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ゲスなダンジョン  作者: 九重七六八
第5章 ラストダンジョン<DMサイド>
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彷徨える子羊

 翌日。

 相変わらず、誰もいない家を出て俺は学校へ行く。

 相変わらずの空気の俺には誰も話しかけてこない。いや、俺自身も話しかけない。麻生さんが俺の姿を見て何やら話したそうであったが、俺はあえて無視した。


 そう……これも作戦のうちである。


(彼女がねえ……。あの美月ちゃんか……。まあ、いいけど。あと2日でどういう行動に出るかな……どちらにしても俺には美味しいことになりそうだな)


 学校の勉強は適当に行う。記憶が戻った俺には勉強していい大学に入り、一流企業に就職するなどという世間一般で言う手堅い路線というのは意味がない。


 毎晩参加するダンジョン。ダンジョンマスターとして、冒険者を殺しまくれば、KPが手に入る。そしてKPは金に換金できる。1KPにつき1000円。昨日はレベルの高い冒険者を葬った。それで稼いだKPは2000KP。一晩で200万円の収入だ。


 そいういう仕組みでKPが日本円に変わるのかは知らないが、チュートリアル悪魔ばあるに命令すれば、翌日には任意の通帳にお金が振り込まれている。無論、目的のある俺はKPを金に換えてしまうことはしない。生活費として最低限度の金額だけを換金している。


 ATMで換金したお金を引き出した俺は高級外車で俺を迎えに来た佐藤さ、。いや、佐藤さんを偽るお姉さんと合流する。


 目的はその体を貪ることだ。これは佐藤さんを偽る西村さんも目的があってのことだ。俺の予想が正しいなら、今晩、この西村というお姉さんは正体を現す。


 今日は偽佐藤さんは、自分の高級マンションに俺を連れて行ってくれた。それは駅前に建つタワーマンション。炭酸が買うと言っていたマンションの隣に立っていた1号館である。その最上階のペントハウスが偽佐藤さんの部屋。


 総額にして1億5千万円である。外資系の証券ディーラーでも早々に買えないこの物件をおそらくキャッシュで買っただろう偽佐藤さんを俺は散々喜ばした。


 ことが終わり、俺は偽佐藤さんとまどろんでいる。腕の中の偽佐藤さんはかわいい仕草で俺の心をくすぐる。


「ねえ……TRくん。私のこと……好き?」

「……ああ、好きだよ」


 今日はぐいぐい来ると思っていたから、俺は話を合わせる。

「ほんと?」

「ほんとだよ」

「じゃあ、愛してるって言って……本名で……亜弓、愛しているよって……」

「亜弓、愛しているよ」

「うれしい……もっと、もっとして……」


 かわいいことを言う偽佐藤さん。もちろん、遠慮なくいただく。今日は激しい戦闘になる。その前に煩悩はすっきりさせないといけない。



 煩悩をすべて吐き出した俺は自分の部屋にいる。


いよいよ、ラスト2日。今日と明日、このダンジョンをしのげば、ゲームは終了である。敵は冒険者ではない。今日の敵は『神聖騎士団』の連中である。


 神聖騎士団。


 異世界で絶大なる信仰を誇るゼーレの神に仕える軍団である。

 その目的は『悪魔を狩る』こと。悪魔と断定されたダンジョンマスターを狩りつくすためだけに作られた神聖騎士団SS親衛隊である。


 これは俺の宿敵でもあり、そして美味しい獲物でもあった。無論、油断するとこちらの命もない。彼らとの戦いはスリルと恐怖の連続であり、そして俺の目的を達成させるためには避けては通れぬ壁であった。


 今日のダンジョンは昨日から参加している『彷徨える子羊』さんと佐藤さん。そして、不幸にも今日から参加した『オニキス』さんと俺の四人である。


 不幸なオニキスさんは大学生とのこと。詳しいことはどうでもよかった。適当に話を合わせて、ゲームに突入した。


 初心者のオニキスさんは、持っているトラップとガーディアンを展開させて健闘したが、所詮は初級装備。ラスボス級の侵入者である神聖騎士団の連中に勝てるはずがない。


そして神聖騎士団の連中に速攻で殺された。1時間もかからずに死亡である。おそらく、部屋に侵入してきた神聖騎士団の連中を見て、驚く間もなく殺されたのであろう。

 

モニターに映ったオニキスさんの骸を見ても、俺の心は何も動かなかった。佐藤さんだけは泣いていたが、俺も『彷徨える子羊』さんも動揺はない。


 すべて『想定内』。


 自分が生き残ればいいという事実は変わらない。


 俺はもっている豊富なガーディアンとトラップで自陣を固めている。佐藤さんのエリアへは絶対に通さない。佐藤さんは最終日まで泳がせておく。そのためのコストだ。


 そして『彷徨える子羊』さん。炭酸のエリアに新しく居を構えたこのダンジョンマスターは、強力なトラップとガーディアンを擁し、神聖騎士団の侵入を阻んでいた。


(さすがは経験者だな。おそらく、神聖騎士団と戦った経験があるのだろう.さて、俺の方はどうかな)


 俺は自分のエリアへ侵入した騎士団の力量を確かめる。まずは軽いトラップの発動。壁から高速回転する円盤が飛び出る罠。それは彼らの持つ分厚い盾で防がれた。


(そうだろうねえ……。このレベルになると奇襲や単純な罠では倒せない……)


 神聖騎士団の騎士は、一人一人は神聖魔法を使う戦士。鍛えられた肉体と精神は邪悪な存在を看破する。この騎士団は7人で構成され、ダンジョンに入るときは腕利きのレンジャーを伴う。これによって、トラップの発見、解除も可能。


 その一団が慎重に近づいてくるのだ。これを止めるためには、まともな対策では絶対に無理だ。

(こいつらを倒すには、手段を選んではいられないのだよ……)


 俺は自分の部屋の片隅の黒い鞘に納められた刀を見た。これはモニター画面に収納されているガーディアンやトラップと同じもの。ゲームが始まれば、具現化できるのだ。


「TRよ……あの手を使うのかや?」


 悪魔ばあるはそう俺に尋ねた。俺は少しだけ首をかしげた。俺がやろうとしていることは、確かに以前、やったことであるが、この幼女悪魔には見せたことはない。


「お前には見せていないはずだけどな……」

「ケケッ……。わちきは、ぱずすとは友達だったぞよ……」


 ぱずす……。ばあると同じチュートリアル悪魔である。俺をサポートしていた意地の悪い悪魔であった。

「ほう……それでばある。そのぱずすとやらはどうなった?」


「ケケッ……どういうわけか消えてしまったぞな。悪魔が消えるのは冒険者にでも退治されたない限りありえんことじゃが……」

「そうか……あの悪魔、退治されたのか。それはかわいそうに……」

「……お主、悪魔をかわいそうとか言うとは、本当に人間ぞよ?」

「さあな……」


 俺は刀と同様に具現化した武具やマントを着用し、支度を整えると黒い刀をもって部屋のドアノブに手をかけた。ROOMの外に出るという行為。レベルが低いうちというか、7日以上生き延びたダンジョンマスターしかできない行為だ。記憶の戻った俺には容易なことだ。解除に必要なパスワードを唱えると鍵は解除される。


 一歩踏み出したのはダンジョンの外。ひんやりとした空気を漂わせる俺のエリアだ。


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