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ゲスなダンジョン  作者: 九重七六八
第5章 ラストダンジョン<DMサイド>
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トラップ電車道

「TRよ、予定通り、替え玉の首を取ったが、お前の方はどうじゃ」

「ああ……予定どおりだよ。予定通り、神聖騎士団に信用された。あと少しで『彷徨える子羊』のダンジョンに到着する」

 

幼女悪魔ばあるがそう俺に報告してくる。俺のいたROOM9は俺が扮する黒騎士ハンニバルによって攻略された。ハンニバルとなった俺は、ROOM11に向かう途中でランダムに出現するガーディアン(おそらく、オーガヘッドや堕天使が使役していたガーディアンの生き残りだろう)を軽く倒しながら、これから起こる出来事について考えを巡らせていた。


(今日と明日で終了となる。俺の記憶が戻っただけでも今回のゲームは成果があった。でも、どうせならKPを大量に得るチャンスは逃さない)


 俺の目的はKP。ダンジョンに挑む冒険者の魂である。そして、それは仲間であるダンジョンマスターでも同様であった。自ら手を下して倒した場合、ダンジョンマスターならその強さによって、冒険者の10倍以上のKPを稼ぐことができた。

 

 そして今晩のターゲットである『彷徨える子羊』の支配するエリアへ俺は到着した。戦いは膠着状態であった。

 

 動く床や出現する針の壁、落ちる天井や炎を吹き出す壁などで守られたエリアにガーディアンがひしめく。そこを一つ一つ突破することを余儀なくされた神聖騎士団第2隊が俺を待ち受けていた。


「待ってました、黒騎士ハンニバル殿」

 

 第2隊を率いる隊長ビルシュタインが俺を出迎えてくれた。貴族出身の隊長らしく、口ひげがピンと上を向いた品の良い中年男である。よく鍛えられた肉体と共にたくましさが際立っている。第2隊はこの勇敢な隊長の元、ここまで進んできたが、激しい戦闘で負傷者が続出。戦いは劣勢に立たされていた。

 

 隊長ビルシュタインは撤退して戦力の立て直しを迫まられていたが、ロブからの魔法を使った連絡で強力な助っ人が現れたと聞き、その決断を留保していた。


「戦況ハ、ドウナッテイル……」


 俺はそう尋ねる。抑揚のない声は演技である。


「負傷者が続出して、魔法も打ち止めだ。悔しいが撤退を考えていた。だが、状況は敵も同じこと。ガーディアンやトラップの仕掛けも限界だろう。ここを突破できれば、この強力なダンジョンマスターを仕留められるだろう」

「ウム……。敵ハゴーレムカ……トラップニ巻キ込マレルコトヲ考エレバ、適切ナガーディアンノ選択トモイエル」


 炎の吹き出す壁や突然、針が突き出す床の罠がひしめくエリアである。生物系のガーディアンなら巻き込まれて死んでしまうだろう。魔法で動く人形であるゴーレムなら、巻き込まれてもダメージはない。


「負傷者が多くてな。こちらで戦えるのは5名ほどだ。魔法の援護はあまり期待するな」

「ゴーレムハ、魔法ノ効果デ動くガーディアン……デスペルハ試ミタノカ?」

 

 俺はそうビルシュタインに聞いた。第2隊長は首を静かに振る。


「もちろん、試したさ。ゴーレムとの戦闘では常套手段だ。だが、デスペルを無効化するトラップが発動している。敵もゴーレムを使う上で弱点を補う手はうっているようだ」

「ソウカ……」


 たぶんそうだろうとは思っていたから、落胆はない。デスペル無効化エリアは少々高いトラップというか、拡張ダンジョンである。これを持っている時点でこの『彷徨える子羊』は経験者であることは間違いがない。


「デスペル無効化ナラ、実力デモッテ排除スルシカナイナ」

「ハンニバル殿、相手はアイアンゴーレム2体にクレイゴーレム5体ですぞ。いくらあなたでも1人では無理というものだ」


 俺は首を振る。ゴーレムはダンジョンマスターにとって扱いやすいガーディアンだ。なぜなら、士気の低下やパニックを起こすことなく、命令を忠実に実行するからだ。その体は素材に比して頑丈で力も強い。但し、魔法が無効化されると素材に戻る弱点がある。魔法効果を無効にするデスペルは最も怖い攻撃であった。


「シャープネス……×2、衝撃波……付与……加速×3……耐衝撃障壁×3……耐熱魔法×2……力倍増……」


 俺は自身の鎧と刀に魔法を付与する。俺がもつ武器は刀。斬ることに関しては世界最強といってもいい武器だ。『ともえ』と名付けられた刀は俺の愛刀である。


「イクゾ……」


 準備が整った俺は刀を抜いて突進した。飛び出す針山をジャンプでかわすと噴き出る炎をマントで防いだ、そして狙いをつけたアイアンゴーレムに刀で切りつける。付与された衝撃波がアイアンゴーレムの分厚い鉄の胸板を砕いた。


 中に札が見える。俺はそれめがけて左手でナイフを抜くと札の文字を切り裂く。札の文字は『emeth』(真理)と記されている。その最初の文字『e』を削れば、『meth』(死)となり、ゴーレムの体は崩れて素材と化すのだ。


 強大な力はあるが、動きは鈍いゴーレム。その防御力を簡単に打ち破る攻撃ができれば、この方法で倒すことはできなくはない。


「すっげえ……さすが黒騎士ハンニバル……半端ねえな」


 神聖騎士たちも驚く俺の戦いぶり。その勢いにのって戦える神聖騎士も突入してくる。これによって、『彷徨える子羊』のダンジョンは攻略できたかにみえた。


 トラップとゴーレム軍団が阻むエリアを突破し、ROOM11の扉が見えるところまで進んだ俺と神聖騎士5名であったが、ここでダンジョンマスターの攻撃を受ける。


 カンカンカン……聞きなれた甲高い音が鳴り響く。


 遮断機が下りた踏切の音である。俺は歩みを止めた。警報機の音よりも、近づいてくるものの音の方向を聞き取ろうとしたのだ。


 神聖騎士たちの方は、この突如鳴り響く音に驚き、縮こまっている。知らなければ例え、この異世界でも最強の呼び声高い神聖騎士たちでもダンジョンでこの音は驚くのは仕方がない。


(来る……)


 俺はとっさに判断した。このトラップは非常に危険だ。俺は天井をにらんだ。たぶん、生き残れる空間はそこしかない。


「みんな逃げろ。できるだけ早く!」


 俺は叫んだ。神聖騎士団の面々は驚いて立ちすくむ。


 キーン……ゴトゴト……大きな音が近づいてくる。前方に突然、2つの目玉をもつ大きな箱みたいなものが、凄まじいスピードで近づいてくるのだ。


 俺はジャンプした。後ろにいた神聖騎士たちのことは諦めた。彼らを助ける余裕はない。ジャンプした俺は刀を天井に突き刺し、そして体を真っすぐにして天井に張り付いた態勢になる。


「うおおおおおおっ……」

「ぎゃああああっ……」


 俺がその態勢をとった瞬間に風が起こった。信じられないことに電車が現れ、通路にいた神聖騎士たちを根こそぎ撥ねてその体を引きちぎると消えてしまった。


 俺は再び静かになったダンジョンの通路に降り立った。そこにはバラバラになった騎士たちの屍が転がっている陰惨な場所になっていた。


 負傷し、後方で休んでいたものを含めてほとんどの神聖騎士が犠牲となった。助かったものは隊長のビルシュタインを含めてわずかに3名。偶然にも通路にあったわずかなくぼみで轢死を免れたのだ。


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