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ゲスなダンジョン  作者: 九重七六八
第3章 混沌と現実と<DMサイド>
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オーガヘッドの暴走

オーガヘッドのダンジョンは基本一本道だ。それはぐねぐねと曲がりつつ、下り坂となっている。昨日はこの下り道を使って油で滑らせたが、コボルトによる集団自決という意表をついた作戦があってこそである。


今はスカウトを先頭にして冒険者たちは慎重に歩を進めている。

 

ダンジョンマスターが支配するダンジョンは、基本照明がところどころ付いて明るい。オーガヘッドのダンジョンも同じだが、昨日、落とし穴とギロチンで一人の冒険者を葬ったエリアからは、ゴツゴツとした岩肌に通路が変わる。


「くくく……今からボクの凄さを分からせてやるからな」

 

 オーガヘッドは冒険者をどんどんと奥へ誘い込む。そこは小さな体育館ほどの広さの場所。そこからオーガヘッドのROOM10までは100mもない。

 

 そのエリアに冒険者が入った途端にオーガヘッドは明かりを消した。真っ暗になり、冒険者たちが歩みを止める。

 

 すぐに僧侶がライトの呪文を唱える。ぼーっと明るくなると冒険者たちは立ちすくんだ。そこには巨大なアイアンゴーレム2体とバジリスクが配置されていたのだ。そして無数のゴブリンとオーク戦士が周りを取り囲んでいる。


「おい、ばある……なんでオーガヘッドがあんなガーディアンをもっているんだよ」


 アイアンゴーレムもバジリスクもガーディアンのメニュー表にはなかった。それに見るからに強そうである。中級になりかけたような冒険者が倒せるガーディアンではない。


「ああ、オーガヘッドはKPを大量に手に入れたからな。今日の仕入れで手に入れたのだ」

「仕入れって、オーガヘッドが昨日手に入れたのは600KPくらいだったと思うが?」

「ふふふ……あいつはあることをして大量にKPを稼いだのじゃ。アイアンゴーレムは1体2500KP。バジリスクは4600KPじゃ」


「な……桁違いじゃないか!」

「ある方法と言ったじゃろ。それを行って奴は5万KPほど手に入れたのじゃ」


(ある方法……なんでも叶える願いで大量のKPを手に入れたのだろうか)


 疑問に感じることも多かった。もっとばあるに迫って聞き出すこともできたが、オーガヘッドの行動に目が離せない。


「ここで全員殺してもいいけど、ボクには考えがあるんだよね」


 オーガヘッドはガーディアンへ攻撃を命じない。アイアンゴーレムやバジリスクを動かさなくても、ゴブリンやオークの大群を動かせば、冒険者は全滅する。何しろ、ゴブリンは50匹。オークは20匹もいるのだ。


 アイアンゴーレムが動き出した。冒険者たちは為すべくなくその動きをただ呆然と見ていた。


 ガシン!


 とてつもなく鈍い音が響く。振動が伝わってくる。音は離れた俺のROOM9まで聞こえる。


「オーガヘッド、何をしている!」


 俺は思わず叫んでしまった。アイアンゴーレムは、壁を壊しているのだ。分厚い石造りの壁はどんどん崩れ、そしてぽっかりと穴が空いた。


「ふふふ……さあ、冒険者どもよ。逃げるがいい。女に夢中の馬鹿なおっさんを狩るがいい!」


 冒険者たちはその穴めがけて突進する。それしか生きる道はない。穴を出るとそこは堕天使のエリア。しかも堕天使がいるROOM7の目の前である。


「堕天使、冒険者が行ったぞ!」


 俺の叫びは文字に変換される。しかし、堕天使はモニターを見ていなかった。オーガヘッドに冒険者たちを押し付け、自分の安全は守れたと思ったこの男は、部屋に連れ込んだカウンセラーのお姉さんをベッドに引き込み、欲望をぶつけていた最中だったのだ。


 ドアノブが乱暴に動き、そしてドアが開いた時に犬のように体勢で果てた堕天使は、恍惚の表情で鎧をまとった戦士を見た。


「あれ、なんでお前らがここにいるんだ?」


 その瞬間、血に染まった。




「堕天使、死んだのか……嘘だろ……」


 俺はモニター画面を見る。ワイプになった小さな画面に堕天使が切り刻まれて殺さていく様子が映し出される。胃から内容物がこみ上げる。


「はははっ……。おっさん、死んだね」


 冷たい文字が打ち出される。


「オ、オーガヘッド~っ!」


 俺は怒りで怒鳴った。文字が変換される。文字になると俺のこみ上げる怒りが全く伝わらない。オーガヘッドの機械的な文字が打たれるのみ。


「戦いの最中に女とよろしくやっているから、死ぬんだよ。これぞ、本当の昇天。ワロス」


「お、お前、わざと冒険者を堕天使のところへ……」

「偶然だよ。アイアンゴーレムのパンチが壁を壊したのは偶然」


「う、嘘つけ……。お前のガーディアンなら冒険者を排除できたろ。なんで堕天使のところへ……」

「……TRとか言ったけ、お前」

「……」


「ボクはムカつく奴は許さない。そして欲しいものは手に入れる。あの堕天使とかいうおっさん、正直、足でまといだろう。お前も内心はそう思っているはずだろ?」


 オーガヘッドの言葉は俺の心に突き刺さる。確かに堕天使はゲスな男である。かなわないと分かるとすぐに保身を図る。今回も自分の作戦が失敗したと分かるとオーガヘッドのところへ冒険者を誘導した。自分は守りを固めて仲間を助けようとはしない。


そしてなんでも叶うという願いで、性欲の刷毛口として手に入れたカウンセラーのお姉さんを道ずれにした。


 冒険者は堕天使と一緒にベッドにいたお姉さんも殺したのだ。その前にお姉さんは正気ではなく、心は壊れていたようであったが。


「それでも……それでもだ……。仲間を陥れるなんて最低だ」

「おや、そんなこと言ってもいいのかな……TRくん」


 オーガヘッドは俺を脅迫してきた。


「佐藤とかいう役立ず女の運命もボクの心一つで決まるって、知ってるか~?」

「な、貴様、佐藤さんのダンジョンも……」


「ボクがこの強力ガーディアン軍団を動かさず、自分の部屋の前だけ守るだけで女は死ぬ。冒険者はボクのダンジョン攻略を諦めて素通りして女のダンジョンへ向かうからな。そうなれば、TRくん。君はどうする?」


 卑怯な質問である。俺の回答を求めている。俺がそれに対してどうすることもできないことを知っていてだ。


「TRくん……わたしはどうなってもいいの」


 ここへ来て沈黙していた佐藤さんがそう答えた。


「女は黙っていろよ。俺は紳士で博愛主義のTRくんに聞いているのだ。さあ、返事は?」


 俺は沈黙した。いろんな思考が頭を駆け巡る。だが、結論は一つである。今、オーガヘッドの奴を怒らせたら、佐藤さんも殺される。そして俺も同じ運命だろう。


 奴のことだ。強力なガーディアンを俺のダンジョンに向かわせかねない。ガーディアンで俺の構築した罠を発動させて無効化する。そして冒険者を誘導すれば、俺は確実に攻略されて死ぬだろう。


「……ごめんなさい」


 俺は小さな声でそう呟いた。文字がゆっくりとモニターへ変換される。


「はあ?」

「ごめんなさい、オーガヘッド様。あなたに従います……」

「ククク……TRくん、素直になったじゃない。でも、こう言わないとボクは許さない。オーガヘッド様の下僕になります。(土下座)。さあ、言ってみろよ」

 

 俺は従った。佐藤さんの命を守るためだ。そんな屈辱は耐えられる。


「ククク……。よく言ったよ、TRくん。じゃあ、今夜はボクが助けてあげよう。冒険者はボクが殺してあげるよ」


 オーガヘッドは自分のダンジョンに配置したあの強力なガーディアン軍団を堕天使のエリアへと移動させた。もはや虐殺と言ってよかった。


 アイアンゴーレムのパンチは、重戦士の鎧を簡単に潰した。魔法使いの炎の魔法もゴブリンの大群をなぎ倒したが、あまりの数に魔法も切れた。一斉に短剣で刺されて殺された。僧侶はバジリスクの石化の視線を受けて石になった。軽装の戦士も同様である。そして、悲惨なのはスカウトの女の子だ。


「ほーい。女の子とオークと言ったら、これしかないよね。さあ、オーク共よ、美味しい餌だぞ。思う存分楽しめ」


 捕まったスカウトの女の子は悲鳴を上げる。革鎧は引きちぎられ、肌が露になる。


「ま、待て……オーガヘッド。それはかわいそう過ぎるだろ」


 俺はたまらずそう叫んだ。文字が虚しくモニターに表示される。


「おや……下僕になったTRくんはボクの行動に口答えするのですか?」

「いや、そうじゃない。ただ、かわいそうだろ……そんな可愛い女の子が……そんな目に」

「ククク……甘いな、甘いよ、TRくん。スカウトはダンジョンにとって最も警戒しないといけない奴。絶対に生きて帰してはいけないんだよ。そして、できるだけ残酷に始末する。そうすることでこのダンジョンに挑むスカウトはいなくなる」


「それなら普通に殺せばいいだろう!」

「ば~か。熱くなるなよ。これはゲームだぞ。ゲームの敵キャラが死のうが生きようが関係ないだろが。お前はこれまで冒険者を殺さなかったのか?」


「……」


 俺は沈黙した。俺だって昨日は残酷に冒険者を排除した。トラップ『ネイキッド』で丸裸にして容赦なく殺した。今、美少女の冒険者の命乞いをする資格など俺にはない。


 それでも俺はなんとかしなくてはと思った。それは佐藤さんも同じだ。


「オーガヘッドさん、やめてください。そんな残酷なこと許されません」

「なんだよ、ゲームの時はだんまりなのに、こんな時だけじゃべるのか。うざい女だぜ」

「オーガヘッド、頼む。そのスカウトの女の子は普通に殺してやってくれ」


 俺と佐藤さんの頼みにオーガヘッドは沈黙した。少しは心が動いたようだ。


「……じゃあ、お前ら2人。オーガヘッド様、お願いします。そのスカウトの女の子を犯さないでください。一生のお願いですと言え。女は最後に(にゃん)をつけろ」


 俺と佐藤さんは素直に応える。


「オーガヘッド様、お願いします。そのスカウトの女の子を犯さないでください。一生のお願いです」

「オーガヘッド様、お願いします。そのスカウトの女の子を犯さないでください。一生のお願いですにゃん」


「ははははっ……これは愉快。愉快すぎて笑える。いいぜ、助けてやるぜ……って思うわけねえだろ、キモ!」


 オーガヘッドは命令する。20匹のオークに命じる残酷な命令だ。


「その女を徹底的にヤって、最後に殺せ!」


 オーク共に押し倒されて、服を破られるスカウトの女の子。もはやどうすることもできない。


「ひゃはははっ……笑えるううううっ~。あれ?」


 オークの1匹が剣を抜き、スカウトの女の子の胸を刺した。女の子は少しだけ笑みを浮かべて、静かに目を閉じた。


「このオークはボクのオーク兵じゃない……まさか、貴様か、TR!」

「お前が素直になるわけがないと思ってな。俺のオーク兵を一匹、送り込んだのさ!」


 佐藤さんと俺は必死に命乞いをして時間を稼いでいる合間に、俺のオーク兵をナビゲーションワープでオーガヘッドのオーク隊の中に送り込んだのだ。


「こ、この野郎。決めた、お前は殺す。絶対に殺すぞ」


 オーガヘッドは怒り狂い、石化して立っている僧侶や戦士の石像を粉々に壊すようガーディアンに命ずる。命令に従い、石化した僧侶と戦士をアイアンゴーレムで打ち砕いた。


(こいつは悪魔だ……)

 俺は目を閉じた。



 ピロリン……。音がした。


 冒険者が侵入しました。

 俺はモニターを見る。入口からまた冒険者の一団が侵入してきている。


「おいおい、早速、ボクの希望がかなうのかよ。こいつはいいぜ。TRくん、冒険者が君を殺すぜ。それにしても、1日に2組かよ。まあ、ボクだけ働くのは不公平だからね」


 くすくすと笑っているオーガヘッド。その冒険者がどこに向かうか知ってのことだ。

その冒険者は救援に向かったのではない。その行き先は俺のダンジョンである。


「さあTRくん、お手並み拝見といきましょうか?」

「ちくしょう……」


 精神的ショックを受けて、落ち込んでいる暇はない。



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