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ゲスなダンジョン  作者: 九重七六八
第1章 はじまりのダンジョン<DMサイド> 
10/45

大願成就

「おう、聞いてくれよ!」

 

俺がパソコンを起動すると、待ってましたとばかりに『炭酸』のおっさんのコメントが打ち込まれた。


「どうしたんですか?」

「今日から俺のことを億万長者と呼んでくれ」

(マジかよ……)


『炭酸』のおっさんが『ばある』と約束したのは『金』だった。世界の理を乱すような願いはダメだと、『ばある』は答えたがある程度のお金は可能らしい。それにしても『億万長者』とは。


「まあ、これを見てくれたまえ」


 心なしか、『炭酸』のおっさんの書いた文字が若干、上から目線ぽい。画面には数字が羅列した紙の写真が映し出された。


(これ、ロト6じゃないか……)


 ロト6は選択数字を選ぶ宝くじだ。1~43の数字を6個選んで的中すると最高2億円がもらえる。高校生の俺は買ったことないし、そんなもの当たるわけがないと思うから、一生買わないつもりだ。


 『炭酸』のおっさん買ったくじの数字

 03 04 16 17 21 33


 そして、本日の当選番号を示した携帯の画面の写真

 03 04 16 17 21 33


「的中じゃないですか!」

「ふふん。しかも当たったのは俺一人。賞金2億円ゲッツ!」

「すごいですね」

「これも実力。昨日、2人も冒険者をぶっ殺して運が向いてきた。しかし、願いが叶うのなら、昨日稼いだKP、金に変えなきゃよかった」


「炭酸、KPをお金に変えてしまったんですか?」

「ああ。125KP全てな。合計、12万5千円。ちゃんと俺の口座に振り込まれていたよ。それを即効で下ろして今日は昼から高級寿司食って、服も買って、欲しかったフュギュアを大人買いしたぜ」


「……ダンジョンを強化しなくていいんですか? トラップの配置替えもした方がいいと思います。あの幼女悪魔、何か重要なことを隠しているような気がするんです」


「ふん。俺のゴブリンワールドは突破できないさ。完璧なトラップコンボだからな。それにゴブリンは25匹だけじゃない。今日も元気に殺しに行こう!」


 俺は心の中で何か嫌な感じがした。『炭酸』のおっさんのダメな大人ぶりはともかく、そんなにこのゲームが簡単なわけがないと思うからだ。


「まあ、2億円も手に入ったことだし、今日、ぶっ殺して手に入れたKPはダンジョン強化に使うよ」

「そうした方がいいですよ。何か嫌な気がするんです」

「心配性だな。高校生なら勢いで行かなきゃ」

「はあ……」


(おじさんこそ、勢いじゃなく思慮深さで勝負じゃないのか?)


「それにしても、明日、銀行に行って2億円もらったら何買おうかな。今住んでいるのはボロいアパートだから、新築のマンション買おう」


「マンションですか……」

「ああ。ちょうど、駅前にタワーマンションが建つんだよな。モデルルームがあったはず。キャッシュで一番いい部屋を買おう」


「はあ……」

「ついでにポルシェも買うか」

「ポルシェですか……」


 2億円と言っても、通常サラリーマンの生涯年収は3億円と言われる。無駄遣いすればすぐになくなってしまう程度のお金だ。


「ああ。今まで俺を馬鹿にしていた奴を見返してやりたい」


 そう『炭酸』のおっさんはまくし立てている。よほど、たまったものがあったのだろう。今住んでいる大家の悪口や、隣に住んでいるOLの話など、次から次へと文字が打ち込まれる。


いつもはこのグループのリーダー役で、聞き手に回ることの多い『炭酸』のおっさんだったが、やはり、たまりにたまった鬱憤があったようだ。それが億万長者になったという上から目線で、急にタガが外れたと思われた。


「そうですか……。でも、まだ、実際に現金を受け取ったわけじゃないので、確実にお金を手にしてから考えてくださいね」


 高校生の俺が助言するようなことではないが、この中年のおじさんの浮き足だった状態を抑えないとやばいなと思うのは俺だけではないはずだ。通常、高額当選金の場合、銀行に行ってもすぐにもらえるわけではないらしいから、その間に冷静になれるとは思うが。


「は~い」


 妙に軽い感じでメンバーの『堕天使』が入ってきた。いつも常駐の彼が今頃から参加するのは妙な感じだ。しばらく、沈黙なのは俺と『炭酸』のおっさんが刻んだログを確かめているからであろう。1分ほどでコメントが入力される。


「炭酸師匠、おめ」

「おお、ありがとうな」

「明日から億万長者ですな」

「まあな」

「ふふん……」


『堕天使』の文字にも何かいやらしい雰囲気を感じ取る俺。一応、何か聞いてみて欲しいようなので、俺は嫌々聞いてみる。


「何か、いいことあったんですか?」

「よく聞いてくれた!」


 明らかに聞いて欲しい雰囲気を察した俺の勝利だが、聞きたくもない気持ちもないわけじゃない。


「俺の願いはなんだか知ってるか?」

(確か、脱童貞だったと思うけど……)

「おお、堕天使よ。ついに一線を超えたのか?」


『炭酸』のおっさんのコメントが弾んでいる。俺はもうこの会話には入っていけないと、静観することにした。俺がコメントしなくても『炭酸』が上手に聞き出すだろう。


「今日、市の引きこもり相談カウンセラーのお姉さんが来てね。それが超カワイイの。大学出たばかりの女の子でね。俺からいろいろ聞き出そうとするの」


「ふむふむ……。それで?」

「1時間ばかり話して、彼女がどうすれば変われるかって聞くから、一発やらせてくれれば、変わるかもって言ったんだよね」


「ほほう……。それは神対応ですな」

(いやいや、普通、引くだろ。100mぐらいは引く)


『炭酸』も『堕天使』も馬鹿だ。俺もエアーだが、ここまで自分を落としたくない。


「そうしたらね。その子、彩音ちゃんって言うんだけど。私でよければどうぞって」

「マジかよ! 神かよ!」


(ありえない……)


 興奮する『炭酸』と困惑する俺。これが『ばある』の言っていた願いの成就の力なのか。絶対にリアルではありえないシュチュエーションだ。もし、『ばある』の言う報酬であるなら、その女の子は悪魔の犠牲になったということだ。


「それで昼から今までやりまくってしまったのだ」

「一発じゃねええ……」


「数え切れないほどやってしもうた……。腰がいてえええ」


(もう嫌だ)


 俺はついていけないと思った。大人のダメな会話だ。しかも卑猥な会話を傍で聞くのはいたたまれない。だが、もうすぐ、21時になる。『ばある』が言っていた俺たち4人がダンジョンマスターになる時間だ。


「あと10分ほどで、佐藤さんが参加する時間です。このログ消した方がいいんじゃ?」

「おう、そうだなTRよ」

「佐藤さんには嫌われたくない」


 そう言うと会話のやばい部分は(削除)に変わっていく。時計の針が20時50分を回る。いよいよ、2日目が始まる。


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