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ゲスなダンジョン  作者: 九重七六八
第5章 ラストダンジョン<DMサイド>
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過去 巴の思い出

 3か月前。俺には大切な友達がいた。


 名前は『ともえ』。ネットで知り合った女の子だ。ネットで知り合ったのなら、女と限らないという奴もいるが、巴は間違いなく女の子だった。


 なぜなら、意気投合した俺たちは知り合ってから1か月後に2人だけのオフ会をしたのだ。巴は俺と同い年。長い黒髪にベレー帽を被った華奢な女の子だった。


 彼女は中2から不登校になったと俺に打ち明けた。原因が何かまでは彼女は語らなかったが、それを聞けない雰囲気があった。それからずっと家で引きこもっていたそうだ。俺と話すのはリアルで2年ぶりとのことだった。


 会った時にこれまで同世代の人間と話してこなかった巴は、それこそずっとしゃべり続け、俺はそれをひたすら聞いた。驚いたことに神流は5時間もしゃべり続けた。

 そしてしゃべり終わって、俺の手を取って嬉しそうにこう言った。


「ありがとう。私の話を聞いてくれて……」


 俺は頷いた。彼女の話は別に苦ではなかった。今の俺の境遇と似ていたからだ。似た者同士ということで、俺は彼女の心に寄り添えた。


 その後、俺たちはSNSで会話したり、1週間に1度会ったりしていて仲良くなった。恋愛感情がお互いにあったかどうかは分からない。ただ、一緒にいるだけでお互いに心地よいことは確かであった。


 そんな俺たちの関係が崩れたのは、3か月前のダンジョンマスターになるゲームとの出会いであった。

 誘いは彼女の方からであった。何だか不気味な噂のあるゲームがあると彼女は俺に話してきた。


引きこもり生活をしている彼女には、この手の刺激が琴線に触れるのであろう。ただ、そのゲームに関する噂というのは、荒唐無稽ではあるがどことなく、触れてはいけない忌避するべきものだ感じたのは確かだ。


ゲームに参加するとダンジョンマスターとなり、侵入してくる冒険者をトラップやガーディアンを駆使して殺すというありきたりの設定であるが、そのルールがまともでなかったからだ。


(1)ダンジョンマスターとして7日間生き延びれば、1つだけ望みが叶う。

(2)冒険者を殺すとKPというポイントがもらえ、それがお金に換金できる。


 これだけ聞いても、このゲームは相当ヤバいものだと誰でも思う。だが、精神状態がおかしな人間は、好奇心からこれに参加してしまう。俺と出会って精神的に落ち着きを取り戻し、自分を見つめなおし始めた巴にとっては、魅力があったのであろう。


 俺は巴と一緒にこのゲームに参加してしまった。そして地獄を知ることになる。



 ゲームをサポートしてくれた、ぱずずという幼女悪魔は俺たちを優しくサポートしてくれたが、それは俺たちを利用して人間の魂を得るためであることが分かった。迫りくる冒険者の恐怖に4人のダンジョンマスターはお互いに足を引っ張りまくり、そして自滅していく。


 巴にこのゲームの存在を教えた2人は3日目に冒険者に殺された。俺と巴は必死に生き残ろうともがいたが、冒険者は強くなるばかり。初心者に過ぎなかった俺たちが生き残れる可能性はほとんどなかった。

 唯一の方法を除いて。


 それはまさに悪魔の囁きであった。


「お前を愛するものを生贄に差し出せば、大量のKPを手に入れられる。それを使って強力なガーディアンやトラップを手に入れれば、生き残ることができる」


 そうパズズは言った。


 最初、俺にはそんな恐ろしいことはできないと拒否した。俺を愛してくれるのは両親である。優しい母さんや仕事をして生活費を稼いでくれる父さんの魂を身勝手に生贄にするなどできるはずがない。


 そんなことをするのはゲスな人間がすること。ゲスの極みな行為である。

だが、悪魔に魅入られた俺はどんどんと追い詰められていく。まずは巴のダンジョンが攻略された。冒険者は巴のROOMに押し入り、そして巴を凌辱して殺したのだ。


 俺はその一部始終を見るしかなかった。殺される瞬間に巴は俺に笑顔を浮かべた。そして、俺にこう言ったのだ。


「TRくん、あなたは生きて……わたしの分まで面白く、精いっぱいに生きて……」


 そして俺は彼女の愛を知る。


 巴の願ったことは、俺をこのダンジョンから逃がしてくれということだったのだ。俺はこのおかげで冒険者に踏み込まれる前に、ROOMから脱出して隠れることができた。


ROOMから出られても生き残ることは、至難の業だ。自分が支配していないガーディアンは襲い掛かてくるし、他のダンジョンマスターの罠も怖い。それでも俺は7日間、逃げ延びることができた。

 

俺が生き延びたということは、小さな希望でもあった。なぜなら、俺の願いも巴の命を救ってくれというものであったからだ。


 悪魔ぱずすは、俺が思った形ではない方法で巴の魂を救済したのだ。それは殺された巴の魂を刀に封印すること。このゲーム内で殺されたり、生贄にされたりした魂は例外なく、悪魔に食われ、未来永劫地獄でさいなまれることとなる。


 その運命から逃れることになったのだ。そしてそこから再び、肉体を取り戻す方法もあった。それは冒険者や仲間のダンジョンマスターから得られるKPを1億貯めることであった。


 俺は巴のためにゲスを極めることになった。


 2回目のゲームに参加し、KPを得て装備を整えるために父や母を生贄にした。善良な両親は大したKPにはならなかったが、俺の悪賢さと容赦ないゲス魂で2回目も生き残った。


 3回目は困難を極めた。冒険者の強さが半端なかったことと、神聖騎士団なるダンジョン殲滅部隊が現れたからだ。


 それでも俺は戦い、6日目まで生き残った。同じく生き残ったダンジョンマスターに五郎丸という男がいた。自称大学生。『みつき』という可愛い妹がいると自慢していた。


 俺は自分が助かるために、この五郎丸という男を罠にかけて犠牲にした。だが、五郎丸もここまで運だけで生き残った男ではなかった。自分が殺される寸前に黒騎士に扮した俺に、『記憶失い』のトラップにかけて、俺のダンジョンマスターとしての記憶を奪っていったのだ。


 おかげで俺はこのゲームのことも、巴を助けることも忘れてしまったのであった。


だが、炭酸のおっさんが進めてくれたおかげで俺は記憶を取り戻すことができた。俺と同じゲスを極めた偽佐藤さんのおかげでもある。


(偽佐藤さんこと、西村さんにはお礼を言わなければいけないな……)


 俺はそう思いながら、ゲームを後にした。明日は7日目。最終日だ。


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