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ゲスなダンジョン  作者: 九重七六八
第1章 はじまりのダンジョン<DMサイド> 
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悪魔ばある

 年回りはどうみても小学校1年生。黒いワンピースに黒いタイツ。髪は鮮やかなオレンジ色のショートボブ。ぴょこんとアホ毛が1本出ている。目は幾分つり気味で、小さいのにアイシャドウをしている。額に6の数字。そして両方のほっぺに6の数字が書かれている。


(おいおい、マジックで落書きしたのか?)


 そして、何より不思議なのは小さなコウモリのような羽が背中にあって、それを小刻みに動かしているのだ。


(随分、凝ったコスプレだな……じゃない!)


「お前は、誰だと聞いている!」

「ケケッ、わちきね。わちきの名は、『ばある』」

「ばある?」


 変な名前だ。それよりもこの幼女はどこから入った。こんなの部屋に連れ込んだら、高校生といえど、社会から抹殺される。


「ケケケッ、『ばある』は悪魔じゃぞよ」

「バアル? 悪魔? ああ、なんかのゲームで出てきた奴だな」


 悪魔バアルは、元はメソポタミアあたりで崇拝された神様。キリスト教の伝来と共に、こういう異郷の神はみんな悪魔にされてしまった。バアルは元々豊穣の神であったのに、キリスト教の聖典では、6万人の悪魔を率いる軍団長。『ハレンチ』『復讐』『決断』『不穏』『高慢』等を司ると言われている。


 姿はヒキガエル、クロネコ、老人を合体させたキメラみたいな絵がよくネットで見かけるが、ベルゼブブやサタンのような有名な悪魔ではないから、小説や漫画ではあまり見ない。つまり、マイナーな奴なのである。


(そして目の前にいるのは、恐ろしげな姿でなく、ちんちくりんの変な幼女)


 パタパタと動かすコウモリの翼の仕組みは分からないが、どうみても悪魔には見えない。ハロウィンの仮装パーティでもあったのかと思ったが、今は7月初旬である。


「何やら、悩んでる顔をしているぞよ……ケケッ」


 この幼女。語尾に時々不気味な笑いを入れる。その時に見せる口元の小さな牙。八重歯と思ったが両側にある。マウスピースだと思うが、ここまで凝らなくてもと思う。


「悩んでなんかいない。お嬢ちゃんの名前はわかった。で、聞きたいのだが、どうしてお兄さんの部屋に来ちゃったのかな?」

「何やら、わちきを馬鹿にしておる言い方ぞよ……ケケッ」


 何だか、上から目線の幼女だ。知らない男の部屋に来て怖くないのだろうか?


「バカにはしてない。もう夜だから、おうちへ帰りなさい」

「ふん。ばあるは大人じゃ。年は1000歳を超えておるぞよ。わちきには逆らわない方がええぞよ……少年、ケケッ」


「嘘つけ!」


 流石に俺も優しくすることを止めた。この上から目線幼女の両ほっぺをギュッとつまむ。泣くかもしれないが、ちょっとお灸を据えてやろうと考えたのだ。


「イタタタッ……何をする!」

「お仕置きだ」


『ばある』と名乗った幼女。パタパタと翼を速く動かす。


(おい、こいつ、浮いてるぞ!)

「お、お前、空飛べるのか!」


「当たり前ぞよ。わちきは悪魔ぞよ。ケケッ……」


 俺はつねるのをやめた。冷静な判断ができたのは、あまりにもファンタジーな展開に頭が混乱しすぎたからだろう。


「それで少年よ」

「俺はトオルだ」


 そう俺は自分の名前を教えた。こんな見た目幼女に『少年』と呼ばれる屈辱だけは避けたい。後で悪魔に名前を教えたらやばいんじゃないかと思ったが、もうしゃべってしまったから仕方がない。


「ではトオルよ。お主が参加してゲームは始まった。今は仲間共々、準備の最中だ。お主も準備をするがよいぞ。ケケッ……」

「準備ってなんだよ。それに説明してくれないと何もできん」

「わがままな奴ぞな」

「この状況に戸惑うのが普通だと思うが」


 目の前の幼女は人間ではない。そう思うことにした。そうじゃないと、目の前の現象に説明がつかない。


「では、説明するぞな。ここはROOM9、ケケッ」

「ここは俺の部屋だ」

「夜21時からはROOM9じゃぞ」

「なんだよ、その適当な名前」


『ばある』が指を差すので、パソコン画面を見る。画面上にROOM9と赤く点滅しているのが見えた。


「仲間の部屋もあるぞよ」


 よく見るとROOM6炭酸、ROOM7堕天使、ROOM8佐藤とある。


「この部屋はダンジョンと直結しているぞよ」

「ダンジョンだって?」

「そうダンジョン。お主らの役目は、このダンジョンに侵入してくる冒険者どもをぶっ殺すことぞな。ケケッ!」


 俺は、『ばある』の頭をコツンと叩いた。


「痛っ、何をするぞな!」

「殺すなんて言葉を小さい頃から使うな! それは使ってはいけない言葉だ」

「トオルは面倒なことを言う奴じゃ。わちきは悪魔ぞよ。悪魔が殺すという言葉を使って何が悪い!」

「悪魔でも使うなよ!」


 もう1回、『ばある』の頭をコツンと叩いた。


「うっ。お主は悪魔を恐れぬのか。まあ、言葉なんかどうでもいいぞな」

「それにだな。この部屋がダンジョンと直結しているなんて、でたらめ言うなよ。この部屋はいつもと変わらないじゃないか!」


 俺は部屋をぐるりと見渡す。特に変わった様子はない。


「そう思うぞな?」


 そう言って、ばあるが指を差す。その方向は窓だ。今は夜だから真っ暗だからガラスは黒く塗りつぶされている。


(いや、待てよ!)


 いつもは外の光が写りこんで輝いているはず。それが漆黒の闇である。

 俺は椅子から立ち上がると、窓を開けて外を見ようとした。だが、窓の鍵が解除できない。どんなに引っ張っても鍵のレバーが回らない。部屋のドアへ近寄った。ドアを開ければこの自称悪魔少女が言ったことを確かめられると思ったのだ。ドアノブをひねる。


「あれっ……。嘘だろ……」


 ドアノブのレバーはびくともしない。まるで鍵をかけたように動かない。断じて鍵なんかかかっていない。中からかけられても外からは無理だ。


「レベルが低いうちは外には出られないぞよ」

「マジかよ!」

「これはお主のためでもあるぞよ。レベルが低いのに外に出たら死ぬに決まっているぞよ」


 どうやら、ばあるが言うことに真実味が出てきた。この部屋は何処か違う部屋に移転されてしまったようだ。


「とにかく、準備をするぞよ。ケケッ!」


 そう言ってばあるはパソコンのモニター画面を指さした。右上にメニューなるアイコンがある。それをクリックするとちょっとおしゃれなカフェのメニューのようなものが出てきた。さらにクリックすると開いて文字が見えた。飲み物の注文表の如く、このゲームで買えるものが並んでいる。



<ガーディアン>

コボルト戦士……2KP レベル2 犬の顔をした戦士 

ゴブリン戦士……2KP レベル2 小鬼の戦士

オーク戦士……10KP  レベル3 豚の顔をした戦士

ウィル・オー・ウィスプ……1KP レベル1 儚く光る物体

スケルトン戦士……2KP レベル2 骨の戦士


<トラップ>

落とし穴……5KP ダメージを与える

油床……3KP   滑る

感電する床……10KP  ビリビリする

岩……10KP   上から岩が落ちてくる

動く壁……10KP  横の壁で押す

矢が放たれる壁……10KP 矢が連射される


<拡張フロア>

1フロア……10KP

階段……20KP

セットフロア……800G


「なんだか、よくわからないし、そもそもKPってなんだ?」

「KPはキルポイントの略。冒険者を殺すともらえるポイントぞな」

「キルポイントって英語かよ。悪魔も英語を使うのかよ」


 俺のツッコミを無視する『ばある』。淡々と説明をする。


「KPはゲームが終わったら、換金できるぞな。レートは1KPで1000円。ちなみにこの換金は一方通行。日本円のような人間の貨幣ではKPは買えないぞよ」


(ゲームじゃないじゃないか……)


 普通のゲームは日本円をゲーム内の通貨にする。いわゆる課金のシステムである。このばあるが説明するゲームは根本から違うことに俺は気づいた。



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