夫」


 カンナは俺の言葉を理解してもなお、俺に話そうとしている。


「どこからそんな信用が生まれるんだ。もし俺がお前らを騙して奴隷にしようとしていたらどうするんだ」

「え? 奴隷にするつもりなの?」

「するつもりはないが、そこで“はい”と答えるやつがいるわけがないだろ」

「大丈夫。私のスキルは≪真偽の加護≫だから、信用できるよ」


≪真偽の加護≫とは驚いた。この加護は相当レアな部類に入るスキルだ。裁判などかけるときに重宝されるスキルだ。≪真偽の加護≫のレベルを上げていけば、対人戦において強力なスキルへと派生していく。


「それは随分とレアなスキルだな」

「レアなスキルでも、戦闘では使えないクズスキルだって。確かに今のところこれと言って使えているところなんてないから、クズスキルなんだろうけど」


 カンナは自嘲しながら暗い笑みを浮かべている。


「だが、そのスキルがあれば、元彼氏の言動に嘘があるか確認できていたんじゃないのか? そもそもスキル自体、元の世界で持っていたものなのか?」

「スキルはこっちの世界に来てから発現したよ。・・・で、元彼氏だけど、恋している相手には何が見えていても何も不思議には感じない、まさに恋は盲目」

「大体のやつがそうだろう。気にすることはない」

「・・・慰めてくれるの?」

「慰めじゃない。そもそも、お前たちは話を投げかけたら一々、暗い雰囲気を醸し出してくるからこっちが暗い雰囲気になる。少しくらい彼氏のことで暗くなるのはやめろ。笑い話に変えるくらいにしろ」

「・・・そうだね。暗い雰囲気になるとオリヴァーにまで迷惑がかかるからね」

「別に迷惑だとは言っていない。俺にどんな迷惑をかけても構わない。お前たちの面倒を見ている時点でそれは覚悟している。だがな、抱え込むのだけはやめろ。それが最大の迷惑だ」


 抱え込む辛さは、抱え込んできた俺が一番知っている。それよりも、傷心の少女たちに漬け込んでいるとは、とんだ男だな、俺は。


 俺の言葉にカンナは俺の方を見てしばらく瞬きをしているだけだったが、目をそっとそらして口を尖らしながら反応した。


「・・・傷心の乙女に、それは染みる」

「そうか。ならたっぷりと染みこませて耐性を作れ。で、モモネとミユキのスキルも聞いていいのか?」


 話題を変えるべく、二人にもスキルを聞く。


「はい! 私は≪精神回復≫というスキルです」


 ミユキが元気よくスキルを言ったが・・・これまた珍なスキルだな。回復系統で言えば、≪体力回復≫と≪魔力回復≫がある。


「≪精神回復≫か。確か治癒魔法では治せない心の傷を治すスキルだったな」

「そうです。私も戦いでは使えないスキルだ! って言われました」


 ミユキも少し笑顔に暗さを感じる。だが、≪精神回復≫は結構使えるスキルだ。≪精神回復≫から派生するスキルで≪超精神力強化≫がある。ここ最近で使える場面と言えば、彼氏に捨てられた少女たちにかければそんなこと気にしないようになるとか、仲間が目の前でモンスターに殺されても、仲間の屍を越えていく! と言わんばかりに立ち上がる。いわゆる超ポジティブ洗脳と言えよう。今の≪精神回復≫でも前者はできる。


「国王は本当に見る目がない。≪精神回復≫も使えるスキルだ。自信を持て」

「本当ですか!? 良かったぁ~、モモネちゃんとカンナちゃんの足を引っ張りたくなかったから、本当に良かったぁ」


 ミユキはすごく安堵しているのが分かるくらいにリラックスした態勢に入る。


「残りはモモネだな」


 俺がモモネの方を見てそう言うと、目をそらして言いたくなさそうにしていた。


「言いたくないならそれで構わない。ただの興味本位だしな」

「・・・いや、言うし。あたしだけ一番使えないと思われるのが嫌だっただけだし」

「それは聞いて判断することだ」

「・・・あたしのスキルは≪透視≫。ほら、使えないでしょ?」


 ・・・・・・≪透視≫? いや、≪透視≫か。≪透視≫・・・≪透視≫!? ≪透視≫は派生しなくても使えるスキルのはずだ。もちろん、≪透視≫から派生するスキルで強力なものはあるが、≪透視≫は知られていないだけで使えるスキルのはずだ。


「黙っているってことは、かける言葉もないってことでしょ?」


 俺が考え込んでいると、何を勘違いしたのか一層暗い顔をしている。


「喜べ、お前のスキルが一番使えるぞ」

「どうせ、使えな過ぎての慰めっしょ?」


 俺が喜べと言っているのに、嘘だと決めつけて暗い顔をしているモモネにイラッとしてモモネの元へと行き頬をつねってやる。


「いふぁい!」

「俺がお前を慰める言葉をかける必要がどこにある。俺は言いたいことはハッキリと言うから安心して言葉を受け止めて喜べ」


 俺の言葉にすごく頷いているため、頬を離す。話の腰が折れたため、ニガクナイツが丁度煮えたハーブティを四人それぞれのコップに注いで一息入れる。


「ふぅ。でだ、モモネ。お前の≪透視≫は相当レアなスキルだが、概念解釈でスキルを使える相当使えるスキルだ」

「・・・概念解釈? つまりどういうことだし」


 モモネは俺の言葉にまだ疑問を抱いているようだった。


「つまり、広く解釈できるってことだ。≪透視≫で言えば、物理的に服を透かしたり壁を透かしたりということ以外にも、相手のステータスを透かして見ることや、極めれば何でも見えることのできる、使えるスキルだ」

「でも、それって戦いには使えないじゃん」

「戦いがすべてとは言わないし、戦いに使えるかどうかはそのスキルを保持している使い手次第だ。使い手が変われば、弱いスキルと言われているスキルだろうと強いスキルへと化けることだってある。≪伐採≫スキルは一見、木を切ることだけしかできないと思われがちだが、あれは常時筋力が大幅にアップしているスキルだ。斧を振ればとてつもない攻撃力を出せる。逆に≪斬撃≫という攻撃を飛ばせるスキルは、剣のスキルや腕が伴っていないと意味のない攻撃になってしまう。要は使えるかどうかは使い手の技量にかかっている」

「じゃ、じゃあ! あたしの≪透視≫はどんなことに使えんの!?」

「そうだな。例えば、視力や集中力を上げる≪眼力≫スキルと併せ持てば、筋肉の動きを≪透視≫と≪眼力≫で見て相手の動きを読んだりと色々できる」

「・・・何か色々とやる気が出てきた」


 さっきまで暗かったのが嘘かのように、モモネは生気を取り戻した顔をしている。


「スキルは良いが、それよりもレベルはいくつなんだ?」


 大前提としてレベルの恩恵を受けていないと、スキルが良くても意味がない。


「え、1だけど」

「同じく1」

「私も1です!」


 ・・・聞き間違いか? 1と聞こえたんだが。


「1?」

「だから1だって」


 これは至急レベル上げから始めないとどうにもならない。いやしかし、もしかしたら初期ステータス値が高いのかもしれない。


「ステータス値は?」


 俺がそう言うと三人はステータス画面を開くような素振りをしている。もちろん他の人には何をしているかなんて分からないような仕様になっている。


「あたしからね。筋力:101・物理耐久力:151・速力:105・技術力:130・魔法耐久力:127・魔力:209」

「じゃあ次は私。筋力:98・物理耐久力:107・速力:113:技術力:140:魔法耐久力:153・魔力:164」

「最後は私ですね。筋力:131・物理耐久力:208・速力:118:技術力:116:魔法耐久力:199・魔力:87です」


 モモネ・カンナ・ミユキの順に教えてくれたが・・・レベル1にしては高い方か。大体が100を超えてからFランク冒険者、つまり冒険者になれる。だが、心がステータス値に追いついていないのだろう。だから上手く動けない。ここまでの道のりでモンスターが出現しても逃げ回っているだけだった。元の世界だと平和だと聞いているから、それも要因かもしれない。


「あたしたちは教えたんだから、オリヴァーも教えてくれないと不公平だよね?」


 モモネが最ものことを言ってくる。


「教えても良い。だが、練習がてらその≪透視≫スキルで俺のステータスを覗き見ればいい」

「え・・・どうやってやんの?」

「どうやってって、俺はそのスキルを持っていないから分からないが、自分のステータスを出す感じで俺のステータスも出したら良いんじゃないのか?」

「・・・分かったし」


 モモネは分かったような分かっていないような顔をしながら、俺の方を目力を入れて凝視してくる。しばらく待っても一向に見えたという反応がない。


「あぁっ! どうやっても見えないんだけど!」

「怒るな。俺がステータス画面を出していた方が見えやすいのかもしれない」


 俺は自分のステータスを可視化した。

『名前:オリヴァー・バトラー

 種族:人間

 年齢:二十二

 職業:闇の帝王

 称号:闇夜深める帝王

 ≪スキル≫

 ≪闇ノ神の情愛≫・≪闇落ち≫・≪帝王従属≫・≪重力操作≫・≪言語共有≫・≪明鏡止水≫・≪六感強化Lv.10≫・≪身体能力上昇Lv.10≫・≪超速再生Lv.10≫・≪魔力察知≫・≪気配察知≫・≪気配遮断≫・≪気配追尾≫・≪気迫Lv.10≫・≪騎乗Lv.10≫・≪体術Lv.10≫・≪武装術Lv.10≫・≪魔力武装≫・≪魔力纏身≫・≪魔力回収≫・≪全物理耐性Lv.10≫・≪全属性耐性Lv.10≫・≪全物理反射Lv.10≫・≪全魔力反射Lv.10≫・≪背水の陣≫・≪採取Lv.10≫・≪調合Lv.10≫・≪錬成LV.10≫』

『オリヴァー・バトラー Lv.193

 筋力:244536(+100000)

 物理耐久力:242916(+100000)

 速力:251006(+100000)

 技術力:250808(+100000)

 魔法耐久力:243166(+100000)

 魔力:259097(+100000)』


「あ、ようやく見え・・・・・・た」


 どうやらモモネの今の段階では本人がステータスを出していないと見えないようだが、モモネは俺のステータスを見て固まっている。


「何だしこのステータス!? それにレベルも桁違いじゃん!」


 急に大きな声を出したモモネに他の二人はビックリしていた。カンナがモモネの方を少し睨めつけているように見ながら問いかける。


「大きな声を出して何?」

「だって、え、何これ? スキルがいっぱいあるし、レベルが193で、ステータス値が全部・・・25万代になってる」

「・・・は? 25万って、そんなわけない。数え間違えじゃない?」

「・・・ううん、間違いないし」

「あぁ、間違えていない。俺のステータスはすべて25万前後だ」


 俺がそう言うと、モモネとカンナはまたしても固まっていたが、ミユキが手を挙げて発言した。


「はいはい、ステータス値によって冒険者ランクの基準がありましたよね? 25万ってどの部類に入るんですか?」

「あるが、どの部類に入るか、か」


 一般的に言えば、1~100までが一般人。101~1000がFランク~Cランク冒険者。1001~10000がBランク~Aランク冒険者。そして10000からがSランク冒険者で、人間の基本ステータスの上限が100000とされている。つまりSランク冒険者の括りは10000~100000ということになる。ここで、俺がどの部類に入るかだが・・・あえて部類分けするのならSランク冒険者の括りを越えているがSランク冒険者だろう。


「10000からがSランク冒険者と言われるから、Sランク冒険者だな」

「へぇ~、すごいんですね。・・・でも、そのお若いのにそんなにレベルが上がるものなのですね。確か一生でレベル100行けばいい方と誰かが言っていましたけど、どうしてそこまでレベルが上がっているのですか?」

「それは俺の≪闇ノ神の情愛≫のスキルのおかげだ」

「≪闇ノ神の情愛≫、ですか? レベルが上がりやすくなるとか、経験値アップとかそういう効果なのですか?」

「いや、そんな単純なものではない。このスキルを所有していると俺はモンスターなどを倒しても経験値は入らないようになっている」

「えっ!? じゃあどうやってレベルを上げているのですか?」

「それはこのスキルのおかげだ。このスキルを持っていると経験値を一切得られない代わりに、どんな英雄足り得る事柄だろうと、どんな些細な事柄だろうと、闇ノ神が気まぐれでレベルの上りが左右される。気まぐれだから、レベル54の時に一人でSランクのモンスターを倒してもレベルは上がらなかった。逆に新しい戦い方をして低レベルのモンスターを倒した時にレベルが上がったりと本当に気まぐれだ」


 このスキルでこのレベルまで上がったが、このスキルの真骨頂はこれではない。だが、真骨頂は使わないと決めている。それを使ってしまえば、俺は闇ノ神の思い通りになり面白くない。


「お前たちは元の世界に変える方法を探しているんだったな?」

「はい、そうです!」

「そうだし」

「そう」


 俺の問いかけにミユキとモモネとカンナはすぐさま答えた。


「なら、この世界を己の力で生き延びなければならない。弱いものは淘汰されるこの世界で。平和に生きていたというお前らにそれができるか? できなければ今のうちに言っておけ、俺はできないやつの面倒を見るほど優しくはないぞ」


 三人に覚悟を問うと、すぐにカンナが返事をした。


「できる。早く帰って、お風呂に入って、テレビを見て、ベットに入って惰眠をむさぼりながら電話をしたりして元の生活に戻りたいから」

「そうか。だが、お前たちが今日逃げ回っていたモンスターに立ち向かわなければならないんだぞ? それでもできるのか?」

「たぶんできる。スキルもあるし、何よりオリヴァーもいる。甘えたことを言うけど、危なくなったらオリヴァーが助けてくれるんでしょ?」

「確かに甘えたことだが、死なれたら困るからな。さて、モモネとミユキはどうだ?」


 すぐに返事をしなかった二人を見るが、二人とも何かに引っかかっているようだった。ミユキは何かを悩んでいる顔をしており、モモネは渋い顔をしている。


「う~ん。私って、みんなから遅いとか緩いって言われているので、モンスターを倒せるかどうかが分からないのですけど、私にもできますか?」


 悩んでいたのはそこか。


「大丈夫だろう、必死にやれば。だが、必死にやってもできなければ他の方法を試せばいい。自分がしっくりとくる方法を探せばいいだろう。近接がダメなら・・・そうだな。例えば≪精神回復≫を敵に対して使い、精神異常をきたすとか方法は色々とある。要はやる気があるかの問題だ」

「それならあります。どすどかと襲ってくるゴブリンを返り討ちに合わせてやるんだから」


 ミユキのやる気は十分のようだ。・・・残りの一人はどうだろうか。


「最後はモモネだが?」

「・・・あたし、無理かも」

「どうしてだ?」

「モンスターって言っても、生き物でしょ? 生き物を殺すなんて、できない」

「生き物と言っても、俺たちを殺しにかかっているんだぞ? 先のゴブリンのように。それとも殺したくないから殺さないでくださいとか殺してくださいとか言っているのか?」

「そうじゃないけど・・・やっぱり生き物を殺すとなると、どうにも踏み切れない」


 こいつの中身は本当に甘ったれている。見た目だけなら三人の中で一番殺しに積極的に見えるが、本当のところ、一番積極的なのはミユキだな。


「お前だけ生き物を殺したくないから、手を汚さずにいると? 甘えるな。お前らの仲だ、お前が殺したくないと言っても二人はそれを許容し、元の世界に帰れる方法が分かると何もしていないお前も一緒に帰らせてくれるんだろうな。まだお前が一切モンスターと戦えないというのなら他の補助要員として生きられるだろう。だがな、お前らは立派に戦える力を持っているんだろうが。・・・お前が二人の足を引っ張って何も思わないと思うのなら、話は別だがな」


 俺の言葉にモモネは俺の方を睨めつけたが、すぐにそらして目を力を込めて閉じた。


「別にモモネができないって言うなら、私たちで頑張るよ? それにカンナのスキルでサポートしてくれた方が戦いやすいと思うから、どちらでも良いよ」

「そうだよ。私がこうやって明るく喋れるのはモモネのおかげなんだから、ここで私に恩返しさせて?」


 カンナとミユキがモモネに優しい言葉を投げかける。モモネはしばらく目を閉じていたが、目を開けると決心がついた力強い瞳でこちらを見てきた。


「やるし。あたしだけ逃げなんて格好悪いから」

「よし、良いだろう。明日からしばらく俺が面倒を見よう。明日のために今日はしっかりと食べて休むぞ」


 俺は袋から保存していた肉と肉焼きセットを取り出し、適当に晩飯をふるまい、寝袋を人数分取り出して三人は就寝した。俺は周りを監視しておかないといけないから、その日はずっと起きたままであった。

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