明日の準備
3日目が終わった。オーガヘッドのおかげで中級の冒険者の侵入を防ぐことができた。俺のエリアには踏み込んでこなかったので、結果的には購入した罠やガーディアンは使用しなかったのは幸いであった。
(1日、手の内を読まれないで過ごすことができた……)
このことは俺に少しの安心感を生み出した。
(もしかしたら、このまま7日間を過ごすことができるんじゃないか?)
そんな甘い気持ちも芽生えてきたが、俺は両手で頬をぴしゃりと叩き、慌てて否定した。
(そんな甘いわけがない……油断するな俺……)
おれはマップを見ながら再度、自分のダンジョンの守りを点検する。もちろん、使わなかったといって、罠の配置をそのままにすることはしない。冒険者たちは堕天使とオーガヘッドのエリアを探索はしたが、俺のダンジョンの調査はしていない。よって、俺のダンジョンの罠やガーディアンの情報は得られていないはずだ。
しかし、万が一、配置の情報が冒険者の奴らに漏れていたら致命傷になる。1日終わればすぐに補強、そしてリニューアル。これを怠れば死んでしまうという覚悟をもってやる。
パタパタと部屋を飛び回っている悪魔ばある。コイツ自身が信用が置けない。今はダンジョンマスターの味方を装ってるが、信じることはできない。
(この悪魔が冒険者に情報を流すということも想定しないと……)
そもそも、ばあるがこのゲームに俺たちを引き込んだ理由がよくわからない。悪魔だから、冒険者の魂を欲するために俺たちダンジョンマスターに肩入れしているようだが、炭酸が殺されても、こいつは当然のような顔をしていた。
(そもそも、1週間という時間の制限をつけたことからして、何か裏があると思ったほうがいい)
俺は黙々とダンジョンの準備を進めた。明日はどうなるかの保障はないのだ。それに逃げた冒険者は、その経験を活かしてより強い冒険者となって、このダンジョンへと挑んでくるに違いがない。
(それにしてもオーガヘッドの奴、初めてにしては凄いな。きっと、ゲームばかりしているゲーム中毒の中学生なんだろうが……)
アスモさんが来た初日の参加ということで、強力なトラップやガーディアンが買える環境にあったこと。そして、これも後からばあるから聞いたことだが、ダンジョン3日目ということでオーガヘッドは、第1日目から150KPが与えられたらしい。
自分たちのように50KPだけなら確実に殺されていただろう。1日経過するとやってくる冒険者は強くなる。ダンジョンマスターが完全に初心者で、事情がわからないまま放り込まれれば、非常に不利だ。だから、最初の4人目以降の参加者に対しては、初期設定のKPが増えるということであろう。悪魔ばあるにしては、良心的である。
(ダンジョンを強化するために、まずは現有戦力の確認をしよう)
俺はパソコンのモニターを操作し、自分がもっているトラップやガーディアンの確認をする。
<現在の俺のトラップとガーディアン>
ジャイアント2 アースドラゴン1 オーク戦士1 ウィル・オー・ウィスプ2
スライム3
酸の沼1 岩石1 油床1 ネイキッド1 ナビゲーションワープ1
アンチダイエット1 動く壁1
冒険者が初級クラスなら、問題ない戦力である。特に今日使わなかった『ナビゲーションワープ』は強力である。これにかかれば、転送先を石の中にしてしまえば、即死決定にすることができる。今、自分がもっているトラップでは最強である。
あと最初に錬成釜で再生した『ネイキッド』も冒険者を即死させるような罠ではないが、武装解除という地味だが結構使えるものである。即死系ではないだけ、発動時間も短く、経験の長い冒険者でも罠にはめることができそうだ。
「ばある、今日稼いだKPで装備を買うぞ」
「ケケッ……相変わらず手を抜かないのう。オーガヘッドも堕天使も、ゲームをやめてもう別のことをしているぞ」
「俺は奴らとは違うのだよ」
「ふふふ……お前は本当に面白い奴じゃの」
「油断するとお前に高笑いされて、悔しさに涙を流しながら死ぬ場面が想像できるんだよ」
「ククク……面白い男よな。どうやらわちきのことも信用していないようじゃが」
「当たり前だ。悪魔を信じろという方がおかしいのだ」
「では信じないダンジョンマスター様は、新しい罠やガーディアンは購入しないのじゃな?」
俺は首を振った。買うに決まっている。・
俺は本日、ゲットした100KPを使ってスケルトンメイジ1とリザードマン2体を購入した。
もちろん、それでは終わらせない。俺にはこのガーディアンのスペックをあげる手段があるのだ。錬成釜をというアイコン。ここへ買ったガーディアンやトラップのリストからドラッグして重ねると、錬成が始まる。いわゆるバージョンアップという名前の魔改造することができるのだ。
俺は購入したメニュー画面から、スケルトンメイジとリザードマン1体を幸運の石と一緒に錬成釜アイコンにドラックして重ねる。
画面がしばらく光ってメッセージが出た。
『骸の魔女』ができました。
(骸の魔女……なんだか強そうなガーディアンだな)
「おい、ばある。このガーディアンの能力はなんだ?」
俺はそうばあるに聞いてみた。(ちっ……)
俺は幼女悪魔が舌打ちしたのを見た。この反応……悪くない。ばあるが嫌がるということは、俺にとっては悪くない結果といえよう。
「……補助系魔法のエキスパートじゃ。だが、詳しいことは経験から学ぶべきじゃぞ」
ばあるの奴、急に冷たいことを言い始めた。
「ちゃんと教えろよ」
「3日が経過するまでは、チュートリアルということで教えてきたが、今からは4日目。あまり教えてはスリルがないじゃろう」
「スリルなんていらないのですけど!」
「ケケッ……。これはわちきの意地悪ではないのじゃ。このゲームの決まりみたいなもの。概要は教えるがそれ以上はもう教えん。特にお前のチート能力は現在のダンジョンではオーバースキルじゃからな」
ばあるの奴、うまいことを言っているが、これは俺たちダンジョンマスターにとっては大きな痛手だ。トラップやガーディアンの基本情報だけで配置をしなくてはならないからだ。
(ゲームを始めるときは、親切設計だが始まったら不親切設計のクソゲーかよ!)
とにかく、俺は明日の攻防に備えてダンジョンに配置する罠とガーディアンについて、長い時間考えた。夜も更けていくが眠くはない。それよりも生への執着心の方が優っていた。