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ゲスなダンジョン  作者: 九重七六八
第1章 はじまりのダンジョン<DMサイド> 
13/45

攻防

「ケケッ……。ひどい仲間ぞよ」

「……いや、今の状況じゃ、自分の身を第一に考えるのは普通だと思う」

「博愛主義じゃの。ケケッ……」


『堕天使』の行動を非難することはできない。誰でも自分が一番可愛いものだ。だが、そのせいで俺と佐藤さんが危機に陥っている。


「お主は女も助けるぞよか」

「俺は佐藤さんを見捨てない」

「女のエリアは十分な準備は出来てないぞよ。わちきも随分とアドバイスしたのだが、こういうことに慣れていないのとやる気がないぞよ」


 佐藤さんはそういう人だ。だけど、なぜ、このゲームに佐藤さんが参加してしまったのか。成り行きにしろ、彼女にとって不幸なことになっている。その佐藤さんがやっと口を開いたようだ。佐藤さんの発した言葉がモニターに文字となって打ち出される。


「TR君……」

「大丈夫ですよ。佐藤さんのエリアに行く前に撃退します」


「私のことはいいの。TR君は自分の身を守って……」

「佐藤さん……」


「そうこうするうちに、冒険者どもが進んでいくぞよ」


『ばある』が口を挟む。その言葉に俺は自分のダンジョン内を侵攻してくる殺し屋に目を向けた。


「……分かっている」


 俺の担当するエリア。最初は4ブロックほど直進。ここには何も配置していない。思えば、ここに動く壁を配置すれば、今日は撃退できたかもしれない。だが、動く壁は万全ではない。何かの拍子に元に戻ってしまうかもしれない。『ばある』によれば、初期のこのトラップは戻る時間がアトランダムだそうだ。短ければ数分で戻る。


 4ブロック進み、左へ曲がるとかなり長い直進通路となる。道半ばで十字路となり、直進すると佐藤さんのダンジョンへとつながる。このルートを選ばせるわけにはいかない。


(随分と慎重だな……)


 5人の冒険者の歩みは遅い。先頭の戦士が松明をもち、後方の魔法使いが杖の先端にライトの魔法をかけている。通路の壁には所々、松明があるので薄明るいが、常に明るくしているのはトラップを警戒しているからだろう。


 その行く手を阻むように淡い光を放つ物体が現れる。俺が配置した『ウィル・オー・ウィスプ』である。レベル1の最も弱いガーディアン。攻撃力は辛うじて触れると微弱な電流が走るのみ。


 俺がこんな弱いガーディアンを配置した理由。それは彼ら冒険者たちへの心理的な圧迫を与えるためだ。


「こいつを使って冒険者たちをおびき出す」

「そんなにうまくいくぞよか?」


「見ていろよ。戦士が斧を振り上げたぞ」


 一人の戦士がこの光るだけのガーディアンに戦斧を振るう。俺はそれを見て、ウィル・オー・ウィスプにゆっくりと後退を命ずる。このガーディアンは非常に弱いが、その分、回避能力はかなりある。剣をゆらりとかわして後退する。


 攻撃した戦士の気に障ったのであろう。再び、進んで戦斧を振る。こんな弱いガーディアンに魔法攻撃するわけにもいかず、巨大な戦斧を振るしかない。


 またもや、ゆるりとかわすウィル・オー・ウィスプ。2人の戦士が同時に動いた。戦斧を振るう戦士の肩を叩いたのだ。それで剣を振るった戦士の動きが止まる。「構うな!」とでも言われたのであろう。


(それでは困る)


 俺はウィル・オー・ウィスプに命じて戦士に攻撃をさせる。微弱な電流が走る。ちょっと強い静電気レベルの電流。ダメージすら与えられないが、戦士の神経を逆なですることには成功した。戦士は忠告を無視して、再び、大きな戦斧を振り回す。


「よし、あと1ブロックで十字路までたどり着つく」


 青く儚い光に導かれて、5人全員が十字路までたどり着いた。ウィル・オー・ウィスプに翻弄されての前進だったために、注意力が少し欠けていた。それが俺の狙いでもあった。


「まずは、退路を塞ぐ!」


 俺は来た道に繋がる通路を『動く壁』で塞いだ。狙いは『退路を塞がれた!』という恐怖感である。落ち着いて考えれば、数分で壁は元に戻るかもしれない。長くても数時間だ。ここで待機すればいいのだが、モンスターに誘われて前へ進み、思いがけない形で来た道を塞がれたら、パニックになる。しかも、十字路のエリアだ。


「ケケッ……。こういう時にビビった人間が取る行動は……」


『ばある』が気味の悪い笑みを浮かべた。背中の黒い小さな羽をパタパタと2回動かせた。俺の狙いが分かっているようだ。


「普通は中央でお互い背中を合わせて警戒する」


 十字路の3方向からガーディアンによる攻撃。それを第一に警戒するはずだ。冒険者たちは俺の狙い通り、魔法使いを中心に東西南北に戦士と僧侶が武器を構える。動く壁で塞いだ方向には僧侶。不意に壁が開いてガーディアンが襲いかかることを警戒したのだ。


(随分と戦いに慣れたパーティだ。だけど……)


「ごめん。そうじゃないんだ!」


 俺は右手で軽くエンターキーを払った。「パチッ……」と勢いの良い音が部屋に響く。その瞬間、十字路の中心の床が抜けた。落とし穴のトラップだ。中央に立っていた魔法使いが落ちる。仲間は背中を向けているから、助けることもできない。


「ケケッ……。落ちたぞよ!」

「まだ!」


 第2のトラップを作動させる。落とし穴は3m程のもの。落ちても怪我をするくらいだし、仲間がいれば救出できる。だから、追撃だ。スライムが2匹、天井から穴めがけて落ちる。もちろん、落とし穴の中にも、もう1匹いる。

 

 スライムは弱いガーディアンだが、人間に接触して取り込めば、強力な酸で体を溶かす。動きが鈍いので滅多にそんなことにはならないが、今の状況はその滅多にならない状況だ。


 当然、慌てて仲間が助けようとする。だが、落とし穴に飛び込めば、自分も同じ運命だ。


 これが落ちた人間が魔法使い以外であったのなら、火の魔法でスライムを撃退できたかもしれない。が、魔法を使える者がスライムに取り付かれれば、残ったものは松明の火であぶるくらいしかできない。


「そしてさらに次の一手」


 俺は自分の持つ最強のガーディアン。『オーク戦士』を動かす。魔法使いを救出せんとする冒険者たちは、これに対応しないといけなくなる。オーク戦士はそれほど強いわけではないが、レベルが低い戦士1人では手に余る。このレベルのパーティでは、2人の戦士が対応するしかない。盾を構え、武器を構える戦士たち。


「グオオオッ……」


 戦士2人の攻撃は凄まじい。オーク戦士ではとても敵わない。


「だが、これも計算のうち!」


 ジリジリと後退するオーク戦士。俺はわざと壁に3方向囲まれたエリアへオーク戦士を移動させる。追い詰められたオーク戦士にとどめを差そうと詰め寄る2人の戦士。


「グギャアアアアッ……」


 二人の戦士の剣がオーク戦士を壁に縫い付ける。一人の剣は心臓を深々と貫き、もうひとりの戦士の戦斧はオーク戦士の頭を割った。その瞬間を逃さない。


「トラップ発動!」


 俺は右手でエンターキーを払うように押す。天井から岩が落ちる。オーク戦士ごと戦士2人を潰す。

一人の戦士は逃げ遅れた。オーク戦士と運命を共にする。もうひとりの戦士は咄嗟に飛び退いた。それでも左足が岩に接触する。転げまわる戦士。足は完全に折れたはずだ。


「ぐああああっ……」


 スライムの穴に落ちた魔法使いの息が耐えた。どうやら、救出が間に合わなかったようだ。


「ケケッ……。見事ぞよ。だが、お主のトラップコンボも途切れたぞよ」


 俺は生き残った戦士と僧侶の動きを見る。僧侶が足の折れた戦士に治療を施す。痛みを弱げ、骨を固定する。戦闘は難しいがなんとか歩けるまでに回復させている。


「ここからが勝負だ。彼らがどうするか……」



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